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コラム
2009年06月11日
2008年6月に公布された改正保険法は、2年以内に施行されることとなるが、保険法の施行により、「旧生命保険契約に関する経過措置」として、既契約にも遡及適用される条項がある。
第一は、施行日前に締結された生命保険契約に適用される条項であり、第47条中、死亡保険契約に関する質権の設定に被保険者の同意を要する旨の条項、第48条の危険が著しく減少した場合には、保険契約者が保険者に対し保険料の減額を請求できる旨の条項、第57条の重大事由による解除の条項等である。
このうち、第47条については、施行日以後に質権が設定される場合に適用されるが、現在でも、生命保険会社は質権設定時に実務上被保険者の同意を求めていることから、大きな実務の変更はないものと考えられる。
第48条については、生命保険においては、保険法が審議された法制審議会保険法部会資料15・25で、それぞれ「被保険者の健康状態が改善した場合にはこの規律は適用されないものとする」、「健康状態が改善したとしても保険料が減額されるわけではない場合には、『危険が著しく減少した』に当たらず、危険の減少の規律は適用されない」とされており、健康状態については、保険期間中の危険の著しい減少を保険料に織込済みであれば、実務上発生しないものと考えられる。
第57条については、重大事由による解除規定は約款上、疾病関係特約では1987年に、主契約については1988年に導入されており、約款規定の整備等を除けば、同様に実務に大きな変更は生じないものと考えられる。
第二は、第52条の保険給付の履行期の条項であり、施行日以後保険事故が発生した場合に適用される。第52条第1項では、「保険給付を行う期限を定めた場合であっても、当該期限が、保険事故、保険者が免責される事由その他の保険給付を行うために確認をすることが生命保険契約上必要とされる事項の確認をするための相当の期間を経過する日後の日であるときは、当該期間を経過する日をもって保険給付を行う期限とする」と定められており、確認のための相当の期間経過後は、生命保険会社は遅滞責任を負い、保険給付に遅延利息を加えて支払うこととなる。
この規律は、1997年3月25日最高裁判決において、損害保険について約款上、30日以内とする保険金の支払期限を「この期間内に必要な調査を終えることができないときは、これを終えた後、遅滞なく、保険金を支払います」という但し書きで延長することは、「文言が極めて抽象的であって、何をもって必要な調査というのかが条項上明らかでないのみならず、保険会社において必要な調査を終えるべき期間も明示的に限定されていない。
加えて、保険会社において所定の猶予期間内に必要な調査を終えることができなかった場合に、一方的に保険契約者等の側のみに保険金支払時期が延伸されることによる不利益を負担させ、他方保険会社の側は支払期限猶予の利益を得るとするならば、・・・損害保険契約の趣旨、目的と相いれない」として否定されたことを踏まえて導入されたものである。
保険法の衆議院法務委員会採決に当たっての付帯決議では「保険給付の履行期については、保険給付を行うために必要な調査事項を例示するなどして確認を要する事項に関して調査が遅滞なく行われ、保険契約者等の保護に遺漏のないよう、約款の作成、認可等に当たり十分に留意すること」と、参議院法務委員会採決に当たっての付帯決議では「『相当の期間』に関しては、これらの規定の趣旨を踏まえ、契約類型ごとに確認を要する事項を具体的に示すなどした約款を作成するよう指導監督するものとし、その際、現行約款が規定する損害保険契約にあっては30日、生命保険契約にあっては5日、傷害疾病定額保険にあっては30日の各期限が『相当の期間』の一つの目安となることを前提に、その期限を不当に遅延させるような約款を認可しないこと」とされており、今後、こうした考え方に沿った約款改正・実務構築が行われることとなろう。
第三は第60条から第62条の契約当事者以外の者による解除請求等の条項であり、施行日以後差押債権者、破産管財人等の解除権者が保険契約を解除した場合等に適用される。解除権者が保険契約者への債権により生命保険を差し押さえ、解除する場合には、保険者が解除の通知を受けた日から一か月で解除の効力を生じることとなるが、それまでに保険契約者・被保険者の親族である保険金受取人が、保険契約者の同意を得て解除権者に解約払戻金相当額を支払い、保険者にその旨通知した場合は解除は効力を生じないことなどが規定されたものである。
現在でも差押による解除請求の実務はあるが、新たに保険契約者・被保険者の親族である保険金受取人の申し立て(介入)による保険契約の継続が法定されたことから、その実務構築の必要がある。
既契約遡及適用に当たっては、必要に応じた実務構築、改正約款の策定、顧客への周知等、多大な業務が発生するものと考えられるが、今後の動向をウォッチしていきたい。
第一は、施行日前に締結された生命保険契約に適用される条項であり、第47条中、死亡保険契約に関する質権の設定に被保険者の同意を要する旨の条項、第48条の危険が著しく減少した場合には、保険契約者が保険者に対し保険料の減額を請求できる旨の条項、第57条の重大事由による解除の条項等である。
このうち、第47条については、施行日以後に質権が設定される場合に適用されるが、現在でも、生命保険会社は質権設定時に実務上被保険者の同意を求めていることから、大きな実務の変更はないものと考えられる。
第48条については、生命保険においては、保険法が審議された法制審議会保険法部会資料15・25で、それぞれ「被保険者の健康状態が改善した場合にはこの規律は適用されないものとする」、「健康状態が改善したとしても保険料が減額されるわけではない場合には、『危険が著しく減少した』に当たらず、危険の減少の規律は適用されない」とされており、健康状態については、保険期間中の危険の著しい減少を保険料に織込済みであれば、実務上発生しないものと考えられる。
第57条については、重大事由による解除規定は約款上、疾病関係特約では1987年に、主契約については1988年に導入されており、約款規定の整備等を除けば、同様に実務に大きな変更は生じないものと考えられる。
第二は、第52条の保険給付の履行期の条項であり、施行日以後保険事故が発生した場合に適用される。第52条第1項では、「保険給付を行う期限を定めた場合であっても、当該期限が、保険事故、保険者が免責される事由その他の保険給付を行うために確認をすることが生命保険契約上必要とされる事項の確認をするための相当の期間を経過する日後の日であるときは、当該期間を経過する日をもって保険給付を行う期限とする」と定められており、確認のための相当の期間経過後は、生命保険会社は遅滞責任を負い、保険給付に遅延利息を加えて支払うこととなる。
この規律は、1997年3月25日最高裁判決において、損害保険について約款上、30日以内とする保険金の支払期限を「この期間内に必要な調査を終えることができないときは、これを終えた後、遅滞なく、保険金を支払います」という但し書きで延長することは、「文言が極めて抽象的であって、何をもって必要な調査というのかが条項上明らかでないのみならず、保険会社において必要な調査を終えるべき期間も明示的に限定されていない。
加えて、保険会社において所定の猶予期間内に必要な調査を終えることができなかった場合に、一方的に保険契約者等の側のみに保険金支払時期が延伸されることによる不利益を負担させ、他方保険会社の側は支払期限猶予の利益を得るとするならば、・・・損害保険契約の趣旨、目的と相いれない」として否定されたことを踏まえて導入されたものである。
保険法の衆議院法務委員会採決に当たっての付帯決議では「保険給付の履行期については、保険給付を行うために必要な調査事項を例示するなどして確認を要する事項に関して調査が遅滞なく行われ、保険契約者等の保護に遺漏のないよう、約款の作成、認可等に当たり十分に留意すること」と、参議院法務委員会採決に当たっての付帯決議では「『相当の期間』に関しては、これらの規定の趣旨を踏まえ、契約類型ごとに確認を要する事項を具体的に示すなどした約款を作成するよう指導監督するものとし、その際、現行約款が規定する損害保険契約にあっては30日、生命保険契約にあっては5日、傷害疾病定額保険にあっては30日の各期限が『相当の期間』の一つの目安となることを前提に、その期限を不当に遅延させるような約款を認可しないこと」とされており、今後、こうした考え方に沿った約款改正・実務構築が行われることとなろう。
第三は第60条から第62条の契約当事者以外の者による解除請求等の条項であり、施行日以後差押債権者、破産管財人等の解除権者が保険契約を解除した場合等に適用される。解除権者が保険契約者への債権により生命保険を差し押さえ、解除する場合には、保険者が解除の通知を受けた日から一か月で解除の効力を生じることとなるが、それまでに保険契約者・被保険者の親族である保険金受取人が、保険契約者の同意を得て解除権者に解約払戻金相当額を支払い、保険者にその旨通知した場合は解除は効力を生じないことなどが規定されたものである。
現在でも差押による解除請求の実務はあるが、新たに保険契約者・被保険者の親族である保険金受取人の申し立て(介入)による保険契約の継続が法定されたことから、その実務構築の必要がある。
既契約遡及適用に当たっては、必要に応じた実務構築、改正約款の策定、顧客への周知等、多大な業務が発生するものと考えられるが、今後の動向をウォッチしていきたい。
(2009年06月11日「研究員の眼」)
小林 雅史
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