2017年10月17日開催

パネルディスカッション

国際情勢はどうなるか「中国ビジネスの「傾向と対策」」

パネリスト
國分 良成氏 防衛大学校 学校長
川﨑 研一氏 政策研究大学院大学 特任教授
古屋 明氏 伊藤忠中国総合研究所 顧問
吉岡 桂子氏 朝日新聞 編集委員
コーディネーター
櫨(はじ) 浩一

文字サイズ

2017年10月17日「中国のこれからと国際情勢」をテーマにニッセイ基礎研シンポジウムを開催しました。
 
基調講演では防衛大学校 学校長 國分 良成氏をお招きして「中国習体制の今後と東アジア」をテーマに講演頂きました。
 
パネルディスカッションでは「国際情勢はどうなるか」をテーマに活発な議論を行っていただきました。

← 前ページ『アジア太平洋EPAの経済効果』

3——中国ビジネスの「傾向と対策」



■古屋
古屋と言います。

これからお話しすることは、中国の現場での実感や見聞に基づいたことが中心になります。レジュメはご覧になればお分かりになると思いますので、すこし触れる程度にします。

先ほど國分先生の非常に高邁な中国論を拝聴した後ですから、なかなか十分な話はできませんが、よろしくお願いします。
3—1.長テーブルに象徴されるもの 
習近平氏の権力が非常に強くなったという話をよく聞きます。中南海は指導部が執務をする場所ですが、その中南海で政治局常務委員会議が開かれますが、その時の会議テーブルの形が習氏になってから変わったという話です。

この話は何人か複数の中国の方から聞きました。習氏は、従来丸いテーブルだったものを長テーブルに替えたようです。周知の通り中国共産党では序列が非常に重んじられています。丸いテーブルは、中華料理のテーブルのようなもので、和気あいあいと談笑するにはうってつけです。丸テーブルは序列を余り感じさせません。毛沢東時代は長テーブルが使われていましたが、鄧小平氏になってから開放的な丸テーブルに変わったそうです。その後、江沢民氏、胡錦濤氏もずっと丸テーブルを採用してきました。ところが、習氏になってから長テーブルに変えたそうです。習氏は長テーブルの辺の短いところに座り両サイドに3人ずつ座るという形です。

知人の中国人が言うには、習氏は会議の中で中国語で「看斉」(オレに従え、という意味)と言って会議を進めるようです。会議の場は非常に張り詰めた雰囲気になり常務委員の皆さんはなかなか虚心に意見を述べることができなくなる。

本当かどうか私は見ていませんので分かりませんが、習氏の権力がそれだけ強くなっていることを示す象徴的な事例としてお聞きください。私自身は、この話は有り得るのかなと思います。  
3—2.政治の影響を受ける中国ビジネス 
習氏の権力が非常に強くなって、ビジネスがやりにくくなっているという話をよく聞きます。「政治とビジネス」が私のテーマですが、中国は政治が優先する国家です。ほとんど政治が全ての国です。ですから、ビジネスの現場にすごく政治の影が忍び込んできます。

中国では政治を司るお役人との関係なくしてビジネスは前に進みません。日本やアメリカのような国であれば、ビジネスはビジネスとして自由にやれば良いのですが、中国ではそうはいきません。

例えて言えば、中国では政治が上位にあって、経済、社会がその下にぶら下がっているようなものです。中国の経済は政治の「従属変数」だということです。政治の動向が経済に影響を与えるのです。この辺が、中国の政治と経済の関係で一番特徴的なことかと思います。ですから、ビジネスに対する政治の影響がすごく強いわけです。

特に、今は習氏が反腐敗闘争をやっています。始めて4年位経つのですが、この反腐敗闘争でビジネスの現場が大変なことになっています。まず「不作為」といって役人が働かない状況が生じています。サボタージュですね。役人の多くが、不正や贈収賄に関わっているようですから、自分がいつ首を切られるか分からないので、戦々恐々として仕事も手に付かないという状況が全国的にまん延しているようです。それともう一つ、役人の「面従腹背」という風潮も最近指摘されています。

われわれ企業現場にいる人間にとってみれば、こういう仕事をしない役人や上司との折り合いが良くない役人がいると、国の重要な政策やプロジェクトが進まない。お役所へ行くと担当者、責任者がいないということがよくあります。どうしたと尋ねると、「もう替わった、辞めた」という返事が返ってきます。「では代わりの人はいますか」と聞くと、「いや、それはまだ決まっていない」というようなことで、お役所、組織が体を成していない。要するに権力闘争や反腐敗闘争で行政が相当停滞しているのです。当然政治空白も生まれていると思われます。政治空白が生まれているから行政が停滞する。それが結果的にビジネスの現場にも影響を与えるということです。要するに経済政策や景気対策など我々ビジネスをやる人間に必要な施策が十分に行われず、後手後手になっているのです。公共事業は半分以上が停滞していると知人の中国人は語っています。  
3—3.なぜ権力闘争が起きるのか 
中国でなぜ権力闘争が起きるのかと申し上げると、これには二つの理由があると思います。一つは文化的な背景です。昔から、中国人は「三人寄れば内ゲバが始まる」とよくいわれています。日本人であれば、「三人寄れば文殊の知恵」とか、「三本の矢」とか肯定的に捉える側面がありますが、中国人は、なかなか協調し合わない、団結しない。こうしたDNAが権力闘争の背景にあるのではないかと思います。

もう一つは、指導者を民主的に選ぶ選挙がないということです。選挙がないから指導者を権力闘争で決めるしかないということですね。しかも権力闘争で決めてもそれで終わりということにはならない。際限がないのです。権力闘争に負けた方は長く恨みを持ちます。選挙だったら恨みっこなしでノーサイドということになりますが、そうではないのです。ですから今度、24日に党大会が終わって25日に1中全会が開かれて、人事が決まりますが、決まった途端に恐らくまた新たな権力闘争が始まるのでしょう。

まさに「怨念の循環過程」に入っていく。中国の政治というのは、いつも権力闘争をやっているのです。毎日が「内戦」だと理解したほうがよいかもしれません。

これを、尊敬するある中国問題専門家が「永遠に終了のゴングが鳴らないボクシングの試合のようなものだ」と言っています。「終わることのないモグラたたきをずっとやっているようなもの」とも言っております。繰り返しになりますが、常態化している権力闘争は政治空白を生み、行政の遅れをもたらし、その結果、不作為や面従腹背の役人が生まれ公共事業などのプロジェクトが進まないということに繋がっていくのです。早くこうした悪循環を断たねばなりません。

われわれにとって中国市場は、非常に魅力的ですが、もっと大事なことは中国で安定的に事業が営めることです。「市場に魅力がある」ということよりも「市場の安定」のほうがビジネスにとってより大事であると思います。
3—4.習近平氏の権力強化とビジネスの影響 
もう一つ、申し上げたいことがあります。中国には「カウンター」がない、ということです。異なる意見や異なる意見を吐く人間の存在を許さない、多様性が乏しい社会だという点です。

政治制度が一党独裁ですから、野党も議会もありません。それに政府をチェック、監視するマスコミも存在しません。選挙もないので有権者もいない。異見、異論を容認しない社会は危なっかしい。社会全体が単色、ワンカラーです。

そうすると、間違った政策が行われて不幸な結果が出てしまってもその責任を誰が取るのかというと、誰も取らない。共産党は無謬ですから、そもそも間違いを犯す存在ではない。結局、国民や企業にその災禍が及ぶことになります。習氏の権力が強くなると、そういう傾向がますます強くなっていくのではないかと危惧します。

國分先生も触れておられましたが、特に最近、企業に対して政治の介入が多くなってきました。例えば、技術移転をしなさい、情報を出しなさい、という要請があると聞きます。中国は2025年までに製造強国を目指しています。「中国製造2025」がそれです。この旗印の下、今、「創新技術」と称して独自に技術開発を進めていますが、海外からの導入も積極的に行っています。

春ごろから、国有企業やその他の中小企業、外資企業の中に共産党委員会がつくられて、企業の重要な政策や人事などに党が介入してくるという事例が増えていると聞きます。既に日本の企業の中にも影響を受けているところがあります。日本企業の方は、そういう影響を受けていてもなかなか仰らないから分からないのですが、外資に対しても、中国政府のそういう意向、要請といったものが強まってきているようです。

習氏の権力が強くなって改革が進んで、われわれのビジネス環境が良くなる、好転するということであれば大歓迎ですが、現実はそうでもないようです。
■櫨
古屋様、どうもありがとうございました。それでは最後に吉岡様から「『一帯一路』と国際秩序の行方」というテーマでお話をお伺いしたいと思います。よろしくお願いいたします。
 

関連ページ

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ページTopへ戻る