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- 米国経済の見通し-いよいよ消費大国の本領発揮へ
2014年08月07日
1―実体経済は回復が続く見込み
◎-予想以上だった寒波の影響
米国経済は、1-3月期の実質成長率が季節調整済の年率換算で▲2.9%(3次改定値)となり、前期(+2.6%)から急減速した。背景には冬場に米国を襲った大寒波による悪影響がある。
この寒波による成長率鈍化は予想されていたことではあるが、実際の影響は事前の予想を上回った。4月の速報値が発表される直前の市場予想は+1.2%(Bloomberg集計の中央値)であった。まず、実際の速報値(+0.1%)が予想を下回り、そして2次改定で▲1.0%に、さらに3次改定で▲2.9%と段階的に下方修正されている。これだけの下方修正は珍しく、最終的には当初の予想より約4%ポイントの大幅な下振れとなった。
米国経済は、1-3月期の実質成長率が季節調整済の年率換算で▲2.9%(3次改定値)となり、前期(+2.6%)から急減速した。背景には冬場に米国を襲った大寒波による悪影響がある。
この寒波による成長率鈍化は予想されていたことではあるが、実際の影響は事前の予想を上回った。4月の速報値が発表される直前の市場予想は+1.2%(Bloomberg集計の中央値)であった。まず、実際の速報値(+0.1%)が予想を下回り、そして2次改定で▲1.0%に、さらに3次改定で▲2.9%と段階的に下方修正されている。これだけの下方修正は珍しく、最終的には当初の予想より約4%ポイントの大幅な下振れとなった。
賃金に関しては、金融政策を担うFRBのイエレン議長も労働市場において雇用の「量」の回復が進む一方で、「質」の改善が進んでいないと強調する。つまり、労働需要の強さは最終的に賃金に波及するが、労働市場に弛み(スラック)が存在し、雇用の「質」の改善が遅いために、賃金上昇にまで波及していないとする。
しかし、労働市場が停滞している訳ではない。量の改善は着実に進んでおり、今後、経済成長が本格化すれば、質の改善が進み、賃金上昇率にも上方圧力が生じると見ている。
住宅市場についてはこれまでと比較して伸びが減速する可能性は高い。ペントアップデマンド(抑制された需要の復元)と経済成長による回復期待もあるが、今後はローン金利の上昇も見込まれることから、回復ペースは緩慢となると見られる。ただし、住宅市場の場合、GDPに占める住宅投資のシェアが3%程度であるため、成長全体に対する影響は限定的であると言える。
一方、地政学的リスクの顕在化、中国の理財商品に絡む不良債権問題の深刻化が米国経済に波及し、成長率が下振れするなどのリスクシナリオには注意を払う必要がある。また、株や住宅など、資産価格の下落もリスク要因である。特に株価は高めでの推移が続いていることから、FRBが金融緩和から引き締めに移行する段階で不安定な動きをする可能性がある。株の下落は、資産効果による消費の押し上げ効果を剥落させ、実体経済にも影響を及ぼすため、警戒すべき材料と言える。
しかし、労働市場が停滞している訳ではない。量の改善は着実に進んでおり、今後、経済成長が本格化すれば、質の改善が進み、賃金上昇率にも上方圧力が生じると見ている。
住宅市場についてはこれまでと比較して伸びが減速する可能性は高い。ペントアップデマンド(抑制された需要の復元)と経済成長による回復期待もあるが、今後はローン金利の上昇も見込まれることから、回復ペースは緩慢となると見られる。ただし、住宅市場の場合、GDPに占める住宅投資のシェアが3%程度であるため、成長全体に対する影響は限定的であると言える。
一方、地政学的リスクの顕在化、中国の理財商品に絡む不良債権問題の深刻化が米国経済に波及し、成長率が下振れするなどのリスクシナリオには注意を払う必要がある。また、株や住宅など、資産価格の下落もリスク要因である。特に株価は高めでの推移が続いていることから、FRBが金融緩和から引き締めに移行する段階で不安定な動きをする可能性がある。株の下落は、資産効果による消費の押し上げ効果を剥落させ、実体経済にも影響を及ぼすため、警戒すべき材料と言える。
2―金融政策は「出口戦略」へ
金融政策については、米国の経済回復にともなって、資産購入策(量的緩和策、QE3)の縮小(テーパリング)が淡々と続けられており、FOMCでは、今後、大きな混乱が生じない限り、10月で資産購入が停止される見込みとしている。
ただし、その後の出口戦略は慎重に進められると見ている。イエレン氏が重視する雇用の「質」の改善が遅いことに加えて、そもそも「利上げ」や「保有資産の縮小(量的緩和で膨らんだFRBのバランスシートを縮小させること)」といった出口戦略の実行には、ある程度の準備(技術的な面とフォワードガイダンスを通じた市場への周知)が必要だと見られる。
そのため、メインシナリオではテーパリング終了後も実質的なゼロ金利政策(政策金利で0-0.25%)は2015年後半まで続けられ、利上げに転じるのは2015年の9月となると見ている(図表8)。なお、出口戦略に関してイエレン議長は、6月のFOMCの記者会見において、年内に「出口戦略の原則」の修正版(原案は2011年のFOMCで合意済)を公表する旨を述べている。そのため、今後は出口戦略に関する議論が活性化していくと見られる。
ただし、その後の出口戦略は慎重に進められると見ている。イエレン氏が重視する雇用の「質」の改善が遅いことに加えて、そもそも「利上げ」や「保有資産の縮小(量的緩和で膨らんだFRBのバランスシートを縮小させること)」といった出口戦略の実行には、ある程度の準備(技術的な面とフォワードガイダンスを通じた市場への周知)が必要だと見られる。
そのため、メインシナリオではテーパリング終了後も実質的なゼロ金利政策(政策金利で0-0.25%)は2015年後半まで続けられ、利上げに転じるのは2015年の9月となると見ている(図表8)。なお、出口戦略に関してイエレン議長は、6月のFOMCの記者会見において、年内に「出口戦略の原則」の修正版(原案は2011年のFOMCで合意済)を公表する旨を述べている。そのため、今後は出口戦略に関する議論が活性化していくと見られる。
3―長期金利は上昇に向かう
長期金利に関しては、昨年末と比較して低い水準での推移が続いており、市場ではその原因を探す動きも広がっている。要因としては地政学的リスクを懸念したリスクオフ、海外マネー(欧州や中国をはじめとした新興国マネー)の流入、米国の潜在的な成長率低下などが聞かれる。
実際には単一の要因ではなく、これらの複合要因と見られるが、少なくとも地政学的なリスク懸念の高まりや、海外マネーの流入(の一部)は一時的なものであり、中長期にわたり金利低下圧力をもたらすものではない。
今後、米国の金融政策では出口戦略の議論が本格化、利上げが視野に入ってくる。そうすれば、金利低下圧力は弱まり、長期金利は上昇に向かうだろう(図表8)。
実際には単一の要因ではなく、これらの複合要因と見られるが、少なくとも地政学的なリスク懸念の高まりや、海外マネーの流入(の一部)は一時的なものであり、中長期にわたり金利低下圧力をもたらすものではない。
今後、米国の金融政策では出口戦略の議論が本格化、利上げが視野に入ってくる。そうすれば、金利低下圧力は弱まり、長期金利は上昇に向かうだろう(図表8)。
(執筆時点:2014/7/18)
(2014年08月07日「基礎研マンスリー」)
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経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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