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世界経済の国際的相互依存関係の深まりとアメリカの経済力の相対的地位の低下等により、サミット、G7等にみられるように政治と経済の関わり合いが従来に比し一段と強まってきた。このような状況の中で、政治と経済の関係について少し考えてみたい。
来年1月で任期を終えるレーガン大統領は、就任後サプライサイド経済学理論、特にラッファー曲線を理論的根拠として、大幅な減税、ディレギュレーション等による米経済の再活性化という壮大な実験に取組んだ。結果として残ったのは、周知の通り、貿易・財政・家計の大きな3赤字であった。
所謂レーガノミックスは、経済学理論を部分的に取出して、米経済の再活性化というレーガン政権の大目標のための政治的道具として使われたわけだが、現実の経済合理性の前に痛烈なしっぺ返しを食うこととなった。すなわち、国民経済運営の根本原理は、自国の商品を販売しその収入で自国支出をまかなうものだが、米経済の場合、基輸通貨国であるがために、借金が容易にできることにより自国の収入以上の支出を継続して行ってきた。その矛盾は、1985年の純債務国への転落、ドル価値の急落、昨年秋のニューヨーク株式のクラッシュ等にみられるごとく昨今その亀裂を広げつつある。レーガノミックスの失敗は、政治によって現実の経済合理性を恣意的に動かそうとする経済の政治化が非常に難しいという証左であろう。
一方、日本経済の戦後の動向をみると、高度成長、石油ショックの乗切り、円高へのスムーズな対応等に象徴されるように、現実の経済論理を貫徹させそれに合致した政治がなされてきたと言えよう。これは、経済の政治化とは逆のやり方、すなわち現実の市場原理に基づき、国民経済の持つ活力をうまく生かすことに政治が成功した例であろう。
これまでの日本経済運営は確かに成功したが、市場原理に全て頼りきるのは危険である点注意せねばならない。市場は経済合理性で動くが、すべての社会的矛盾を解決することはできない。例えば、日本の土地問題、流通機構の複雑さ、サービス産業の生産性の低さ等については、市場原理アプローチのみでは容易に解答が得られる課題ではなかろう。
日米牛肉・オレンジ交渉にみられるように、農産物問題を中心として世界は保護主義的傾向を強めるとともに、G7の各国経済運営サーベイランス、商品価格指標の導入等、従来のマクロ政策協調から各国ミクロ政策面まで踏みこんでくる政治交渉の時代を迎えつつある。上述の通り、過去においては政治と経済の関係は、後者の実態を踏まえその活力を生かす形が有効であった。今後ともその関係が基本と考えられるが、政治的なリンケージが格段に強まっている現状において、経済の政治化について各国、特に日本は意識して取組んでゆく時ではなかろうか。
(1988年07月01日「調査月報」)
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