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- 世帯ベースの消費税負担額~逆進性の問題をどう考えるか
コラム
2006年09月04日
1.年間の消費税負担額は、年収588万円の4人世帯で約12.7万円 自民党の総裁選が近づいてきたが、将来の消費税率の引き上げの問題が争点のひとつに上がっている。候補者のなかでも谷垣財務大臣は、2010年代のできるだけ早い時期に少なくとも10%にまで税率を引き上げることを明言しているのに対し、安部官房長官や、麻生外務大臣などは、税率の引き上げには慎重な姿勢を示しており、現時点でも意見の対立は鮮明だ。今後、消費税率の引き上げを巡る議論は、ますます熱を帯びてくることが予想される。 消費税率の増税は、1%の引き上げでも約2.5兆円の大規模な国民負担増を招くうえに、所得税などとは異なり、収入がない世帯でも消費の際に課税されることになること、さらに低所得者になるほど、相対的に負担が大きくなるという逆進性の問題が指摘されていることもあり、とかく国民の注目が集まる問題である。このような背景もあり、最近「消費税」という単語を目にする機会も多くなってきている。 ところで、実際にそれぞれの世帯が負担する消費税の規模は、年間でどのくらいの額になるのであろうか?消費税は、そもそも自身の年間消費支出額を把握していないと、計算することができない。そこで、ここでは総務省の「家計調査」を用いて、4人世帯における年間の消費税負担額を、5段階の所得階級ごとに試算してみた。家計調査では、世帯ベースにおける、一月当たりの収入、税・社会保障などの公的負担額(非消費支出)、そして消費支出額を調査しているため、これを利用すれば世帯当たりのおよその消費税額を推計することが可能となる。 試算の結果は図表にあるように、所得水準が中位(第III階級)の世帯では年収587.9万円に対して、年間の消費税負担額は12.7万円になると試算される。これは、年収比で見ると約2.2%の規模である。他の公的負担との比較では、所得水準が中位の世帯(第III階級)においては、消費税の負担額は、所得税(14.0万円)と住民税(9.7万円)の中間程度の規模であり、年金(34.4万円)や健康保険料(16.8万円)などの社会保険料よりは低い負担水準となっていることになる。 他の所得階級の世帯においても、年収に対する消費税額の負担比率は、大体、2%前後となると考えられよう。
上の図表から、消費税は、所得税や住民税といった直接税とは異なり、所得階級が高くなるほど、年収に対する負担比率が低下する傾向があるということが分かる。そもそも、我が国の所得税や住民税は、所得が高くなるにつれて高い税率が課せられる累進課税体系が導入されており、低所得者層では相対的に直接税の税負担は軽減されている。一方、消費税は全ての所得階層に対して、同率の税率が課せられるが、一般的に、低所得者層のほうが、高所得者層に比べて消費性向が高いため、所得税などとは反対に、低所得者になるほど、相対的に負担率が大きくなってしまうのである。 このような、いわゆる消費税の「逆進性」は、以前から指摘されている問題であり、解決に向けては、税率が二桁に達するような諸外国で導入されているように、食料品等の生活必需品の消費税率を軽減する、軽減税率の適用に向けた議論も始まろうとしている。 しかし、逆進性の問題を考えるにあたっては、もうひとつ重要な視点があると考えられる。消費税は確かに逆進的であるが、図表からも分かるように、直接税と比較すれば、現段階では、所得階級別に見た消費税の負担率の格差は緩やかなものに留まっている。さらに、逆進的という意味では、社会保険料負担でも、所得水準が高くなるにつれて負担水準が低くなる傾向が見られる。 これら消費税、所得税、年金保険料などは制度のうえでは、全く別のものであるが、家計にとっては同じ負担であることに変わりはない。このため、個人または世帯への負担の問題を考える際には、消費税のみならず直接税や社会保険料など、家計にかかる全ての負担を合計したうえで、所得階層間の公平性の問題を論じていくという視点も必要なのではないだろうか。税制と社会保障制度を同等に考えることはふさわしくないとの見方もあるが、消費税の「社会保障目的税化」も議論にあがっているなかでは、両者は完全に切り離して考えられるものではないだろう。 消費税の逆進性の問題については、軽減税率の導入を含めて、今後の税率の引き上げに向けたひとつの論点になるだろう。ただし、「家計の負担」という観点からは、消費税だけの問題にとどまらず、家計が負担するそれぞれの税・社会保障制度を一体的に捉えたうえで、所得階層間の公平性の問題を論じ、制度改革を進めていくことも重要と考えられる。 |
(2006年09月04日「エコノミストの眼」)
篠原 哲
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