- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 保険 >
- 欧米保険事情 >
- 欧州保険会社が2024年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SCRの算出(内部モデルの使用状況と分散効果の状況等)-
欧州保険会社が2024年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SCRの算出(内部モデルの使用状況と分散効果の状況等)-
このレポートの関連カテゴリ
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
Aegonは欧州の保険会社ではないが、SFCRと同様なFCR(財務状況報告書)を公表しているので、その中からの情報に基づいて、報告する。
AegonのSCRの構成は、次ページの図表の通りとなっている。
AegonのグループSCR 74.66億ユーロのうち、連結会計法によるものが18.37億ユーロ(構成比は25%、以下同様)、控除合算法とOFS(その他金融機関)によるものが37.70億ユーロ(50%)、a.s.r.持分によるものが18.60億ユーロ(25%)(2023年の構成比は、それぞれ24%、49%、27%、2022年の構成比は、それぞれ46%、54%、0%)となっている。
なお、連結会計法による分散効果控除前、LAC-DT控除後のSCRの93.0%が内部モデルを使用して計算されている。
また、分散効果は1,418百万ユーロで、これによる控除率が43.6%となっている。
E.3.4.集計方法と分散効果の記述
ソルベンシーPIMの下で、Aegonは国単位及びリスクタイプ間の分散効果を計算する。
標準式コンポーネント内では、規定された標準式相関行列に従って分散化が決定される。
内部モデル内では、過去のデータと専門家の判断を利用して、全てのリスク要因に対して限界確率分布関数が適合している。組み合わされた全てのリスク要因の全体的な共同確率分布関数は、リスク間の依存構造を考慮に入れる。この共同分布からのサンプルをシミュレートする200万シナリオからの損失は、全体的な経験的損失分布関数を当てはめるために使用され、これから99.5%のポイントを取ることによって200年の1回の損失を導き出す。
シナリオはシナリオジェネレータと依存構造を使用して生成され、市場データと専門家の判断に基づくリスクドライバー間の依存関係(相関)が定義される。各シナリオには、金利、株式リターン、死亡率などのリスク要因の値が含まれている。
合計ネットSCR(分散効果反映後)は、自己資本における200年に1回の損失の平均によって決定される。分散はリスクタイプの独立型SCRの合計と合計ネットSCRの差として定義される。
ソルベンシーPIMの内部モデルと標準式コンポーネントの間の分散は、ソルベンシーⅡの規定に従って、統合テクニック3(IT3)を使用して計算される。
E.3.5.内部モデルのリスク領域に対して使用される手法や前提における主要な差異の記述
市場リスク
(中略)
通貨リスクについては、ショックはAegonのポートフォリオに基づいて調整される。さらに、標準式では通貨エクスポージャー間の分散が行われないのに対し、ソルベンシー PIM では、異なる通貨へのエクスポージャー間の分散が考慮されている。
(中略)
引受けリスク
ソルベンシー PIM に基づく Aegon UK の保険契約者行動(解約)リスクは、パラメータと伝染ショックの合計だが、標準式ではパラメータと伝染ストレスの大きい方となる。さらに、ショックは Aegon UK ポートフォリオに基づいて調整されるため、標準式よりもショック規模が大きくなり、分散化前の SCR が高くなる。ソルベンシー PIM ストレスは、費用レベル、トレンド及びボラティリティストレスをカバーしているため、Aegon UK のソルベンシー PIM 費用リスクショックの合計は標準式ストレスよりも高くなる。これにより、分散化前の SCR が高くなる。
(中略)
オペレーショナルリスク
Aegon UK の場合、オペレーショナルリスクのソルベンシー PIM は標準式と次の点で異なる。
・ソルベンシーPIMは、ワークショップを使用して、経験データで補足された可能性のあるシナリオを生成する、対象分野の専門家の入力に基づいている。データは確率モデルに適合されるが、標準式は技術的準備金、保険料及び費用に基づいている。
・ソルベンシーPIMでは、オペレーショナルリスクを他のリスクタイプで分散できるが、標準式ではオペレーショナルリスクの分散はまったくできない。
(中略)
分散
ソルベンシーPIMの内部モデルと標準式コンポーネント間の分散は、統合手法3(IT3)を使用して計算される。このEIOPA規定の統合手法では、内部モデルと標準式コンポーネント間の暗黙の線形相関係数の計算方法が説明されている。この相関係数は、平方根式を使用してソルベンシー PIM SCR の合計を算出するために使用される。標準式では、相関行列を使用して、リスク・モジュール別及び全体レベルでの分散を計算する。
欧州大手4グループについては、USP(Undertakings Specific Parameters:会社固有パラメータ)と簡素化(Simplification)の使用状況について、SFCRのQRTsのS.25.05.22(AXA、Allianz、Generaliの場合)、S.25.02.22(Avivaの場合)において、報告されている。
生命保険、損害保険及び健康保険引受リスクに対しては、標準式で使用されているパラメータの代わりに、監督当局の承認を得て、会社固有のパラメータUSPを用いることができる。
欧州大手4グループのうち、以下の3グループは、USPの使用に関して明示的に記述している。
・Allianzは、UniCredit Allianz Assicurazioni S.p.Aと.Fragonard Assurance S.A.とAGA Internationalの損害保険の保険料リスクの標準偏差に対してUSPを使用している(また、USPの使用によるSCR及びMCRへの影響は1%未満であるとしている)。
・Generaliは、2022年は、Europe Assistance Group、イタリアの会社DAS(Difesa Automobilistica Sinistri)とEuro Assistance Group、TUA Assicurazioni S.p.A.及びSocieta Cattolica di Assicurazione S.p.A.のSCRの算出に、USPを使用しているとの記載があったが、2023年以降のSFCRではこの記載は削除されており、QRTsによれば、現在はUSPを使用していない。
・Avivaは、SCRの算定にUSPを使用していない。
なお、AXAについては文中に明示的な記載はないが、QRTsによれば、USPは使用していない。
Allianzは、標準式の計算におけるカウンターパーティデフォールトリスク・モジュールに簡素化を使用している。
その他の会社は、SCRの算出における簡素化は使用していない。
3―まとめ
2023年から、EUのソルベンシーIIにおけるテンプレートが変更されたことにより、これまでの分析からの連続性は必ずしも確保できなくなったが、各社の内部モデルの適用状況については、今回の報告でもこれまでとほぼ同様の状況になっており、概要は把握できているものと思われる。
一方で、分散効果の状況については、2024年のQRT等における掲載数値の算出方法等が各社によって異なっているものと想定され、必ずしも十分に比較可能な数字が得られなかった。これらの記載数値についての各社による補足説明や記載方式の統一等が必要だと考えられる。
次回のレポートでは、適用されている内部モデルについて、標準式との差異を中心に報告する。
(2025年06月13日「保険・年金フォーカス」)
このレポートの関連カテゴリ
中村 亮一のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/06/13 | 欧州保険会社が2024年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SCRの算出(内部モデルの使用状況と分散効果の状況等)- | 中村 亮一 | 保険・年金フォーカス |
2025/06/06 | 欧州保険会社が2024年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-長期保証措置と移行措置の適用状況- | 中村 亮一 | 保険・年金フォーカス |
2025/06/05 | IAIGsの指定の公表に関する最近の状況(13)-新たに1社が指定されてIAIGsは19の国・地域からの60社に- | 中村 亮一 | 保険・年金フォーカス |
2025/05/28 | 複素数について(その2)-複素数と方程式- | 中村 亮一 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年06月13日
インド消費者物価(25年5月)~5月のCPI上昇率は+2.8%、食品価格の低下が続いて6年ぶりの低水準に -
2025年06月13日
年齢制限をすり抜ける小学生たち -
2025年06月13日
欧州保険会社が2024年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SCRの算出(内部モデルの使用状況と分散効果の状況等)- -
2025年06月13日
DeepSeekに見るAIの未来 -近年のAI進化の背景とは -
2025年06月13日
株主提案による役員選任議案-フジメディア・ホールディングス
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年06月06日
News Release
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
【欧州保険会社が2024年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SCRの算出(内部モデルの使用状況と分散効果の状況等)-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
欧州保険会社が2024年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SCRの算出(内部モデルの使用状況と分散効果の状況等)-のレポート Topへ