2016年04月05日

マイナス金利下での退職給付債務の割引率について-ASBJが議事概要を公表したが、今後の議論が重要-

保険研究部 取締役   中村 亮一

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■要旨

マイナス金利の発生がいくつかの新たな問題を呼び起こしているが、退職給付債務の計算に用いる割引率の設定も、大きな問題として取り上げられてきた。日本の会計基準設定主体であるASBJ(企業会計基準委員会)で検討が行われていたが、3月9日に「マイナス金利に関する会計上の論点への対応について」の議事概要別紙が公表された。これによると、「平成28年3月決算においては、割引率として用いる利回りについて、マイナスとなっている利回りをそのまま使用する方法とゼロを下限とする方法のいずれかの方法を用いても、現時点では妨げられないものと考えられる。」(ASBJ議事概要別紙)としている。
このレポートでは、マイナス金利下での退職給付債務の計算に用いる割引率の設定に関する議論について報告する。

■目次

1―はじめに
2―割引率に関する現在の規定
  1|企業会計基準における規定
  2|数理実務ガイダンスにおける設定
3―マイナス金利の場合の割引率の取扱いについて
  1|問題の所在
  2|ASBJにおける「議事概要別紙」の概要
  3|マイナス金利下における割引率に関する論点について
4―実際の割引率の適用について
  1|イールドカーブのマイナスの反映
  2|マイナス金利を踏まえた割引率設定方法に関する論点
  3|重要性基準の適用
5―今後の議論が重要

1―はじめに

1―はじめに

マイナス金利の発生がいくつかの新たな問題を呼び起こしているが、退職給付債務の計算に用いる割引率の設定も、大きな問題として取り上げられてきた。日本の会計基準設定主体であるASBJ(企業会計基準委員会)で検討が行われていたが、3月9日に「マイナス金利に関する会計上の論点への対応について」の議事概要別紙1が公表された。これによると、「平成28年3月決算においては、割引率として用いる利回りについて、マイナスとなっている利回りをそのまま使用する方法とゼロを下限とする方法のいずれかの方法を用いても、現時点では妨げられないものと考えられる。」(ASBJ議事概要別紙)としている。
 このレポートでは、マイナス金利下での退職給付債務の計算に用いる割引率の設定に関する議論について報告する。
 
1 議事概要別紙(審議事項(4)マイナス金利に関する会計上の論点への対応について)
https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/minutes/20160309/20160309_06.pdf

2―割引率に関する現在の規定

2―割引率に関する現在の規定

1|企業会計基準における規定
現在の退職給付債務の割引率に関する企業会計基準における規定は、以下の通りとなっている。
 
企業会計基準第 26 号 「退職給付に関する会計基準」
企業会計基準適用指針第25 号 退職給付に関する会計基準の適用指針
2|数理実務ガイダンスにおける設定
これを受けて、公益社団法人日本年金数理人会、公益社団法人日本アクチュアリー会の「退職給付会計に関する数理実務ガイダンス」(以下、「数理実務ガイダンス」という)において、割引率の手法として、以下のアプローチが挙げられている。
 
退職給付会計に関する数理実務ガイダンス
なお、①と②のアプローチによる退職給付債務は、等価となるが、②の場合には、勤務費用が単一の割引率で計算されることになる、という違いがある。さらに、④は③の特定のケースと位置付けられる。
現在の実務においては、簡便性の観点から、多くの会社が単一の割引率を使用している。
①イールドカーブ直接アプローチ、と③デュレーションアプローチによる場合の算出のイメージを示すと、以下の通りとなる。
 
イールドカーブ直接アプローチ、デュレーションアプローチの算出イメージ

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保険研究部   取締役

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

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