2022年05月26日

欧州大手保険Gの2021年の生命保険新契約業績-商品タイプ別・地域別の販売動向・収益性の状況-

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1―はじめに

欧州大手保険グループの2021年決算数値が、2月から4月にかけて、投資家向けのプレゼンテーション資料やAnnual Reportの形で公表された。

前回のレポート1では、生命保険事業を中心とした地域別の事業展開の状況について報告した。

新たな規制・低金利環境下で、各社とも貯蓄・年金商品等の伝統的な利率保証付商品から、ユニットリンク型商品や保障・医療商品へのシフトを志向している。こうした状況は、グループ全体として基本的には同じ方向に向かっているが、その実態は地域毎に若干異なっている。これらは、各地域の保険市場や金融資本市場の状況やそれらを反映した保険商品の収益性等に関係している。

今回のレポートでは、2021年の生命保険事業の新契約業績について、商品タイプ別、地域別の販売動向及び新契約マージン等の数値を通じて、欧州大手保険グループの商品シフトの現状及び収益性の状況を報告する。

なお、2020年は、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染拡大等が、地域・商品・販売チャネル等によっては、新契約業績に少なからぬ影響を与えていたが、2021年はその影響も軽減しており、むしろ2020年の反動もあり、大きく新契約を進展させているケースも多い。

2―欧州大手保険グループ各社の新契約業績動向等

2―欧州大手保険グループ各社の新契約業績動向等

この章では、欧州大手保険グループ各社の生命保険事業について、新契約の年換算保険料(Annual Premium Equivalent APE新契約保険料現在価値(Present Value of New Business PremiumPVNBP及び新契約価値(New Business ValueNBV新契約マージン(New Business Margin)の状況等について、商品タイプ別、地域別に報告する。

なお、新契約マージン等の定義や名称等は、その分母及び分子の考え方等について各社各様であるが、ここでは各社の公表数値等に基づいて報告する2。また、以下の図表は、会社が公表している数値に基づいて作成している。
 
2 新契約価値(NBV)について、Allianz、Generali、Aviva、Aegon、ZurichはMCEV、AXA、PrudentialはEEVベースである。なお、新契約価値の地域別状況等については、前回のレポートを適宜参照していただきたい。
1|AXA
(1)全体の状況3
2021年の新契約価値(NBVは、2020年に比べて4.6%増加(為替レートや範囲等を同一とした「比較ベース」では、8.4%増加、以下同様)(2020年は2.4%減少(4%増加))して、25.93億ユーロとなった。日本を始めとするアジアにおいて20.3%と大幅に増加したことに加えて、フランスでも18.5%増加したことから、フランス以外の欧州がスイスやイタリアでマイナス進展だったにも関わらず、全体での高い進展を示した。

新契約マージン(NBV Margin4(=新契約価値/新契約保険料現在価値(PVNBP))は、2020年に比べて0.1%ポイント上昇(0.2%ポイント上昇)して、3.8%となった。

新契約マージン(NBV Margin)(=新契約価値/新契約年換算保険料(APE))は、2020年に比べて2.6%ポイント低下(1.9%ポイント低下)して、43.9%となった。これは、(i)主としてフランスの医療が不利な前提の更新により減少、及び香港の商品ミックスに不利な変化があったためで、(ii)フランスでの前提の有利な変化による純粋保障の推進、(iii)特にフランスでの、有利な商品ミックスによるユニットリンクの貢献、によって部分的に相殺された。

また、2020年に比べて、新契約保険料現在価値(PVNBPは、0.3%増加(2%増加)して、679.26億ユーロとなり、新契約年換算保険料(APEは、10.8%増加(12.9%増加)(2020年は11.4%減少(1.4%増加))して、59.11億ユーロとなった。これは、主に(i)国際市場と国内市場の両方でのグループ事業の増加によるフランスの医療、(ii)個人貯蓄の強力な業績からのフランス主導のユニットリンク、及び(iii)特にフランスのグループ年金及び中国におけるバンカシュアランスパートナーシップからの一般口座貯蓄(+ 22%)、にけん引され、(iv)特にスイス(▲29%)とフランス(▲23%)の保障がどちらも、2020年の例外的な売上が繰り返されなかったことにより一部相殺されたものの、一方で日本と香港における商業キャンペーンの成功での増加もみられたことによる。

なお、新契約IRR(内部収益率)は、(4)で述べるような地域別の状況を反映して、1.4%ポイント増加して、17.9%となった。
生命保険事業の新契約の状況
 
3 ここでの具体的な数値は、(2)以下の図表等も参照していただきたい(以下、同様)。
4 これをそのまま翻訳すると「新契約価値マージン」となるが、ここでは他社に合わせて「新契約マージン」と翻訳している。
(2)新契約年換算保険料(APE)の商品タイプ別、地域別内訳
新契約年換算保険料(APE)の商品タイプ別、地域別内訳は、以下の図表の通りとなっている。

商品タイプ別の内訳は、グループ全体では、保障が40%(2020年は46%、以下同様)、医療が23%(18%)、一般勘定貯蓄が20%(20%)、ユニットリンクが17%(14%)、ミューチュアルファンド等が0%(1%)であった。

これらの商品タイプ別の構成比は、地域別に大きく異なっており、欧州では保障と医療がそれぞれ3割弱を占め、一般勘定貯蓄、ユニットリンクがそれぞれ2割強となっているが、アジアではユニットリンクの構成比は低く、保障が6割以上で中心となっており、その他に医療及び一般勘定貯蓄が一定割合を占めている。

これをさらに各国別で見てみると、欧州やアジア諸国間でも状況は一律ではなく、それぞれの国の保険市場の特徴が反映された形になっている。
2021年の新契約年換算保険料(APE)の商品タイプ別、地域別内訳/2021年の新契約年換算保険料(APE)の商品タイプ別、各国・地域別内訳(欧州)/2021年の新契約年換算保険料(APE)の商品タイプ別、各国・地域別内訳(アジア)
(3)新契約マージン(対APE)の商品タイプ別状況
新契約マージン(対APE)の商品タイプ別状況は、以下の図表の通りとなっている。

新契約年換算保険料(APE)について、2010年から2021年にかけて、保障・医療の構成比が31%から63%へ32%ポイントと大きく上昇したが、一般勘定貯蓄の構成比は25%から20%へ5%ポイント低下し、ユニットリンクの構成比は31% から17%へと14%ポイント低下した。

このような商品シフトを反映して、現在のような低金利下においても、販売や収益への影響を相対的に軽減できる対策を講じてきた結果として、全体の新契約マージン(対APE)は2010年の22.3%から、2020年の43.9%へと大きく上昇している。
新契約マージン(対APE)の商品タイプ別j状況
(4)新契約マージン(対APE)及びIRR(内部収益率)の地域別状況
新契約マージン(対APE)及びIRR(内部収益率)の地域別状況は、以下の図表の通りである。

これによれば、新契約マージン(対APE)について、欧州では、ドイツ、スイス、ベルギー、スペインが高い水準となっているが、親会社国のフランスの水準がグループ全体の水準を下回っている。アジアでは日本の水準が極めて高いものとなっている。

なお、IRRについては、フランス以外の欧州が26.7%と高い水準となっている。ただし、2020年と比較すると、フランスやフランス以外の欧州において水準が低下した一方で、アジアでは水準が3.7%ポイント増加したことに牽引されて、グループ全体では1.4%ポイント増加して17.9%となっている。
新契約マージン(対APE)及びIRR(内部収益率)の地域別状況/新契約マージン(対APE)及びIRR(内部収益率)の各国・地域別状況(欧州)/新契約マージン(対APE)及びIRR(内部収益率)の各国・地域別状況(アジア)
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中村 亮一

研究・専門分野

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