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東京の賃貸オフィス市場の改善が遅れている。大阪、名古屋、札幌、仙台、福岡といった地方大都市の空室率は軒並み低下傾向を強めているにもかかわらず、東京の空室率は8%台という高水準のまま下げ渋っているが、3年もの長期にわたってこのような高原状態が続いた経験はこれまでにない。地方都市で景気の見通しについて聞くと、「まず東京が良くならないと、地方経済は浮上しませんよ」と言われることが多いが、賃貸オフィス市場については事情がやや異なるようだ。この背景として、都心部で大型オフィスビルの建設がこれまで切れ目なく続き、今年は少ないが2014年以降再び増加する、という供給圧力の存在を無視できない。しかし、2008年の金融危機(いわゆるリーマン・ショック)以降の3年間で4%以上も消失してしまった入居面積1が、現在も元の水準にまで戻っていないという需要面の問題にも目を向けるべきだろう。
地方のオフィス市場は、金融危機による需要減少が比較的小さかった反面、ファンドマネーの急収縮で新たなオフィスビル建設計画もほとんどなくなった。このため、景気がわずかでも持ち直せば、コールセンターや地域向けサービスなど小口のオフィス需要が増えて市況は改善しやすい。地方都市が支店・営業所中心の経済とすれば、東京は本社や外資系企業の拠点が集積する経済中枢都市2といえるだろう。東日本大震災後も本社を地方に移転する大企業はほとんどなく、経済の一極集中構造が続く東京でオフィス需要が伸び悩む背景として、金融セクターや不動産セクターにおけるリストラの影響を指摘することは容易である。しかし、最近の大手電機メーカーの凋落や内需産業の旺盛なアジア進出意欲をみれば、世界やアジア圏における日本の経済的地位の低下や日本の代表的企業の経営不振も一因といえそうだ。国内では一人勝ちの東京も、いまやアジアの大都市と有力企業のヘッドクォーター立地を競っているだけに3、後者の場合、問題はより深刻だ。
実際、6重苦といわれる経営環境の中でグローバルな競争にさらされる国内企業において、本社オフィスの立地戦略は重要な経営課題のひとつになっており、BCP(事業継続計画)や省エネなどビルに対する要求水準は高度化している。企業が不動産リテラシー(情報の収集・読解力)を高めた現在、いわゆる「近・新・大」ビルならどこでも良いというわけではなく、有力企業の本社誘致の難易度は上がっている。このため、グレードAともいわれる最上位クラスのビルを所有する大手オーナーであっても、好況期のような他人任せの姿勢では遅れを取りかねない。全体のオフィス需要が伸び悩む中でも、最近は、老朽化した自社ビルの売却や建替えを理由に賃貸ビルに移転する事例や、オフィスの統合・集約や立地改善、機能強化を目的とした積極的な移転事例が増加している。それだけに、ビル営業の現場においても、顧客のCRE(企業不動産)戦略に合致したビルや契約条件、サービスメニューをいち早く提案できるかどうかが問われている。
これは、少なくとも東京の最上位クラスのオフィスビルが、オペレーショナル・アセット化したことを意味する。オペレーショナル・アセットとは、その管理運営において特別なノウハウや専門性が求められ、当該資産のマネジメントに精通した専門のオペレーターの経営次第で収益が大きく変動する資産を指す。商業ビルやホテル、レジャー・アミューズメント施設、病院・診療所、高齢者施設などがこれに当たり、管理運営の標準化が進んだ賃貸オフィスビルやマンションと区別されてきた。しかし、有力企業の本社を誘致しようというオフィスビルは、立地や構造・設備などビルそのものの商品性はもちろん、営業力や提案力、運営力など事業者の総合力が問われる点でオペレーショナル・アセットに他ならない。今後も有力企業を巡ってアジア主要都市との熾烈な誘致競争が続くのは間違いないが、むしろ、厳しい目を持った顧客に本物が選ばれる時代が到来したと前向きに捉え、ビルの商品価値や総合的なオペレーション能力、顧客とのコミュニケーション能力や交渉力などをさらに磨く契機にすべきだろう。
(2013年01月11日「研究員の眼」)
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