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2025年06月13日

欧州保険会社が2024年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SCRの算出(内部モデルの使用状況と分散効果の状況等)-

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(5) Aegon
Aegonは欧州の保険会社ではないが、SFCRと同様なFCR(財務状況報告書)を公表しているので、その中からの情報に基づいて、報告する。

AegonのSCRの構成は、次ページの図表の通りとなっている。

AegonのグループSCR 74.66億ユーロのうち、連結会計法によるものが18.37億ユーロ(構成比は25%、以下同様)、控除合算法とOFS(その他金融機関)によるものが37.70億ユーロ(50%)、a.s.r.持分によるものが18.60億ユーロ(25%)(2023年の構成比は、それぞれ24%、49%、27%、2022年の構成比は、それぞれ46%、54%、0%)となっている。

なお、連結会計法による分散効果控除前、LAC-DT控除後のSCRの93.0%が内部モデルを使用して計算されている。

また、分散効果は1,418百万ユーロで、これによる控除率が43.6%となっている。
AegonのSCRの内訳(2024年)
Aegonは、標準式と内部モデルの使用状況について、以下のように詳細を報告している。
Structure of the Internal
また、分散効果に関して、以下の説明を行っている。

E.3.4.集計方法と分散効果の記述
ソルベンシーPIMの下で、Aegonは国単位及びリスクタイプ間の分散効果を計算する。

標準式コンポーネント内では、規定された標準式相関行列に従って分散化が決定される。

内部モデル内では、過去のデータと専門家の判断を利用して、全てのリスク要因に対して限界確率分布関数が適合している。組み合わされた全てのリスク要因の全体的な共同確率分布関数は、リスク間の依存構造を考慮に入れる。この共同分布からのサンプルをシミュレートする200万シナリオからの損失は、全体的な経験的損失分布関数を当てはめるために使用され、これから99.5%のポイントを取ることによって200年の1回の損失を導き出す。

シナリオはシナリオジェネレータと依存構造を使用して生成され、市場データと専門家の判断に基づくリスクドライバー間の依存関係(相関)が定義される。各シナリオには、金利、株式リターン、死亡率などのリスク要因の値が含まれている。

合計ネットSCR(分散効果反映後)は、自己資本における200年に1回の損失の平均によって決定される。分散はリスクタイプの独立型SCRの合計と合計ネットSCRの差として定義される。

ソルベンシーPIMの内部モデルと標準式コンポーネントの間の分散は、ソルベンシーⅡの規定に従って、統合テクニック3(IT3)を使用して計算される。

さらに、分散効果に関して、以下の説明(抜粋)も行われている。

E.3.5.内部モデルのリスク領域に対して使用される手法や前提における主要な差異の記述
市場リスク

(中略)

通貨リスクについては、ショックはAegonのポートフォリオに基づいて調整される。さらに、標準式では通貨エクスポージャー間の分散が行われないのに対し、ソルベンシー PIM では、異なる通貨へのエクスポージャー間の分散が考慮されている。

(中略)

引受けリスク
ソルベンシー PIM に基づく Aegon UK の保険契約者行動(解約)リスクは、パラメータと伝染ショックの合計だが、標準式ではパラメータと伝染ストレスの大きい方となる。さらに、ショックは Aegon UK ポートフォリオに基づいて調整されるため、標準式よりもショック規模が大きくなり、分散化前の SCR が高くなる。ソルベンシー PIM ストレスは、費用レベル、トレンド及びボラティリティストレスをカバーしているため、Aegon UK のソルベンシー PIM 費用リスクショックの合計は標準式ストレスよりも高くなる。これにより、分散化前の SCR が高くなる。

(中略)

オペレーショナルリスク
Aegon UK の場合、オペレーショナルリスクのソルベンシー PIM は標準式と次の点で異なる。

・ソルベンシーPIMは、ワークショップを使用して、経験データで補足された可能性のあるシナリオを生成する、対象分野の専門家の入力に基づいている。データは確率モデルに適合されるが、標準式は技術的準備金、保険料及び費用に基づいている。

・ソルベンシーPIMでは、オペレーショナルリスクを他のリスクタイプで分散できるが、標準式ではオペレーショナルリスクの分散はまったくできない。

(中略)

分散
ソルベンシーPIMの内部モデルと標準式コンポーネント間の分散は、統合手法3(IT3)を使用して計算される。このEIOPA規定の統合手法では、内部モデルと標準式コンポーネント間の暗黙の線形相関係数の計算方法が説明されている。この相関係数は、平方根式を使用してソルベンシー PIM SCR の合計を算出するために使用される。標準式では、相関行列を使用して、リスク・モジュール別及び全体レベルでの分散を計算する。

なお、その他の資本要件には、OFS事業体(他の金融事業体)に加えて、D&A(控除合算法)に基づく事業体(主に米国の生命保険事業体であるAegon Americas)の資本要件が含まれるが、AC(連結会計法)、OFS、D&A の各事業体の間では、分散化によるメリットはない、としている。
(6) まとめ(各社間比較)
これまでの各社の数値を、過去からの推移を含めてまとめると、次ページの図表の通りとなる。

2023年以降の数値は、2022年までの数値とはベースが異なっている会社もあるので、2022年までの数値も参考として掲載している。

各社の内部モデル適用比率の状況は、子会社の買収・売却等の事業戦略の影響を受けている要素も大きい。
分散効果控除前のSCR算出における内部モデル適用比率(S.25.02.22に基づく数値)/分散効果控除前のSCR算出における内部モデル適用比率(各社の公表ベースに基づく数値)
また、分散効果による控除率の水準については、2023年までとは異なり、2024年は各社によって算出ベースが異なっているので、単純な比較はできない。具体的には、以下の図表はQRTのS.25.02.22等からの数値に基づいて、筆者が算出した数値を掲載しているが、例えば同じソルベンシーIIに基づいているAXAとAllianzとGeneraliにおいて、記載数値の算出ベースが異なっている(税引き前か後か、連結法のみか控除合算法含みか、項目の記載順序等)ものと想定され、AXAとAllianzの2024年の(これまでと同じ方式で筆者が算出したベースの)数値は2023年までの数値とは大きく水準が異なるものとなっている。ただし、この点に関して、各社のSFCRには必ずしも説明が行われていないので、ここでは2023年までと同様な方式で筆者が算出したベースの数値に加えて、AXAとAllianzについては、2023年とほぼ同様なベースと筆者が想定する方式による数値を括弧書きで掲載している。
分散効果による控除率(S.25.02.22及びS.25.05.22に基づく数値)
(参考)USPと簡素化の使用状況
欧州大手4グループについては、USP(Undertakings Specific Parameters:会社固有パラメータ)と簡素化(Simplification)の使用状況について、SFCRのQRTsのS.25.05.22(AXA、Allianz、Generaliの場合)、S.25.02.22(Avivaの場合)において、報告されている。
1|USPの使用状況
生命保険、損害保険及び健康保険引受リスクに対しては、標準式で使用されているパラメータの代わりに、監督当局の承認を得て、会社固有のパラメータUSPを用いることができる。
欧州大手4グループのうち、以下の3グループは、USPの使用に関して明示的に記述している。

・Allianzは、UniCredit Allianz Assicurazioni S.p.Aと.Fragonard Assurance S.A.とAGA Internationalの損害保険の保険料リスクの標準偏差に対してUSPを使用している(また、USPの使用によるSCR及びMCRへの影響は1%未満であるとしている)。

・Generaliは、2022年は、Europe Assistance Group、イタリアの会社DAS(Difesa Automobilistica Sinistri)とEuro Assistance Group、TUA Assicurazioni S.p.A.及びSocieta Cattolica di Assicurazione S.p.A.のSCRの算出に、USPを使用しているとの記載があったが、2023年以降のSFCRではこの記載は削除されており、QRTsによれば、現在はUSPを使用していない。

・Avivaは、SCRの算定にUSPを使用していない。

なお、AXAについては文中に明示的な記載はないが、QRTsによれば、USPは使用していない。
2|簡素化の使用状況
Allianzは、標準式の計算におけるカウンターパーティデフォールトリスク・モジュールに簡素化を使用している。

その他の会社は、SCRの算出における簡素化は使用していない。

3―まとめ

3―まとめ

今回のレポートでは、欧州大手保険グループ各社のSFCR(含むQRTs(定量的報告テンプレート))の内容等から、SCRの算出における内部モデルの使用状況及び分散効果の状況等について報告した。

2023年から、EUのソルベンシーIIにおけるテンプレートが変更されたことにより、これまでの分析からの連続性は必ずしも確保できなくなったが、各社の内部モデルの適用状況については、今回の報告でもこれまでとほぼ同様の状況になっており、概要は把握できているものと思われる。

一方で、分散効果の状況については、2024年のQRT等における掲載数値の算出方法等が各社によって異なっているものと想定され、必ずしも十分に比較可能な数字が得られなかった。これらの記載数値についての各社による補足説明や記載方式の統一等が必要だと考えられる。

次回のレポートでは、適用されている内部モデルについて、標準式との差異を中心に報告する。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年06月13日「保険・年金フォーカス」)

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