2020年12月22日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(2)-EIOPAの2020年報告書の概要報告-

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1―はじめに

前回のレポートでは、EIOPA(欧州保険年金監督局)が2020年12月3日に公表1した「長期保証措置と株式リスク措置に関する報告書2020(Report on long-term guarantees measures and measures on equity risk 2020」に基づいて、EU(欧州連合)のソルベンシーIIにおける長期保証(Long-Term Guarantees:LTG)措置及び株式リスク措置についての保険会社の適用状況やその財務状況に及ぼす影響について、全体的な状況の概要を報告した。

今回のレポートでは、EIOPAの報告書の第3のセクションから、VA(ボラティリティ調整)について、その国別の適用状況やSCR比率への影響等を報告する2,3。なお、今回の報告では、VAの国固有の増加の適用に関する分析は含めていない。これについては、別途報告することとする。
 
1 https://www.eiopa.europa.eu/content/report-long-term-guarantees-measures-and-measures-equity-risk-2020_en
2 前回のレポートで述べたように、以下の図表及び図表の数値は、特に断りが無い限り、EIOPAの「長期保証措置と株式リスクに対する措置に関する報告書2020」からの抜粋によるものであり、必要に応じて、筆者による分析数値を加えたり、表の項目の順番を変更する等の修正を行っている。
3 LTG措置や株式リスク措置の具体的説明については、「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの2020年報告書の概要報告-」を参照していただきたい。
 

2―VA(ボラティリティ調整)の国別の適用状況

2―VA(ボラティリティ調整)の国別の適用状況(適用会社及びSCR比率への影響等)

1|適用会社
VAについては、幅広く21カ国、631の会社が適用している4

国別では、フランスが160社と最も多く、次がドイツで86社、スペイン80社、イタリア67社と続いている。また、前回の報告書との比較では、英国除きのベースで5社減少しているが、その内訳はフランスが7社、オランダが4社等となっている。一方で、イタリアでは3社増加している。
VAの国別適用状況(会社数)
VAを適用している会社の技術的準備金のEEAにおける市場シェアは、以下の図表の通りとなっており、フランス、ドイツ、イタリアで高くなっている。
図表 VAを適用している会社の技術的準備金のEEA市場シェア
技術的準備金の市場シェアでは、EEA全体で79%の会社がVAを適用しているが、国別ではイタリアにおける市場シェアが最も高く、ベルギー、オランダ、フランスが続いている。また、9カ国(オーストリア、ベルギー、フィンランド、フランス、ギリシャ、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ノ、ポルトガル)で、国内市場の75%以上の技術的準備金に対してVAが適用されている。なお、生命保険に対する技術的準備金の殆どは、VAを適用した会社で保持されている。
図表 VAを適用している会社の技術的準備金の国内における市場シェア
VAとTTPを併用している会社の国別内訳は以下の図表の通りとなっている。

会社数は、118社で、前回の報告書の英国除きの111社に比べて7社増加している。
VAとTTPを併用している会社の国別状況
なお、ノルウェー、フィンランドのようないくつかの国においてはTTPの適用とVAの適用の間には大きな重複がある。

また、VAを適用しているグループ数は128である。
 
4 なお、以下の図表において、縦横合計等が必ずしも一致していないケースもみられるが、基本的には報告書の数値をそのまま使用している。
2|SCR比率への影響
VAを適用しなかった場合のSCR比率への影響については、以下の図表の通りである。

(VAを適用している会社の)EEA全体の平均では247%から222%に25%ポイント(図表の数値に基づく、以下同様)低下する。

国別では、オランダは180%から128%に52%ポイント低下し、絶対水準でも影響度割合でも最も影響が大きい。ドイツが296%から261%に35%ポイント低下し、デンマークが268%から239%に29%ポイント低下で続いている。これは、これらの国々においては、VA非適用によりSCRが大きく増加(オランダは33.8%、ドイツは12.7%、デンマークは11.0%)することによっている。

一方で、主要国では、MA適用会社の多いスペインでの影響は3%ポイントと低くなっている。また、フランスは24%ポイント、イタリアは9%ポイントの影響となっている。
図表 VA非適用によるSCR比率への影響
いずれにしても、前回の報告書と比較して、VAを非適用とすることによる平均的な影響は、VAの水準が、例えばユーロの場合、2018年末の24bpsから2019年末には7bpsに大きく低下したことから、大きく減少している。

因みに、過去からの影響度の状況は、以下の図表の通りで、2018年末が最大の影響度であった。

このように、VA非適用がソルベンシーポジションに与える影響が多くの国で一定程度あることが示されている。なお、数値の比較は、分析に組み込まれている一部の内部モデル使用者のVAの動的モデリングによって影響を受けることに注意が必要である。
図表 VA非適用によるSCR比率への影響(過去からの推移)
以下の図表が、VAを適用している会社の適用前後の状況を示している。

VAを適用している会社の97%の絶対的な影響は0%から100%の範囲内となっている。また、0.8%の会社がVAを適用しない場合、SCR比率が100%未満となる。前年の数値は18%だったので、この数値は大きく低下している。なお、0.16%の会社がVAを適用しない場合、適格自己資本がマイナスになる。前年はこのような会社はなかった。
SCR raito
 3|技術的準備金への影響
技術的準備金への影響は、EEA全体で0.3%の増加となる。

ノルウェーが0.8%の増加で、最も高い影響度となっており、オランダが0.7%の増加で続いている。
図表 VA非適用による技術的準備金への影響
以下の図表が、VAを非適用とした場合の影響の会社ごとの分布状況を示している。
図表 VA を非適用とした場合の会社ごとの影響
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中村 亮一

研究・専門分野

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