コラム
2016年01月13日

「下町ロケット」を「ヒーロー」で終わらせない社会へ

平賀 富一

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テレビドラマ「下町ロケット」が、大きな話題を呼んでいる。筆者自身も毎週楽しみに視聴し、大きな感動と勇気を与えてもらった。

最近、同番組に加えて、日本の中小企業や技術者・職人、企業の第一線の社員の健闘や成果を称える番組が多いと感じる。それらの番組を視聴すると、いつも主人公や登場人物の高い志、自己犠牲ともいえる尊い努力や素晴らしい工夫や気配り、世界に冠たる多くの技術に感心・感動・共感する。

わが国の経済を支えているのは数多くの中小企業であり、そのような企業による産業の裾野の広さと強い基盤は、先進国の多くや、韓国など有力なアジアの諸国との比較における、わが国の産業と社会の強さであると考える。しかしながら、海外企業との競争激化、労働者の雇用難や賃金水準の上昇、原材料高、資金繰りの厳しさ、後継者不足などの事情から、やむなく、優れた技術や人材を評価し欲する海外の企業に買収される事例や、廃業するケースが増えている。その中には、「下町ロケット」の舞台となっている会社のように、世界的に優れた、わが国にとっての珠玉とも言える技術や技術者を保有している企業があり、被買収企業や廃業企業の数は、上記の厳しい事情の中で増加するリスクがある。

このような状況は、わが国にとって大きく国益を損ない、将来の産業力や社会のあり方に深刻な問題を生じさせるものと思われる。最前線の頑張り・工夫・ファインプレーは尊く大切なものであるが、その企業や人たちの過度な負担に依存するあり方を見直し、国や大企業などの関連機関が連携してサポートする体制を強化することが大切であろう。

よく、わが国や産業・企業を評して、現場力は優れているものの、戦略・構想力、リーダーシップやシステム、意思決定や行動のスピードに改善の要が大きいといわれるが、大きな戦略や方向性、体制や仕掛けが十分でないとその結果のしわ寄せとして、現場の頑張りに期待するということになる。

その点、シンガポールなどを見ていると、個々の人材の技術や技量には限界があると認識し、それらに大きく依存することを避けるために、普通の人でもこなせるようなシステム化や仕掛け作りが巧みとの印象を受ける。その話を聞いた際に、「合理的で良いと思うことには先ず取組んでみるのだ」という同国の経済官庁の幹部の言葉は、重みを持って筆者の心に響いた。

また、わが国の企業が、世界に先駆けて開発した技術やデバイスの使用に、日本の企業自体が遅れるという現象もしばしば指摘される。私自身が経験した典型事例の一つは電子メール(e-mail)であった。1990年当時英国に滞在していた際に、英国の企業内では、業務はもちろん、各種イベントの参加者の調整・スケジューリングに電子メールが既に広く活用されていた。日本で、イベントの参加者の調整・スケジューリングなどを、専ら電話や文書でのやりとりで行っていた筆者が、初めて目にしたその新技術と便利さに驚くと、英国人の社員は「このハードウェア(機器)は日本のXX社(大手メーカー)製なのに、何故日本の会社では使わないのか」と、とても不思議そうに語った。その他、歴史のある大規模・複雑化したシステム(レガシーシステム:保守にコスト・手間がかかる傾向あり)に固執して、新たな取り組みや変化への対応に遅れるケースが紹介されることも多い。

「下町ロケット」に感動と共感を覚えエールを送りつつ、良いと思われることに先ず取組むことを評価・促進し、現場や第一線に、過度な負担をかけた無理なファインプレーを要求しなくてもよい社会を目指して、産学官での連携した取り組みの推進を強く期待したいと思う。
 

(2016年01月13日「研究員の眼」)

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平賀 富一

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