2021年06月24日

欧州保険会社が2020年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-全体的な状況報告-

保険研究部 研究理事   中村 亮一

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1―はじめに

欧州の保険会社各社が4月から5月にかけて、単体及びグループベースのSFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)を公表している。これは、2016年にソルベンシーII制度が導入されて以来、5 回目となる対外公表されるソルベンシーと財務状況に関する詳細な報告書となっている。

これらの報告書については、これまでの5年間も保険年金フォーカス等で報告してきた。例えば2019年のSFCRについては、保険年金フォーカス「欧州保険会社が2019年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)~(5)」(2020.7.1~2020.7.28)及び基礎研レポート「欧州保険会社の内部モデルの適用状況(標準式との差異)-2019年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)からのリスクカテゴリ毎の差異説明の報告-」(2020.8.3)(以下、「以前のレポート」と呼ぶ)で報告した。

今後複数回のレポートで、AXA、Allianz、Generali、Aviva及びAegonの欧州大手保険グループ5社が公表した2020年のSFCRについて、報告していく。まずは、今回のレポートでは、SFCRの全体的な状況について報告する。次回以降のレポートで、欧州大手保険グループのSFCRから一部の項目(長期保証措置と移行措置の適用による影響、内部モデルと標準式の差異等)を抜粋して報告する。
 

2―SFCR(ソルベンシー財務状況報告書)とは

2―SFCR(ソルベンシー財務状況報告書)とは

SFCRとは
SFCRは、ソルベンシーII制度の下で、パブリック・ディスクロージャー資料として、一般に公開される資料であり、まさに、ソルベンシーと財務状況についての詳細な内容をまとめた報告書である。
SFCRの内容
SFCRの内容や構造については、ソルベンシーII指令2009/138/ECの第51条~第56条、委任規則(EU) 2015/35の第290条~第298条等に規定されている。

これによれば、SFCRの項目は、以下の通りとなっており、

A.ビジネスとパフォーマンス、B.ガバナンス制度、C.リスクプロファイル、D.ソルベンシー目的のための評価、E.資本管理

に関する記述が求められる。

SFCRでは、これらの項目に関する定性的かつ定量的な情報が記載される。また、記載内容については、(1)年度末の状況と前期間と比較しての重要な変化の分析、(2)評価についてはソルベンシーIIベース、いくつかの要素については財務諸表ベース、(3)資産、技術的準備金やその他の負債の価額に関しての重要な差異の説明、等が含まれている。なお、構造や最低限の内容以外の説明部分についてはフリーフォーマットとなっている。

A.事業と実績
A.1事業
A.2引受業績
A.3投資実績
A.4その他の活動の実績
A.5その他の情報

B.ガバナンス態勢
B.1ガバナンス態勢に関する一般的な情報
B.2適合・適切要件
B.3リスクとソルベンシーの自己評価(ORSA)を含むリスク管理態勢
B.4内部統制体制
B.5内部監査機能
B.6保険数理機能
B.7アウトソーシング
B.8その他の情報

C.リスクプロファイル
C.1引受リスク
C.2市場リスク
C.3信用リスク
C.4流動性リスク
C.5オペレーショナルリスク
C.6その他の重要なリスク
C.7その他の情報

D.ソルベンシー目的のための評価
D.1資産
D.2技術的準備金
D.3その他の負債
D.4評価のための代替的手法
D.5その他の情報

E.資本管理
E.1自己資本
E.2ソルベンシー資本要件(SCR)及び最低資本要件(MCR)
E.3ソルベンシー資本要件(SCR)計算におけるデュレーションベースの株式リスクサブモジュール(DBER)の使用
E.4標準式と使用された内部モデルとの差異
E.5最低資本要件(MCR)の不遵守とソルベンシー資本要件(SCR)の不遵守
E.6その他の情報

こうしたSFCRの内容に関して、監督当局が(再)保険会社に期待することのさらなる詳細については、EIOPAがガイドライン1を公表している。

また、SFCRとともに公表される「ソルベンシーII年次定量的報告テンプレート(Solvency II annual quantitative reporting templates:QRTs)」については、EIOPAがITS(Implementing Technical Standards)で規定しているが、以下の項目に関する情報を特定するものとなっている。
 

S.02.01.02 貸借対照表
S.05.01.02 事業毎の保険料、保険金請求及び事業費  
S.05.02.01 国毎の保険料、保険金請求及び事業費 
S.22.01.22 長期保証措置及び移行措置の影響
S.23.01.22 自己資本
S.25.02.22 ソルベンシー資本要件
S.32.01.22 グループの範囲にある会社

なお、SFCRにおいては、これらの内容に加えて、各社毎に異なっているが、

独立監査人報告書
取締役の責任の声明

等が附属資料として添付されている。
 
 
1 「報告と公衆開示に関するガイドライン」(EIOPA-BoS-15/109EN)(このガイドラインは、SFCRだけでなく、RSR (Regular Supervisory Report:定期監督報告)についても含まれている)
https://eiopa.europa.eu/GuidelinesSII/EIOPA_EN_Public_Disclosure_GL.pdf#search=%27solvency+%E2%85%A1+SFCR%27
SFCRの開示
EU指令対象の(再)保険会社は、毎年、SFCR(単体のSFCR及びグループSFCR(グループレベル又はシングルSFCR))を開示しなければならない。SFCRはAMSB(administrative, management or supervisory body:管理・経営・監督機関)による承認が必要で、承認後に公表できる。なお、比例原則が適用される。

単体のSFCRについては、欧州経済地域(EEA)に本拠を置く会社について求められる。

一定の状況下では特定の情報を開示しないことも認められる。他の法的ないしは規制要件に基づいて行われた公衆開示を利用することも認められる。さらには、追加的にボランタリー・ベースでソルベンシーと財務状況に関する情報や説明を開示することもできる。開示された情報に大きな影響を与える重要な進展が見られた場合には情報の更新を行う必要がある。
SFCRの開示スケジュール
ソルベンシーIIにおいて求められるSFCR等の報告書の監督当局等への提出・開示スケジュールについては、報告書の作成に大変な労力と時間を要することから、準備期間を考慮して、数年かけて段階的に本来的な期限へと早期化が図られてきた。

具体的には、SFCRについて、単体ベースでは2016年の20週間以内から、2019年の14週間以内へ、グループベースでは2016年の26週間以内から、2019年の20週間以内へと短縮されていくことになっていた。なお、SFCRについては、パブリック・ディスクロージャー資料として、一般に公開される報告となっている。

この結果として、2019年のSFCRについては、単体が2020年4月8日、グループが2020年5月20日と、本来的なスケジュールに基づいた公表が行われていくこととなっていた。ところが、COVID-19(新型コロナウイルス)の感染拡大を受けて、保険年金フォーカス「新型コロナウイルスの感染拡大を受けての監督報告と公衆開示の締切りに関するEIOPAの対応-四半期報告やSFCR等-」(2020.5.7)で報告したように、一部の資料を除いて、単体及びグループのSFCRの提出について8週間の延期が認められることとなった。

2020年のSFCRについては、このような特別な取扱いは行われていない。

なお、以前の保険年金フォーカス「EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関する意見をECに提出(4)-助言内容(報告と開示)-」(2021.2.3)で報告したように、現在行われているソルベンシーIIのレビューの中で、EIOPAによって「報告及び開示の期限に関して、各会計年度末等から、(1)年次個別監督報告は16週間、四半期ごとの個別報告は5週間、(2)単体のSFCRの開示は18週間、グループSFCRは24週間に4週間延長、等」の勧告が行われている。
 

3―2020年のSFCRの全体的な状況

3―2020年のSFCRの全体的な状況

2―2|で述べたように、SFCRの記載項目等は法令等で規定されているが、さらにEIOPAは監督当局が期待するものについてのガイドラインを公表している。ただし、SFCRの詳細な内容については各社の裁量に委ねられた形になっており、実際のSFCRの記載内容等も各社各様となっている。

この章では、2020年のSFCRの全体的な状況について、過去のSFCRとの比較を含めて、欧州大手保険グループ5社(AXA、Allianz、Generali、Aviva、Aegon)のSFCRに基づいて、報告する。
1|公表時期(単体及びグループのSFCR
欧州大手保険グループについては、SFCRの公表について、例えば、AXAが5月20日、Allianzが5月20日、Avivaが4月29日、Aegonは5月4日に公表する等、迅速に対応してきている。
欧州大手保険グループ5社のグループSFCR(2020年)
2|ボリューム(ページ数)
SFCRのボリューム(ページ数)については、附属資料等を除いた本体部分だけで、欧州大手保険グループ5社のグループSFCRだけをみても、概ね60ページから130ページとかなり幅のあるものとなっている。その他の会社では20ページに満たない会社もある。もちろん各社の会社構造等の違いもあることから、外形的なボリュームだけに基づいて、SFCRの内容の評価はできない。さらには各ページにおける記述密度も会社によって異なっている。従って、ページ数よりも記載内容がより重要であることは言うまでもない。

なお、過去のSFCRとの本体ページ数の比較では、2016年から2017年にかけては、会社によっては大きな変化があったが、2017年以降は各社ともあまり大きくは変わっておらず、その意味では各社における記載内容等の様式が定着してきている。
3|使用言語
グループSFCRで使用される言語については、委任規則(EU)2015/35の第360条に規定されている。

これによると、その第1項で「保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社は、グループSFCRをグループ監督当局が定めた言語で開示するものとする。」と規定されている。ただし、第2項において「監督カレッジが複数の加盟国の監督当局から構成されている場合、グループの監督当局は、関連する監督当局及び当該グループと協議した後、保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社に対して、監督カレッジでの合意により、第1項に言及された報告書を、関係する他の監督当局によって最も一般的に理解される別の言語で開示することを要求できる。」としている。さらに、第3項において、「保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社の保険及び再保険子会社のいずれかが、その公用語が第1項及び第2項の適用によってSFCRを開示している言語と異なっている加盟国に本店を有する場合、保険及び再保険会社、保険持株会社又は複合金融持株会社は、当該報告書の要約を当該加盟国の公用語に翻訳しなければならない。」と規定されている。

これらの規定に基づいて、例えば、欧州大手保険グループ5社は、そのグループSFCRについて、基本的には自国語版や英語版を作成している。さらに、AXA、Allianz、Generali等は、グループSFCRの要約について、保険子会社が存在する加盟国の公用語に翻訳したバージョンを公表している。なお、5社以外の会社でも、英語版を平行して作成したり、当初は自国語版のみを公表して、後ほど英語版をWebサイトで公表している会社もある。

一方で、単体のSFCRについては、基本的には当該単体の管轄地域の言語だけの対応となっている。ただし、欧州大手保険グループ5社については、一部の主要単体会社や主要国でない場合等についても、英語で作成しているケースもある。

具体的な各社の状況として、例えば以下の通りとなっている。

AllianzはグループのWebサイトで、グループの構成会社のうちの13の単体のSFCRを公表しているが、そのうちの2社(Allianz Insurance plc(英国)とEuler Herms(ベルギー))のみが英語版となっている。英語圏以外では、ベルギーの子会社が自国以外の言語の英語で作成していることになり、その他は子会社の監督当局の本拠地の国の言語のみで作成されている。従って、主要な単体保険会社であるAllianz SEについてもドイツ語版のみとなっている。また、要約版については、英語・ドイツ語圏以外で、子会社が本店を置くEU加盟13カ国の公用語で作成しているが、それぞれ1ページ程度の内容である。

GeneraliはWebサイトで17の単体のSFCRを公表している。2016年においては、Ceská pojištovna A.S.(チェコ)が英語で作成されていたが、2017年以降は当該会社を含めて、管轄地域の言語でのみ作成されている。また、単体の親会社のAssicurazioni Generali S.p.A.について、2018年まではイタリア語版だけでなく、英語版も作成していたが、2019年からはイタリア語版のみとなっている。また、要約版については、英語とイタリア語以外では、子会社が本店を置くEU加盟13カ国の公用語で作成しているが、Allianzとは異なり、それぞれ6ページ程度の紙面を費やしている。

AXAの場合、要約版について、英語・フランス語圏以外で、子会社が本店を置く全てのEU加盟6カ国の公用語で作成しているが、それぞれ1ページの内容である。

Aegonの場合、要約版はオランダ語のみで8ページ程度となっている。

グループ会社において、その構成会社である全ての単体のSFCRが当該単体の管轄地域の言語で作成されているというわけでもないが、当該市場において一定の市場シェアを有する会社の場合には、当該監督当局から、当該国の言語で作成することを要請されることになっており、こうした傾向が反映されている。
4|QRTsの取扱
ソルベンシーII年次定量的報告テンプレート(年次QRTs)の報告については、SFCRの附属資料としている会社と別途資料としている会社がある。

年次QRTsは、SFCRに提示された情報を補完し、2―2|で述べたように、国別や事業別の貸借対照表項目、保険料、保険金請求及び事業費、技術的準備金、自己資本及びソルベンシー資本要件の金額、長期保証措置と移行措置の適用による影響等を明らかにしている表で構成されている。
5|独立監査人による監査報告書
SFCRについては、監査を強制されているわけではない。ただし、EIOPAは監査を推奨し、いくつかの国の監督当局は監査の必要性を強く主張している。EIOPAは、ソルベンシーIIレビューの最終勧告の中で、最小監査又は同様の要件の導入を提案している。

こうした状況下で、今回のSFCRでの欧州大手保険グループ5社の対応は分かれている。具体的には、AXA、Generali、Aviva については、独立監査人による監査報告書(例えば、GeneraliはEYによる6ページの監査報告書)をSFCRの附属資料として添付しているが、AllianzとAegonのSFCRには添付されておらず、AegonはSFCRで開示された情報については、監査対象外である旨の記載を行っている。こうした状況は前年度までと同様である。

独立監査人による監査を、品質管理の一環として利用するとのスタンスを有している会社もあれば、重要かつ堅実な社内レビューを通じてチェックを行っているとのスタンスの会社もある。

監査を行う場合、監査が困難又は不可能な技術的な手法等の使用が制約を受けるとともに、説明のために内部情報の開示の必要性が高まることになる。
6|その他
SFCRは、その趣旨からして、できる限り保険契約者や投資家等が理解できるものを提供していくことが求められている。こうした観点から、多くの会社が、用語集を付け加えて、複雑な専門用語の説明を行っている。さらには、テキストや図表を積極的に使用して、読者にわかりやすいものを目指している会社もある。ただし、補足的な情報や解説については、限定的で、基本的な要件だけを満たしている会社が多い。
 

4―ソルベンシーIIレビューにおけるSFCR改正の動き

4―ソルベンシーIIレビューにおけるSFCR改正の動き

さて、こうしたSFCRに対しては、各国の保険監督当局や保険業界団体等の利害関係者から様々な意見が述べられてきたことから、EIOPAはソルベンシーIIのレビューの中で、SFCRに関して、いくつかの見直しを提案している。

この内容については、保険年金フォーカス「EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関する意見をECに提出(4)-助言内容(報告と開示)-」(2021.2.3)等で報告した。「報告と開示」に関するポイントだけを掲げると以下の通りとなっていた。

・保険契約者に宛てたSFCRの部分を、他のユーザー(専門家など)に宛てた部分と区別する。

・保険契約者向けのセクションに、ハイレベル(全体的な概略)の内容を提供する。これはグループレベルでは要求されない。

・報告書の構造を5つから4つのセクション(事業と実績、ガバナンス態勢、ソルベンシー目的のための評価、資本管理とリスクプロファイル)に修正し、開示を要求された情報を合理化する。

・比例性を考慮した感応度に関する情報の標準化を導入する。

・キャプティブ保険及びキャプティブ再保険会社に適用される特定の要件を明確にする。

・最小監査又は同様の要件を導入する。

欧州委員会が現在このEIOPAの最終勧告を受けて検討を行っており、今後最終的な内容が決定されていくことになる。
 

5―まとめ

5―まとめ

今回のレポートでは、作成及び公開5年目となる2020年のSFCRの全体的な状況について報告してきた。

次回以降のレポートで、欧州大手保険グループ各社の2020年のSFCRから一部の項目(長期保証措置と移行措置の適用による影響、内部モデルと標準式の差異等)を抜粋して報告する。
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保険研究部   研究理事

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

(2021年06月24日「保険・年金フォーカス」)

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【欧州保険会社が2020年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-全体的な状況報告-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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