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2022年10月13日開催
基調講演
日本の国防と経済安全保障
講師 | 同志社大学 特別客員教授/元内閣官房 国家安全保障局 次長 兼原 信克氏 |
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3――台湾有事はどうなるか
では台湾がこれからどうなるか、なのですけれども、プーチン大統領が突然ウクライナで大暴れをする前は、みんな頭の中にあったのは台湾有事の可能性だったのです。アメリカが最近、「台湾、台湾」と言い始めて、昨年、菅・バイデン間の首脳会談で、台湾問題のことを取り上げました。実に佐藤・ニクソン首脳会談以来です。50年ぶりです。
「台湾海峡の平和と安定」ということの具体的意味なのですが、現状維持ということです。第二次世界大戦が終わって、大きな力の真空が東西陣営の中間にできますと国が二つに割れる現象が起こりました。分断国家といわれているもので、世界史的には珍しい例です。東西ドイツ、南北朝鮮、南北ベトナム、そして大小中国、つまり中国と台湾です。
余談ですが、スターリンはトルーマンに向かって、「留萌・釧路で区切って、北海道の北半分をよこせ」と言ったのです。あれがもし成功していると、北方4島と北海道北半分がくっついて、日本民主主義共和国ができていたのだと思います。そうなると北海道に日露の地上国境ができて大変なことになったのですが、さすがにトルーマンが「馬鹿なことを言うな」と蹴り返したので北海道全体が日本に残っているのです。幸運にも日本は分断されませんでしたけれども、中国、ベトナム、韓国、ドイツは、戦後、分断国家になったわけです。
中国の場合はさらに特殊な例です。普通は分断国家が二つとも一緒に国連に入れれば「それでいいです」と言うのですけれども、蒋介石は異常に頑固だったので、「中国は1つだ」と言い続けたわけです。当然、毛沢東も「中国は1つだ」と言い続けました。あのときに蒋介石が「中国は2つに割れた」と言っていれば、今ごろ国連に議席が残ったのです。「中国は1つだ」と言い張ったので、ではごめんねということで、一つの中国の中で正統政府を台北から北京に切り替えるという論理的な整理になってしまったのです。中国は1つであって、正統政府として中国を代表しているのは北京だとして、正統政府を台北から北京に切り替えたのが日中国交正常化、米中国交正常化です。
ところで、このとき、中国共産党はもう一つ大事なことを言ったのです。それは「台湾は中国に領土的に帰属するのだ」と。これに対してはワシントンも東京もイエスと言っていないのです。それは現状と違うではないかということなのです。なぜなら、中国は事実の問題としては2つある。それを一つの国家に見立てて、代表政府が入れ替わったと理屈を整理しただけだからです。武力をもって現状を変更し、台湾を併合してはいけない。もし、台湾併合を武力行使でやれば現状維持の原則に反する、というのが日米両政府の立場なのです。ですから中国が武力をもって台湾併合に入ったら、台湾だけではなく日米両国も武力をもって対抗することがあり得る。これが私たちの本当のポジションです。
最近バイデン大統領がちょろちょろと、「もし台湾で戦争になったら介入するかもしれない」ということをおっしゃるわけです。物の分かっていない方は「バイデン、ぼけたな」とおっしゃるのですが、ぼけているわけではありません。アメリカは日本よりもはるかに大統領権限が強いので、大統領のホワイトハウスと国務省と国防省が違うことを言うことはありえません。違うことを言ったら国務長官などはクビになります。
国務省は「一つの中国」と言い続けているわけです。なぜかというと現状維持されているからなのです。バイデンが「戦争になったら介入するかもしれないよ」と言っているのも、同様に正しいのです。事実上、中国の支配下にない台湾海峡の現状が力で壊されて併合されたら米国はおそらく介入するのです。これまでそうはっきり言わなかったのは、「曖昧政策」といって、意図的にあいまいにしてきたからです。
どうしてかというと、あまり台湾有事における米国の介入を言うと、中国が国力を挙げて軍備拡大に走りそうなので、それがアメリカは怖かったのです。だから「戦争になったら介入する」とは言わなかったのです。しかし、現在の中国は、アメリカが何を言おうが言うまいが、全力で軍事強国を目指し、台湾併合の準備を進めています。
実は米国には、もう一つ本当は怖いことがあって、それは台湾の独立なのです。アメリカが「武力で台湾を守る」と言った瞬間に台湾が「それなら安心して独立します」と言うのではないかということを恐れています。これはこれで怖いのです。中国がそれを口実に戦争に踏み切るかもしれないからです。だから曖昧政策だったわけです。
にもかかわらず、最近バイデン大統領がちょろちょろと介入のようなことをおっしゃるのは、曖昧にしていようがいまいがものすごい勢いで中国が軍拡しているからです。ちょっと言わないと、中国指導部は分からないのではないかということで、米国の意図を誤解するなという意味で、ちらちらと介入を言い始めたということだろうと思います。
「台湾海峡の平和と安定」ということの具体的意味なのですが、現状維持ということです。第二次世界大戦が終わって、大きな力の真空が東西陣営の中間にできますと国が二つに割れる現象が起こりました。分断国家といわれているもので、世界史的には珍しい例です。東西ドイツ、南北朝鮮、南北ベトナム、そして大小中国、つまり中国と台湾です。
余談ですが、スターリンはトルーマンに向かって、「留萌・釧路で区切って、北海道の北半分をよこせ」と言ったのです。あれがもし成功していると、北方4島と北海道北半分がくっついて、日本民主主義共和国ができていたのだと思います。そうなると北海道に日露の地上国境ができて大変なことになったのですが、さすがにトルーマンが「馬鹿なことを言うな」と蹴り返したので北海道全体が日本に残っているのです。幸運にも日本は分断されませんでしたけれども、中国、ベトナム、韓国、ドイツは、戦後、分断国家になったわけです。
中国の場合はさらに特殊な例です。普通は分断国家が二つとも一緒に国連に入れれば「それでいいです」と言うのですけれども、蒋介石は異常に頑固だったので、「中国は1つだ」と言い続けたわけです。当然、毛沢東も「中国は1つだ」と言い続けました。あのときに蒋介石が「中国は2つに割れた」と言っていれば、今ごろ国連に議席が残ったのです。「中国は1つだ」と言い張ったので、ではごめんねということで、一つの中国の中で正統政府を台北から北京に切り替えるという論理的な整理になってしまったのです。中国は1つであって、正統政府として中国を代表しているのは北京だとして、正統政府を台北から北京に切り替えたのが日中国交正常化、米中国交正常化です。
ところで、このとき、中国共産党はもう一つ大事なことを言ったのです。それは「台湾は中国に領土的に帰属するのだ」と。これに対してはワシントンも東京もイエスと言っていないのです。それは現状と違うではないかということなのです。なぜなら、中国は事実の問題としては2つある。それを一つの国家に見立てて、代表政府が入れ替わったと理屈を整理しただけだからです。武力をもって現状を変更し、台湾を併合してはいけない。もし、台湾併合を武力行使でやれば現状維持の原則に反する、というのが日米両政府の立場なのです。ですから中国が武力をもって台湾併合に入ったら、台湾だけではなく日米両国も武力をもって対抗することがあり得る。これが私たちの本当のポジションです。
最近バイデン大統領がちょろちょろと、「もし台湾で戦争になったら介入するかもしれない」ということをおっしゃるわけです。物の分かっていない方は「バイデン、ぼけたな」とおっしゃるのですが、ぼけているわけではありません。アメリカは日本よりもはるかに大統領権限が強いので、大統領のホワイトハウスと国務省と国防省が違うことを言うことはありえません。違うことを言ったら国務長官などはクビになります。
国務省は「一つの中国」と言い続けているわけです。なぜかというと現状維持されているからなのです。バイデンが「戦争になったら介入するかもしれないよ」と言っているのも、同様に正しいのです。事実上、中国の支配下にない台湾海峡の現状が力で壊されて併合されたら米国はおそらく介入するのです。これまでそうはっきり言わなかったのは、「曖昧政策」といって、意図的にあいまいにしてきたからです。
どうしてかというと、あまり台湾有事における米国の介入を言うと、中国が国力を挙げて軍備拡大に走りそうなので、それがアメリカは怖かったのです。だから「戦争になったら介入する」とは言わなかったのです。しかし、現在の中国は、アメリカが何を言おうが言うまいが、全力で軍事強国を目指し、台湾併合の準備を進めています。
実は米国には、もう一つ本当は怖いことがあって、それは台湾の独立なのです。アメリカが「武力で台湾を守る」と言った瞬間に台湾が「それなら安心して独立します」と言うのではないかということを恐れています。これはこれで怖いのです。中国がそれを口実に戦争に踏み切るかもしれないからです。だから曖昧政策だったわけです。
にもかかわらず、最近バイデン大統領がちょろちょろと介入のようなことをおっしゃるのは、曖昧にしていようがいまいがものすごい勢いで中国が軍拡しているからです。ちょっと言わないと、中国指導部は分からないのではないかということで、米国の意図を誤解するなという意味で、ちらちらと介入を言い始めたということだろうと思います。
先ほど申し上げましたが日米安保条約には第6条の「極東条項」があります。条約上、「極東」の範囲とされている日本、台湾、フィリピンです。ここで戦争が起きますと、米軍は日本の基地を使って出撃していきます。それが担保になって日本周辺の紛争を抑止しているわけです。逆に言うと、紛争が起きれば、日本は必然的に巻き込まれていくわけです。
台湾有事で、中国が日本本土をいきなり攻撃するかどうかは、中国側が決めることなので、私は何とも言えません。ただ普通に考えると、中国は尖閣諸島は台湾の一部であり中国の領土であると言っています。1992年の領海法では尖閣は中国領だとはっきり言っているので、台湾を取りに行って尖閣を取りに来ないというのはちょっと理屈が立たないですよね。どうせならやってしまうのではないかと考える可能性は十分にあります。自衛隊は25万しかいませんから、戦力が尖閣防衛に割かれますので、それはそれでいいではないかということで台湾と一緒に尖閣に突っかかってくる可能性は結構高い。
それから、先島諸島という一群の島があります。与那国、西表、石垣、宮古、尖閣などです。日本列島は元々、千島があった頃には端から端まで4000kmありました。地球が1周4万kmなので、大体地球の胴回りの10分の1ぐらいの長さがある国だったのですけれども、スターリンに千島列島と北方領土を取られてしまったために今は3000kmしかありません。稚内から与那国が3000kmです。稚内から鹿児島が2000kmです。鹿児島から与那国が1000kmです。最後の1000kmは、広大な海に島嶼が点在します。
少し話が横道にそれますが、日本列島の形についてお話しさせてください。日本列島はカムチャッカ半島から台湾島にずっと下りて、ルソン島に連なります。巨大なプレートが4枚ぶつかるところの火山帯が、私たちの日本列島なのですけれども、線がもう2本ありまして、フィリピンプレートが太平洋プレートにぶつかりますので、伊豆半島から小笠原、硫黄島、サイパンに連なる大きな海底山脈があります。もう1本あります。これは九州からパラオまでの大海底山脈です。これが私たちの本当の島の姿です。海底山脈は沈んでしまっているので見えません。鹿児島からルソン島へ、九州からパラオへ、伊豆半島から硫黄島へと海底山脈が連なります。海がざーっと引きますと、ここの山がくっきり出てきます。
ちなみに九州・パラオ海底山脈の山頂が沖ノ鳥島です。沖ノ鳥島はみんな小さい岩があるだけだろうとおっしゃっていますけど、それは誤解です。島の大きさは低潮線で測ります。沖ノ鳥島は潜水艦みたいな島で、高潮時にはブリッジの部分だけが出ているのです。潮がざーっと引きますと、島の本体が出てきます。本体は縦横2km、4kmあります。大きな飛行場が作れる大きさの島です。飛行場を造ろうして帝国海軍が出ていったところで負けてしまったので造ってないのですが、そのくらいの大きさの島です。安倍総理から「沖ノ鳥島に飛行場を造ったらどうか」と言われて一度は真面目に検討したのですが、2兆円かかるので諦めました。周りが深いので、資材を全部持っていかねばならないからです。羽田のD滑走路のような桟橋式の空港なら2兆円あったらできます。絶海の孤島なので、海空軍的には軍事拠点にすれば戦略的価値の高い島です。
話を先島に戻します。先島諸島は日本最西端の島々です。鹿児島から奄美、沖縄、先島、台湾と島が続きます。何が問題かというと沖縄本島と先島は300キロの海で隔てられています。沖縄本島で1回、島のつながりが切れるのです。そのあと、海が300kmあって、その向こうが先島なのです。先島の一番西端の与那国島から台湾までわずか110kmしかありません。
中台戦争になると、恐らく台湾島の周囲200kmぐらいに中国が交戦区域を引くのではないかと思うのです。多分、台湾に海上封鎖をかけるでしょう。そのとき、その中に先島があるわけです。上を中国の戦闘機や爆撃機が飛ぶときは大体時速1000~2000kmです。先島をいちいち避けるはずがない。その真上を飛んでいくわけです。その下に自衛隊の基地があって、レーダーがあって、対空ミサイルがあるわけです。これを緒戦できれいにしておいた方がいいのではないかと思う人は人民解放軍の中に当然いると思います。場合によっては中国兵が上がってくるということもあります。制海権・制空権というのはきれいにはとれません。中国軍は量的に巨大ですから、日米同盟側も押されます。制海権・制空権はまだらになります。すきをついて敵の陸上戦闘部隊が上がってくることは十分あるのです。停戦になれば、敵の陸軍が居座っているところは、事実上、奪われます。先島は本当に危ないのです。
これを何とかしなくてはいけないという話になっています。台湾におられる2万5000人のビジネスマンの方は早めに出ていただければ助かります。中台戦争が始まると台湾から出られません。集中的に爆撃、攻撃されますから、民航機も行けなくなるのです。
先島の方は、家がそこにあるので、最後まで島をお出にならない可能性があります。しかし、戦火が及ぶぎりぎりの段階になると、今度は輸送が危なくて出られなくなります。先島の住民は10万人ほどいらっしゃるのです。いざというときに備えて、この方々にシェルターを造るという話が喫緊の課題です。実際、与那国の方々はそうおっしゃっているのですが、これは沖縄県庁本庁と話をする必要があるので、なかなか話が進みません。しかし、そんな悠長なことは言っていられません。シェルターは早急に必要ではないかと思います。
つづいて、核戦略についてお話しします。戦後の国際政治では、戦勝5か国が国連安保理の常任理事国をやって、NPT体制の下で核兵器をもっていいということになっています。今ではとてもそうは言えませんが、戦後秩序の初期には、ロシアや中国を含むP5がまともな国ということになっていました。
これ以外に核を持っているのは、イランと北朝鮮とパキスタンとインドと、自分では言いませんがイスラエルです。
今回のウクライナ戦争の衝撃的事件は、プーチン大統領が、核の恫喝を行ったことです。攻め込まれたら使うぞというのが核兵器なのです。究極の防御兵器です。ですから通常兵力で劣勢な方が先制使用する可能性が高い。冷戦中はNATOの方が先に使うといわれたものです。
冷戦が終わってロシアの国力が衰退し、NATOとロシアの立場がひっくり返りまして、ロシアは「NATOが攻撃してきたら先に核を撃つぞ」と言い始めました。しかも、NATOと違ってかなり早い段階で戦術核を使うと言っていたのです。ロシア人は、「エスカレート・トゥ・ディエスカレート」と言います。核を使用すればロシアの覚悟が分かって紛争が鎮まるという理屈ですが、ずいぶん、手前味噌な理屈です。
それでも、NATOの方からロシアに攻め込むことはないので、あまり問題にされませんでした。しかし、今回、プーチンは、ウクライナに攻め込んで「核を使うぞ」と言い始めたので、西側諸国は驚いているわけです。「それでは鉄砲強盗と一緒ではないか」という話になるわけです。
アメリカは、核戦略については、すごく真面目な国なので、核兵器国と事を構えるのは非常に慎重です。戦略核という水爆をたくさん持っている国と戦争になったら、米国とその同盟国は地上から消えます。日本もそうです。だからアメリカはすごく慎重になります。日本の私たちは関係ないと思っているかもしれませんけれども、ロシアが本格的な核戦争に進みそうになったら、アメリカはすぐに東京に電話してきます。「日本にもロシアの水爆が落ちるぞ」となるわけです。ロシアは、水爆を米本土だけではなく、米国の同盟国にも撃つので、当然、日本もやられます。核については米国と同盟国とは運命共同体ですから、米国は核についてはすごく慎重なのです。ですから、ゼレンスキー大統領にはかわいそうなのですけれども、絶対にロシア国内に戦火を広げるな、ロシアを刺激しすぎるなという戦争をさせられているわけです。
私たちは、プーチンと同じことをもし習近平が台湾有事でやったらどうなるのかという話を真剣に考えておく必要があります。論理的には、通常兵力は習近平の中国の方が量的に強大なのですから、米国の方が核を先制的に使うといって抑止力を上げるという話にならないといけないのですが、逆に、習近平の方からリスクを取って「自衛隊は出てくるな、自衛隊に米軍の基地を使わせるな、やったら核で撃つぞ」と言ってくるかもしれません。
そうなったらどうするんだという問題が急に現実味を帯びてきました。戦術核には爆発力の小さいものがあります。広島の原爆の半分、3分の1程度の小さな核があります。逆に、破壊力のものすごく大きな通常爆弾もあります。マザー・オブ・オール・ボムというものですけれども、気化爆弾で下にあるものは一挙に空気圧でぺちゃんこにする爆弾があります。最小出力の核兵器の破壊力は、実はこれとあまり変わらないのです。ただし、核兵器は放射能が出るので、汚い爆弾ですが。永田町に落ちたら新宿ぐらいまでが吹き飛ぶくらいの核兵器です。
小さな戦術核は、大きな通常の爆弾と変わらないではないと思うと、逆に効率的で使い勝手がいいなと思う軍人や指導者もいるわけです。都心に落とすと10万人死にますけれども、ウクライナ軍の基地しかなくて、周りは誰もいないようなところにボーンと落としてしまったら、コラテラルな人的被害を避けつつ、戦局を一気に有利にできると考えても不思議はありません。最近、旗色がどんどん悪くなっているプーチン大統領が、決定的な敗戦を避けるために、そう考えるのではないかというのが最近話題になっています。
同様なことを習近平がやったらどうするのかということです。アメリカは日本に核の傘をかけてくれていますし、米軍を前に出して日本に駐留させています。これは同盟国防衛の最高度のコミットメントです。米軍をその国に出すというのは、「米兵が命を懸けてその国を守る」という意味です。日本はそのクラスの同盟国に入っているのです。前方展開と駐留をやってもらっているのはNATO、日本、韓国だけです。
米軍は、同僚を殺されたら、絶対に殺り返します。仲間を殺されたら殺し返すのです。真珠湾攻撃に参加していた軍艦は全部沈められました。戦争が終わった後も、しつこく全部集めて沈めたので、よほど真珠湾攻撃が頭に来ていたのだと思うのです。米兵を殺せば米議会も世論も激高します。絶対に報復するので、これが最大限の安全保障の担保になります。
では自衛隊しかいない基地に戦術核を落とすと恫喝されたら日本はどうするのか、となるわけです。敵の戦術核に対して米国が必ず戦術核で対抗するという核戦略はありません。戦術核はしょせん戦術核です。戦争は勝てばいいのです。戦術核を使われても、通常兵力で優勢だったら引き続き通常兵力で敵を押し返します。
では、核を使ったら核で報復するというのは嘘なのか、それでは抑止が効かないではないかと、日本やドイツのような前線の同盟国は考えます。これが核抑止力の信頼性の保証の問題になります。核問題とは、その半分は、実は核兵器を持っている同盟国と持っていない同盟国同士の間の心理的な保証の問題、信頼関係の問題なのです。
日本の核戦略をどうするかが重要なのですが、残念ながら、戦後75年間、日本の核戦略は空っぽでした。官僚レベルの勉強会は米国とやっていますが、戦後、核抑止力の問題が政治レベルに上がったことはありません。
先般、安倍総理が「核の共有の問題を検討するべきだ」とおっしゃいました。勇気あるご発言だと思います。これはNATOが実際にやっていることです。冷戦中、赤軍の戦車が大挙して西欧側に入ってくるときに備えて、アメリカは対抗上、1950年代に核兵器を大量に西ドイツ(当時)に持ち込んだのです。ドイツからすれば、核兵器の自国導入は仕方ないにしても、「勝手に撃つな」とか、「撃つときは自分にも撃たせろ」という意見が出てくるのは当然です。核の戦場になるのはドイツですから。こうしてNATO核の仕組みが発展していきました。
ところが、日本は「核の話はアメリカにお任せします」といって、非核三原則を掲げて来たので、米国からすると、「突然、核の問題に口を出すな」言うなという雰囲気になるわけです。また、核共有は、政治的に難しいだけではなく、技術的にもすごく難しいので、そんな簡単にできません。
しかし、核共有一歩手前の核持ち込みについては、そろそろ真剣に考えないといけません。現在、米国が実用可能な戦術核としては、F35に積んで撃つB61とトライデント戦略核用ミサイル弾頭だけを戦術核に入れ替えたものがあります。これを日本に持ってくる軍事的な意味があるかというと、よく分からないのです。日本はNATOのような大陸戦に備える必要がありません。敵の戦車が大挙して攻めてくるわけでもないので、B61をばらばらと空中から落とすような作戦は必要ありません。トライデントは、撃たれる方からすれば、水爆を積んでいるのか、戦術核を積んでいるのかわからないので、核兵器国相手には使えない。相手が戦略核で反撃してくると困るからです。
今、アメリカが作ろうとしているのは地上配備の中距離ミサイルです。これは核・非核両用になると思います。これを日本に持ってくると、中国も北朝鮮も怖がりますよ。中距離なので、北東アジアの戦域に持ってこないと意味がありません。地上配備なのでどこかに置かないといけないのです。同盟国は日、韓、フィリピンだけですから、どこに置くかという話に当然なるわけです。
日本はこれから国産の中距離ミサイルを増やすので、持ち込んでもらっても通常弾頭なら構わないのですが、核弾頭付きの地上発射型中距離ミサイルを持ち込むとなると、どこに持ち込むかが大変です。核兵器はお互いを狙い合うので、かえって絶対に撃ってはいけないという相互抑止が成立するのですが、そうなると緊張は高まります。恐らく持ち込み先の地元の説得が大変なことになります。
また、地上配備型の核ミサイルを持ち込まれると、日本本土の中から撃つわけです。なので「勝手に撃つな」とか、「いつ撃つのか」という話が日米まで始まります。核協議が始まるのです。韓国の方が先にやる可能性があります。韓国は核に対するアレルギーが全くありません。むしろ核兵器を持ちたい国です。北朝鮮が核を持っているから自分も持ちたいのです。韓国に米国の核兵器を持ち込まれると、米韓同盟が先に核化する可能性があるのです。すると日本が置いていかれてしまいます。台湾有事になった時、習近平から見れば「核のある韓国は撃てない。撃つなら非核のままの日本が先ではないか」と思う可能性があります。核ミサイルの持ち込みの話は、真剣に考えていく必要があります。
本当はかつての海洋配備核トマホークのような潜水艦配備の中距離核ミサイルが一番いいのですが、今はもうありません。管理が難しいので米海軍も復活を嫌がりますし、バイデン大統領は「やらない」と言ってしまったのです。これは潜水艦に積んで給油や休憩の際に日本の港に持ってくるだけで、撃つときは沖から撃ちますから、日本は核兵器使用に関する協議を受けません。潜水艦は日本に来て油を入れるだけなのです。これは「持ち込み」といってもしょせん寄港レベルなので、本当の意味での核持ち込みにはなりません。
私などは、海洋核中距離ミサイルを復活してもらって、日本近海を遊弋してもらったらいいと思うのですが、米国は「それはやらない」と言っています。日本としては、海洋核中距離ミサイルの復活を米国政府に訴えるべきだと思います。
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