医療・ヘルスケア
2018年08月27日

退職後の健康保険の任意継続ってなに?

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1―退職後の任意継続とは?

サラリーマン等が会社を退職した場合の健康保険の取扱はどうなるのでしょうか。

これについては、以下の3つの選択肢があります。退職時には、これらの選択肢のどれを選ぶのかをご自身で判断して、加入手続きを忘れずに行う必要があります。

(1) 国民健康保険に加入  
現在居住している市区町村の国民健康保険に加入する。なお、被扶養者がいる場合は、併せて国民健康保険に加入することが必要となります。

(2) 配偶者等のご家族の健康保険に被扶養者として加入
配偶者等のご家族が加入する健康保険に被扶養者として加入する。

(3) 現在の健康保険に引き続き加入(任意継続
それまで加入していた健康保険に被保険者として引き続き加入する。なお、被扶養者も併せて任意継続することができます。

このように、「任意継続」というのは、退職等によって、自分が現在加入している事業所の健康保険の被保険者の加入資格を喪失したときに、一定条件のもとに個人の意思により、現在の健康保険に継続して加入できる制度、のことを言います。
 

2―任意継続の概要

2―任意継続の概要

|任意継続被保険者となるための要件 
任意継続被保険者となるためには、以下の要件を満たしている必要があります。

(1) 資格喪失日の前日までに「継続して2ヶ月以上の被保険者期間」があること1
(2) 資格喪失日から「20日以内」に、申請(「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出)すること(20日目が営業日でない場合は翌営業日まで)
 
1 退職したときの事業所で2ヵ月以上の被保険者期間がなかった場合でも、健康保険の被保険者期間(協会けんぽ及び健康保険組合に加入していた期間)が1日も間を空けることなく2ヵ月以上あれば、任意継続に加入することができます。
 (2ヵ月以上の被保険者期間には任意継続被保険者期間及び共済組合等その他の医療保険加入期間は含まれません。)
2|被保険者期間 
任意継続被保険者の被保険者期間は、「任意継続被保険者となった日から2年間」となります。

3|任意継続被保険者の資格喪失
次のいずれかに該当するとき、任意継続被保険者の資格を喪失します(カッコ内は資格を喪失する日)。

(1) 任意継続被保険者となった日から2年を経過したとき(被保険者証に表示されている予定年月日)
(2) 保険料を納付期日までに納付しなかったとき(納付期日の翌日)
(3) 就職して、健康保険、船員保険、共済組合などの被保険者資格を取得したとき(被保険者資格を取得した日)
(4) 後期高齢者医療の被保険者資格を取得したとき (被保険者資格を取得した日)
(5) 被保険者が死亡したとき(死亡した日の翌日)
(1)又は(2)の理由で、任意継続被保険者の資格を喪失した場合、資格喪失後は、国民健康保険に加入するか、ご家族の健康保険の被扶養者となるか、のいずれかとなります。

なお、上記の場合を除いて、任意の申し出により、任意継続被保険者であることをやめることはできません(即ち、市町村の国民健康保険に加入する、又は健康保険の被扶養者になるため、という理由では資格喪失はできません)。

4|保険料
任意継続被保険者の保険料については、退職時の標準報酬月額等に基づいて決定され、保険料は原則2年間変わりません。具体的には、(1)本人の退職時の標準報酬月額、及び(2)当該健康保険組合の全被保険者の標準報酬月額を平均した額を標準報酬月額の基礎とみなしたときの標準報酬月額、のうちいずれか少ない額を標準報酬月額として決定される保険料となります。

なお、被扶養者の保険料については支払う必要はありません。

5|保険給付
任意継続被保険者である間は、在職中の被保険者が受けられる保険給付と同様の給付を原則として受けることができます。ただし、傷病手当金及び出産手当金は、任意継続被保険者には支給されません2
 
2 傷病手当金及び出産手当金は、任意継続の加入とは関係なく、在職中からの継続給付の要件を満たす場合に限り対象となります。
 

3―任意継続を利用することのメリット・デメリットは何か?

3―任意継続を利用することのメリット・デメリットは何か?

それでは、退職後の選択肢として、どの医療保険制度に加入することが妥当なのでしょうか。

まずは、配偶者等のご家族の健康保険の被扶養者となる場合、配偶者等の保険料負担は増えませんし、自分で保険料を負担することもありません。従って、他の2つの選択肢と比較して、保険料負担と言う意味でのメリットが最も高く、被扶養者として認められる状況にあるのであれば、一般的にはまずはこの選択肢が選ばれることになります。

配偶者等のご家族の健康保険の被扶養者とならない場合には、国民健康保険に加入するのか、任意継続するのか、ということになります。

これについては、各人の状況によって異なりますので、一概にはどちらが有利であるとは言えません。ただし、一般的に、以下のメリット及びデメリットが言われていますので、これらをベースに各人が判断していくことになります。

なお、いったん国民健康保険に加入してしまうと任意継続への切り替えはできなくなるという点はよく考慮しておく必要があると思われます。

こうした点や、「任意継続被保険者」は、2年間という期限付きですが、退職前とほぼ変わらない保険給付及び保健事業を受けることができますので、一般的には「任意継続」を選択される方が多いようです。

ただし、例えば、退職時に配偶者等のご家族が未就職であっても、近々に就職する予定がある場合等は、任意継続被保険者にはならずに、国民健康保険に加入しておき、ご家族の就職とともに、その健康保険組合の被扶養者として加入するということも考えられます。

なお、在職中は、保険料は会社が半額負担してくれていましたが、退職後の保険料は、全額を自分で負担することになりますので、いずれにしても保険料は在職時よりも高くなります(単純計算で2倍となりますが、保険料の上限額も定められていますので、必ずしもそうなるとは限りません)。
|任意継続のメリット 
(1) 退職時の給与水準によっては、国民健康保険よりも保険料が安くなる可能性がある
国民健康保険の保険料は、基本的に前年度の所得に基づいて計算がされるため、給与水準の高い方が国民健康保険を選択すると、一般的に保険料も高額となります3

これに対して、任意継続の場合の保険料は、退職時の給与が月額27万円以上であれば、標準報酬月額28万円という上限の水準で計算されることになります。

従って、退職時の給与が高い人ほど、国民健康保険と比べて任意継続の方が保険料が安くなる可能性があります。

(2) 国民健康保険とは異なり、扶養者と言う考え方がある
国民健康保険には扶養者という考え方がありませんので、世帯毎の加入人数で保険料が変わってきます。

一方、任意継続では、家族の構成員が一定の要件を満たしていれば、扶養者となり、家族に対応する保険料を支払う必要がなく、被扶養者が何人いても保険料は変わりません。

従って、被扶養者が多ければ、国民健康保険よりも任意継続の方が保険料が安くなる可能性があります。

(3) 保険給付等が基本的に現行と変わらないことから安心感がある(健康保険組合によって異なる)
健康保険組合によって違いはありますが、現在の健康保険を任意継続することで、今までと同じ給付内容を受けることができます。健康保険組合が行う保険給付や保健事業にもよりますが、人間ドックの受診補助を受けたり、保養所施設を利活用したりすることも可能となります。
 
3 国民健康保険の保険料にも上限はあります。
2|任意継続のデメリット 
(1) 各種の厳しい条件や要件を満たす必要性がある
任意継続には、先に述べたような要件が課されますので、加入者であるためには、これらの要件を満たす必要があります。

例えば、任意継続に加入するには、退職後20日以内に手続きをしなくてはなりません。1日でも遅れると理由が何であれ加入することはできなくなります。さらには、保険料を滞納すると即時に資格喪失となります。

加えて、一度任意継続を選択すると、国民健康保険に加入したい、ご家族の健康保険の被扶養者になりたい、といった理由で、医療保険制度を変更することはできません。

(2) 国民健康保険の方が保険料が安くなることもある
国民健康保険は前年度の所得に基づいて保険料が計算されますので、退職後1年目の所得が低い場合、その翌年の保険料は、その低い所得が反映されます。一方で、任意継続の場合、退職時の標準報酬月額等に基づいて決定された保険料が2年間は変わりませんので、任意継続の方が保険料が高くなる可能性もあります。

なお、「協会けんぽ」の保険料は都道府県毎に、国民健康保険の保険料は市区町村毎に異なりますので、ご自身のケースについては、そうした点も調査した上で判断していくことが必要になってきます。

(3) 任意継続の被保険者期間は2年間に限定されている
任意継続の被保険者期間は2年間に限定されており、2年を過ぎると自動的に脱退することになっています。従って、2年後に国民健康保険等の他の健康保険に新規加入する等の手続きを行うことが必要となってきます。
 

4―特例退職被保険者制度とは?

4―特例退職被保険者制度とは?

これまで、健康保険における一般的な制度である「任意継続」について、説明してきました。

ここでは、一部の「組合健保」が有する「特例退職被保険者制度(特退)」について説明します。

既に説明したように、「任意継続」の場合、加入できる期間は「2年間」と定められています。ところが、「特例退職被保険者制度」があれば、後期高齢者医療制度の対象となる75歳まで、元の健康保険に加入し続けることができます。

在職中にこのような制度を有する「組合健保」に加入していた場合には、一般的には「特例退職被保険者制度」への加入を前提にして考えることがより理にかなっている、ということになります。
1|制度の主旨 
このような制度が設けられている主旨は、「定年等で退職して厚生年金等を受けている人が、後期高齢者医療制度に加入するまでの間、在職中の被保険者と同程度の保険給付並びに健康診査等の保健事業を受けることができる」ようにするため、ということになっています。

2|制度のメリット 
特例退職被保険者制度のメリットとしては、「3―1|(2)及び(3)1」で述べた任意継続のメリットを後期高齢者医療制度の対象となる75歳になるまで受けることができ、「3―2|(3)」で述べた「2年後の加入手続き」という任意継続のデメリットをカバーすることができるということが挙げられます。

3|利用者の条件 
ただし、特例退職被保険者制度に加入するには、例えば、以下のような条件が定められています。

(1) 健康保険組合の被保険者であった期間が20年以上あること、又は
(2) 被保険者であった期間が40歳以降で10年以上あること(なお、健康保険組合によって年数が異なります)
(3) 老齢厚生年金の受給資格者であること

4|保険料
特例退職被保険者の保険料については、当該特定健康保険組合の特例退職被保険者以外の全被保険者の標準報酬月額と、全被保険者の標準賞与額を平均した額の12分の1に相当する額、との合算額の2分の1に相当する額の範囲内で定められる標準報酬月額によって決められます。

5|保険給付
特例退職被保険者については、任意継続被保険者と同様に、在職中の被保険者が受けられる保険給付と同様の給付を原則として受けることができます。ただし、傷病手当金については、継続給付も含めて支給されません。

|制度の利用状況 
このようなメリットがある特例退職被保険者制度ですが、実際にこのような制度を設けることができるのは、一定の条件を満たして厚生労働大臣の認可を受けた「特定健康保険組合」と呼ばれる健康保険組合となります。具体的には、700人以上の従業員がいる企業の場合、あるいは同じ業種の会社又は一定地域の会社が集まって3,000人以上の従業員がいる場合に、厚生労働大臣の認可を受けて、特定健康保険組合を設立することができます。

「特定健康保険組合」の数は限られています。厚生労働省の調査によれば、2014年度において、約1400ある健康保険組合のうち、特定健康保険組合はわずか61に留まっていました。その後も、全体的に健康保険組合自体が解散で数を減らしている状態の中で、明らかに費用負担の増加につながる特例退職被保険者制度を採用する「特定健康保険組合」の数は、新設も見込まれず、さらに減少していくことが想定されています。 
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中村 亮一

研究・専門分野

(2018年08月27日「基礎研レター」)

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【退職後の健康保険の任意継続ってなに?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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