2017年04月03日

日銀短観(3月調査)~景況感は幅広く改善したが、先行きへの警戒感は強い

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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5.設備投資・雇用:人手不足感がさらに強まる、17年度設備投資計画はまずまず

生産・営業用設備判断D.I.(「過剰」-「不足」)は全規模全産業で▲2と、前回比で2ポイント低下し、不足超過となった。雇用人員判断D.I.(「過剰」-「不足」)も全規模・全産業で▲25と前回から4ポイント低下(不足感が上昇)している。景気が緩やかな回復が続いているうえ、構造的な高齢化の影響もあって、中小企業を中心に人手不足感がさらに強まっている。

上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均D.I.」(設備・雇用の各D.I. を加重平均して算出)は前回から3.3ポイント低下している(▲13.2ポイント→▲16.5ポイント)。
 
D.I.の水準としても引き続き人員の不足感が極めて強い状況が続いている。内訳を見ると、これまで同様、製造業(全規模で▲16)よりも、労働集約型産業が多い非製造業(全規模で▲31)で人手不足感がより強い。また、企業規模別で見ると、人材調達力や収益力の違いが反映されているとみられるが、中小企業が▲28と大企業の▲15を大きく下回る状況が続いている。この結果、中小企業非製造業では▲34と、全区分中で最大のマイナス幅となっている。

人手不足は製造業・非製造業や企業規模を問わず幅広く共有されているが、特に中小非製造業においては深刻な経営課題になりつつある。
 
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断D.I.が現状比2ポイント低下の▲4、雇用判断D.I.も1ポイント低下の▲26と、それぞれ不足感が強まることが見込まれている。両者を反映した「短観加重平均D.I.」も引き続き低下に向かう見込み(▲16.5ポイント→▲17.9ポイント)である。先行きにかけても、雇用判断D.I.の低下は中小企業で目立ち、中小企業における人手不足に対する警戒感は強い(図表9,10)。
(図表9) 生産・営業用設備判断と雇用人員判断DI(全規模・全産業)/(図表10) 短観加重平均DI
2016年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比0.4%増と前回調査時点の1.8%増から下方修正された。例年、12月調査から3 月調査にかけては、中小企業で計画が固まってくることに伴って全体として上方修正されやすいクセがあるが、今回は大企業の大幅な下方修正の影響が上回り、全体でも下方修正となった。昨年終盤以降、円安進行等によって企業収益が底入れしたものの、事業環境を巡る不透明感がかなり強かったことが、設備投資の抑制に働いたとみられる。
 
今回から新たに調査・公表された2017年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2016年度計画比で▲1.3%となった。例年3月調査の段階ではまだ計画が固まっていないことから前年割れでスタートする傾向が極めて強いため、マイナス自体にあまり意味はない。近年の3月調査との比較が重要になるが、今回は近年の3月調査での伸び率(15年度▲5.0%、16年度▲4.8%)をかなり上回る計画が示されている。16年度計画が下方修正になっていることから、一部先送りされた分が17年度計画に加算された面もあるとみられるが、それを考慮しても強めであることには変わりない。生産の回復や人手不足等が計画の追い風になっている可能性が高い。

ただし、海外を巡る先行き不透明感はかなり強いことから、海外動向が今後の設備投資の大きなカギになってきそうだ。
 
なお、16年度計画(全規模全産業0.4%増)は事前の市場予想(QUICK 集計2.1%増、当社予想は2.6%増)を下回る結果であった。一方、17年度計画(全規模全産業1.3%減)は事前の市場予想(QUICK 集計4.1%減、当社予想は4.0%減)を上回る結果であった。
(図表11)設備投資計画と研究開発投資計画/(図表12) 設備投資計画(全規模・全産業)
(図表13) 設備投資計画(大企業・全産業)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2017年04月03日「Weekly エコノミスト・レター」)

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