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<米国経済>
米国経済は景気低迷感が一段と強まっている。第3四半期のGNP暫定値は、前期比年率で1.7%成長と、先月発表の速報値1.8%から小幅修正された。今回の成長は一時的要因によるところが大きく、米国景気の実勢は依然として弱いものと見られる。
内訳をみると、GNPの約65%をしめる個人消費が、乗用車のインセンティブ販売増等を主因に3.2%(速報値3.6%、以下同様)と比較的高めの供びとなった。また設備投資も、輸送機器の大幅増から8.2%(7.4%)の伸びとなったが、住宅投資は▲19.2%(▲15.4%)と下方修正され、依然として低迷している。純輸出は、輸出が4.3%(1.2%)と上方へ、輸入が4.3%(6.0%)と下方へ修正されたことから、年率5億ドルの悪化(79億ドル悪化)にとどまった。
生産面を見ると、10月の鉱工業生産は前月比▲0.8%と9月の0.2%増から大幅に減少した。自動車・同部品が同▲4.5%の減少を記録したほか、生産減少は広範な業種にわたり、それまで比較的底堅い伸びを示していただけに一段の景気悪化の印象を強める結果となった。
雇用については、11月の失業率は5.9%と前月比0.2%悪化した。一時的な雇用者である国勢調査員を除いた非農業部門雇用者数を見ると、前月比▲25.6万人と2ヵ月連続しての減少となった。
家計部門の指標をみると、10月の小売売上高は前月比0.1%増となり9月の同1.3%増から伸びが鈍化した。また10月の個人消費支出は名目で前月比0.1%増となり、実質では▲0.7%の減少となった。一方、10月の新設住宅着工件数は季調済年率で104.1万戸、前月比▲6.0%と大幅に減少し、'82年8月以来、約8年ぶりの低水準となった。これで住宅着工件数は9ヵ月連続の減少となり、統計開始以来最長のマイナスを記録した。
物価動向を見ると、10月の消費者物価は前月比0.6%上昇、生産者物価は同1.1%上昇となり、それぞれ前月の上昇率よりやや伸びが鈍化した。また、変動の大きい食料・エネルギー部分を除いた消費者物価のコア部分は同0.3%上昇と前月と同水準であり、ここにきて原油価格上昇の伴う物価上昇に一服惑がでできている。
こうした景気低迷、物価上昇の鈍化を受けて、FRBは12月7日に今年4度目のFFレート引き下げを行い、目標水準を7.25%とした。一方で、12月4日には、銀行の預金準備のうち、非個人定期預金とユーロカレンシー純負債に対する準備率(現行3%)を2段階に分けて撤廃すると発表した。この預金準備率一部撤廃によってどの程度、銀行の貸し渋りを和らげ、金融緩和的効果を与えることができるか判断は難しいが、(1)12月は季節的に資金需要が強いこと、(2)'91年1月から預金保険料率が引き上げられること(100ドル当たり現行12セント→19.5セント)、等から直接的な金融緩和効果は大きくないものの、銀行の収益改善には寄与するものとみられる。但し、今後、一般のFFレート、公定歩合引き下げをにらんだ措置との見方もあり、引き続きFRBの政策スタンスが注目される状況が続こう。
<日本経済>
○景気は引き続き堅調
日本経済は今のところ堅調に推移している。ただし景気の先行きに関しては、9月の景気動向指数(先行指数)が27.3で、7ヵ月ぶりに50を下回った乙とに象徴されるように、やや減速感が出ている。なお10月の生産指数は、前月比では2.5%(前年比では5.4%の上昇)となっている。11、12月の生産予測指数は10月の反動減もあって、若干低下の見込みあるが、足元の生産は引き続き拡大基調にあるといってよい。
個人消費関連の指標を見ると、10月の大型小売店販売額は前年比4.7%増と、伸び率はペースを落としながらも堅調である。ただ、11月の新車登録台数(軽自動車含む)は前年比0.9%にとどまり、頭打ち感が出始めている。
設備投資関連指標では、先行指標としての機械受注(船舶・電力を除く民需)が8月に前月比1.1%と小幅増加した後、9月も6.2%増となった。同指標の10-12月期の経企庁見通しは、9月までの増勢の反動が出て0.9%の微減となっているが、受注残の水準の高さも勘案すれば、今年度の設備投資は堅調であると予想される。
住宅関連の指標をみると、住宅着工件数は金利上昇などの影響で、前年比の伸び率は低下基調を辿り、前月比で7-9月期の2.7%減に続き、10月も単月で3.2%減となった。住宅着工件数は今後も減少傾向で推移しよう。
○引き締まった労働需給
労働需給は引き続き逼迫している。10月の有効求人倍率(季調済)は、1.42倍であり、依然として高倍率のまま推移している。
労働市場のタイト化を映じて、名目賃金指数(全産業、ボーナス等込み)も、10月は前年比4.8%と高い伸びを続けており、物価面への影響が懸念されるところである。
○高値原油の入着と国内石油関連製品への価格転嫁で、卸売物価が上昇
10月の輸入物価は、高値原油の入着の影響が続き、前月比で2.0%上昇した(前年同月比では9.7%上昇)。さらに9月に続いて10月も国内の石油製品への価格上昇の転嫁が行われ、国内卸売物価は前月比0.3%の上昇(同1.8%上昇)となった。なお国内では、加工食品の値上げの動きが依然として継続している。
なお10月からは、消費者物価にも石油製品の小売価格の引き上げが反映されている。そこに、天候不順による生鮮食料品の値上がりも加わって、10月の全国総合指数は前月比で1.3%上昇した(前年同月比では3.5%上昇)。
○通関出超幅は前年比で増加
10月の通関統計は、出超幅が32億ドルとなり、前年同月比30.4%の縮小となった。輸入が原油価絡の高騰で、前年比27.6%の増加となったことが影響した。10月の輸入原油の単価は、1バレル30.4ドルに達し、前月比で約8ドル上昇している。
<イギリス経済>
イギリス経済は'89年後半から景気の減速傾向が強まっていたが、12月に入って、公式にリセッション入りが宣言された。'90年のGDP成長率(支出ベース)は1-3月期の前年同期比1.6%から、4-6月期には同2.3%とやや回復したが、7-9月期は同0.5%(生産ベース、暫定値)と再び低下しており、'90年の成長率は1%台に止まる見通しである。
個人消費はこれまで景気を下支えしてきた。しかし、小売売上数量の推移をみると、4-6月期の前年同期比1.7%増から、7-9月期には同1.0増に鈍化し、10月も前年同月比▲0.5%とさらに落ち込んでいる。
イギリス政府は、総選挙も間近いことから、10月初旬には市場貸出金利を引き下げ(15%→14%)、金融緩和に転じている。
小売物価(消費者物価に相当)上昇率でみたインフレ率は、労働コストの上昇から高止まり状態にあった。8月以降は中東情勢不安による原油価格上昇の影響が加わり、さらに上昇しており、10月は前年同月比10.9%の高水準にある。
貿易赤字は、4-6月期17.3億ポンド、7-9月期12.7億ポンド、10月は10.7億ポンドに止まっており、内需鈍化による輸入の減少から改善傾向にある。
<ドイツ経済>
旧西独地域のGNP成長率は、'90年4-6月期に前年同期比3.4%となった後、7-9月期は前年同期比5.5%増と急伸した。項目別の寄与度では、個人消費が2.3%、設備投資が1.3%となっており、ドイツ統一の影響をうけ内需中心に好景気が続いている。'90年全体の成長率は'89に引き続き、4.0%程度になる見込みである。
<ドイツ経済>
生産面をみると、7-9月期の鉱工業生産は前期比3.2% 、前年同期比5.7%となり、4-6月期(各々▲0.7%、4.6%)を上回った。製造業設備稼働率も9月末時点で89.9%と、6月末の89.4%を上回った。
物価についてみると、生計費(消費者物価に相当)の前年同期比成長率でみたインフレ率は、年初来のマルク高、一次産品価格の安定等から'90年4-6月期には2.3%に止まっていた。しかし、8月以降は中東不安による原油価格の高騰をうけ、上昇傾向を辿っており、11月のインフレ率3.2%となった。「エネルギー除きの生計費」でみると、8月以降も2.5%程度の比較的落ち着いた推移を続けている(4-6月期2.6%)。ものの、景気過熱によるインフレ懸念は依然強い。
貿易面では、(1)旧東独による(西側製品への)需要の拡大、(2)旧西独の貿易相手国における景気の鈍化―等を主因として通関統計ベースでみた貿易黒字は減少傾向にある。
<カナダ経済>
カナダ経済は減速傾向となっている。4-6月期の実質GDPが前期比0.3%の低下を示した後も、生産、消費面ともに基調としては弱い動きを持続している。
物価動向を見ると、消費者物価は10月原油価格上昇の影響により、前月比0.8%の上昇、前年同月比4.8%の上昇となった。賃金上昇率は高い水準で推移しており、物価上昇圧力は根強い。
貿易収支については、9月14.8億加ドルの黒字と8月の6.8億加ドルから黒字幅は拡大した。9月、輸入の伸びが国内景気の低迷から前月比3.4%減少した一方、輸出が同3.6%増加したことによる。
'91年1月より財・サービス税(大型間接税の一種、7%)の導入による物価上昇圧力の高まりに警戒する必要がある等から、当面、本格的な金融緩和は期待しがたい環境とみられる。金融当局は景気動向を勘案しながら、金利の小幅、段階的な引き下げを目指すものの、基本的には高金利政策を続けよう。このため、景気は減速傾向を持続しよう。
<オーストラリア経済>
オーストラリア経済は、景気鈍化が続いており、リセッション・マインドが深まってきている。
'90年7-9月期の実質GDP(前期比)は、内需が▲0.1%の減少となる一方、外需の成長寄与度が▲1.5%となった結果、全体では▲1.6%と2四半期連続でマイナス成長となった。内訳としては、個人消費が前期比0.3%の伸びと前期の0.6%伸びから弱まり、民間固定資本形成が同0.2%とほぼ横這いに動くとともに、民間非農業部門在庫が同▲0.8%と大幅なマイナス成長寄与度となった。
物価については、7-9月期の消費者物価上昇率が前期比0.7%(4-6月期同16%)、前年同期比6.0%(4-6月期同7.7%)の低い伸びとなった。それに伴い、11月に再審議された政府と組合連合(ACTU)の賃金協定で、既に掲げられた7%(名目)の総合賃上げ目標が6%にまで下方修正され、'91年1月の所得税減税も決められた。今後のインフレ率は、徐々に落ち着きをみせよう。
(1991年01月01日「調査月報」)
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