2020年06月15日

新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(3)-欧州大手保険Gの2019年SFCRによる-

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4|Aviva
Avivaは、その2019年のSFCR4の中の「F.その他の重要な情報」における「F.6.COVID-19 の世界的パンデミックに関する追加情報」において、COVID-19に関して、以下のように述べている。

2020年3月11日、世界保健機関(WHO)は、世界的大流行である新種のコロナウイルス疾患、COVID-19 の発生を宣言した。影響を受けた地域の政府は、業務の閉鎖、旅行制限、自宅待機命令、集会やイベントの禁止など、アウトブレイクを封じ込めるための多くの措置を講じている。COVID-19 の拡大は、当社グループが事業を展開している国や世界経済の急激な悪化を招き、金融市場のボラティリティの上昇や下落をもたらしている。パンデミックが長期化したり、同様の影響をもたらすような新たな疾病が発生した場合には、世界経済への悪影響が深刻化し、金融市場のさらなる悪化につながる可能性がある。

保険会社であるAvivaは、保険商品、資産保有、ならびに世界の金融市場及び経済全般における現在の困難な状況を通じて、COVID-19 のパンデミックの影響を受けている。損害保険商品は、当社グループが保険をかけている事業及び旅行の中断により影響を受ける。死亡率の上昇による生命保障商品、将来の保険料が低下し将来の資金流出が増加する可能性のある貯蓄商品、また、死亡率の上昇による所得保障、重症疾患及び健康保険商品が、年金支払額の減少によって相殺される。また、将来の新契約や将来の投資のリスク・プロファイルの変化を踏まえ、引受、価格設定、戦略を見直している。また、COVID-19 の金融市場の著しい変動に伴う市場リスク及び信用リスクにも晒されている。当社グループのバランスシートのエクスポジャーを見直し、経済的ショックに対する感応度をさらに低下させるための措置を講じている。当社グループは引き続き高いソルベンシー水準を維持しており、引き続き自己資本比率の水準を維持する見込みである。パンデミックが発生して以来、当社グループは営業活動を続けており、現金の支払いや取引処理などの主要な活動は維持されている。また、ITシステムは稼働し続けている。さらに、顧客が最も必要としているときに顧客をサポートできるように、顧客と直接接するスタッフを含む従業員をサポートしている。当社グループの強固な資本・流動性の状況、ならびに現在講じられている業務上及び財務上の措置にもかかわらず、状況の悪化は、金融市場、保険エクスポジャー及び業務への影響から、さらなる悪影響をもたらす可能性がある。

SFCR及び関連する定量的報告テンプレート(QRT)に示されている数値は、2019年12月31日現在の状況及び最善の見積りを前提としたものであり、技術的準備金への影響を含む COVID-19 の影響について調整されていない。

2020年4月8日、取締役会は、2020年6月に2019年の普通株主に対する配当勧告を撤回することに合意した。取締役会は、2020年第4四半期に普通株主への配当を再検討する予定である。この決定は、COVID-19 が企業、家庭、顧客にかつてないほどの難題を突きつけ、世界経済に悪影響を及ぼし、非常に不確実な影響を及ぼしていることを受けたものである。EIOPA、PRA、その他のAviva子会社などの規制当局は、保険会社による株主への配当支払いを抑制するよう公に求めている。COVID-19 により提示された重大な不確実性に鑑み、取締役会は、現時点で配当を停止することが賢明であるということで、規制当局と合意した。

以下では、SFCRのセクションAからセクションEに記載されている情報が、 COVID-19 によってどのような影響を受けたかを要約する。
ビジネスとパフォーマンス
本レポートのセクションAに記載されている情報は、2019年12月31日までの12カ月間の当社グループの財務諸表に記載されている事業の業績を表している。

ガバナンス態勢
当社グループの包括的なリスク管理及び内部統制システムは、 COVID-19 のアウトブレイクの課題に積極的に対応しており、現状のまま維持されている。運用上の制約を考慮に入れるために、制御環境の変化のいくつかの側面を捉える作業が進行中である。いかなるモデレーションも注意深く監視され、適切なガバナンスの対象となっている。

主要市場における政府による渡航制限や社会的距離制限のために、私たちはコンティンジェンシープランを実施し、サービスの質への影響を最小限に抑えながら、お客様への継続的なサービスを確保し、スタッフを保護するための業務プロセスの一部を変更する必要があった。これらのプランでは、顧客コンタクトセンターのスタッフを含め、ほぼ全てのスタッフが在宅勤務が可能である。実施された運用プロセスの変更は、顧客サービス、データ保護、及びスタッフの福利厚生に関するリスクが、経営陣が受け入れるレベルにあることを保証するように設計されている。

リスク・プロファイル
リスクをモニタリングするための現在のプロセス、実施されているリスク緩和手法、及びグループの主要なリスク・タイプ毎にCOVID-19 の結果としてさらされているリスクの重要な相関関係はこのセクションに設定されている。

当社グループでは、基礎となるリスクの水準や相関関係の変化が当社グループのリスク・プロファイルやSCRに与える影響を把握するため、感応度分析、ストレステスト、シナリオテストを実施している。なお、感応度分析に用いた手法、分析を行う上での前提条件や制約、2019年12月31日現在の結果については、セクションC .7を参照のこと。

引受リスク
損害保険と医療保険
COVID-19 における損害保険及び医療保険へのエクスポジャーは、緩和策とともに以下の通りである。

・事業の中断:グループの英国損害保険の商業契約の大部分では、契約の文言が会社によって決定され、カバーは特定の疾病リストに基づいている。これらの契約では、COVID-19 のような新興感染症による事業の中断を除外している。契約の文言は、対象となる疾患を明確に特定し、新規及び新興の疾患は対象としないことを強調している。したがって、現在の COVID-19 のアウトブレイクに起因する事業中断による損失は、大多数の保険契約ではカバーされていないが、当社が保険会社のリーダー又はフォローである場合には、ブローカーによって決定された事業中断契約の文言の下で提供される、イベント及びカバーに関する法的明確性を提供するために訴訟が必要となるリスクがある。我々が合意したカナダでの事業中断契約は、カナダの歯科医のための特定のパンデミックリスクカバーの下でカバーされており、アイルランドでも同様なエクスポジャーがある。これらの管轄区域では、他の事業中断契約の文言を法的に明確にするために訴訟が必要となる同様のリスクがある。

·  旅行保険:当社グループが英国を中心に保険に加入している場合、旅行の中止、途絶、疾病などによる損害が発生する可能性がある。当社グループが損害を被る可能性があるのは、旅行提供者(例えば旅行オペレーターや航空会社)及び代理店からの保険金の回収後である。旅行の中断は、Aviva UK Directカバーの一部ではなく、3月9日に契約オプションとして削除されたが、大半の銀行パートナーの付加価値勘定には標準として含まれている。Aviva UK Directの新契約の受付は、3月13日から毎年更新されるカバーを除き終了した。これらの措置に先立ち、当社は新契約への潜在的なエクスポジャーを制限するために価格設定措置を講じた。潜在的な損失は、利益手数料及び販売パートナーとの将来の価格契約を通じて部分的に軽減される。

·  再保険:当社グループは、事業中断の補償を含む不動産ポートフォリオの再保険を購入し、再保険でカバーされる事業中断損失の再保険による回収を求めている。

·  その他:COVID-19 における経済混乱と予想される景気後退は、信用保証、取締役、役員及び保証人の保証を含む広範な契約にわたる請求の増加につながる可能性が高い。また、将来の保険料に悪影響を及ぼす可能性もある。

生命保険
COVID-19 のパンデミックの影響を受ける生命保険の主な引受けリスクは、死亡率と罹患率である。

今後、この世界的流行が将来の行動(例えば継続率)に及ぼす影響についても不確実性がある。

当社は、潜在的な損失に対するネットエクスポジャーを減らすために、全ての市場に再保険をかけている。英国では、個人向け保険契約に大規模なクォータ・シェア再保険を導入しており、大規模な英国グループ生命保険では、個人向け保険のサープラス再保険を導入している。個人保障では、追加の引受査定質問、調整された価格設定を導入しており、より多くのケースをマニュアル引受査定で参照している。

どの市場でも、個人生命保険保障商品の保険引受査定手続きにより、 COVID-19 のリスクが最も高い集団のコホート(即ち、高齢者及び既存疾患を有する者)へのエクスポジャーが制限されている。当社は、グループ生命保険保障を通じてより大きな潜在的なネットエクスポジャーを有しているが、新契約からの潜在的なエクスポジャーを制限するために価格設定措置を講じている。COVID-19 の結果としての保険金請求の増加は、英国の年金ポートフォリオにおける技術的準備金のリリースにより一定相殺されると考えている。

当社は COVID-19 から発生する所得保障請求を一部保有しているが、当社の保険約款では通常、保険契約者に給付が支払われるようになるまでの据置期間を定めており、多くの場合、据置期間は COVID-19 の症候期間より長くなると予想している。これは私たちのエクスポジャーを実質的に減少させる。

市場リスク
COVID-19 の金融市場への影響、特に株式市場と金利への影響が大きかったため、我々は全ての市場において株式リスクと金利リスクを軽減するために様々な措置を講じてきた。具体的な行動としては、戦術的なデリバティブ・ヘッジの購入、資産売却及び再配分、特定の市場及び商品における新契約売上の減少などがある。

信用リスク
当社のビジネスモデルには、主に保険契約者の皆様に利益をもたらすことを目的として、重大な信用リスクを負うことが含まれている。COVID-19の金融市場への影響を受け、我々は主要市場における信用スプレッドとカウンターパーティのデフォルト・リスクを軽減するために様々な措置を講じてきた。具体的には、戦術的なデリバティブ・ヘッジの購入、資産売却及び再配分、特定の市場及び商品における新契約売上の減少などがある。我々は、商業用モーゲージ・ポートフォリオ及びエクイティ・リリース・モーゲージ・ポートフォリオの信用の質を引き続き監視している。また、COVID-19 が世界的に保険業界に与えている影響を考慮すると、再保険の回収リスクも増大している。

流動性リスク
当社グループは、流動性リスクアペタイトの観点から、ストレス時のネット流出をカバーするために十分な流動性を確保する必要がある。2020年2月末現在、当社グループの流動性の中心は、現金及び流動資産で構成され、24億ポンド(2019年2月:16億ポンド)と引き続き堅調だった。COVID-19 のパンデミックの影響がさらに深刻化した場合には、当社グループの流動性リスクを軽減するため、当社グループは16億5000万ポンドのコミットメントライン未設定融資枠を利用することができる。

オペレーショナルリスク
COVID-19 では、リモートワークの強制、病気や育児を理由とした社員の不就業、市場の変動、外部委託契約などの新しい手法により、固有のオペレーショナルリスクのレベルを高めている。在宅での大規模な労働に関連する新たなリスクもある。これには、サイバー、データ損失、職業衛生などが含まれる。オペレーショナルリスクが許容可能なレベルにとどまるよう、プロセスとコントロールを調整している。

資産運用リスク
資産管理事業では、お客様への継続的かつ途切れの無いサービスを確保するために、我々の資金内におけるトレーディングや流動性管理などの業務プロセスに注力してきた。

COVID-19 による英国及びアイルランドの商業用不動産セクターへの悪影響、特に商業用不動産ポートフォリオに価値を割り当てることが困難であることから、当社は商業用不動産ファンドの解約を一時的に停止した。

ソルベンシー目的の評価
COVID-19 のパンデミックにより、世界の金融市場が縮小したことに伴い、当社グループの貸借対照表上、特定の金融資産の時価評価が影響を受けている。また、このパンデミックは金融市場のボラティリティを高め、セクションD .4で説明した代替的な評価方法を用いて評価される資産・負債の評価の不確実性を高めている。当社グループは、市場リスク及び信用リスクを軽減するために様々な措置を講じており、引き続きバランスシートのエクスポジャーを監視していく。

技術的準備金は、2019年12月31日現在の状況及び最良の見積りを前提として作成されているため、 COVID-19 の影響については調整されていない。

生命保険の技術的準備金は、死亡率の増加の結果、生命保険商品を通じて、また死亡率の増加の結果、所得保障、重大疾病及び健康保険商品を通じて影響を受ける。これらの影響は、将来の年金支払額の減少によって相殺される可能性がある。生命保険の技術的準備金も経済動向の影響を受けるが、これらは負債を裏付けている金融資産の動きと幾分一致すると予想される。

損害保険の技術的準備金は、当社グループが保険をかけている事業や旅行の中断の結果、影響を受ける。これは、自動車の請求の範囲の潜在的な減少によって部分的に相殺され得る。

我々は、技術的準備金の計算において使用された最善の見積りの前提条件を継続的に見直し、 COVID-19 の予想される影響に応じてそれらを更新する。しかしながら、状況が急速に変化していることを考慮すると、パンデミック及びそれに関連する金融市場への影響が当社グループの金融資産及び技術的準備金に及ぼす潜在的な評価上の影響を数量化することは、現時点では現実的ではない。

資本管理
当社グループの自己資本は継続的にモニタリングされており、引き続き強固なソルベンシー・レベルを維持し、ソルベンシー資本要件を継続的に充足する見込みである。しかしながら、COVID-19 のパンデミックやそれに伴う金融市場のボラティリティは、当社グループ自己資本やソルベンシー・カバー率に悪影響を及ぼす可能性が高いと考えられる。当社グループの貸借対照表のエクスポジャーとソルベンシー・ポジションを見直し、ソルベンシー・ポジションを守り、経済ショックに対する感応度をさらに低下させるための措置を講じている。
5|Aegon
Aegonは、その2019年のSFCR5において、その「C.リスク・プロファイル」において、COVID-19に関して、以下のように述べている。

2020年1月以来、コロナウイルス疾患(COVID-19)のアウトブレイクが社会に大きな混乱を引き起こしており、Aegon、その従業員、サプライヤー、及び世界中の顧客に影響を与えている。金融市場は、金利、株式市場、商品価格の大幅な低下、信用スプレッドの拡大といった深刻な影響を受けている。世界各国の政府や中央銀行は、援助パッケージと更なる量的緩和によってこの危機に対応している。この報告書の日付時点で、この危機の深さと長さは不明である。

当社は、 COVID-19 情勢の影響による市場・経済の混乱や、当社への影響を継続的に監視している。当社が直面する最大のリスクは、金融市場リスク(特に信用、株式、金利)と引受リスク(特に死亡率、罹患率、保険契約者の行動に関連している)である。セクションC.リスク・プロファイルには、詳細な説明、及び関連する金融市場と引受感応度が含まれる。

2020年3月31日現在、当社グループ及び主要な事業ユニットの自己資本は、それぞれの目標レンジの下限又は下限を上回っている。AegonのソルベンシーII比率は、2019年12月31日時点の201%から2020年3月31日時点の208%に上昇したが、これは、主に米国の資本ポジションに影響を与える市場動向のマイナスの影響が、オランダにおけるより高いEIOPAのボラティリティ調整と正常化された資本創出によって相殺されたためである。2020年3月31日現在のソルベンシーIIによる自己資本比率は、AegonがソルベンシーIIの要件を解釈したものであり、規制当局に提出されるまで最終的なものではない。ソルベンシーIIにおける自己資本の算定は、継続的に監督上の検証を受けることとなっている。

Aegonは、2020年4月3日、EIOPA及び当社の主要な監督機関であるDNBが、保険会社に対して全ての配当の一時延期を求める声明を発表したことを受け、DNBが行っている配当延期の要請に応じることを発表した。この結果、Aegonは2019年の最終配当を見送った。

Aegonは、死亡率及び罹病率の請求、ならびに保険契約者の行動を含む請求活動の監視を続けている。本報告書の時点で、COVID-19危機の影響がAegonの引受実績及び長期引受・経済前提にどのような影響を与えているかを判断するのは時期尚早である。COVID-19危機の結果としての具体的な市場の動きを踏まえ、セクションC.リスク・プロファイルには、2020年3月31日時点で更新された長寿リスク、金融市場リスク及びその他の重要なリスクに対する感応度が含められている。

Aegonは、従業員の安全と福利を確保し、財務上及び業務上の耐性力を維持しながら顧客をサポートし、業務を維持する能力を確保するために、事業継続性プランを活用している。  

3―まとめ

3―まとめ

以上、今回のレポートでは、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が保険会社に与える影響について、欧州大手保険グループのSFCRにおける記述内容について紹介してきた。

各社のSFCRにおける報告内容やその形態は、第1四半期の業績発表においても報告したように、各社各様であり、Avivaのように、各リスクのそれぞれについて詳しい説明を行っている会社もある。

SFCRの位置付けから、SFCRにおける記述内容は、ソルベンシーや財務状況への影響に関するものが中心になっているが、それでも必ずしもそうした項目に限定されずに、COVID-19への各種の対応策等についても記述されている。

欧米においては、4月以降においても、引き続き多数の新たな感染者が報告されていることから、COVID-19の本格的な影響がより明らかになってくるのは、少なくとも第2四半期以降であると思われる。

その意味で、COVID-19を巡る動向とともに、それらに対する欧米の保険会社各社の対応やそれに伴う影響等については、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2020年06月15日「保険・年金フォーカス」)

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【新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(3)-欧州大手保険Gの2019年SFCRによる-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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