2016年11月09日

人間の直感の不確実性-数学的な正しさと乖離している場合があることを知っていますか

基礎研REPORT(冊子版) 2016年11月号

中村 亮一

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1―はじめに

人間の直感が非常に役に立つことは理解されるが、時として、この直感が数学的には正しくないことがあることは有名な話である。

2――誕生日のパラドックス

一番有名なのは、「誕生日のパラドックス」と呼ばれているものである。

具体的には、「現在1つの部屋にn人の人がいるとする。この時に、何人の人がいれば、誕生日が同じ人がいる確率が50%以上になるのか。」という問題である。

この答えについて、多くの人は、直感的に、相当多くの人数を想定してしまう。極端なことを言えば、365日の1/2の183人が必要だと思う人もかなりいると思われる。

ところが、この答えは23人ということになる。23人の人がいれば、少なくとも誕生日が同じ一組が存在する確率が50%を超えることになる。これは、数学的に簡単に証明できる。

n人の誕生日が全て異なる確率をp(n)とすると、
数式(1)
となる。n人の中で同じ誕生日の人が少なくとも2人いる確率q(n)は、
数式(2)
となる。n=23の場合に、この数値は0.507となって50%を超える。

同じ考え方により、41人の人がいれば、90%以上の確率で、70人の人がいれば、99.9%以上の確率で、誕生日が同じ人がいることになる。これは、直感的には驚くべきことのように思われるのではないか。

これが「パラドックス」と呼ばれるのは、論理的な矛盾がある、という意味ではなく、あくまでも、一般的な直感に反している、という意味で、このように称されている。

一方で、この数値を100%にするには、当然のことながら、366人(うるう年も考慮すれば、367人)必要ということになる。このように、100%を追求することは極めて難しい、わずか0.1%のために5倍以上の人が必要になってくる。

3――誕生日問題

これまでは、部屋の中の誰でもよいので、少なくとも2人の誕生日が一致する確率を述べてきた。これが特定の人が誰か他の人と誕生日が一致する確率となると、極めて低いものになる。

即ち、n人の部屋に特定の人と同じ誕生日の人がいる確率r(n)は、
数式(3)
となる。23人の場合にはわずか6%であり、50%を超えるためには、253人いなければならなくなる。さらに、99%以上の確率となるためには、1,679人、99.9%以上の確率となるためには2,518人いなければならない。

この誕生日のパラドックスは情報科学において様々に応用されており、代表的なものでは、ハッシュテーブルというデータ構造におけるテーブルの大きさを決めるのに利用されている。

4――具体例

因みに、小中学校のクラス(学級)を想定した場合で、誕生日が一致する確率を見てみると、以下の通りとなる。昔で言えば、40人や50人のクラスも多かったと思うが、この場合には、クラスで同じ誕生日の人が一組はいる確率が9割程度あった。今や平均人数は30人を切っており、20人のクラスではその確率は40%程度になってしまう。
図表

5――直感力を養うことの重要性

このように、人間の直感は、結構当てにならないことがわかる。

物事を進めていく上で、過去の経験等に基づいた直感を働かせることはもちろん重要なことであるが、時として、その直感が誤ったものとなっていることがある。

こうした直感は、経験を積むことで、感度を高め、磨きをかけていくことが可能だと思われる。その意味では、いろいろなケースを学ぶことを通じて、知識を充実させていくことが、いざという時に役立つ、適切な直感力を発揮する上でも、重要なことであると、改めて感じさせられる。
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(2016年11月09日「基礎研マンスリー」)

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