コラム
2011年09月09日

グローバル人材育成動向の加速化に大きく期待

平賀 富一

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最近の若者を評して内向き思考で海外へ積極的に打って出ようとする人が少ないと言われることが多く、確かに各種の調査でもそれを裏付ける結果が出ているようである。また英語力を測定する国際的な試験であるTOEFLやTOEICでも日本人受験者がアジア諸国の中で下位に低迷していることや海外への留学生の近年の減少傾向がネガティブなトーンで報道されている。若手社員の海外勤務の敬遠、駐在員の高齢化や単身赴任者が多い傾向も特徴的である。他方、新興国を中心とする成長市場では欧米アジアの有力企業との競合が増加している。この様な環境下で企業のグローバル化を推進・主導できる有能で意欲の高い人材(グローバル人材)の育成が強く求められている。

その一方で、筆者がメンバーとなっているNPO法人「教育改革2020」が担当する授業で出会う高校生達を見るとその様相はやや異なって見える。アジア新興国の発展ぶりやその成長市場での企業の取組みやチャンス、文化面での交流などの話に大きな興味を示し、英語など外国語の習得や海外の文化に関心を抱き、大学進学後直ぐに留学準備を始め、実際にそれを実現する人達が出ている。

それら高校生が語ってくれているのを聞くと、一つには、これまでの人生の中で、アジア新興国の発展やその中での日本のポジション、果たすべき重要な役割・チャンスなどにつき見聞きする機会を与えられていなかったということ、もう一つは、若い彼らにとっては、生まれてから景気低迷の続く日本の姿が常態であり「ジャパン・アズ・ナンバーワン」など高成長で、日本が世界をリードした時代を知らず元々自国に対して大きな自信を抱いていないということが要因になっていると感ずる。

また、上記のポイントに加えて、企業で海外に派遣される人材にとっての希望感やインセンティブが過去に比べ小さくなっているという課題も指摘できよう。昔は海外駐在員といえば、通常では中々行けない場所に居住し、自社や日本を代表して勤務するといった憧れの存在であったり、また厳しい環境の国に赴任する人には金銭面を中心に大きなインセンティブがあった。しかしながら海外旅行や出張が当たり前の時代になりその認識が変わり、海外赴任が通常の転勤・異動の一つになり、さらに日本の経済発展による生活レベルの向上、国内市場の急拡大の中苦労して海外で勤務するよりも国内に勤務し続けた方が安心・安全といった風潮が拍車をかけた。

一方、これとは逆の典型例が韓国である。国内市場が狭小で海外市場を目指す動機が大きく、かつ有力企業での活躍には高い英語力が強く要求されるため、企業による英語教育費用の負担というメリットがある家族帯同の海外赴任を歓迎し、子供の早期からの海外留学も急増している。現在、電気・電子産業で韓国の有力企業が世界の重要市場で優位に立ったり、元々優位にある日本企業を猛追する動きが顕著になっている。その理由は複数あろうが、上記のグローバルに活躍したいという人々の動機や意欲の差が重要な要因になっている事は否定出来ないだろう。

例えば、新興国の中で将来展望は非常に大きいがインフラ面の課題から駐在員の生活環境がより厳しいとされるインドでは日本企業の駐在員の多くが単身赴任であるのに対し、韓国有力企業のそれは多くが家族帯同で赴任期間もより長期になっている。家族と一緒の赴任には不安材料もあろうが、子供の学校に関する活動など社会活動や購買・飲食・レジャーなどを通じた社会との関わりの大きさ、現地社会でのプレゼンスの大きさは必然であり、それら駐在員が所属する企業(現地法人)の活動の成果や認知度・イメージにも大きな影響を与えるだろう。

このような状況の改善には、単なる精神論や気合いといったことでは問題の根本解決につながらず持続的でもないことから、企業は派遣される人材に、より明確で将来への期待感が持てる希望やインセンティブを与えることが重要と考える。そして中高生など若者世代には、現在の我が国を取り巻く世界の姿、グローバル化の進展とその中での日本や日本人、日本企業の重要な役割やチャンスをきちんと教育し、考え理解させる機会をより多く与える必要があるだろう(多くの高校において歴史の授業が年間の時間配分の関係で最も重要な近現代史をカバーせず終了してしまう傾向にも是正が必要と考える)。

直近で、商社・大手メーカーによる若手社員の早期海外派遣や英語等語学教育強化の動向、楽天、ユニクロなどの社内での英語共通語化の動きなどの積極的な取り組みが報じられているが、これらはわが国の企業社会の変革や国際競争力の強化にとって重要な前進になると考える(その中で近年ずっと減少傾向が続いていた海外への留学が増加に転じつつあるとの直近報道もある)。

上記の先進企業による前向きな取り組みが大きな成果を挙げるためには当該企業が十分なコミットメントを持って、着実・地道に推進して行く事が大切である。その動きは、早晩他の多くの企業にも波及し、学校教育や家庭教育のあり方にも好影響を与えることになろう。さらに「グローバル人材育成推進会議」など政府ベースの取組みとも連動し、我が国と日本企業の発展へ向けた好循環が生まれることを強く期待したい。
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