コラム
2014年06月12日

わが国の国際競争力の強化への期待をこめて-IMDによる直近のランキングの公表を踏まえて

平賀 富一

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5月22日、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が、その年次「世界競争力年鑑」(World Competitiveness Yearbook)の2014年版を公表した。そのニュースリリースによると、日本は世界競争力ランキング(総合順位)を前年より3ランク上げ21位となり、その理由として、経済政策(アベノミクス)の円安効果によって輸出競争力が向上したことなどが挙げられている。国際競争力に関連するランキングには、他にも代表的なものとして、世界経済フォーラム(WEF)の「Global Competitiveness(グローバル競争力)」や、世界銀行グループの国際金融公社(IFC)による「仕事がしやすい国ランキング(Ease of doing business)」などがあり、それぞれの直近データにおける上位10カ国・地域(以下「国」と総称)の順位と日本の順位(総合ランキング)は下の表1のとおりである。以下では、直近公表のIMDの競争力ランキングをベースとして要点を述べる。




IMDによる競争力は、企業が競争力を保つ環境を生み出し、維持する国力を評価したものであり、日本は、当該ランキングが開始された89年から92年まで総合ランキングで首位を維持していたが、その後次第に順位を下げ、98年に20位まで下降して以来一度も15位以内に入っていない。他方、アジア地域では、表2のように、シンガポールと香港が長らく世界における最上位ランクの常連国であり、近年ではマレーシアや台湾も上位に入る傾向にある(両者の14年の順位はそれぞれ12位、13位となっている)。




この競争力の評価の実施に当たっては、経済状況、政府の効率性、ビジネスの効率性、インフラの4大項目について、約300の小項目についての分析を行っており(全体のウェート付けは定量データが2/3、各国・地域の企業幹部等を対象とする定性的調査の結果が1/3となっている)。日本は、インフラは相対的に高ランクにあるが(注)、財政関連を代表とする政府の効率性のランキングが非常に低いことがわかる(表3参照)。




IMDによるランキングは、あくまで同種の調査が複数ある中のひとつではあるが、長期にわたり継続して実施されており、各国・地域の相対的な位置づけとその変化動向が分かるという点で、今後のわが国の取り組みの方向性を考える上で参考となる重要な示唆を含んでいるといえよう。

13年、14年の順位の上昇を一過性のもので終わらせないためには、重要な諸改革を柱とするアベノミクスの成長戦略の実行による成果が上がり、経済成長が軌道に乗り、企業業績の向上や政府の歳入や観光収入などの増加、政府の効率化、企業人のわが国への信頼度の向上などによるランキングの上昇の継続という、ポジティブなスパイラルにつなげていくことが大切であると思われる。また、アジア地域における最上位ランクの常連であるシンガポール、香港について、人口が少ない都市故に、戦略の明確化や方針の徹底、実行が行いやすいとの評が挙がることも多いが、長期にわたって上位ランキングを維持している実績から分かる、継続的な取組みとその成果は高く評価できると思われる。特に「国家戦略特区」などで、本邦の大都市や地域が強い国際競争力をもって活動を行いその実効・成果を挙げるためには、重要な参考事例になるものと考えられる。




 
(注) ただし、インフラ分野における小項目のひとつである「教育」は、14年で28位と調査対象国60カ国の中位程度に過ぎず、英語力の強化などを含めて将来の発展を担う人材育成の体制整備と取組みの強化が求められる状況となっている。
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