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- ファッショントレンドで2014年の景気をみると?
今年の春は「ビビッドカラー」が人気のようだ。新聞記事によると1、今、百貨店では、濃いピンクや赤、オレンジといった目の覚めるようなはっきりとした色合いのスプリングコートやワンピースが女性に売れているそうだ。
アパレル業界では、景気が良くなると鮮やかな色が流行り、不景気になると落ち着いた色が流行るというのは有名な話らしい。不況下では生活防衛意識が高まるために、消費者は長く着られるベーシックな色を求め、メーカー側も冒険を恐れて無難な定番カラーの商品を出す2。例えば、オイルショックの後はカーキや茶などのアースカラーが流行り、バブル崩壊後はモノトーンが流行った。
景況感は女性のスカートの長さにもあらわれるらしい。景気が良くなるとミニスカートが流行るそうだ。そう聞くと、バブル期のボディコンの超ミニが思い浮かぶが、日本で初めてミニスカートが流行ったのは高度経済成長期真っ只中の1960年代、スーパーモデルのツィッギーの来日がきっかけだそうだ。
さらに、景況感は女性のヘアスタイルにもあらわれると聞く。ただ、これには二つの見方があるようで、不景気になると美容院へ行く回数が減るから女性の髪は長くなるという見方と、不景気になると手入れの必要な長い髪ではムースやジェルなどのスタイリング剤やトリートメント代がかかるので短くなるという見方がある。いずれにしろ、不景気になるとヘアスタイルにかけるお金を節約するということだろう。であれば、髪の長さはともかく、髪の色を少し明るくするようなカラーリングをする割合は減るのだろう。
では、2014年1月現在の状況はどうなっているだろうか。
流行色は、冒頭の通り、ビビッドカラーがトレンドのようだ。そういえば、昨年の春はパステルカラーが流行っていた。淡いピンクやグリーン、イエローのニットやストレッチデニムなどが売り場に並んでいた様子を思い出す。また、若者を中心に、蛍光色(ファッション誌ではビタミンカラーなどともいわれていた)などの鮮やかな色をポイント使いするコーディネートも流行っていた。そうなると、今年は色味が強くなっているので、やはり景況感は好転しているのだろう。
スカートの長さからうかがう景況感は微妙だ。春物を扱うファッション誌をパラパラとめくってみたが、特にミニスカートが流行っているという傾向は見られない。そういえば、景況感の好転がいわれはじめた昨年の春夏、女性では久しぶりにタイトスカートが注目され、特にペンシルスカートという鉛筆のようにほっそりとしたシルエットのスカートも登場した。ペンシルスカートは縦長ラインを強調したデザインであり、スカート丈は主に膝丈で、膝が隠れるようなものもあり、むしろ長めだ。一方、現在の冬の状況を見渡すと、数年前にニーハイブーツやムートンブーツが流行った頃から、ボリュームのあるブーツにあわせた冬のミニは定番になっているような印象もある。スカートの長さからは景況感はよくわからない。
ヘアスタイルはどちらとも取れるため、カラーリングについてみてみると、最近のトレンドは黒髪で3、カラーリングにかけるお金は特に増えていないようだ。
つまり、ファッショントレンドで景気をみると、一部では景況感の好転がみられ、一部では微妙、また、景況感の好転が見られないところもあり、様々入り混じっているというところだろうか。
と、見てきたものの、今は消費社会の成熟化により、ユニクロなどのファストファッションを利用すれば低価格で様々な色合いのファッションを楽しめる。また、美容院でも駅などにあるフリーペーパーのクーポンで格安プランを利用できるし、ドラッグストアで売られているカラーリング剤を持ち込んで染めてもらえるサービスもある。不況下でも様々なファッションを楽しみやすい環境にあり、(そもそも信憑性は定かではないが)ひと昔前より景況感との関係は薄まっているだろう。
ただ、景況感が入り混じっている様子は今の日本の消費者をよくあらわしているようにも思う。
バブル崩壊後に長らく不況が続き、高齢化が進行する日本では雇用環境や社会保障給付において世代間格差が存在する。社会保障の給付と負担の関係をみると1955年生まれを境に生涯収支がマイナスになり、生まれ年が若いほどマイナス額は大きくなる4。また、不況による人件費の抑制圧力や高年齢者雇用安定法に伴う在職期間の長期化などにより、正規雇用者の賃金カーブも低下傾向にある。さらに、新卒採用が絞られた若年世代では非正規雇用者が増えており、正規雇用者と非正規雇用者では年齢とともに年収差がひらき、同世代間の世代内格差も存在する。現在の日本では、世代や雇用状況によって景況感も様々だろう。
今、政財界では春のベースアップが話題にあがっている。景気が回復し賃金が上昇することは歓迎だが、賃金上昇で注目されているのは主に正規雇用の大企業サラリーマンの賃金であり、労働者全体でいえばごく一部だ。まずは余裕のある大企業で賃金が上がり、その後、中小企業や非正規雇用者にも派生していくという流れもあるのだろうが、大企業の賃金動向に注目が集まりすぎることで、大企業の人件費の増加分が取引先中小企業の負担として転嫁される可能性もあるかもしれない。また、そもそも景気回復による労働環境の改善を言うのであれば、正規雇用者の賃金上昇だけでなく、同時に非正規雇用者の雇用の安定化も見るべきだろう。
ファッションは多様でよいが、景況感が多様である必要はない。来年の今頃、ファッショントレンドはどのような様子をあらわしているだろうか。
(2014年01月27日「研究員の眼」)
03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
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