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2024年05月09日

フィリピン経済:24年1-3月期の成長率は前年同期比5.7%増~財輸出が回復して成長率が小幅に上昇

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2024年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比5.7%増1(前期:同5.5%増)と小幅に上昇した。市場予想2(同5.9%増)を下回る結果だった(図表1)。

1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、輸出の回復が成長率上昇に繋がった。

まず民間消費は前年同期比4.6%増(前期:同5.3%増)と低下した。民間消費の内訳を見ると、レストラン・ホテル(同15.6%増)と交通(同12.0%増)が二桁成長となったほか、教育(同8.3%増)や娯楽・文化(同8.0%増)、保健(同6.8%増)が堅調に推移した。一方、衣服・履物(同2.0%減)が減少、民間消費全体の約4割を占める食料・飲料(同0.6%増)と家具・住宅設備(同0.6%増)が伸び悩んだ。

政府消費は同1.7%増(前期:同1.0%減)となり2四半期ぶりに増加した。

総固定資本形成は同2.3%増(前期:同10.2%増)と大きく低下した。設備投資が同4.8%減(前期:同14.6%増)と急減したほか、建設投資が同6.8%増(前期:同10.1%増)と増勢が鈍化した。なお、設備投資の内訳を見ると、一般工業機械(同6.4%増)が上昇した一方、全体の約半分を占める輸送用機器(同8.3%減)と産業用機械(同9.4%減)が減少した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+1.2%ポイントとなり、前期の▲1.4%ポイントから改善した。まず財・サービス輸出は同7.5%増(前期:同2.5%減)となり2四半期ぶりに増加した。輸出の内訳を見ると、サービス輸出(同8.9%増)は増勢が鈍化したものの、財貨輸出(同5.8%減)がプラスの伸びに転じた。一方、財・サービス輸入は同2.3%増(前期:同2.0%増)と緩やかな増加が続いた。
(図表1)フィリピンの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、主に第二次産業の回復が成長率上昇に繋がった(図表2)。

第二次産業は同5.1%増(前期:同3.1%増)と上昇した。まず製造業は同4.5%増(前期:同0.5%増)と上昇した。製造業の内訳をみると、石油製品(同24.7%増)をはじめとして、主力のコンピュータ・電子機器(同8.2%増)や化学製品(同10.1%増)が好調だった。一方、食品加工(同4.6%増)や輸送用機器(同2.7%減)などは低調だった。また建設業(同7.0%増)と電気・ガス・水道(同6.3%増)はそれぞれ順調に拡大したが、鉱業・採石業(同0.3%増)は低調だった。

GDPの約6割を占める第三次産業は同6.9%増(前期:同7.4%増)と低下した。内訳をみると、宿泊・飲食業(同13.9%増)と金融・保険業(同10.0%増)が二桁成長となったほか、専門・ビジネスサービス業(同7.5%増)や全体の約2割を占める卸売・小売(同6.4%増)、運輸・倉庫業(同5.6%増)が堅調に推移した。しかし、教育(同4.6%増)、情報・通信業(同4.2%増)、不動産業(同4.1%増)、行政・国防(同3.8%増)は相対的に緩やかな伸びにとどまった。

第一次産業は前年同期比0.4%増(前期:同1.3%増)と鈍化した。家禽(同5.8%増)が増加したものの、コメ(同2.0%減)やバナナ(同4.5%減)、ココナッツ(同3.3%減)などの農作物、家畜(同3.5%減)、漁業・養殖業(同1.0%減)が減少した。
 
1 2024年5月9日、フィリピン統計庁(PSA)が2024年1-3月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査

1-3月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は、2023年は物価高と金利上昇を受けて景気の減速傾向が続いて通年の成長率が同+5.6%となり、コロナ禍からの経済活動の正常化により好調だった2022年の同+7.6%から低下した。しかしながら、今回発表された2024年1-3月期の成長率は前年同期比+5.7%と、2023年10-12月期の同+5.5%から上昇し、景気の底堅さが示された。

1-3月期の成長率上昇は輸出回復による影響が大きい。外需は、電子部品(同+15.6%)や化学(同+16.2%)、水産品(同+28.3%)などの輸出品の出荷が好調で、財貨輸出(同+5.8%)が5四半期ぶりにプラスの伸びとなった。一方、輸出全体の5割弱を占めるサービス輸出(同+8.9%)はインバウンド需要の回復により順調に伸びているものの、増勢が鈍化した。

内需は減速した。まず民間消費は前年同期比+4.6%(前期:同+5.3%)と鈍化した。1-3月期の消費者物価上昇率は前年同期比+3.3%(前期:同+4.3%)と低下したものの(図表3)、3月の失業率が3.9%となり、昨年末の同3.1%から上昇するなど足元で雇用改善の動きがストップしたため、家計の購買力が低下したものとみられる。

また総固定資本形成は同+2.3%となり、前期の同+10.2%から大きく鈍化した。世界的な景気減速やフィリピン中銀の積極的な金融引き締め策に伴う借入コストの高騰により、企業の投資意欲が冷え込み、設備投資(同▲4.8%)が前期の二桁成長から急減した。一方、建設投資(同+6.8%)は堅調を維持した。マルコス大統領はドゥテルテ前政権が推進した大規模インフラ整備計画を拡大させており、今年1~2月のインフラ支出は前年同期比+6.7%と順調に推移している。
 
フィリピン政府は今年の成長率が+6.0%~7.0%になると予測しているが、1-3月期は内需が力強さを欠く展開となり成長率(+5.7%)が通年の成長目標を下回る伸びにとどまった。財輸出は5四半期ぶりに回復したものの、通関ベースの貿易統計をみると、輸出が上向いているようには見えない(図表4)。比較対象となる前年同期の水準が低かったため、輸出の伸び率が押し上げられたものと考えられる。今後も世界的な金融引き締めの影響による海外経済の減速により、輸出は伸び悩むと予想されるほか、フィリピンの民間消費を支える在外フィリピン人の本国送金も鈍化する可能性がある。

またフィリピン中銀の金融引き締め策により政策金利は6.5%まで引き上げられているが、インフレ率は過去3カ月で上昇し、物価目標の中央値(+3%)を上回る水準で推移するなど、インフレに粘着性がみられる。インフレの高止まりは内需の重石となるほか、今後のフィリピン中銀の利下げ時期が遠のくことにも繋がりかねない。今年末にかけて高インフレ・高金利が続く展開となれば、政府の成長目標の達成は難しくなりそうだ。
(図表3)フィリピンのインフレ率と政策金利/(図表4)フィリピンの貿易収支
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2024年05月09日「経済・金融フラッシュ」)

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