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欧州保険会社の内部モデルの適用状況(標準式との差異)-2018年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)からのリスクカテゴリ毎の差異説明の報告-
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E.4 標準式と使用された内部モデルの差異
標準式と内部モデルの主な違い
内部モデルは、グループ方法論に基づいた集中化されたモデルである。これにより、ローカルの特殊性が存在する場合には、特にローカルレベルでの引受リスクの較正を通じて、そのことを考慮しつつ、グループ全体で同様のリスクのモデリングが完全に一貫性を保つことを確実にする。これらのローカルでの較正は、ローカルチームによって提示され、グループのリスク管理によって検証されている。
検証は、内部モデル、とりわけデータ品質の量的側面及び質的側面の両方を網羅している。グループのデータ品質方針は、内部モデルの入力として使用されるデータが完全で正確で適切であることを要求する。内部モデルの範囲のさらなる情報については、本レポートのセクションE.2を参照のこと。
内部モデルの一般的な構造は、市場、信用、生命、損害及びオペレーショナルリスクの5つの主要モジュールで構成されている。標準式は同様のモジュラー・アプローチに従うが、健康リスクのために別のモジュールを有している。代わりに、内部モデルでは健康リスクが形式原則上の実質に従って、生命リスク又は損害リスクに含まれている。
一般に、5つのリスクカテゴリでは、内部モデルは、標準式では適切に捕捉されないが、グループにとって重要なサブリスクのモデルを提供する。
■市場リスク:金利のインプライドボラティリティ、株式のインプライドボラティリティ、政府のスプレッド及びインフレは、内部モデルで明示的にモデル化されている。特に、これは、標準式とは異なり、内部モデルが、SCRの計算において、(EUの国々を含む)全てのソブリン債のスプレッドリスクを考慮していることを意味している。ポートフォリオの集中リスクは、企業のデフォルト計算(信用リスク)に含まれている。
市場リスクに関する内部モデルは、ボラティリティ調整の将来の変化を見込む「動的ボラティリティ調整」のモデルを含んでいる。これは、スプレッドの拡大による資産サイドの損失がボラティリティ調整の変化による負債サイドの動きによって一部相殺されるということを考慮に入れる経済的アプローチを反映している。内部モデルにおいては、ボラティリティ調整の水準は、社債及び/又は国債のスプレッドの動きに依存して評価され、その負債への影響が評価される。動的ボラティリティ調整のモデリングは、投資資産から派生するスプレッドリスクを一部相殺する。動的ボラティリティ調整のモデリングについては、EIOPAによって提供されるパラメータ(ウェイト、参照ポートフォリオ、基本スプレッド)が使用される。いくらかの保守性を加味し、モデルにおける潜在的な制約を反映するために、25%のヘアカットが社債のスプレッド水準の変動に対して適用される(即ち、もし所与のシナリオで社債のスプレッドがx bps動いた場合、xの75%のみがこのシナリオでの新しいボラティリティ調整を導くために考慮される)。内部モデルで使用されるサブリスクとリスクファクターの数が多いため、異なる資産クラスのリスクとそれらの間の分散効果は、標準式よりも正確に把握できる。例えば、ショックは経済に依存し、それはボラタイルな市場ではより高いショックが想定されることを意味している。
■信用リスク:社債のデフォルトリスクは、標準式のスプレッドの較正に含まれているが、内部モデルはこれを個別に扱った。
■生命リスク:内部モデルは、その他の顧客行動や医療費を明示的にモデル化している。改定リスク(即ち、保険契約者の健康状態における変化によるリスク)はグループにとって重要でないことから、内部モデルのデフォルトではモデル化されていないが、(就業不能リスクに埋め込まれて)ローカルレベルでは考慮に入れることができる。解約リスクは、内部モデルと標準式の両方において、3つの要素(解約の増加、解約の減少及び大量解約)に分けられるが、集計が異なっている(内部モデルにおける集計マトリックスに対して、標準式における3つの要素の最大値)。
■損害リスク:標準式ではリスクボラティリティを定量化するのに業界全体のパラメータに依存しているのに対して、内部モデルは会社固有のボラティリティパラメータに依存している。それゆえ会社のポートフォリオに埋め込まれたリスクに整合的で、一般的により詳細である。内部モデルはより正確なモデリングのために保険料と準備金リスクを分解し、それらの間の分散化を考慮している。最後に、解約リスクは保険料リスクを通じて把握される。
■オペレーショナルリスク:オペレーショナルリスクの内部モデルは、フォワードルッキングなシナリオベースのアプローチ(SBA)に従う。これは、一連の横断的なグループシナリオで補足された各エンティティの最も重要なオペレーショナルリスクの識別と評価に依存している。標準式とは対照的に内部モデルを使用する主な目的は、SCRにグループのリスクプロファイルをよりよく反映させることである。これは、オペレーショナルリスクの標準式が、オペレーショナルリスク基準に関連するリスクファクターのない純粋なファクターベースのものであるため、オペレーショナルリスクにおいて特に関係している。
■モデリング手法:標準式では、SCRを導出するために、殆どのリスクカテゴリにシンプルモデルが使用されている。殆どの場合、極端なシナリオは99.5%分位を表すものとして定義されている。
内部モデルでは、極端なシナリオは生命SCRの計算にのみ使用される。他のリスクカテゴリについては、洗練されたモデルが適用される。特に市場、信用固定金利及び再保険、損害保険及びオペレーショナルリスクについては、損失の分布はシミュレーションから導き出される。
■分散化:標準式では、地理的分散は明示的に認識されていない。内部モデル集約アプローチは、AXAグループがグローバルに活動しているため、地理的な分散効果を考慮している。
ソルベンシーIIの枠組みでは、グループの自己資本の金額の変化に確率を割り当てる内部モデルの基礎となる確率分布予測(PDF)の提供が要求される。シミュレーションベースのモデリングアプローチが完全な確率分布予測を認めているのに対して、ショックベースのモデリングは(追加的なパーセンタイルと完全な分布が導出される)特定のパーセンタイルの計算に依存している。方法論上の理由から、以下のオリエンテーションが内部モデルのために選択されている。
■損害、市場及びオペレーショナルリスクモジュールのモデリングは、シミュレーションベースのアプローチを使用して、完全な確率分布予測を提示することができる。
■生命リスクに関しては、0.5%又は99.5%パーセンタイルベースの内部モデルの計算は、追加的なパーセンタイルの導出によって補完される。
■信用リスクのモデリングは、想定されるサブリスクに応じて、シミュレーションベースの手法とショックアプローチの両方に依存している。第1の手法については、完全確率分布予測が利用可能である。ショックアプローチ(債権から派生する信用リスクに対してのみ使用される)に関しては、生命リスクに対して実行されるアプローチと同様に、いくつかのパーセンタイルが計算される。
全体的な集計方法は、市場、信用、生命、損害及びオペレーショナル要件の楕円集計(elliptical aggregationに基づいている。このモジュラー・アプローチは、主要リスク又はサブリスクのランク付けを可能にし、リスク(サブリスク)とその影響の十分な理解を提供する。
AXAグループは、リバースストレスシナリオも実行している。このようなシナリオの目的は、選択した評価日に同じSCRの金額を生む、市場、信用、生命、損害及びオペレーショナル・イベント(シナリオで定義されたショックが同時に発生している)の組み合わせを示すことにある。これにより、内部モデルに固有のいくつかの影響を評価することができる。
■それらは、異なるリスク間の相互作用のバックテストを構成する。実際、このようなシナリオを実行することで、潜在的なクロス及び非線形効果を際立たせることができる。
■全てのリスク要素が同時にシミュレートされる完全シミュレーションベースアプローチに対して、楕円集計は、理論的には、保険契約者の吸収能力の過大評価をもたらすかもしれない。テストは、200年に一度のストレスを適用する際に、いくつかの将来の裁量的なベネフィットがそのままで、既存の保険契約者の吸収能力を超えるいかなる超過も考慮されていないということを示している、ことを確実にする。
Prudentialは、内部モデルと標準式によるSCRの計算の主な差異を、以下の通りまとめている。
・内部モデルのリスクシナリオは、Prudential固有のリスクプロファイルを反映し、データ分析と専門家判断の組み合わせから導き出される。
・各カテゴリ内の内部モデルリスクドライバーは、通常、標準式で考慮される広範なリスクカテゴリよりもはるかにきめ細かである。
・内部モデルは、標準式に含まれていないいくつかのリスク(例えば、株式インプライドボラティリティリスク、金利インプライドボラティリティリスク、国債スプレッドリスク)もカバーしている。
・内部モデルでは、一緒に発生するリスクの組み合わせの貸借対照表への影響を許容するが、標準式では、個々のリスクを個別に考慮するのみである。
・内部モデルでは、対応する負債の価値の変動を反映して、各リスクシナリオでマッチング調整リングフェンスを変更することができるので、内部のリスクとマッチング調整ポートフォリオ外のリスクの分散が認められる。
具体的には、以下の通り記述されている。
E.4.3内部モデルと標準式
内部モデルと標準式によるSCR計算の間の主要な差異は、以下を含んでいる。
・標準式のストレスと相関が規定されているのに対して、ソルベンシーII指令によって要求される内部モデルテストと基準に従うことを条件に、内部モデルのリスクシナリオは、Prudential固有のリスクプロファイルを反映し、データ分析と専門家判断の組み合わせから導き出される(詳細は下表参照)。
・同じ幅広いリスクカテゴリが内部モデルのリスクドライバーをグループ化するために使用されるが、各カテゴリ内の内部モデルリスクドライバーは、通常、標準式で考慮される広範なリスクカテゴリよりもはるかにきめ細かである。例えば、標準式のストレスの多くは国によって異ならないが、内部モデルのリスクドライバーは、通常、国やその他のリスクの属性によって異なる。
・内部モデルは、標準式に含まれていないいくつかのリスク(例えば、株式インプライドボラティリティリスク、金利インプライドボラティリティリスク、国債スプレッドリスク)もカバーしている。
・内部モデルSCRは、基礎となるリスクドライバーを結合されたストレス・シナリオにまとめ、99.5%のワーストパーセンタイル結果を導出するために、これらのストレス・シナリオをグループの貸借対照表に適用した結果をランク付けすることによって、導き出される。逆に、標準式SCRは、各所定のストレスの貸借対照表への影響を別々に計算し、次にこれらの結果を所定の相関マトリックスを用いて集計することによって導き出される。したがって、内部モデルでは、一緒に発生するリスクの組み合わせの貸借対照表への影響を許容するが、標準式では、個々のリスクを個別に考慮するのみである。そして
・内部モデルでは、対応する負債の価値の変動を反映して、各リスクシナリオでマッチング調整のリングフェンスを変更することができる。したがって、マッチング調整ポートフォリオの内部のリスクと外部のリスクの分散化が認められる。逆に、標準式は一緒に発生するリスクの組み合わせによる影響を考慮していないため、マッチング調整ポートフォリオの内部のリスクと外部のリスクとの間での分散化は認識しないことが求められる。
(2019年07月29日「基礎研レポート」)
中村 亮一のレポート
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