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ドイツの生命保険監督を巡る動向(2)-BaFinの2019年Annual Reportより(生命保険会社の監督及び業績等の状況)-
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2019年12月31日現在、中間報告の対象となる生命保険会社のSCRは、前年末の269億ユーロに対し、347億ユーロに増加した。総基本SCRで測定したところ、2018年に中間報告義務の対象となった標準式を適用した会社の資本要件の平均70%は、市場リスクに起因していた(分散効果を除く)。さらに、保険引受に関連するSCRの重要な部分は、生命(34%)及び健康(25%)保険の引受けリスクであった。対照的に、カウンターパーティデフォルトリスク(2%)は一般的にそれほど重要ではなかった。総基本SCRを下げる分散効果がまだ含まれていないため、引用したパーセンテージは100%を上回る。分散効果は31%に達した。
カバーすることが要求されるSCRは、その他の変数を考慮して、総基本SCRに基づいて計算される。これに関連して、技術的準備金(75%)及び繰延税金の損失吸収効果(7%)が減少し、オペレーショナル・リスク(3%)はわずかに増加した。
中間報告の対象となる生命保険会社のSCR適格自己資本は、2019年12月31日現在で1,314億ユーロに達した。前年末において、自己資本の98%が基本自己資本により計上され、補助自己資金によるものは2%だった。適格自己資本の97%は、最も高いクラスの自己資本(Tier 1)に帰属し、残りの大部分は2番目に高いクラス(Tier 2)に帰属していた。平均して、調整準備金は業界の自己資本の65%を占め、剰余金は29%を占めた。報告日のその他の注目すべき要素は、発行プレミアムを含む株主資本(4%)及び劣後債務(2%)だった。
移行措置を適用し、その措置なしではSCRを十分にカバーできない会社は、保険監督法第353条(2)に従って改善計画を提出しなければならない。計画では、十分な自己資本を生み出し、リスクプロファイルを減らすために計画された措置の段階的な導入を説明しなければならず、遅くとも2031年12月31日の移行期間の終了時までに、移行措置を用いることなくソルベンシー資本要件の遵守が保証されるように、会社は十分な自己資本を生成するか、リスクプロファイルを削減するために計画された措置の段階的な導入を設定する必要がある。
報告日において、26の生命保険会社が、移行措置なしでは適切なSCRのカバレッジを保証することができなかったため、改善計画を提出する必要があった。BaFinは、SCRが遅くとも移行期間の終了後に、長期的に遵守されることを確実にするために、これらの会社に密接に関与している。関連する会社は、移行措置を適用しないで適切なSCRカバレッジが回復したとしても、年次進捗報告書における措置の進展段階についてコメントする必要がある。
殆どの生命保険会社は、低水準の金利の継続を考慮して、2020年の裁量配当の2019年レベルを適度に引き下げている。 養老保険の市場で利用可能なタリフの現在のトータルリターン、つまり保証された技術的金利と利子剰余の合計は、セクター全体で平均2.2%であり、 この数字は、2019年と2018年の両方で2.3%だった。
2011年以降、生命保険会社は、将来の投資収益の減少と、高額のままである保証義務に備えるために、追加責任準備金(Zinszusatzreserve:ZZR)を構築する必要がある。 2019年のこの費用は、93億ユーロを超えた。したがって、2019年末の累積ZZRは、752億ユーロに達した。 ZZRの計算に使用された参照金利は、2019年末の時点で1.92%だった。
5―その他
また、生命保険会社においては、Generaliの生命保険子会社のViridium AGへの売却に関連して、ランオフが大きな関心の的になっていたと述べられている。
持続的な低金利
低金利環境における銀行の状況は、2019年に再びメディアからかなりの注目を集めた。とりわけ、銀行が顧客にマイナスの利子率を渡す権利があるかどうかに注目が集まった。
2019年のメディアにとってもう1つの重要なトピックは、年金基金の状況だった。 年金基金は、そのポートフォリオがほぼ完全に生涯にわたって実行され、場合によっては高額の支払いが行われる年金保険契約で構成されるため、低金利の長期化により特に大きな打撃を受けた。 ジャーナリストは基金の財務状況と、特に強化された監督に関して、計画されているかすでに取られている監督上の措置に興味を持っていた。 給付を削減する決定は、特定の年金基金、つまりPensionskasse der Caritas VVaG、Kölner Pensionskasse VVaG とDeutsche Steuerberater-Versicherung – Pensionskasse des steuerberatenden Berufs VVaGに国民の注目が集まった。
生命保険会社も金利の低さのために引き続き大きな課題に直面しており、これもジャーナリストの関心を集めた。 中心的な問題は、金利の新たな低下がカバー状況と事業の収益性に及ぼす影響だった。 Generali Lebensversicherung AGがViridium AGに売却された結果、しばらくの間、ランオフはメディアの関心の中心的なトピックとして戻ってきた。 徹底的な検討の結果、BaFinは、保険契約者の利益が取引において適切に保護されており、したがって、それを禁止する根拠がないことを確認した。
6―まとめ
ドイツの生命保険会社は、引き続く低金利環境の中で、これまでZZRの積立や新契約の保証利率の引き下げ、さらには保障性商品や固定保証利率を有さない商品へのシフトを進めることにより、健全性維持のために着実な対応を進めてきている。ただし、マイナス金利のさらなる進展等で、生命保険業界を巡る状況は、引き続き楽観視できないものとなっており、今後とも注意深く監視していく必要がある状況にある。
超低金利環境の継続をはじめとして、日本と類似した環境下にあるドイツの生命保険会社を巡る状況に関しては、日本の生命保険業界関係者にとっても極めて関心の高い事項であることから、その監督を巡る動向については、今後とも引き続き注視していくこととしたい。
(2020年09月18日「保険・年金フォーカス」)
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