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2025年11月04日

パワーカップル世帯の動向(2)家庭と働き方~DINKS・子育て・ポスト子育て、制度と夫婦協働が支える

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~増加するパワーカップル、その素顔は?

前稿1では、夫婦ともに年収700万円以上のパワーカップル世帯が2024年で45万世帯に達し、過去10年で約2倍に増加していることを示した。また、その約7割は子どものいる世帯(パワーファミリー)であり、DEWKS(Double Employed With Kids)が主流であることも明らかになった。

しかし、「パワーカップル」と一言で括っても、その中身は一様ではない。乳幼児を育てる30代夫婦もいれば、独立した子を持つ50代夫婦もいる。あるいは、DINKS(Double Income No Kids)として人生を設計する夫婦もいるだろう。世帯数の増加傾向は統計で捉えられても、その実像、つまり、どのような世代が、どのような仕事に就き、どこに住み、どのような暮らしを営んでいるのかは、まだ十分に見えていない。

本稿では、ニッセイ基礎研究所の調査2を用いて、パワーカップルの年代やライフステージ、扶養している子どもの数といった家庭の状況に加え、職業や勤務先規模など働き方の特徴を詳しく見ていく。夫婦双方が就業を続けながら家庭を築く世帯が増える中で、どのようなライフステージで、どのような働き方を選んでいるのか。その実像を通じて、共働き世帯の新たな姿を明らかにしたい。

ただし、データの制約上、配偶者の年収条件を設定できないため、本稿では、既婚女性について、専業主婦と共働きの妻を年収階級別(300万円未満、300~700万円未満、700万円以上3)に比較することで、パワーカップルの特徴を浮き彫りにする。前稿で示した通り、夫婦の年収はおおむね比例関係にあり、妻の年収が700万円以上の世帯では、約7割で夫の年収も700万円以上である。したがって、妻の年収700万円以上の層に注目することで、パワーカップルの傾向を捉えられると考えられる。
 
1 久我尚子「パワーカップル世帯の動向-2024年で45万世帯に増加、うち7割は子のいるパワーファミリー」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2025/3/24)
2 ニッセイ基礎研究所「生命保険マーケット調査」、調査時期は2025年12月11日~12月26日、調査対象は20~69歳、インターネット調査、有効回答数7,359(本稿の分析対象は1,761)、株式会社日経リサーチのモニターを利用。
3 以下、便宜上、共働きの妻で年収700万円以上を主に「パワーカップル」層として見ていく。

2――年代や家庭の状況

2――年代や家庭の状況~小中学生の子育て世帯が中心、妻が世帯主も2割

1|年代~パワーカップルの3分の2は40・50歳代のキャリアの成熟期
まず、既婚女性の年代分布を見ると、専業主婦や共働きの妻で年収300万円未満の層では50歳以上が6割を超える(専業主婦63.4%、年収300万円未満61.2%)(図表1)。
図表1 既婚女性の年代 一方、年収300万円以上の共働きでは比較的若い年代が多い。特に年収300~700万円未満では30・40歳代が6割(60.2%)を占めている。

これに対し、パワーカップルが含まれる年収700万円以上の層では、40歳代(35.1%)と50歳代(31.1%)で合わせて3分の2(66.2%)を占め、年齢層はやや高まる。

この背景には、年収300~700万円未満の層では、育児休業制度などを活用しながら正規雇用を継続する比較的若い世代が多いのに対し、年収700万円以上では、一定のキャリアを積んだ管理職層などが中心となることがあげられる。また、専業主婦や年収300万円未満に50歳以上が多いのは、出産や子育てを機に離職したり、パートタイムとして再就職した女性が多いためと考えられる。
2|ライフステージ~DINKS2割強、小中学生中心の子育て層4割強、ポスト子育て層3割
次にライフステージを見ると、年齢層の高い専業主婦や、共働きで年収300万円未満の層では、第一子独立以降が4割を超える(専業主婦40.8%、年収300万円未満45.4%)(図表2)。
図表2 既婚女性のライフステージ
一方で、年収300万円以上の層では「結婚」や子育て期が多い。前に見た通り、最も若い層であった年収300~700万円未満では「結婚」(36.5%)や「第一子誕生」(11.0%)、「第一子小学校入学」(13.0%)が多く、第一子誕生から第一子高校入学までの子育て世帯は35.9%を占める。

これに対し、パワーカップルが含まれる年収700万円以上の層では、子育て世帯が44.6%を占めて最も多い。特に「第一子小学校入学」(16.2%)と「第一子中学校入学」(12.2%)が全体と比べて多く、小・中学生の子を持つ世帯が中心となっている。この背景には、年収700万円以上に到達するには一定のキャリアを積む必要があり、その時期が子育て期と重なることがあげられる。

さらに、年収700万円以上層の内訳を詳しく見ると、「結婚」(23.0%)が約4分の1を占め、子どものいないDINKS世帯も一定数存在する。一方、「第一子大学生」(9.5%)や第一子独立以降(23.0%)の世帯も見られ、子育てを終えた層も約3割を占める。

つまり、パワーカップルは大きく3つのタイプに分けられる。
 
  • DINKS層(結婚期、子育て前期):約4分の1(23.0%)
    ― キャリアを築きながら、自己実現や趣味に時間とお金を使う自由度の高い層。
     
  • 子育て層(小中学生中心):約4割(44.6%)=パワーファミリー
    ― キャリアの発展期と子育て期が重なり、仕事と育児の両立に奮闘する層。
     
  • ポスト子育て層(子が大学生・独立以降):約3割(32.5%)
    ― 子育てが一段落し、時間的・経済的余裕を活かして、キャリアと暮らしの充実を図る層。
図表3 パワーカップルの主なタイプ
このように、パワーカップルは「キャリアの発展期にあり、子育てと仕事を両立する層」を中心に、その前後のライフステージ(DINKS層、ポスト子育て層)まで分布している。これは前述の年代分布とも整合的で、キャリアの段階によって、家庭が直面する子育てや生活のステージが異なる様子がうかがえる。

なお、専業主婦や年収300万円未満の層で第一子独立以降が多いのは、前述の通り年齢層が高いことに加え、子育てが一段落した後にパートタイムなどで働く女性が多いためと考えられる。
3|扶養子ども数~パワーカップルは3人以上の多子世帯が多い傾向
子と同居している既婚女性に対して、扶養している子の人数を尋ねた結果では、ライフステージで第一子独立以降が多い専業主婦や、共働きで年収300万円未満の層では「0人」が2割を超えて比較的多い(専業主婦22.2%、年収300万円未満25.3%)(図表4)。
図表4 既婚女性の扶養子ども数(子と同居している場合) 一方で、子育て期の多い年収300万円以上の層では、1人以上が約9割を占める(年収300~700万円未満88.9%、700万円以上90.0%)。なお、子の人数は、それぞれ「2人」が最も多く約4割を占める(39.9%、37.5%)。

注目すべきは、パワーカップルが含まれる年収700万円以上の層では、3人以上(20.0%)の多子世帯が全体(11.0%)の約2倍に上る点である。もっとも、専業主婦や年収300万円未満層では、すでに子が独立している世帯が多く、実際の子の人数よりも少なく計上されている可能性がある。また、年収700万円以上層はサンプル数が限られるため、多子世帯の割合は傾向値として見ることが妥当だ。

とはいえ、パワーカップルに多子世帯が比較的多い背景には、年齢的な要因に加え、経済的なゆとりや、大企業勤務が多いこと(後述)による育児支援制度の充実、さらに夫婦の協力や外部サービスを活用しながら子育てとキャリアを両立できる環境があることが考えられる。また、子どもの人数が多いからこそ、夫婦ともに働き続ける必要性が高まるという側面もあるだろう。
4|世帯主との関係~パワーカップルでは妻が世帯主の世帯が2割
世帯主との関係を見ると、いずれの層でも「世帯主の配偶者」が多い(全体92.7%)(図表5)。一方で、妻の年収が上がるにつれて、その割合は低下し、「世帯主本人」の割合が高まる。「世帯主本人」の割合は、年収300~700万円未満では12.6%、パワーカップルが含まれる700万円以上では21.6%に達する。
図表5 既婚女性の世帯主との関係 つまり、パワーカップルの約2割では妻が世帯主であり、経済的にも家庭の中心的役割を担っている様子がうかがえる。

この背景には、妻の収入が夫と同等かそれ以上である世帯が一定数存在することに加え、家計や生活の意思決定を夫婦で分かち合うケースが増えていることが考えられる。世帯主は必ずしも収入だけで決まるわけではないが、妻が世帯主である割合の高さは、パワーカップルにおける夫婦関係を示す一つの特徴と言えるだろう。

3――働き方の特徴

3――働き方の特徴~制度に支えられた継続と、夫婦で築くキャリアの多様性

1|本人の職業~正規雇用者が中心、50・60歳代は専門性・資産を活かした働き方も
本人の職業を見ると、共働きの年収300万円未満層では「パート・アルバイト」(39.5%)が約4割を占める。一方、300~700万円未満では「正社員・正職員」(60.5%)や「公務員」(7.3%)が多く、正規雇用者が約7割(合計67.8%)にのぼる(図表6(a))。

パワーカップルが含まれる年収700万円以上では、正規雇用者は半数(50.0%)にとどまるものの、「公務員」(12.2%)の割合が年収300~700万円未満(7.3%)を上回る。
図表6 既婚女性と配偶者の職業
また、雇用者と役員に勤務先の企業規模を尋ねた結果では、年収が高いほど大企業が増える傾向があり、年収700万円以上層では半数(50.0%)が従業員規模1,000人以上の企業に勤務している(図表7(a))。
図表7 既婚女性と配偶者の勤め先規模(民間企業雇用者と役員)
つまり、パワーカップルの妻は、雇用者の場合、多くが大企業や公務員といった制度環境の整った職場に属している。こうした職場では、賃金水準の高さに加え、育児休業制度や時短勤務、フレックスタイムなど仕事と子育ての両立を支援する仕組みが充実しており、キャリアを継続する上での重要な基盤が整備されている。

一方で、年収700万円以上の層では「専業主婦・無職・その他」(21.6%)が2割を占める点も特徴的である。この層の8割以上が50歳以上、うち6割が60歳以上であり、就労日数は限られていても高報酬を得ている層が多いと見られる。具体的には、(1)民間企業の社外取締役や顧問、(2)医師や弁護士などの専門職による週数日の勤務、(3)不動産収入や金融資産の運用益、年金、講演・執筆料などの複合収入、(4)調査時点では退職しているが過去1年の収入が反映されている層、などが想定される。

前年調査でも同様の傾向が確認されており、一時的な現象ではなく、構造的な特徴と言える。

このように、50・60歳代のパワーカップル女性の一部は、子育て終了後や定年後に完全には引退せず、これまでに培った専門性や資産を活かして高収入を維持している。フルタイム勤務でないため「専業主婦」を自認しつつも、経済的には高い収入水準を保ち、ゆとりある生活を送っている。長年のキャリアと資産形成の成果が、引退後の生き方や社会との関わり方の選択肢を広げている一例と言えるだろう。
2|配偶者の職業~大企業勤務を基盤に役員や自営業など経営的キャリアを志向
配偶者の職業を見ると、全体では過半数が正規雇用者だが(55.9%)、最も年齢層の若い共働きで妻が年収300~700万円未満の層では7割を超える(74.4%)(図表6(b))。夫が雇用者や役員の場合、その勤務先規模は妻と同様に、妻の年収が高いほど大きくなる傾向がある。

一方、パワーカップルが含まれる年収700万円以上の層では、正規雇用者は6割弱(56.8%)にとどまり、役員(8.1%)や自営業・自由業(12.2%)が他層と比べて多い。つまり、パワーカップルの夫の約2割は、役員または自営業・自由業として、経営や専門性を活かした独立的な働き方をしている。

パワーカップルの夫は、妻と比べて役員や自営業・自由業の比率が高く、組織運営や事業の推進といった経営的な立場でキャリアを築く傾向がある。一方で、妻は公務員(12.2%)や「専業主婦」を自認しつつ高報酬を得ている層(21.6%)が一定割合を占め、安定性や柔軟性を重視した働き方が比較的多い。なお、妻の年収300~700万円未満層でも同様の傾向が見られ、夫と比べて職業形態がやや多様化している。

こうした構造は、夫婦がそれぞれ異なる職業リスクを持ち寄ることで、世帯全体としての経済基盤を安定させている姿を映している。同時に、依然として職業選択における性差の影響が残っているとも考えられる。こうした夫婦のキャリアの組み合わせが、意識的であれ無意識的であれ、パワーカップルの持続的な安定を支えていると言えるだろう。

4――おわりに

4――おわりに~制度環境と夫婦協働がパワーカップルを支える

本稿ではニッセイ基礎研究所の調査に基づき、パワーカップルの家庭の状況や働き方を分析した。

その結果、パワーカップルは40・50歳代のキャリア成熟期が中心で、DINKS層(約4分の1)、小中学生を育てる子育て層(約4割)、ポスト子育て層(約3割)という3つのタイプに大きく分かれることが明らかになった。多子世帯が比較的多く、約2割で妻が世帯主となるなど、従来の家族像とは異なる特徴も見られた。

働き方では、パワーカップルの女性の半数が、大企業や公務員を中心とした制度環境の整った職場で正規雇用を継続しており、これがキャリアと子育ての両立を支える基盤となっている。一方、50・60歳代では「専業主婦」を自認しつつ高報酬を得る層が約2割存在し、前年調査でも同様の傾向が見られた。長年にわたり培ったキャリアや資産が、引退後の生き方を多様にしている構造的特徴と言える。

配偶者については、夫の約2割が役員や自営業であり、妻が安定性や柔軟性を重視するのに対し、夫は経営的なキャリアを志向する傾向がある。これが意識的なリスク分散なのか、職業選択における性差の影響なのかは不明だが、夫婦で異なる強みを持ち寄る構造がうかがえる。こうした多様なキャリアの組み合わせが、世帯全体のリスク分散と持続的な安定を支えていると考えられる。

パワーカップルを支えているのは、充実した制度環境と、夫婦それぞれのキャリアを活かして家庭を運営する協働の姿勢である。若い世代ほどこうした環境と意識が整いつつあり、パワーカップルは今後も増加していくだろう。その広がりは、個人の選択肢を広げるだけでなく、経済の活性化や社会の安定化にもつながる可能性を秘めている。

次稿では、居住地や住まい、金融資産の側面から、暮らしの実像をさらに掘り下げていきたい。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年11月04日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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