2017年10月17日開催

基調講演

中国習体制の今後と東アジア

講師 防衛大学校 学校長 國分 良成氏

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3——国内経済

「国内経済」については、これからパネルディスカッションで、それを中心に議論が展開されるので、飛ばしてお話ししておきたいと思います。

成長率6.5%で、中国の安定が持つのか持たないのか。しかし6.5%は高過ぎないか、どれぐらい投資をしているのだということが、逆に心配になります。今、製造業等も相当苦しい状況にあると思います。軍事費の伸び率は7%です。以前のように10%を超えることはなくなりました。ただし問題は、海外の武器購入や施設設備購入などは、ここにはほとんど入っていないようです。国家予算の中の、恐らく研究開発費など、別の項目のどこかに入っているはずですが、軍事費には入っていません。そうした軍事費分野の研究は結構出ていますが、結局はよく分からないということです。

ただし、ニューエコノミーの部門は、中国はどんどん進んでいます。一言で言うと、党と国家の圧力の強くないところ、いわば市場化に乗っている部分、そして党の権力に歯向かうことのない部分のサービス産業など、そういうところはどんどん進んでいます。お金もうけできるようなところは、どんどん進んでいると思います。日本どころではないぐらい、ニューエコノミーの部分は進んでいます。それこそ去年1年間で、若者たちが起こした新しい企業が、500万件以上という数字が出ています。

でも、本当に成功しているのか。ここから先ですよね。大学生の就職率がずっと悪かったのです。そこで新規ビジネスをどんどん奨励しているようですが、それは形の上ではそうなっているけれども、それがどういう成果をもたらすかは、これからになります。いずれにしても、政治の力が及ばない部分の市場経済は、比較的うまくいっている。しかし、今そこにまで党の圧力を加えようとしています。

もちろんこれは、腐敗を除去するという意味なのでしょうが、政治の介入が起こってくると、逆に腐敗する原因でもあります。今はご存じのとおり、外資系企業にも、党の指導を入れるようにということになってきています。これでいつか資本主義化は可能なのでしょうか。オールドエコノミーは停滞しているけれども、それが依然として非常に強い存在感を示している。今も実際にはバブルがありますが、そのバブルの実態がよく分からないし、ある意味では皆が見たくないというところもあるのかもしれません。

国有企業は既得権益の元凶。確か胡錦濤氏の時代もそうでしたが、国有企業改革をやろうとする意欲は見えたけれど、挫折しました。結局は抵抗勢力がそこに資産を担保して、それを完全に崩壊させることはできない。従って、依然として、主たる中国経済のけん引力は国有企業にならざるを得ない部分が、党の独裁体制との関連でまだあるのです。これを今後どう改革できるかということが、一つの大きな問題です。

人民元についてもこれからまた議論の中で出てくると思います。これも、外貨準備が減ったり、また増えてきたり、非常に忙しいのです。人民元の急落を抑えようとしたのか、あるいは米中関係の調節の目的もあったのか、いずれにしても変動相場制から遠のいて、管理体制が強まっていくという現実があります。

AIIBや「一帯一路」に関して、私は違う見方をしています。私はもともと政治学の専門ですから、どうしてこういう議論が出てくるのかという点を国内の官僚政治から見ています。この議論の背景には、成長が鈍化していく中で、中国の経済成長をどうやって再び起こすのかという点がありました。その議論の一つに中国の、特にアフリカに対する援助の失敗があります。それは商務部を中心にやっていました。お金を出しすぎではないか、リターンも全然ないし、評判も悪いではないか、等々の批判が商務部に対して出ていました。そうした中で、中国の経済成長を起こす方法として、財政部がAIIB(アジアインフラ投資銀行)というアイデアを出してきました。ADB(アジア開発銀行)も中国にとっては非常に効果的なものでしたが、それでは足りない、少ないということで、それ以外に中国主導のものが欲しいという意見の中から財政部を中心にAIIBを出してきたのです。

しかし、金融を使って経済成長を促すというのは、なかなか難しく、中国の国内では大きな議論にはならなかったというのが、私の印象です。ところが、海外でこれが非常に盛んに取り上げられ、イギリスなどが介入し始めた。

もともと中国は中国の国内の経済成長のためにこういうアイデアを考えたのであって、開発途上国や第三世界を援助するためにつくったのでは必ずしもなかった。しかし西側諸国が参加して、ガバナンスの問題が相当出てきて、結局はこれを長期的なプロジェクトにするようになってきています。中国もいずれは第三世界を援助するような機会が出てくる可能性があるだろう、そういうときのためにということに落ち着いてきているように見えます。

「一帯一路」はもともと人民銀行が中心に提起しました。人民銀行と財政部はあまり仲が良くないのですが、まずは人民銀行が中心になってシルクロード基金をつくり、それをベースにして出てきたアイデアが「一帯一路」で、これに外交部等が賛同し、その後習近平氏も乗ってきたという感じがします。

これのメリットは、その周辺の諸国との連携と協力関係を強化することになります。逆に言えば、周辺の諸国は運命共同体に入り、中国の浮沈に結局左右されることになります。一つ気になるのは、「一帯一路」の中でのそれぞれの思惑です。中国の人に聞いていると、海外からの投資を期待しているということなのですが、しかし、海外の人たちは何を言っているかというと、中国のお金を期待しているということです。中国は恐らく国内の巨大プロジェクト建設にくっ付けていきたいとなるのでしょうけれども、これ以上建設をして大丈夫なのかどうかというのもあります。

どうして中国経済が崩れないのか。これも後の議論の中心になりますが、一言で言えば、厳格な管理があるということです。つまり、政治的介入がある。党の指導をさらに強めると言っていますから、さらなる情報の不開示、これで本当に中国経済の将来があるのかどうかということです。市場化の夢とは真逆のことをやっているようにしか見えないのですが、皆さんはいかがでしょうか。

ただ、そういうところから逃れた、非常にフットワークの軽いところは伸びていくと思います。最近は電気自動車なども出てきています。新しいアイデアがどんどん出てきています。

ニューエコノミーの部分で相当強い競争力を持つだろうということも、ある程度考えられます。しかし弱い競争力のところも相当あるということです。それは、党や国家が介入している部分です。しかし、依然としてそれが中国経済の主流を占めているという感じがします。
 

4——対外政策

4——対外政策

対外政策と日本のお話をさせていただきたいと思います。

まずは北朝鮮問題ですが、これが不確定なのは言うまでもありませんが、アメリカのトランプ大統領がどうなのかというのも、一つの不確定要素としてよく議論されています。ただ、ワシントンの中から見たときに、対外問題で何が一番重要なのかといったときに、圧倒的に中東問題の方が大きいようです。それと同時に、アメリカの今の景気がちゃんと続くのかどうかという国内経済問題もあるでしょうし、アメリカの社会の中に起こっている今の分裂状況、これも相当大きなものだと思います。

トランプ大統領は就任前、台湾問題について、多分アドバイスが間違えていたのでしょうけれども、「一つの中国」を見直しすると言って、結局就任後に取りやめることになりました。それから中国との貿易に関する「100日計画」もよく分からなくなりました。中国を為替操作国であるとしていたのも取り下げました。結局口で言っていることとやっていることが、だいぶ変わってきているなという感じがします。

南シナ海に関しては、オバマ政権の末期からアメリカは介入する兆候を見せ、それをトランプ政権も最初は受け継いだのですが、今はもうほとんど大きな行動は何もしていない状況です。つまり、南シナ海の現実はほぼ黙認という形になってきました。

一つ気になるのは、トランプ大統領がこれまでずっと発言してきたことの中に、安全保障が少ないということです。中国の安全保障に関するものはほとんどありません。経済に関わることがほとんどだということです。ただ、ティラーソン国務長官や、そうした周辺の方々との若干の不協和音も見えていますが、結局のところ北朝鮮に対するあの発言が本気なのかどうか。

ただ、一つ忘れてはならないのは、アメリカは中国の核について明確に脅威だと言ったことは一度もないということです。中国は300個程度のICBMを持っていて、アメリカに当然、届きます。しかし、米中ではレベルが全然違いますから、脅威とは言わないのでしょう。この点、北朝鮮は中国と比べると本当に子どもの段階にあるということなのでしょう。そういう現実の差があるということを忘れてはなりません。

中国がどうやって国際社会に上ってきたか。それは核兵器を作ったことが大きい。1960年代、アメリカとソ連の核の独占状態で、特にフランスと中国が反発しました。この二つは友好国になり、国交も60年代に正常化しました。そして中国は核兵器の開発を急ぎました。フランスも急ぎました。部分的核実験停止条約反対ということで、中国は1964年に核実験成功、1967年に水爆実験成功。文化大革命がその間ずっと続くのですが、開発に関係はありませんでした。何があっても核開発を優先しました。同時に、ICBMの開発、実験を繰り返しました。それが60年代です。

キッシンジャー外交による米中接近は1971年から1972年、中国が水爆を作った数年後です。アメリカはソ連という核大国との冷戦状況の中、中国を引き上げることで、バランス・オブ・パワーを取ろうとしたのでした。

ある意味で、核保有によって中国が国際舞台に上ってきたのです。中国が国連に入ったのは1971年ですから、ちょうどそれに歩調を合わせるように、結局核保有についてはほとんど非難されることなく、自分自身の地歩を固めたということです。

もちろん、北朝鮮と状況は全然違うけれども、中国と同じように、恐らく核を作ることによって生存を認めさせ、国交を正常化させ、経済援助なり、経済交流を盛んにすることで、核はそのまま、今の体制を守らせてもらおうとしているのでしょう。

中国が、本当に北朝鮮を脅威に思っているかというと、相当緩くなっている感じがします。今申し上げたような順番からすると、今の段階の北朝鮮の核開発状況では、決定的な脅威にはなっていないと思います。恐らく現段階では、現状を認めて交渉するというのが中国の立場だと思います。あわよくば、将来的にそれが廃棄できればということなのでしょう。最大の目的は、北朝鮮のみならず朝鮮半島の現状固定だと思います。それが中国の国益です。

もう一つ気になるのは、中国のTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)に対する姿勢が異常にきついということです。アメリカから装備を韓国が買うことに対して、ご承知のように、中国は韓国との関係を徹底的に厳しくしています。それまで韓流のドラマや映画が中国にたくさん入っていましたが、今はゼロだそうです。他の商売でも、例えばロッテデパートなども完全にシャットアウトされています。国際会議でも、韓国だけ入れてくれないことが結構多いそうです。

韓国は、「アメリカから買うのだからアメリカに対して言うべきでしょう」と言います。もちろん、中国はアメリカを全く非難しません。そのような状況がなぜ続くのかというと、中国の最大の懸念は、THAADの目的が北朝鮮ではなくて中国だという確信を持っているということです。アメリカの意図は北朝鮮ではなくて中国だと、中国は思っています。であるがゆえに、そこまで強く反発することになるのだと思います。

北朝鮮の今の状況を、どうして中国がそこまで認めるような素振りまで取るのか。もちろん、北朝鮮は中国を侮辱するようなハラスメント行為をずっとやっていますから一貫して怒っています。中国が北朝鮮を抑え切れなかったという長い歴史に関しても、最近の研究の中にもたくさん出てきています。

いずれにしても、トランプ大統領の出方が非常に気になります。もし戦争や攻撃が起こった場合、それによってもたらされる相当な被害と犠牲を考えると、そんなに軽々なことは許されないのだと思います。

南シナ海は、先ほどお話ししたように、今では現状固定です。というよりは、もう中国は取るところは取ってしまいましたので、あとは今後関係が少し緩んだ隙に、建設を進めようとしているのでしょう。

東シナ海も実は非常に困っています。なぜかというと、中国の存在感が日に日に増しているからです。これについては、いろいろな形で増してきていると申し上げておきたいと思います。メディアでの公の情報は、いわゆる海上保安庁と中国海警のレベルのいわゆる公船の話です。問題は軍の全体的な配置状況がどうなっているかです。これも着実に増えていると思っていただいた方がよろしいかと思います。

問題は海だけではなく、空がどんどん力を増してくることです。これは時間の問題かもしれません。恐らく中国の東シナ海での最大の目的の一つは、台湾だと思います。台湾については、68年間ずっと自分たちの領土だと自己主張してきました。そこは彼らにとって正統性があると思っているはずです。恐らく台湾問題に対しても、今日の独立傾向に対して強く警鐘を鳴らしていくと思います。

中国は最近、「新型大国関係」という言葉を止めました。それはアメリカが使ってくれないからです。ただしもう一つ「新型国際関係」という言葉があるのです。これも同じぐらい使われていたのです。どういう意味かというと、例えば第三世界に行って「新型大国関係」と中国が言ったら嫌われます。アメリカと二国でやっていきますからと第三世界で言っても、喜ばれません。ですから、第三世界に行ったときは、むしろ「新型国際関係」を使ってきました。「新型国際関係」は、「今の国際関係は大国・西側主導で不平等なので改善しろ」ということです。

結局「新型の国際関係」と「新型の大国関係」。これはどっちなのか。新型の国際関係は、戦後つくり上げてきたこの国際システムが不平等であるというニュアンスが強いのです。そうすると、新たな国際ビジョン、新たな国際システムをどのようにつくり上げていくのかということになりますが、中国はそれについては今のところ何も出てきていないのです。壊すことに意義を感じるということだけでは困るのです。

中国がこれから市場経済をさらに導入し、開かれた体制へ行くということが、ビジネスの方々にとっても最も重要です。そして中国が国際的なルールに従うようになってくれることを、80年代、90年代、そして2000年代と、ずっと期待してきました。それがこの何年間かの行動を見ていると、どうもそちらではない方向に踏み出し始めてしまったということです。これを止めることもできないし、それ自体が中国にとってもメリットになるのかどうかというクエスチョンは続くと思います。私はそうならないと思っています。

なぜ中国はここまで成長できたのか。なぜここまで世界に影響力のある国になれたのか。それは、世界の中に入り、市場経済の中に入るという国際システムに応じてきたからです。それが、どうも違う方向に歩み出している。それは国内の政治体制と密接に関係しています。 

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