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欧州大手保険Gの内部モデルの適用状況について-2022年のSFCRからのリスクカテゴリ毎の標準式との差異説明の報告-
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AXAについては、Allianzの場合とは異なり、「E.4 Differences between the standard formula and any internal model used(標準式と使用した内部モデルの差異)」をさらに細分化した項目立ては行っていない。
SFCRについての3回目のレポート(2023.6.23)で、AXAは、「内部モデルは、AXAの会社が、ローカルリスクプロファイルをよりよく反映するローカルキャリブレーションを選択し、グループがさらされている全ての重要なリスクを捉えることができるように設計されている。結果として、AXAグループは、内部モデルは、AXAグループ全体のSCRをより忠実に反映し、SCRメトリックスが経営陣の意思決定とより整合的になると考えている。」と述べていると報告した。さらに加えて、標準式と内部モデルの主な違いに関する説明の中で、「内部モデルは、グループ方法論に基づいた集中化されたモデルである。これにより、ローカルの特殊性が存在する場合には、特にローカルレベルでの引受リスクの較正を通じて、そのことを考慮しつつ、グループ全体で同様のリスクのモデリングが完全に一貫性を保つことを確実にする。」と述べている。
また、内部モデルの一般的な構造については、「市場、信用、生命、損害及びオペレーショナルリスクの5つの主要モジュールで構成されている。標準式は同様のモジュラー・アプローチに従うが、健康リスクのために別のモジュールを有している。代わりに、内部モデルでは健康リスクが、実質優先原則に従って、生命リスク又は損害リスクに含まれている。」としている。加えて、「5つのリスクカテゴリでは、内部モデルは、標準式では適切に捕捉されないが、グループにとって重要なサブリスクのモデルを提供する。」としている。こうしたリスクモジュールの分類については、ほぼAllianzと同様な考え方に基づいているが、一致しているわけではない。
なお、全体的な集計方法は、市場、信用、生命、損害及びオペレーショナル資本要件の楕円集計(elliptical aggregation)2に基づいている。
さらに、リバースストレスシナリオも実行しているとし、そのようなシナリオの目的と効果を説明している。
具体的には、以下の通り記述されている。
2 各リスク間の相関関係を考慮しつつ、基本的には各リスクの二乗の合計の平方根で集計する。
E.4 標準式と使用された内部モデルの差異
標準式と内部モデルの主な違い
内部モデルは、グループ方法論に基づいた集中化されたモデルである。これにより、ローカルの特殊性が存在する場合には、特にローカルレベルでの引受リスクの較正を通じて、そのことを考慮しつつ、グループ全体で同様のリスクのモデリングが完全に一貫性を保つことを確実にする。これらのローカルでの較正は、ローカルチームによって更新して、提示され、グループリスク管理によって検証されている。検証は、内部モデル、量的側面及び質的側面の両方、とりわけデータ品質を含んでいる。グループのデータ品質方針は、内部モデルの入力として使用されるデータが完全で正確で適切であることを要求している。内部モデルの範囲のさらなる情報については、本レポートのセクションE.2を参照のこと。
内部モデルの一般的な構造は、市場、信用、生命、損害及びオペレーショナルリスクの5つの主要モジュールで構成されている。標準式は同様のモジュラー・アプローチに従うが、健康リスクのために別のモジュールを有している。代わりに、内部モデルでは健康リスクが、実質優先原則に従って、生命リスク又は損害リスクに含まれている。
一般に、5つのリスクカテゴリにおいて、内部モデルは、標準式では適切に捕捉されないが、グループにとって重要なサブリスクのモデルを提供する。
■市場リスク:金利のインプライドボラティリティ、株式のインプライドボラティリティ、政府のスプレッド及びインフレは、内部モデルで明示的にモデル化されている。特に、これは、標準式とは異なり、内部モデルが、SCRの計算において、(EUの国々を含む)全てのソブリン債のスプレッドリスクを考慮していることを意味している。ポートフォリオの集中リスクは、企業のデフォルト計算(信用リスク)に含まれている。
市場リスクに関する内部モデルは、ボラティリティ調整の将来の変化を見込む「動的ボラティリティ調整」のモデルを含んでいる。これは、スプレッドの拡大による資産サイドの損失がボラティリティ調整の変化による負債サイドの動きによって一部相殺されるということを考慮に入れる経済的アプローチを反映している。内部モデルにおいては、ボラティリティ調整の水準は、社債及び/又は国債のスプレッドの動きに依存して評価され、その負債への影響が評価される。動的ボラティリティ調整のモデリングは、投資資産から派生するスプレッドリスクを一部相殺する。動的ボラティリティ調整のモデリングについては、EIOPAによって提供されるパラメータ(ウェイト、参照ポートフォリオ、基本スプレッド)が使用される。ある程度の保守性を加味し、モデルにおける潜在的な制約を反映するために、25%のヘアカットが社債のスプレッド水準の変動に対して適用される(即ち、もし所与のシナリオで社債のスプレッドがx bps動いた場合、xの75%のみがこのシナリオでの新しいボラティリティ調整を導くために考慮される)。
内部モデルで使用されるサブリスクとリスクファクターの数が多いため、異なる資産クラスのリスクとそれらの間の分散効果は、標準式よりも正確に把握できる。例えば、ショックは経済に依存し、それはボラタイルな市場ではより高いショックが想定されることを意味している。
■信用リスク:社債のデフォルトリスクは、標準式のスプレッドの較正に含まれているが、内部モデルはこれを個別に扱った。
■生命リスク:内部モデルは、その他の顧客行動や医療費を明示的にモデル化している。改定リスク(即ち、保険契約者の健康状態における変化によるリスク)はグループにとって重要でないことから、内部モデルのデフォルトではモデル化されていないが、(就業不能リスクに埋め込まれて)ローカルレベルでは考慮に入れることができる。解約リスクは、内部モデルと標準式の両方において、3つの要素(解約の増加、解約の減少及び大量解約)に分けられるが、集計が異なっている(内部モデルにおける集計マトリックスに対して、標準式においては3つの要素の最大値)。
■損害リスク:標準式ではリスクボラティリティを定量化するのに業界全体のパラメータに依存しているのに対して、内部モデルは会社固有のボラティリティパラメータに依存している。それゆえ会社のポートフォリオに埋め込まれたリスクに整合的で、一般的により詳細である。内部モデルはより正確なモデリングのために保険料と準備金リスクを分解し、それらの間の分散化を考慮している。最後に、解約リスクは保険料リスクを通じて把握される。
■オペレーショナルリスク:オペレーショナルリスクの内部モデルは、フォワードルッキングなシナリオベースのアプローチ(SBA)に従う。これは、一連の横断的なグループシナリオで補足された各エンティティの最も重要なオペレーショナルリスクの識別と評価に依存している。標準式とは対照的に内部モデルを使用する主な目的は、SCRにグループのリスクプロファイルをよりよく反映させることである。これは、オペレーショナルリスクの標準式が、オペレーショナルリスク基準に関連するリスクファクターのない、純粋なファクターベースのものであるため、オペレーショナルリスクにおいて特に関係している。
■モデリング手法:標準式では、SCRを導出するために、殆どのリスクカテゴリに単純なモデルが使用されている。殆どの場合、極端なシナリオは99.5%分位を表すものとして定義されている。内部モデルでは、極端なシナリオは生命SCRの計算にのみ使用される。他のリスクカテゴリについては、洗練されたモデルが適用される。特に市場、信用固定金利及び再保険、損害保険及びオペレーショナルリスクについては、損失の分布はシミュレーションから導き出される。
■分散化:標準式では、地理的分散は明示的に認識されていない。内部モデル集約アプローチは、AXAグループがグローバルに活動しているため、地理的な分散効果を考慮している。
ソルベンシーIIの枠組みでは、グループの自己資本の金額の変化に確率を割り当てる内部モデルの基礎となる確率分布予測(PDF)の提供が要求される。シミュレーションベースのモデリングアプローチが完全な確率分布予測を認めているのに対して、ショックベースのモデリングは(追加的なパーセンタイルと完全な分布が導出される)特定のパーセンタイルの計算に依存している。方法論上の理由から、以下の方向性が内部モデルのために選択されている。
■損害、市場及びオペレーショナルリスクモジュールのモデリングは、シミュレーションベースのアプローチを使用して、完全な確率分布予測を提示することができる。
■生命リスクに関しては、0.5%又は99.5%パーセンタイルベースの内部モデルの計算は、追加的なパーセンタイルの導出によって補完される。
■信用リスクのモデリングは、想定されるサブリスクに応じて、シミュレーションベースの手法とショックアプローチの両方に依存している。第1の手法については、完全確率分布予測が利用可能である。ショックアプローチ(債権から派生する信用リスクに対してのみ使用される)に関しては、生命リスクに対して実行されるアプローチと同様に、いくつかのパーセンタイルが計算される。
全体的な集計方法は、市場、信用、生命、損害及びオペレーショナル要件の楕円集計に基づいている。このモジュラー・アプローチは、主要なリスク又はサブリスクのランク付けを可能にし、リスク(サブリスク)とその影響の十分な理解を提供する。
AXAグループは、リバースストレスシナリオも実行している。このようなシナリオの目的は、選択した評価日に同じSCRの金額を生む、市場、信用、生命、損害及びオペレーショナル・イベント(シナリオで定義されたショックが同時に発生している)の組み合わせを示すことにある。これにより、内部モデルに固有のいくつかの影響を評価することができる。
■それらは、異なるリスク間の相互作用のバックテストを構成する。実際、このようなシナリオを実行することで、潜在的なクロス及び非線形効果を際立たせることができる。
■全てのリスク要素が同時にシミュレートされる完全シミュレーションベースアプローチに対して、楕円集計は、理論的には、保険契約者の吸収能力の過大評価をもたらすかもしれない。テストは、200年に一度のストレスを適用する際に、いくつかの将来の裁量的給付がそのまま残ることを確認し、既存の保険契約者の吸収能力を超えるいかなる超過も考慮されていないということを示している、ことを確実にする。
(2023年07月10日「基礎研レポート」)
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