2022年02月22日

EIOPAが2022年の監督上のコンバージェンス計画を公表

中村 亮一

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1―はじめに

EIOPA(欧州保険年金監督局)は2022年2月9日に、2022年の監督上のコンバージェンス(収束、統一)計画を公表1した。今回のレポートは、この監督上のコンバージェンス計画の概要について報告する。

2―EIOPAの2022年の監督上のコンバージェンス計画-全体概要

2―EIOPAの2022年の監督上のコンバージェンス計画-全体概要

EIOPAの主な目標の一つに、「各国の保険契約者及び受益者の保護水準を同程度に保ち、監督裁定を防止し、公平な競争条件を保証することを目的として、欧州全体で高い水準、効果的な水準、一貫性のある監督を確保すること」である。このため、EIOPAは、毎年監督上のコンバージェンス計画を作成し、その進展に取り組んでいる。
1|全体概要
EIOPAが2022年2月9日に発表した2022年の監督上のコンバージェンス計画は、EU(欧州連合)で共通の監督文化と一貫した監督慣行を構築するというEIOPAの使命に沿って、2022年の間に監督上のコンバージェンスを強化するためのEIOPAの優先事項を特定している。

以前の計画と同様に、優先順位は次の3つの主要な領域を中心に挙げられている。
 

1.共通の監督文化の主要な特徴の実践的な実施と監督ツールの更なる開発
2.監督上の裁定取引につながる可能性のある国内市場及び公平な競争の場に対するリスク
3.エマージングリスクの監督

「1.共通の監督文化の実践的な実施の分野」に関しては、特に、比例、行動リスクの監督評価、環境、社会、ガバナンス(ESG)の問題、及びグループの監督に引き続き取り組む。

「2.監督裁定取引につながる可能性のある内部市場及び公平な競争の場へのリスク」に関しては、内部モデルに関する技術的準備金及びベンチマーク調査の計算の分野で監督上のコンバージェンスツールに焦点を当てる。さらに、各国の管轄当局が第三国の本社との再保険事業を処理する方法の不一致に対処する予定としている。

「3.エマージングリスクの監督」に関しては、デジタル運用レジリエンス(DORA)に関する新しいフレームワークの実装、ランオフ会社の監督、特にサイレントサイバーリスクの引受会社のリスク管理に焦点を当てた。サイバー引受に関する監督コンバージェンスツールの開発が含まれている。

EIOPAはまた、2022年の新しい優先事項として、(1)保険カバーからの除外やCOVID-19のパンデミックによって明らかにされた保険契約の明確化の欠如、(2)キャプティブの監督、(3)デジタルトランスフォーメーションに関連する問題、等の分野をカバーする計画を追加している。
2|優先領域の考慮すべき基準
監督上のコンバージェンス計画を策定する際に考慮される優先事項は、以下の3つのカテゴリーに分類されている。
 

(1) 保険契約者及び金融の安定性に影響を与える分野。リスクが顕在化した場合に影響を受ける保険契約者の規模や数、保険契約者個人への影響の規模だけでなく、市場の評価やビジネスモデルに影響を及ぼす可能性がある場合

(2) 監督上の裁定取引(特に、EU域内及びEU域外国との国境を越える取引について、同等国及び非同等国の双方について言及)が存在することにより、公正性、公平な競争条件又は域内市場の適正な機能に影響を及ぼす可能性のある分野

(3) 実務が大きく異なる主な監督分野

さらに、2022年の計画では、COVID-19のパンデミックによる影響を継続的に監視し、軽減するために、以前の計画に基づく優先事項を可能な限り完了すると同時に、ある程度の柔軟性を維持することが、高いレベルの優先事項となっている。

3―EIOPAの2022年の監督上のコンバージェンス計画-具体的内容

3―EIOPAの2022年の監督上のコンバージェンス計画-具体的内容

1|本計画の位置付け
既存の多くの活動は、監督技術(SupTech)戦略の下での作業、又はデータの使用及びデータ分析の普及、SupTechの分野における知識及び経験の共有、又はEIOPAの監督業務の文脈におけるその他の活動のような、定期的な監督のコンバージェンスを促進しており、EIOPAは、それらの提供と改善に継続的に取り組んでいる。この計画は、2021年に特定された優先事項から始めて、監督上のコンバージェンスに関する2022年の優先事項を更新している。
2|2022年計画の考え方
この計画では、EU全体の戦略的優先事項とEIOPAの戦略目標、及びピアレビュー作業計画 (2020-2022)も考慮に入れており、監督上のコンバージェンス計画は「変革時における市民のための安全で持続可能なEU」に貢献すべき、としている。

2021年には、監督上のコンバージェンスに関する作業がかなりの進展を見せたが、それでも、いくつかの分野をさらに進展させる必要性があることを考慮して、2022年の優先事項は、主として2021年と同様としている。ただし、新たな優先分野として、(1)保険・年金セクターにおける環境、社会、ガバナンスリスクの監督、(2)デジタルトランスフォーメーションに照らした監督のコンバージェンスに関する継続的な作業、(3)これらの分野におけるいくつかのイニシアティブ、が特定されている。
3|具体的な計画内容
具体的な計画については、先の3つの主要な領域において、例えば、以下の項目が挙げられている。

(1)共通の監督文化の実践的実施と監督ツールのさらなる開発
リスク評価のフレームワークと比例の適用」に関して、ソルベンシーⅡ指令を修正する提案の公表後、新しいフレームワークが施行されるときに比例性に関する運用ガイダンスを発行することを目的としたフレームワークの将来の実装をサポートするための内部準備作業の継続

内部モデル」に関して、リスク較正における標準モデルとの関係からの「IMOGAPI(内部モデルの継続中の適切性指標)」の開発

行動リスク」に関して、(1)旅行保険のテーマ別レビューのフォローアップや商品設計/レビューとPOG(商品監視ガバナンス)ルールの適用に焦点を当てた旅行保険会社に対するガイダンスの発行、(2)住宅ローン保証保険及びその他の信用保証保険商品に関するテーマ別レビューの最終決定、(3)COVID-19のパンデミックから生じた保険契約の除外と明確性の欠如に関する問題への対応、(4)金銭的リスクの価値に対処するための方法論の完成等の継続的な作業、等

環境、社会、ガバナンス(ESG)リスクへの監督アプローチ」に関して、(1)ソルベンシーII第2の柱における気候関連リスクの監督に対処するEIOPA監督ハンドブックに関する作業の結論、(2)2021年のORSAにおける気候変動リスクシナリオの使用の監督に関するEIOPAの意見の公表、(3)気候関連リスク、特に自然災害の重要性の評価に関連する監視活動、及びカレッジの会議でのORSAにおける気候リスク評価の統合に関する議論、等

この分野では、さらに「グループ監督」、「監督技術(SUPTECH」、「キャプティブの監督」、「トレーニング」といった項目が挙げられている。

(2)監督上の裁定取引につながる可能性のある国内市場及び公平な競争の場に対するリスク
技術的準備金の計算」に関して、(1)最良見積り評価に関するガイドラインと契約境界に関するガイドラインの公開、(2)EIOPA監督ハンドブックの技術的準備金の章の改訂の最終決定

内部モデルの結果の評価」に関して、損害リスク、市場及び信用リスクのモデリング、及び分散効果のモデリングに関する内部モデルの結果に関する3つの比較研究の継続
この分野では、さらに「権限、適合性及び所有権」、「年金の問題」、「EUの第三国再保険」といった項目が挙げられている。

(3) エマージングリスクの監督
サイバーリスクを含むITセキュリティ及びガバナンス関連のリスク」に関して、(1)サイバーセキュリティとサイバー攻撃に関する情報の所轄官庁(NCAsとESAs)間の交換のためのシステムに関する作業、(2)サイバーインシデントレポートとサイバーレジリエンステスト及び比例原則の実装に特に焦点を当てた、デジタル運用レジリエンスフレームワークの確立への貢献

デジタルトランスフォーメーション」については、(1)AI(人工知能)ガバナンス原則レポートの発行に続いて、欧州保険セクターで倫理的で信頼できる人工知能を促進するためのガイダンスを提供、(2)欧州イノベーションファシリテーターフォーラム(EFIF)の保険及び年金セクターに関する分野での関連する議論への参加及び促進、(3)国境を越えたテストの手続き型フレームワークに関する分野横断的な作業の継続、(4)保険デジタル市場のコンテキストでのビジネスモデル分析のパフォーマンスにおいてNCAsをサポートするための監督コンバージェンスツールの開発、等

この分野では、さらに「ランオフ会社の監督」、「アウトソーシング及びサードパーティプロバイダー」等の項目が挙げられている。

4―EIOPAの2022年の監督上のコンバージェンス計画-監視の優先事項

4―EIOPAの2022年の監督上のコンバージェンス計画-監視の優先事項

EIOPAは、監督のコンバージェンスを支援するための実践的なツールをさらに開発していくために、NCAsの日常的な監督に関与しているが、2022年は、以下の優先事項を通じて効果的な取り組みを継続的に強化する、としている。
 

・国境を越えた協力の基盤を確立し調整することにより、サービスの自由又は設立の自由を通じた加盟国における保険サービスの提供に関連して生ずる行為又はプルデンシャルな性質の監督上の懸念を解決すること

・行動と健全性の監督の両方の分野において、監督カレッジの傘下の合同現地査察に参加するか、又は国境を越えた協力プラットフォームを通じて、潜在的な国境を越えたリスクを評価すること

・各国監督当局と連携し、フィードバックと支援を提供することにより、EU全体の戦略的監督上の優先事項の実施を監視すること

・ 各国訪問や二国間の関与を通じて監督上の勧告を提供することで、NCAsの日常的な監督を支援し、行動と健全性の監督の分野で、また内部モデルの監督の特定の分野でも支援する

さらに、EIOPAは、要請に応じて内部モデル申請の分野でNCAsを支援する用意があり、このツールの開発を継続する、としている。

5―まとめ

5―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAが公表した2022年の監督上のコンバージェンス計画の概要について報告してきた。

これらの課題の多くは、日本の保険会社にとっても極めて重要な課題であることから、EIOPAにおけるこれらの課題の今後の検討動向等については、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2022年02月22日「保険・年金フォーカス」)

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