- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- アジア経済 >
- 【オーストラリア総選挙の結果】~予想を覆し、保守連合が勝利。拡張的な財政政策で減速する景気を下支えか~
2019年05月21日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1.総選挙の結果
選挙前の二党間の支持率の推移を見ると3、前回の総選挙(2016年7月2日)終了後間もない2016年9月以降、一貫して野党の労働党が与党の保守連合を上回ってきた(図表3)。保守連合は、2013年に政権を獲得して以降、堅調な経済や財政収支の改善を実現したものの、党首(首相)が2度も交代するなど党内の対立が国民の不信感を招いた。終始劣勢であった保守連合は、選挙直前に盛り返し、その差は縮まったものの、市場では依然として労働党が優勢と予想されていた。
下院の獲得議席数を州別に見ると、ビクトリア州など労働党の獲得議席数が保守連合を上回った州の方が多かったものの、クイーンズランド州で保守連合に大きく差をつけられ、これが全体の結果へ響いた(図表4)。同州を拠点とする統一オーストラリア党やワンネーション党が前回の総選挙から大きく得票数を伸ばす中で、2党が保守連合を支持したことが影響したと推測される。
下院の獲得議席数を州別に見ると、ビクトリア州など労働党の獲得議席数が保守連合を上回った州の方が多かったものの、クイーンズランド州で保守連合に大きく差をつけられ、これが全体の結果へ響いた(図表4)。同州を拠点とする統一オーストラリア党やワンネーション党が前回の総選挙から大きく得票数を伸ばす中で、2党が保守連合を支持したことが影響したと推測される。
1 有権者数の格差を是正するため、下院の定数は定期的に見直されている。今回の定数は人口の増加に伴い、2016年の選挙時から1議席増加した(150→151)
2 オーストラリアの連邦議会は、英国と同様に議院内閣制を採用しており、憲法上の慣習に基づき、下院で過半数を獲得した政党(連合)の党首が首相となる。
3 下院の選挙方式は、選挙区の候補者すべてに優先順位をつけ、第1順位票で過半数を獲得する候補者が選出される。過半数獲得者が現れるまでは、第1順位票の得票が最小の候補者の得票を、投票者の指定した優先順位に従って、残りの候補者に配分することを続ける方式であるため、全政党間支持率よりも上位二党間の支持率が重視される。
2.今後の展望
モリソン政権の存続は、減速するオーストラリア経済にとっては、プラスに作用するだろう。両党が公約として掲げていた政策を比較すると、労働党は税制改正では低所得者層への減税を重視する一方で、富裕層向けの増税を盛り込んだ他、環境問題の対策としてより急進的な目標を掲げたため、経済への影響が懸念されていた4(図表5)。一方で、保守連合は、4月上旬に発表した2019/20年度(2019年7月1日~2020年6月30日)予算案において、2018/19年度予算案で既に示していた低・中所得者層への減税やインフラ投資の規模を拡大するなど5、2019/20年度における財政収支の黒字転換見込みを背景に、より拡張的な財政政策を志向し、減速する景気を下支えすると期待される。また、選挙の大勢が判明した20日には、代表的な株価指数であるS&P/ASX200指数が年初最高値を更新し、米中貿易摩擦の影響で軟調だった豪ドルが持ち直すなど、予想に反して保守連合が勝利したことが市場で好感されたと見られる。ただし、対外政策では中国寄りとされた労働党に対して、保守連合は米国寄りとされる。これまで保守連合は、中国の影響力拡大の抑止を念頭に、外国人の政治献金の禁止や諜報活動への監視強化、さらに華為技術(ファーウェイ)に対して、5G通信網への参入を禁止したことで、中国との関係が悪化している。中国は最大の輸出先かつ投資元であるため、関係悪化による経済への悪影響の懸念は引き続き残るだろう。
4 特に、ネガティブギアリングの適用厳格化は落ち込む不動産市場をさらに悪化させる懸念がある。
5 2018/19年度予算案比で、低・中所得者層向けの所得税額控除は2倍以上、インフラ投資は1.3倍にまで拡大した。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2019年05月21日「経済・金融フラッシュ」)
このレポートの関連カテゴリ
神戸 雄堂
神戸 雄堂のレポート
| 日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
|---|---|---|---|
| 2020/02/12 | 豪州経済の重石となる気候変動問題~注目されるエネルギー政策の行方~ | 神戸 雄堂 | 基礎研レター |
| 2019/12/05 | 豪州の7-9月期GDPは前期比0. 4%増~公共部門が下支えも民間部門は不振が続く~ | 神戸 雄堂 | 経済・金融フラッシュ |
| 2019/11/01 | 公共土木施設の被害額から見る自然災害の趨勢 | 神戸 雄堂 | 基礎研レター |
| 2019/10/16 | ロシア経済の見通し-停滞が続く経済。20年は内需の回復で加速も、緩慢な成長に留まるか。 | 神戸 雄堂 | 基礎研レター |
新着記事
-
2025年11月07日
フィリピンGDP(25年7-9月期)~民間消費の鈍化で4.0%成長に減速、電子部品輸出は堅調 -
2025年11月07日
次回の利上げは一体いつか?~日銀金融政策を巡る材料点検 -
2025年11月07日
個人年金の改定についての技術的なアドバイス(欧州)-EIOPAから欧州委員会への回答 -
2025年11月07日
中国の貿易統計(25年10月)~輸出、輸入とも悪化。対米輸出は減少が続く -
2025年11月07日
英国金融政策(11月MPC公表)-2会合連続の据え置きで利下げペースは鈍化
お知らせ
-
2025年07月01日
News Release
-
2025年06月06日
News Release
-
2025年04月02日
News Release
【【オーストラリア総選挙の結果】~予想を覆し、保守連合が勝利。拡張的な財政政策で減速する景気を下支えか~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
【オーストラリア総選挙の結果】~予想を覆し、保守連合が勝利。拡張的な財政政策で減速する景気を下支えか~のレポート Topへ












