2015年10月22日開催

基調講演

「労働力減少と企業」中編 労働力人口の減少【人手不足時代の企業経営】

講師 樋口 美雄 氏

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4——女性就業率の推移

男性の就業率が25~35歳でもこの分だけ下がりました。グリーンの線は失業率で、人口に占める失業者の割合を見ると上がっています。また、非労働力、仕事もしていないし職探しもしていないというのが赤い線で、これが上がってきていて、今この年齢層でも人口の6%ぐらいになっていると言えそうです。まさに中年のフリーターが増えてきていると言われているのはここです。

そういった人たちに対して、ヨーロッパではいろいろな社会参加を促してきました。そして、いろいろな対策・施策も取られてきました。こういった人に対して、能力開発から採用、そして就業までマンツーマンの支援を、例えばNPOやソーシャル・ビジネスの人たちがやっているのがイギリスやヨーロッパの国々では見られます。

仕事から離れてしまうと、どうしても無業が継続しやすいことから、そういった人たちにいち早く寄り添って、伴走型のアドバイスをしていく。1年間は教育訓練を進めながら、一方において、これを就業に結び付けていく。

例えばロンドンのダブルデッカーのバスは、市が運営しているわけではありません。委託です。民間企業やNPOに委託するのですが、私の知っているNPOも、今まで1年間、長期に無業だった人を受け入れて1年間いろいろなトレーニングをします。朝の生活を正すところからやります。

そして1年たって免許を取って、今度はダブルデッカーの運転手にソーシャル・ビジネスが直接採用し、そこで働いてもらうということを行ってきました。まさにインクルージョンという形で、社会参加をどう進めていくかという形でも、そういった取り組みが行われています。

日本でも、やはりマンツーマンのやり方で、中には有期雇用でいいから採用してもらって、その人たちの能力開発を国が支援しながら、ジョブホッピングしていく。その会社で正社員に転換していくというような支援の在り方も既に検討していますし、実行されていますが、そういうものを強化していくことも必要ではないかと思います。

その一方、働く人が増えているのが女性です。女性の働いている人たちの比率、25~34歳。35~44歳は、ここのところずっと横ばいだったのですが、2010年以降を見てみますと、上がるようになってきました。ただし、未婚のまま仕事を続けるという人たちがかなり増えてきていて、小さい子どもを持ちながら継続雇用をしている人たちの比率はどうかということを見ると、必ずしも大きく改善していないということが出てきます。

第1子出産前後の妻の就業経歴がどう変わったか、幾つかのタイプに分けています。妊娠前から無職で、子どもを産んだ後も無職、ずっと無職を続けている人たちは、明らかに、1985~1989年に第1子を産んだ人たちに比べて減ってきています。多くの女性が、少なくとも妊娠前は仕事をしている人たちが増えているということです。

ところが、出産で退職した人たちも、また増えている。育児休業制度がこれほど充実してきているのに、どうして辞める人が増えているのか、政府が言っているのと、どうも違うではないかということが気になります。

育児休業の取得率が80%、90%という数字をよく見かけますが、これは、分母が子どもを産んで復職した人、あるいは継続就業している人、その中で何パーセントが育児休業を取ったかということです。それが90%ということは、実は取らないで働き続けた人が10%ですから、子どもを産んで仕事を辞めてしまう人は、分母にも分子にも入ってこないという数字になっているのです。

それで見ますと、就業継続率が下の二つを足したもので、第1子を1985~1989年に産んだ層が24%、2005~2009年に産んだ層は27%で、若干上がりました。育休を取って継続就業する人たちが増えたということで、育休を利用しないまま継続就業をする人は減っています。何かおかしいと私も思いまして、調べました。その結果分かったことは、妊娠前にその人がどういう仕事に就いていたかによって、継続就業の率が大きく違うということです。

正規の職員・社員であった人に限定して見ますと、1985~1989年に生んだ人に比べて2005~2009年では、40%が52%になっていて、今、仕事を続ける人は過半数になっています。われわれは、いつもこれを考えていたのだなと思います。企業によっては、大手企業ではこれが80%や90%に上がっています。

ところが、パートなどの育休の権利を持っていない人たちが、かなり多い。この人たちで見ると、横ばいか、むしろ下がったということで、この二つを合計してしまうと、先ほどのような数字になる。パートの比率が上がったということは、育休できない人たちの比率が上がったということで、ここでも非正規問題がある。

ただ、パートの人たちが育休を利用できるようにするかどうかについては、企業でも賛否両論があるのではないかと思いますので、この点をどう考えていったらよいかが問題になってきます。

さらには、子どもを産んで一度退職した人たちがいつ、どのタイミングで再就職しているのかを見ています。これも私どもで行っている調査で、同じ個人をずっと追跡調査をするパネル調査を行っています。1993年から20年強、同じ人を調査してきました。当時25歳だった人に45歳の今まで、毎年毎年この質問に答えてもらっています。

その結果分かってきたことは、1960年代生まれの一度辞めた人が復職する比率がグリーンの線でした。ところが1970~1980年代生まれの人になりますと、1~2年の離職期間で戻ってくる人たちが増えている。こちらまでいくと、実は継続就業する人の方が多く、必ずしも60年代の方が低いわけではないのですが、少なくとも短期間のうちに離職を解消して職場に戻る。

ただし、一度辞めてから。給与で見ると、これは相当のダウンになります。子どもを保育所に預けてといいながらも、この大部分はパート就業という形で戻っていっているということがあり、継続就業をいかに進めていくかが重要なのではないかと思います。

その中で指摘したのがヒラリー・クリントン、そしてラガルドさんの提言だったわけです。日本も、女性が男性並みに働けば、今の潜在成長率の低下を回避することができる、GDPは16%上がると言っています。

あるいは、IMFでは、G7並みに日本の女性が働くようになれば、1人当たりGDPを4%、北欧並みに働けば8%上げることができる。どうやって労働力の減少を食い止めるのか、女性労働力率をヨーロッパ並み、北欧並みに高めていくことが、日本全体の成長率の根源になると言ったのです。

自らやってみようということで、その研究を進めているのですが、もう一つ、女性が仕事を続けるとなったときに、さらに少子化が進展していくのではないかという懸念があります。

国単位で見たときに、女性の労働力率を15~64歳でとった場合に、何パーセントの人が働いているのでしょうか。そして出生率です。一つの点が一つの国を示しています。右側の図で、国際比較で見ると右下がりになっている。右下がりというのは、多くの女性が働いているという中において、出生率は低いということです。これは、子どもを取るのか仕事を取るのかという二律背反になります。

だとすれば、女性が働きに出れば、GDPは短期的には上がるかもしれないけれども、もしかすると長期的には少子化がさらに進展する可能性があるのではないかという懸念が持たれます。

ところが、これは1970年代のことでした。1985年、2000年代以降になると、同じグラフに同じ国を取っても変わってきています。この場合は右肩上がりですから、多くの女性が働いている国の方が、出生率も高いという傾向が出てきている。ただし、何もやらなくてもこうなったわけではなく、それなりに働き方改革を各国が進めてきたということがあります。

従来、仕事を取るのか子どもを取るのかというものであったのが、今やこういった国においては、仕事も取れるし子どもも取れるというように、二律背反から両立可能な働き方への改革が進んできたということになります。

一方、どちらとも進んでない国ですが、それが多いのは南欧だといわれます。例えばギリシャやスペイン、イタリア、こう言うと財政の話をしているのではないかと言われることがあるのですが、その三つの国がここにあります。要は、仕事と子育てというような性別役割分担が割とはっきりしていて、男女の賃金の差が大きい国において、これが起こっているということです。

もう一つ、出生率の低い国が東アジアです。南欧、地中海文化圏と並ぶ東アジア文化圏で、日本、韓国、そして台湾、シンガポールといった国です。シンガポールはちょっと違うのですが、日本、韓国においては、女性が働いている比率が低く、性別役割分担がはっきりしている。これを右上に位置する国のように持っていくために何が必要かを考えると、やはり働き方改革、ワークライフバランスの推進で、これが男女を問わず必要となってくるということです。

 女性の継続就業、就労促進によって少子化が懸念されたわけですが、両立のための環境整備を進めることによって、少子化に歯止めがかかる、その結果、両方とも持続可能な成長に持っていくことができるということですが、これはマクロの話です。

 女性の2003年と2013年における、働いている人たちの比率(雇用就業率)、年齢カーブでいわゆるM字と言われるものです。点線が2003年、実線が2013年で、10年間でこれだけ働く女性が増えたということになります。

 気になるのは、もう一つの正規雇用就業率の線です。実は雇用就業率は、正規も非正規も全部込みの数字でした。ところが、正規に限定したらどれだけ働いているかを見ると、確かに上昇していますが、その上昇幅は非常に小さい。上昇したほとんどは、実は非正規だったということが分かります。

「労働力減少と企業」後編 非正規雇用の増加と無限定正社員【人手不足時代の企業経営】
 

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