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夏に売れるのはアイスクリームと何?-ランドセル商戦の変容と市場拡大~消費者の今を知る
生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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1――夏に売れるのはアイスクリームとランドセル~ランドセル商戦は入学1年前の春からスタート
夏の風物詩からは外れるが、実はランドセルも夏にピークを迎える商品の一つだ。「通学用かばん」の平均支出額は、十年ほど前は入学直前の1~3月がピークだったが、最近では購入時期が夏に前倒しになっている(図1)。これは、祖父母が孫のためにランドセルを購入する家庭も多い中で、お盆や夏休みの帰省時の購入を見込んで、早々と新商品のラインナップを発表する百貨店やランドセルメーカーが増えたためだ1,2。ランドセル工業会の調査によると、2018年4月に小学校へ入学した児童では、ランドセル代金の支払い者は祖父母が6割となっている(図2)。また、同調査によれば、購入するランドセルを検討し始める時期は4~5月がピークとのことだ(図3)。
つまり、ランドセル商戦は、入学する1年前の春には始まっている。また、人気の商品はすぐに予約で埋まってしまうため、「ラン活」という言葉もあるそうだ。
2――変貌するランドセル市場~商品の多様化、価格帯上昇で少子化でも市場拡大
平均価格帯は51,300円とのことが、10万円を超える高級ランドセルの話題も耳にする。話題性を狙った商品なのだろうが、金箔を貼った200万円以上のもあるそうだ。また、高級自動車ブランドのランドセルもある。自動車に使用されている最先端素材と同じ素材を使うことで品質的にも機能的にも実用的とのことだが、価格は10万円を超えるそうだ。また、アパレルの欧米高級ブランドが特別注文を受けることもあるようだ。なお、ランドセル工業会によれば、ランドセルの平均価格は2006年頃から上昇傾向にある。平均価格と小学校一年生の人口からランドセルの市場規模を推計すると、少子化が進行する中でも、ここ10年のランドセル平均価格が上昇しているため、実は、ランドセル市場は拡大傾向にある(図4)。
3――祖父母のランドセル購入理由~少子化で数少ない孫を喜ばせたい、親世代の経済状況の厳しさ
まず指摘できることは、少子化による「6ポケット」現象だ。「6ポケット」とは、ひとりの子どもに対して、両親と両祖父母の合計6つの財布から様々な物が与えられることだ。少子化で、兄弟姉妹の人数も減っている。数少ない孫に対して、祖父母がプレゼントをあげて喜ばせたいという気持ちを持つことは自然なことだ。
さらに、子どもの親世代の経済状況の厳しさもあるだろう。足元、企業業績の改善で賃上げが進む傾向もあるが、バブル崩壊後の長らく続いた景気低迷で、小学生の親世代である現在の30~40代の経済状況は厳しさを増している。雇用者に占める非正規雇用者の割合も高まり、正規雇用者でも安心できるわけではない。大卒以上の正規雇用者の賃金カーブを見ると、十年前と比べて現在では30~40代でフラット化している(図5)。40歳前後の十年間で、十年前と比べて男性では合計▲約750万円、女性では合計▲約680万円も収入が減っている。子育てで出費のかさむ時期に賃金が伸びにくくなってる中で、祖父母の援助はありがたいことだ。
ランドセル市場の拡大傾向は、しばらくは続く可能性が高い。現役世代の間に右肩上がりの経済成長の恩恵を受けた世代が祖父母であるためだ。しかし、景気低迷の中で大規模なリストラなどに直面した世代が祖父母となる頃には、もしかしたらランドセル市場は頭打ちになるのかもしれない。
(2018年07月24日「基礎研レター」)
03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
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