2023年10月31日開催

基調講演

習近平3期目の内政と対外政策:中国といかに向き合うか

講師 東京大学大学院 総合文化研究科 教授 川島 真氏

文字サイズ

4――中国の対外政策

中国の外交ですが、この1ページ目については、先ほど申し上げました。
 
では中国は、アメリカとの関係、世界の秩序との関係性をどのように考えているのか。一つの説明は、この2016年7月の傅瑩(フ・エイ)という人物の発言です。この人は中国の外交官で、イギリス大使もやって、またこのときには全国人民代表大会の外交委員会の委員長でした。この方が2016年7月にチャタムハウスにおいて講演をしました。彼女は、習近平の言葉を代弁すると言いながら発言しました。

彼女はexisting world order(既存の世界秩序)についてこう語りました。アメリカや西側がつくった既存の世界秩序には三つの柱がある。その第1の柱は、アメリカや西側の価値である。二つ目は、アメリカが導いている軍事的なネットワークである。三つ目は、国連やその下にある組織である。
 
この三つの柱を指摘し、議論した上で、この三つについて中国はアメリカや西側の価値は受け入れない。アメリカを中心とする軍事的なネットワークも受け入れない。中国が受け入れるのは、国連とその下にある組織、ここだけであると述べました。

それと同時に、この人は西側の秩序をworld orderと言い、これから中国がつくる秩序をinternational orderだと言葉を分けながら、中国自身が違う秩序をつくっていくつもりだと述べたわけです。

しかし、今から思うとこの7年前の演説はまだよかったようにさえ思えます。このときは、まだ国連およびその下の組織については、中国と先進国との間に「のりしろ」があるかのような言い方でした。

2023年8月に、ここには書いていませんが、実は中国の今の外交部の書記である斉玉という人物が「求是」という雑誌に論文を投稿したのですが、その内容をどう読んでも、のりしろはない。「西側の連中はまるで自分たちの現代化だけが世界の現代化と考えている」とし、非常に厳しい西側批判を展開しているのです。イデオロギー的に次第に一層硬くなってきている印象です。 

次に中国の戦略、特に対外戦略をより広い空間的な観点で見て見ましょう。

一帯一路とは何をやっているのかということですけれども、当然ながら経済を中心にしたコネクティビティを高めていく所作なわけです。経済の結び付きを強めていくことに、当然ながら政治や軍事が結び付いていくことになるわけです。

私は、ここで中国のやっていることが全て怪しい、危険だと言うつもりはありません。中国のやっているインフラ投資を歓迎している国もあるからです。もちろん、債務のわなという問題はありますし、いろいろな問題があります。だけれども、では中国に代わるオルタナティブがあるのか、中国の支援を受けないとして、同じぐらいの大きな金を出して鉄道をつくってくれる国があるのか、世界銀行はやってくれるのでしょうか。実は、規模と性質によっては、もう中国という選択肢しかないと考える国も少なくない。そういうことは、考えていいと思います。日本は今現在、そういう役割はできないわけです。そうした意味では、中国の果たした役割は一定程度あると思います。しかし、中国には中国の思惑があるわけで、そこは理解していかないといけないわけです。

その中国の思惑ですが、もちろんリーマンショック後の中国における過剰投資問題の解決があります。また、中国からするとこの黒い丸の場所において、将来的に有事が起きるとするとどうでしょう。この危険な地域は、中国にとっては東側なわけです。中国は1990年代の江沢民以来、対ロシア、対カザフを含めた中央アジア国境問題はほぼ全部解決しました。その結果、1990年代以降、中国は内陸部の国境地帯の軍隊を減らすことができたわけです。その軍隊の力というか、予算を含めた人力を、海の方に費やすことができたわけです。その海の方にこそ、日米がいるし、台湾もあるわけです。

将来的に、万が一ここで有事があった場合、どうするのか。東の海が戦場になれば、沿岸部の港湾は使えなくなります。また、西側が当然ながら経済制裁を加え、場合によっては海上封鎖もしてきます。それに対して、中国はこの一帯一路を通じて、内陸部、西側にコネクティビティを広げることに成功したわけです。鉄道、高速道路によって中央アジア、ロシアなどと接続させたわけです。特に、西側(先進国)に何を言われようとも中国と貿易する国々がたくさんいます。加えて石油、原油と天然ガスが東側の港湾から来なくても、ミャンマーからのパイプラインがある。中央アジアからのパイプラインがある。多分、彼らはパキスタンのグワダルあたりからのパイプラインも一本欲しいのでしょうが、それはできていません。しかし、東側の港湾が使えなくても、これらのパイプラインを通じてエネルギーが供給されます。これらこそ、中国の大きな、地政学的な戦略につながっているのだろうと思います。そしてまた、ミャンマーなり何なりに原油、天然ガスを運び込んでいくためには、安定的に使える港が要る。だからインド洋を中心にして大きな港の経営権を取っていく。それがハンバントタにおける99年の経営権の奪取でした。これで随分中国は批判されましたけれども、ハンバントタであれ、グワダルであれ、そして失敗したタンザニアのバガモヨであれ、そういう港湾を押さえていくことによって、非常時の港湾を確保したわけです。そしてまた、ジブチに海軍基地を置いて、インド洋を航行するタンカーを守れるようにする。もちろんジブチの基地を置くときには、中国は一応平和5原則があって内政干渉はしないという原則がありますので、違う国に軍隊を置くにしても国連という枠組みを利用して「国連の活動をやるのだ」「南スーダンにPKOを送るのだ」「ソマリア沖の海賊を取り締まりをやるのだ」という論理にして、あそこに基地を置いたわけです。今回、マリからPKOは撤退しましたけれども、中国は一応PKO大国でしたので、そうしたことをやりながら事業を展開していったわけです。中国にはこのような大きな空間設定があると考えていいと思います。
また中国としては、経済を中心にして、世界にまずは進出していく。経済でまずは関係を築き、それを政治、そして軍事を含めた多様な関係に展開していこうという意図があったわけです。

この図は、中国という国がどの国を貿易相手としているかということです。中国が最大の貿易相手というところ(赤いところ)は、どんどん増えています。中国が第1位でなくても2位か3位の貿易相手であるところを入れると、世界で180以上の国や地域を数えます。経済を軸にして関係をつくり、パートナーシップを結んでいく。これはあながちうそではなくて、今現在、世界で100以上の国が中国とパートナーシップ協定を結んでいます。彼らとしては目標を実現しているのです。

ただ問題はそこから先です。まさに、そこから先に行けるのかということが現在の中国の課題です。一帯一路にしても、そもそもインフラを造るのはいいけれど、もうインフラが十分にある国には中国が提供できるものがなくなってしまうわけです。ですから、東ヨーロッパで失敗したわけです。インフラがおよそそろっているところでは、もうインフラ以上のものを出せないわけです。ですから、ポーランドやスロバキアからは「何もいいものはこなかった」と言われてしまうのです。それからマハティールに至っては「東部鉄道は要らない、もっといい先端的技術をよこせ」と言われるわけです。マハティールは別に中国と付き合わないとは言っていなかったわけです。これは中国にとっても厳しい話ですね。だんだんと中国としては開発途上国、いわゆる低開発国に出すものはあっても、マレーシアレベル、あるいは東欧レベルの国に何を提供すれば良いのかということが大きな課題になってくる。そもそも中国国内の経済が悪い中で、対外的にお金を出すことにも大きな不満が国内にある。そもそもお金もない。2016年、2017年あたりで、頭打ちになっています。そうした意味で、中国の一帯一路はこれからどうするのかということが課題です。日本の言葉を上手に使って「質の高いインフラ」と中国は言っていて、何かを厳選して、環境とかデジタルとかいった領域を重点的にやろうとしています。そういう部分では、中国も、結構われわれと似た言葉を使ってしまっていると思うわけです。
 
戦狼外交、これも中国の外交を分からなくする一つの要因であります。しかしながら、これについては、中国の外交部に2019~2020年に共産党の紀律委員会が入り、非常に厳しい検査がなされ、ほぼ落第点を付けられたことが関係していると考えます。すでに外交部には、先ほども申し上げました斉玉という、外交を全くしたことがない組織部の副部長が外交部の書記で入っていましたが、この落第評価は、むしろこの斉玉書記の背中を押したのです。斉玉は、この評価を盾にして、細かいルールをたくさん作り、頻繁に思想の学習会をやって、「外交の戦士たるものは習近平外交思想を実現しなければならない」などとしたのです。この結果、いかにして習近平思想を外に広めるかということが、外交官たちの点数、評価の基になったわけです。ディプロマットであるというよりも、いかにして習近平思想を外に伝えるか、ここに評価の軸が移りましたので、戦狼外交官たるものは、とても涙ぐましい努力をしているということになります。もちろん、この紀律検査の前からすでに戦狼外交官は見られていましたが、同じような傾向が彼らを生み出したと言えるでしょう。

他方で、「戦狼外交官」として振る舞っているような中国の外交官たちが中国の外交政策を必ずしも決定しているわけではないということも重要です。もちろん、王毅さんのクラスになれば別ですけれども、日本の発想で、外交部の局長クラスや審議官クラスが政策を作っていると思ったらいけないわけです。やはりこれは中国共産党の中央外事工作委員会、つまり党の内部の組織で政策を練り上げていて、それを実行するのが外交部の人たちな訳です。そうした意味で、日本と外交制度が大分違うということは念頭に置いておく必要があります。
 
このスライドは飛ばします。これが先ほど申し上げた共産党紀律委員会が外交部に入ったときの監査のイメージです。中央第五巡視組がやってきて、外交部を監査したわけです。
 
この「求是」の斉玉の論文は飛ばします。
 
あともう一つ重要なことは、中国自身はこの間、一帯一路と別に進めているいくつかの大型プロジェクトがあります。それは、海底ケーブルシステムであり、また中国版GPSNO北斗のシステムなどです。これは、グローバルな空間で中国の影響力を高めていくことを目標としたことです。これじゃ、地上に鉄道を敷くという「旧式の」話ではなくて、世界に新しいインフラをつくっていこうとする話です。
 
例えば、宇宙においては皆さまのお手元のスマートフォンの位置情報を得るためのGPSシステムについて、中国主導の新しいものを作っていこうとしています。これは当然軍事転用できます。これはもうほぼ完成しました。衛星・北斗システムです。そしてインターネットの海底ケーブルについても、西側が作ったものを使うと情報を取られてしまいますから、中国独自のインターネットケーブルワークをつくっていきたいわけです。ただ、これはまだ道半ばです。
 
他方、最近中国がやっていることは、宇宙はもちろんのこと、大気、海の表面、海の中、海底あるいは地磁気、こういうものを、世界中で包括的に測量していく、データを集めていくということをやっています。

ですので、アメリカに行った気球も笑い事ではないわけです。気球は、要するに大気の流れを見て、また衛星からは見られないものを撮影していると考えられます。本当にグローバルに彼らは情報を集めています。これは当然ながら、例えばミサイルを飛ばすとか、海中ドローンを使用すること、さらには途上国にうる気象情報にも関わります。いずれにせよ、世界的な情報を集めています。

もちろんアメリカもこうしたことをやってきました。そのアメリカに並ぶパワーになるためには、地球上全体を把握しないといけないということでしょう。その調査対象は、まずは東アジア、西太平洋が中心になります。そのため、日本の周りにはたくさん中国の測量船がいるわけです。この前NHKが特集をやっていましたけれども、これが最近の測量船の動きです。

一帯一路もまた、こうした動きに関わっています。中国が宇宙から地上まで、それもグローバルに行っている活動を見る必要があります。ですので、中国の対外政策を見るときに、決して外交部や商務部だけでなくて、自然絡み、宇宙絡み、それから海底研究と絡む分野なども含めて見ていかないと分からないことになります。そうした意味では、理系の方々と共同研究が必要になります。
 
これは、グローバルな、多方面から情報収集していることを示しています。

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ページTopへ戻る