2022年07月05日

欧州保険会社が2021年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(3)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その2)-

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1―はじめに

欧州の保険会社各社が4月から5月にかけて公表した単体及びグループベースのSFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)については、前回のレポートで長期保証措置と移行措置の適用による影響の説明について報告した。

今回のレポートでは、欧州大手保険グループのSFCR(含むQRTs(定量的報告テンプレート))の内容から、SCRとMCRの計算方法の説明等について報告する。

2―SCRとMCRの計算方法の説明

2―SCRとMCRの計算方法の説明

各社とも、「E.2 Solvency Capital Requirement and Minimum Capital Requirement(E.2ソルベンシー資本要件と最低資本要件)」において、SCRとMCRの計算方法の概要を説明している。なお、各社の説明内容やその説明箇所は会社によって異なっており、必ずしも「E2」だけにSCRとMCRの計算方法に関する事項が網羅されているわけではないことには注意が必要であるが、今回はとりあえず「E2」の記載内容からの抜粋を報告する。

1|SCRMCRの計算方法の説明概要
以下では、これまでのレポートで報告対象としてきた大手保険グループ5社の中から、「E2」における記載内容が充実しているAXA、Generali及びAegonの3社を選択して、その説明概要を報告する。

(1) AXA
AXAのSCRとMCRの計算方法の説明(の一部)は、以下の通りとなっている。

SCRとMCRを計算するために、内部モデルの使用や米国等での同等性評価、さらには非保険セクターについてはセクター別ルールに基づいていることを説明している。これにより、AXAのグループSCRのうち、グループ全体でみると、93%が内部モデル、3%が標準式、0%が同等性、4%が銀行・資産運用会社、年金基金等の他の規制基準の適用に基づくもの(2020年は、88%が内部モデル、4%が標準式、0%が同等性、7%が銀行・資産運用会社、年金基金等の他の規制基準の適用に基づくもの)となっている。

また、内部モデルの使用に関しては、「内部モデルは、AXAの会社が、ローカルリスクプロファイルをよりよく反映するローカルキャリブレーションを選択し、グループがさらされている全ての重要なリスクを捉えることができるように設計されている。結果として、AXAグループは、内部モデルは、AXAグループ全体のSCRをより忠実に反映し、SCRメトリクスが経営陣の意思決定とより整合的になると考えている。」と説明している。

さらに、グループの分散化効果について、例えば、「内部モデルでは、主要なリスクカテゴリ(市場、信用、生命、損害、オペレーショナルリスク)全体にわたる集計と、地理/会社間の集計という、主な集計ステップを考慮したマルチレベル集計アプローチが実施されている。」と説明している。

E.2ソルベンシー資本要件(SCR)と最低資本要件(MCR
当グループは、2015年11月17日、ソルベンシーIIのSCRを計算するために内部モデルを使用することについてACPR(フランスの監督当局)と監督カレッジからの承認を受けた。内部モデルは、2018年に取得した以前はXL Groupの一部であった会社(XL事業体)を含む、全ての重要な会社に対するAXAグループの定量可能なリスクをカバーしている。

内部モデルは、AXAの会社が、ローカルリスクプロファイルをよりよく反映するローカルキャリブレーションを選択し、グループがさらされている全ての重要なリスクを捉えることができるように設計されている。結果として、AXAグループは、内部モデルは、AXAグループ全体のSCRをより忠実に反映し、SCRメトリクスが経営陣の意思決定とより整合的になると考えている。

一般原則
ソルベンシーIIは、2つの異なるレベルのソルベンシー資本要件を規定している。(I)最低資本要件(MCR)。会社レベルで適用され、保険契約者や受益者が許容できないレベルのリスクにさらされる自己資本の額である。(II)ソルベンシー資本要件(SCR)は、会社及びグループの両方のレベルで適用され、保険及び再保険会社が多額の損失を吸収することを可能にする適格自己資本のレベルに相当する。それは、支払が期日までに行われるという保険契約者及び受益者への合理的な保証を与える。

ソルベンシー資本要件(SCR
2022年2月24日に公表された2021年12月31日現在のAXAグループのソルベンシーII比率は2020年12月31日の200%に対して、217%であった。グループは、2021年の全ての時点でSCRを超過する適格自己資本を維持した。

当グループは、内部モデルの範囲、基礎となる方法論及び前提条件を定期的に見直し続け、それに応じてSCRを調整する。しかしながら、内部モデルのいかなる大きな変更も、SCRの水準を調整することを要求するかもしれないACPRによって承認されなければならない。2018年のXLグループの買収と2019年の事前申請プロセスの開始に続いて、2020年の監督当局への内部モデルの範囲拡張 が行われ、2020年12月31日からの グループSCRへのAXA XLの貢献度を認識するための認可につながった。

さらに、当グループは、その目的を通じて欧州保険会社のモデルの一貫性の見直しを行うことが期待されているEIOPA(欧州保険年金監督局)の作業計画を監視している。そのような見直しが、コンバージェンスを高め、国境を越えたグループの監督を強化するための、内部モデルやソルベンシーII資本要件への変更を含むさらなる規制改正につながる可能性がある。

2021年12月31日現在で、AXAのグループSCRは286億ユーロで、内部モデル範囲(266億ユーロ)、標準式会社(8億ユーロ)、同等性による会社(0億ユーロ)、セクター別ルール (年金事業、銀行、資産運用)(12億ユーロ)という異なる要素に分割される。AXAグループSCRに関する追加情報については、QRT S.25.02.22「ソルベンシー資本要件- 標準式及び部分内部モデルを使用するグループのための」を参照のこと。

2021年12月31日現在の連結IFRS数値に基づくと、指令2009/138/ECの第231条の下での規制グループベースの内部モデルの一部である(再)保険会社は次の通りとなっている。

■(再)保険活動からの収益の92%
■(再)保険及び投資契約からの負債の96%
■ 投資の96%

2020年に比べて、AXAのグループSCRは275億ユーロから286億ユーロに増加した。この増加は主として以下の要素による。

■市場SCRが、特に高いエクスポージャーを有する株式とプライベートエクイティに対する非常にポジティブな市場進展とグループ株式ヘッジの削減より、約34億ユーロ増加
■生命保険SCRが、主としてより高い金利と外部再保険により減少(約4億ユーロ)
■損害保険SCRが、外部再保険による、より低いカタストロフィーエクスポージャーとより低い準備金リスクにより減少(約4億ユーロ)
■AXA Bank BelgiumのグループSCRが売却により除かれた(約7億ユーロ)
■繰延税金の損失吸収能力が、主としてフランス、ドイツ及び日本における、より高いネット繰延税金負債により改善(約▲4億ユーロ)

2021年12月31日現在、SCRのリスクカテゴリによる内訳は、市場リスク43%、生命保険20%、損害保険25%、信用リスク7%、オペレーショナルリスク5%となっている。

グループ分散効果
内部モデルの分散効果は、異なるリスク/サブリスク又は異なるポートフォリオ/会社への集計方法の適用によって現れる。したがって、分散効果は、特定のリスク要因の範囲内、ポートフォリオ間、地域間又は異なるリスクカテゴリ間で現れる。

一例として、デュレーションギャップは、例えば、保障商品の長いデュレ―ションと年金の短いデュレ―ションのように、異なるポートフォリオに対して異なる符号を有することができる。このような場合、2つのポートフォリオを組み合わせると金利リスクが低下する。

リスク集計アプローチ内の細かさのレベルは、分散効果の測定に影響する主要な要因である。典型的には、集計アプローチが、地理、事業単位/法人レベル、リスクタイプ、商品タイプなどの次元に応じて、ポートフォリオや活動を区別するほど、より明示的な分散効果が明らかになる。内部モデル では、主要なリスクカテゴリ(市場、信用、生命、損害、オペレーショナルリスク)全体にわたる集計と、地理/会社間の集計という、主な集計ステップを考慮したマルチレベル集計アプローチが実施されている。

2021年12月31日現在の主要なリスク(市場、信用、生命、損害、オペレーショナル)における分散効果は130億ユーロであった。

範囲と計算方法
以下の表は、グループSCRを計算するために使用される内部モデルの範囲内にある会社を一覧表にしたものである。



グループ内で、指令2009/138/ECの第230条及び第233条で言及されている方法1(デフォールト法(会計連結法))と方法2(控除合算法)の組み合わせを使用して、グループ・ソルベンシーが計算される。方法2を用いる会社は、銀行、資産運用会社、年金基金を中心とした保険以外の金融セクターやソルベンシー制度が同等とみなされている米国の残りの子会社に関連している。 関連する主要な会社は以下の表に要約されている。

(2) Generali
GeneraliのSCRやMCRの計算方法の説明(の一部)は、以下の通りとなっている。

SCRについては、監督当局の承認を受けた会社の金融リスク、信用リスク、生命保険引受リスク、損害保険引受リスクとオペレーショナルリスクをカバーする内部モデルとその他の(再)保険会社に対する標準式及び他の規制セクター(銀行業や年金業務)に対するセクターの要件を適用して算出される。なお、オペレーショナルリスクについては、2019年まではグループの全ての保険会社において標準式により計測されていたが、2020年からは内部モデルを適用している。

その他、LTG措置や移行措置、USPの使用、簡素化の使用等について説明しているが、以下ではその記述は省略している。

E.2.1.SCRとMCRの値
このセクションは、Generaliグループのソルベンシー資本要件(SCR) 及び最低資本要件(MCR)について記載している。

特に、SCRは、1年間の信頼水準が99.5%の自己資本のバリュー・アット・リスク (VaR) として計算される。

グループはSCRを部分内部モデル(PIM)で測定している。SCRは、監督当局の承認を受けた会社の金融リスク、信用リスク、生命保険引受リスク、損害保険引受リスクとオペレーショナルリスクをカバーする内部モデルとその他の(再)保険会社に対する標準式及び他の規制セクター(銀行業や年金業務)に対するセクターの要件を適用して算出される。

PIMは、グループがさらされている主要なリスクの正確な表現を提供しており、セクションE .4でより詳細に説明されているように、各リスクの個別の影響とグループ自己資本に対する複合的な影響の両方を測定する。

当グループでは、SCRの定義に簡易計算を使用していない。

会社固有のパラメータ(USP)は、Euro Assistance会社とイタリアの会社DASと新規に取得したCattolicaグループの会社のSCRの計算に使用される。これらのUSPsの使用は監督当局により承認されている。

ボラティリティ調整の詳細はセクションD.に記載されている。マッチング調整は適用されない。

グループのSCRは22,288百万ユーロ(2020年は19,850百万ユーロ)だった。グループSCRの増加は、以下の理由による。

・標準式を使用して、資本要件の計算の範囲にCattolicaグループを含めた。
・年間を通じての(主として株式の)市場条件の改善により、金融リスクがかなり増加した。これはリスクプロファイル、結果としてグループの分散効果に影響を与えた。
・ドイツの会社Dialog Versicherung Aktiengeselschaftを内部モデル範囲に含め、相殺効果を考慮した全体的な影響が重要でないその他の主要な変更を行った。

(図表等、省略)

以下のテンプレートは、分散を計算しない下記のカテゴリの会社に対する資本要件の合計としてのSCRの総額を提供している。

・内部モデルに基づくSCRの計算に内部モデル(IM)を使用する承認を受けたエンティティは、EEA(欧州経済領域)と非EEAの間で区別される。
・標準式計算に基づくエンティティは、EEAと非EEAとその他の少数保有エンティティに区別される。
・信用その他の金融サービスはセクタールールに基づく。
・IORP年金基金は、指令2003/41/ECの第4条に従う。



グループの連結最低SCRの目的のために、算出はグループの法的単体のMCRに基づいており、EIOPAによって提供された指示に従っている。

(図表 省略)

MCRが2020年末の16,569百万ユーロから2021年末の18,148百万ユーロに増加したのは、保険料と準備金の動きや単体のSCRの動きとCattolicaの取得による。

(図表等、省略)

最も関連するリスクは、金融/市場リスクで、分散効果前のSCR総額の45.9%(2020年末は42.6%、以下同様)であり、信用/カウンターパーティリスクは21.0%(26.7%)、生命保険/健康 保険引受リスク及び損害保険引受リスクで、それぞれ10.9%(10.0%)、14.6%(13.4%)、オペレーショナルリスクが7.6%(7.3%)となっている。

分散効果後では、金融リスクで54.9%(50.3%)、信用リスクが22.7%(28.8%)。生命保険/健康保険引受リスクが3.9%(3.8%)、損害保険引受リスクが11.8%(11.1%)、オペレーショナルリスクは6.1%(5.9%)となっている。

モデル調整は、中期的なタイムホライズンにおける計画されたモデル改善に対して割り当てられた付加的な任意マージンを表している。

RFR(リングフェンスファンド)/MAP(マッチング調整ポートフォリオ)調整は、マッチング調整がグループのポートフォリオには適用されていないのに対して、リングフェンスファンドの集計によるSCR計算へのバイアスを修正するための調整を表している。

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中村 亮一

研究・専門分野

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