2020年11月17日

インドの生命保険会社の状況-2019年度の決算数値を踏まえての成長性・効率性・収益性・健全性等の動向-

中村 亮一

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1―はじめに

インドの生命保険会社を巡る状況等については、これまでもいくつかのレポート1で定期的に報告してきている。

生命保険会社各社は、Public Disclosureとして、四半期毎に決算数値の公表を行っている。また、インドの保険監督当局であるIRDAI(Insurance Regulatory and Development Authority of India)は、毎年12月から翌年の1月にかけて、Annual Reportを作成して、前年度の決算に基づく業界全体の数値等を報告している。

このレポートでは、国営生命保険会社であるLICと民間の外資系生命保険会社の5社について、2019年度決算ベースの各社のPublic Disclosures資料の数値に基づいて、その成長性・効率性・収益性・健全性等の状況について報告する。なお、現段階においては、IRDAIの2019年度のAnnual Reportは未公表のため、業界全体の最新数値は2018年度となっている。  

2―収入保険料の状況

2―収入保険料の状況

2019年度の収入保険料の払方別の内訳は、以下の図表の通りである。

全体の収入保険料の対前年増加率については、民間5社のうちICICI Prudential以外は2桁進展で、民間5社全体でも13.9%(2018年度は21.3%)と引き続き高い進展となっている。一方で、LICも12.4%と高い進展となったが、そのシェアについては、ここ数年低下傾向にあり、2017年度はついに7割を切ることとなっていたが、2019年度はさらに低下しているものと想定される。

払方別の内訳では、一時払の占める割合が、LIC、HDFC Standard、Bajaj Allianzでは3割を超えて高くなっているが、ICICI Prudential、SBI Life、Max Lifeの3社は2割未満となっている。
収入保険料の内訳(2019年度、初年度(一時払・一時払以外)・次年度別)

3―経営効率の状況

3―経営効率の状況

1|継続率
保険契約の13月目と25月目の継続率(年換算保険料ベース)の過去5年間の推移は、以下の図表の通りである。継続率は、商品・販売チャネル等によっても、大きく異なるが、これらの合計数値として、各社の数値が示されている。なお、各社の算出ベースは必ずしも統一されているとは限らないので、会社間で水準を比較する場合には注意が必要となる。

LICを除く民間5社の13月目継続率は79%以上、25月目継続率も71%以上となっている。なお、LICの13月目及び25月目継続率は、民間5社に比べて低い水準となっている。

各社とも、継続率の改善は大きな課題であり、監督当局であるIRDAIも注視している。基本的には、各社とも着実に水準の向上を図ってきている状況がみてとれる。
継続率(13月目)年換算保険料ベース/継続率(25月目)年換算保険料ベース
2|事業費効率
事業費効率の推移は、以下の図表の通りである。

基本的には、民間保険会社については、規模の拡大に伴い、事業費率が低下していくことが期待されているが、2019年度については、民間5社のうち、3社が上昇、2社が低下となっている。

手数料(コミッション)率については、2019年はLICが横ばい、民間5社のうち、3社が上昇、2社が低下となっている。
総事業費率(対保険料)/手数料(コミッション)率(対保険料)/事業費率(対保険料)
3|運用利回り
各社の運用利回りの推移を示したのが以下の図表である。これは、基本的に、契約者ファンドのうちのノン・リンク型・有配当に対するものであり、LICの数値のみが、契約者ファンド全体の平均に対する数値となっている。

これによれば、金利水準を反映して、運用利回りも低下傾向にあるといえるが、各社とも引き続き高い運用利回りを確保している。
運用利回り
インドの10年国債利回りの推移(%) (参考)インドにおける金利の推移
右図が、インドの10年国債の利回りの推移を示している。

先進諸国とは異なり、現状では異常な低金利に悩まされているという状況ではないが、最近
はインドの金利も低下してきている。

なお、このような金利水準を背景に、各社は着実な運用収益を挙げるとともに、その成果を配当として、契約者に還元してきている。

4―収益性の状況

4―収益性の状況

1|会社全体の収益状況
LICと民間5社の収益状況を比較した場合、商品や販売チャネルの違い等から、保険料との比較での収益性は大きく異なる状況となっている。なお、利益水準は、責任準備金評価のための計算基礎の設定によっても影響を受ける形になっている。

2019年は、LIC、HDFC Standard及びSBI Lifeの利益(税引後)は増加したが、ICICI Prudential、Max Life及びBajaj Allianzの利益は減少している。なお、対保険料利益率で見た場合、民間5社の水準は全体的には低下傾向にある。
LICと民間5社の利益(税引後)の状況
2|商品種類別の収益状況
ICICI Prudentialは、商品種類別の収益状況も開示しており、それが以下の図表の通りである。

これによると、以前は、生命保険(有配当)が高い収益を上げる形になっていたが、最近は、生命保険(リンク型)及び生命保険(無配当)の収益が、実額及びウェイトともかなり大きくなってきている。
ICICI Prudentialの剰余(Total Surplus)の商品種類別内訳

5―健全性等の状況

5―健全性等の状況

1|責任準備金の計算基礎
インドの生命保険会社の責任準備金の計算基礎については、全社統一の計算基礎率が定められているわけではない。毎年度末決算において、それぞれの会社の状況を踏まえて決定されるため、各社毎に異なっている。ロック・フリー方式2で定められるため、契約毎に毎年の計算基礎率が変化することにもなる。以下では、代表的な計算基礎である、予定利率と予定死亡率の状況について、報告する。
 
2 責任準備金評価において用いる計算基礎について、契約時に使用したものを固定(ロック・イン)するのではなく、評価時毎にその時々に適正と考えられる計算基礎等で評価する方式
(1)予定利率
個人生命保険(有配当)契約の場合の水準について、各社の状況を見てみると、Bajaj Allianzを除く民間4社に比べて、LICは相対的に高い予定利率を採用してきている。

2017年度においては、LICは最高利率を引き下げ、Bajaj Allianzが予定利率を引き上げていた。2018年度は、ICICI Prudentialが予定利率を引き下げたが、Max Lifeは予定利率を引き上げた。2019年度はICICI PrudentialとHDFC Standardが予定利率を引き下げた(以下の各図表において、前年度から変更が行われた部分に網掛けをしている、以下の図表で同様)。
責任準備金計算基礎(予定利率)―個人生命保険(有配当)契約の場合―
LICの予定利率については、商品毎に異なっており、無配当商品では有配当商品よりも低い予定利率を採用しているケースもある。これは、一般的に、有配当と無配当のファンドの期待利回りや配当によるバッファー的要素を反映したもの、と説明されている。LICは2017年度に幅広い商品の予定利率を引き下げ、2018年度は個人年金(有配当)を除けば、前年と同水準に留めていたが、2019年度は再び幅広く各商品の予定利率を引き下げた。
責任準備金計算基礎(予定利率)―LICの場合(個人保険商品毎)―
事業年度毎の予定利率の変化については、LICの場合、個人年金保険(有配当)では、次ページの図表のようになっている。個人生命保険(有配当)では、2013年度から2016年度までの4年間は同水準で推移していたが、最高利率について、2017年度は0.1%の引き下げを行い、2018年度は1.0%の引き下げを行った。2019年度は再び1.2%の大幅な引き下げを行っている。
責任準備金計算基礎(予定利率)―LICの個人年金保険(有配当)の場合(事業年度毎)―
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中村 亮一

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