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2014年10月21日開催

基調講演

「東京の都市力2020年の展望と課題」

講師 市川 宏雄 氏

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2020年東京五輪開催によるランクアップシミュレーション

昨年、2020年に東京五輪を開いたら一体どうなるかを計算しました。2012年にオリンピック開催のおかげでロンドンは1位に上がったのですが、では東京はどうなるのかをシミュレーションしました。ロンドンのケースでは、イベントが増えるので、それに応じてホテルが増えました。

結果的に、ニューヨークのスコアは指標が上がったものは少ないけれどもロンドンはもっと上がったということが起きたわけで、東京の場合も、70の指標のうち13の指標がオリンピックに影響するということで、この影響を見ています。

結果から言うと、東京はパリを抜いて3位に上がり、2位のニューヨークに接近することが分かっています。指標のおのおのがどうなるか、ロンドンで起きた現象を東京に当てはめた場合と、特に交通・アクセスに関して、政府は「2020年には2000万人が来るから、国際線発着回数を増やす」と言っていますが、そういったものを入れてみたというのが作業の中身です。

結果として、経済ではGDPはあまり上がらないけれども、証券取引所の時価相場が上がる、文化・交流では、かなりの施設系が増えてくる、交通系でもかなり上がっていくということが反映されて数字として出てきました。

本当に3位なのかと言われると、私の中ではもう2位だろうと思っています。もちろん今ロンドンもニューヨークも先を走っていますが、これから東京が行う政策がかなり有効であれば、3位どころか2位になるでしょう。しかし現状では、こういうシミュレーションでは、3位を確保して2位に近づくという結果になっています。これからまだ5年半ありますから、これからどうなるかは政策実行状況によると思います。
 

東京五輪2020の経済波及効果

こういう話をすると、では五輪開催で経済波及効果は一体どうなってるのかという質問が出ます。これについては既に幾つかの機関が発表していて、私が知っている限りで四つか五つ出していますが、傾向は大体似ていると思っています。

問題は東京都で、東京都発表の試算では、粗付加価値で1.4兆円で生産誘発が3兆円と出ましたが、私はこの数字は初めからおかしいと思っています。森記念財団都市戦略研究所が出した試算では生産誘発が16.4兆円ですから合計で19.4兆円、約20兆円になるという結果が出ました。幾つかの機関が試算していますが、10~30兆円ぐらい出ています。

東京都はあくまでもオリンピックは金が掛かると言っていたので、あまりお金を掛けてしまうといけないということで抑制した可能性もありますが、とにかく地味に試算したから小さかったのです。

いろいろな波及効果を考えるときの方法として、この推計では四つの方法で行っています。まず一つが五輪開催に伴う直接的な需要が増加すること。二つ目が都市づくり事業が前倒しされること。三つ目が新規産業が新たにできること。四つ目がドリーム効果が発生すること。この四つの柱で具体的にシミュレーションをしてみました。

そもそも、東京都のシミュレーションは極めて狭い範囲で、今回われわれがシミュレートしたものとはバッティングしないので、両方足していいわけで、合算すると19.4兆円です。あと注意項目があり、一つ目が日本全体への波及効果ということで計算をしていること。二つ目が、2012年のロンドンオリンピックの効果を入れ、東京都のものを足すと答えが出ます。

前提条件を言っておきますと、一つ目が、直接的な需要の増加は何か、東京都はなぜか発表していないのですが、そのうちの一つが訪日外国人の増加、もう一つが宿泊施設の建設増加です。外国人が増えれば彼らがお金を使う、外国人が増えれば泊まる場所が要る。

少なくともわれわれの試算では、ホテルオークラクラスが最低一つ、あとは一般のホテルを増やすべきだと言っています。早速ホテルオークラ東京は建て替えを決めていて、2019年までに建て替えます。最近、東京プリンスホテルも建て替えると言っています。

こういったことをにらんで、2020年に2000万人来て、東京では1000万人を超えますから、現在の倍ぐらい来ると思っていればいいわけで、それへの対応が動きはじめていて、これに関する経済波及効果が発生します。

二つ目が都市づくり事業の前倒し効果です。それまでは2020年ではなく、2025年あるいは2025年の先と考えていたものが、オリンピックを開くということで、早まっているのです。それは経済波及効果の中の前倒し効果と考えられます。その一つがまず公共セクターで、首都圏の主要な基盤整備事業が前倒しになります。

前回2016年の東京オリンピック誘致のときに言った3環状完成がそのまま残っていますが、今回は2020年というターゲットができたので、何とか仕上げようとするという話が出ています。一番南の神奈川県ルートの完成は駄目でしょうけれども、何とかそこそこ行くだろうということは分かっています。他には鉄道延伸等が出てきます。

民間の方も、2022~2023年の事業を全て2020年の前にしようということで動きはじめています。こういうことを前倒し効果として波及効果を計算できると考えています。

三つ目が、恐らく皆さまに関係のある部分で、どんな新規産業ができるかです。これは実に面白いテーマで、今回は情報系や医療系等々が観光業と共に何かあるだろうということを考えています。いろいろな業界の方に伺うと、それぞれお考えのようです。

オリンピックで新しい産業ができるという例は過去に日本にもありました。現在、セコムという日本で最も大きい総合警備会社は1964年の1年前に2名で会社を始め、東京オリンピックで飛躍的に伸びました。これで総合警備産業が成立することが分かって変わっていきました。

あるいは、あのとき使ったIBMが開発した即時計測システムは、その後、銀行のオンライン等に使われます。さらには、東京オリンピックのときに大量の食材を買い付け、半年以上前から保存し、1日1万人の選手、普通の人で2万人分の食事を作るというノウハウがこのときに育成されました。

そして、1970年の万博でこれがさらに洗練され、その後、日本全体でファミレスブームが始まる等々のことがありました。このことから、オリンピックというスポーツのイベントが産業構造に何かを与えることは確かです。

これがこれからどうなるかが重要です。オリンピックが決まってから、外国企業が東京に目を向けています。オリンピックが決まった後に旅行者が増えると冒頭で言いましたが、それだけではありません。最近、私は外資から講演に呼ばれることがあって、東京のどこで何をすればいいかに非常に興味を持っています。

こういうことを踏まえると、東京都のアジアヘッドクォーター特区構想が、今のところうまくいっていませんが、加速される可能性があります。そうすると新たな雇用が発生します。その部分が今回の最も大きいものでしょう。

四つ目にドリーム効果というものがあります。何事もいいことがあると人はお金を使いはじめます。現在、日本全体の1世帯当たりの年間貯蓄額は平均で10万円です。この試算では、全世帯の2割が貯金せずにお金を使うだろうと想定し、5万円を使うという計算をしています。

前回の東京オリンピックではカラーテレビが普及しました。今回も、スポーツ産業や健康業等、いろいろなことがありますが、人々が自分たちの健康を考えること、スポーツを頑張ることの延長上に、テレビは今4Kなどが始まっていますが、また何か起きるだろうと考えて、お金を使うでしょう。

その結果、16.4兆円の波及効果があるということです。これは現在のわが国のGDPの0.3%のアップに寄与しますから、半端ではありません。

雇用についても、延べ121万人が出てきます。ただし、そのためには、いまだに極めて大きなテーマである労働市場政策に対する雇用の流動化の実現が必要です。

さらには新しいイノベーションを生み出すための規制改革です。新しい企業を立ち上げるのであれば、当たり前のことですが、それに対する規制緩和をするといったことがないと、経済波及効果が満足に期待できません。今後の政策、その進展がこれに対する答えを出すだろうと思っています。

これから半年から1年が、オリンピックにおける今後の方向がどうなるかを占う大変な時期になっているわけです。

政治にもいろいろなことがあり、政治の与条件が変わってくると政策というのはなかなかうまくいかなくなります。現在既に「地方創生」が来年の地方選挙絡みで出てきています。そうなると少しいろいろなことが止まるのではないかという予感はしますが、時間はまだありますから、これから1年間、何をどうするか、正念場だろうと思っています。
 

東京の都市構造の組み換え―コンパクトな大都市モデル―

今度は東京はどう変わっていくかという話です。私の専門は都市計画なので、都市空間をどう考えるかという話に移ってきます。

まず必ず将来を考えるときに必要なのが人口動向です。人口フレームを考えなければ計画はできません。東京圏といわれている1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)の今後の人口推計を見ると、2008年から日本の人口は減少に転じています。

日本全体で人が減っているわけで、人口減少社会という言葉が当たり前に使われていますが、この言葉は向こう15~20年間、強いて言えば15年間は、東京圏では使われない言葉です。

今2014年で、この後5~10年ぐらいはまだ人口が増えます。2025年ぐらいに頭打ちになり、その辺から下がってくるでしょう。2030年ぐらいまでいっても今と同じぐらいなのです。さすがに2030年から先は分かりませんが、今後15年ぐらいは、このままの人口かもっと多い人口で、この都市圏を運営するのです。

人口減少社会というキーワードは2030年までは、ここでは当てはまらないのです。今の規模よりもう少し大きくなる中での生産・消費活動が必要になるわけです。

ただ、人口推計は過去に大きく外れています。過去のトレンドを使って、1998年に東京都が2050年までの東京都の人口推計を行い、四つのケースを出しました。そのときに出た数字は1250万人がピークでした。

今はどうかというともうすぐ1330万人に達するのですが、東京都が修正した推計値では、今後の東京の人口ピークは1330万人だと言っていて、もうすぐピークに近づくのですが、これも外れているのです。

問題は、過去のトレンドでものを見ていいかどうかという大変なテーマで、過去のトレンドで試算すると失敗することが分かっていて、1250万人をはるかに超えてしまいました。

ニューヨーク、パリ、ロンドンが都市ランキングで東京の上にあるということを冒頭に申し上げましたが、それぞれの都心はどうなのでしょうか。ちょうどバブル経済時期のときのデータを使うと、都心3区の昼夜間人口比は、夜を1とすると東京では昼間は8.3です。

似たようなエリアであるマンハッタンの南半分では1:3.7。ロンドンの都心3区(ウエストミンスター、カムデン、シティ)では1:2.7。パリ(都心9区)に至っては1:1.5です。業務地開発を行った東京は都心を中心に人口を失ったのですが、これは世界の常識ではなかったのです。

答えは簡単で、東京都心では都心3区だけでも昼間は300万人ぐらい余計にいますから、インフラはあるのです。都心3区ではなく8区でもよく、その後もっと増えて500万人、23区で1000万人ぐらいいて、それだけの人を吸収する都市空間のキャパシティ(基盤の整備水準)があるわけです。

今後の人口はどうなるかと考えると100万~200万人増えてもおかしくないことになります。問題は人々の動向で、都心に住みたいかどうか、都心がどうかという条件はありますが、キャパシティ的には全く問題ありません。

このことから、これから都心開発を行うときには住宅系はまだまだいけることが分かります。ですから、過去の推計値には限界があるのです。

都市構造としては、東京都が2001年につくった首都圏メガロポリス構想、私もコアメンバーの一人ですが、この構想におけるセンターコアエリアで、都心部への人の流入にどう受け皿をつくるか、そして臨海部は国際競争力を生みだすエリアとするという二つの目玉で東京のこれからの都市構造を描きだしました。2009年に改訂版が出ましたが、この流れは変わっていません。都心は、もう都心・副都心という拠点ではなくてエリアで考えるということです。

東京の都市構造には歴史的な動向があり、江戸時代以来ずっと東京の都心は下がってきています。過去にいったん臨海に行きかかって失敗しましたが、これからは南に下がるでしょう。その根拠は、今回のオリンピックの場所です。

前回のオリンピックのヘリテッジゾーンが都心を中心に広がっているのに対し、今回の場所は臨海(ベイゾーン)です。なおかつ空港は羽田空港です。どうしても南に下がる話の延長上にあり、下がってくる根拠はここにあります。

今回、湾岸部の再活性化などいろいろありますが、前回のオリンピックのようにすごいことはそんなになく、部分的な修正だけです。前回のオリンピックでは東京の都市構造を大幅に変え、首都高速が通った、環七が通った、青山通りが変わったといった話があったのですが、今回はあまりないのです。

今回は強いて言うと真ん中にある環状2号線で、そこが拡幅されて、新虎通りはシャンゼリゼになるというあたりがテーマですが、インフラ自体の新たな展開は今回はあまりないということです。
 

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