2023年09月11日

欧州大手保険グループの2023年上期末SCR比率の状況について(1)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(全体的な状況) -

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3|SCR等の算出方法(長期保証措置の適用状況)
ソルベンシーIからソルベンシーIIへの移行における割引率や技術的準備金についての16年間にわたる移行措置、MA(マッチング調整)及びVA(ボラティリティ調整)といった長期保証措置の適用については、各国の保険市場の特徴(販売商品や資産運用市場等)に大きく依存している。

保険年金フォーカス「欧州保険会社が2022年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その1)-」(2023.6.19)で報告したように、Zurich以外のソルベンシーII制度下にある5社については、全社がVAを適用し、AvivaとAegonの一部が、MAや技術的準備金に関する移行措置を適用している。これらの措置の適用による影響(2022年末ベース)については、以下の通りであり、Avivaがこれらの措置に大きく依存していることが示されている。なお、年度ごとの影響度の水準の差異は、VAの水準等の影響を受けている。
長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用によるSCR比率への影響(2022年末)/参考(2021年末)/参考(2020年末)
4|自己資本の内訳
ソルベンシーIIの資本要件に算入可能な各種自己資本は、劣後性や損失吸収性、期間といった資本適格性からTier1~Tier3 に分類1され、 それぞれについて算入制限が設定されている。

各社とも、着実にTier1の割合を高めてきており、自己資本のうち、Tier1の自己資本が8割から9割程度、さらに、Tier1(無制限)がそのうちの8割から9割程度(従って、全体の7割から8割程度)を占めている。

例えば、各社とも、既存のTier1 やTier2の劣後債務について、グランド・ファザーリング・ルール(既得権認容ルール)を適用しているが、こうした債務については、早期償還等を行い、段階的にソルベンシーII適格なものに変更してきている。

2023年上半期末の自己資本の内訳を開示している会社もあるが、多くの会社は年末のみの開示となっているため、以下では2021年末と2022年末における自己資本の内訳を示している。

なお、Allianz については、2022年から、それまで公表していたOwn Funds Reportの発行を止め、これに含まれていた情報については、Annual ReportやSFCRに統合されたことにより、従来ベースの自己資本の内訳は公表されていない。

ただし、Allianzを含めて、2021年末と比べて、各社とも主として経済変動の影響を受けての調整準備金(reconciliation reserve)(従って、Tier1(無制限))の残高が大きく減少していることから、全体の自己資本残高も1割~2割程度と大幅に減少している。

その他、各社の資本戦略等を反映する形で、内訳は変動している。

なお、各社とも、Tier1(無制限)だけで、SCRの100%水準を確保している。
自己資本の内訳(2022年末)
 
1 Tier1(無制限)は払込資本や剰余金等、Tier1(制限付)はグランド・ファザーリング・ルールに基づく劣後債務、Tier2は、劣後債務、Tier3は繰延税金資産等である。
5|SCRのリスク別及び地域別内訳
SCRのリスク別及び地域別内訳の開示については、以下の図表が示すように、各社の事業構成等を反映する形で、リスクの分類の方式等が異なっている。

リスク別では、各社とも市場リスクや信用リスクのウェイトが高くなっている。ここで、図表の「信用」に、(1)デフォルト、スプレッド拡大、格付変更のリスクを全て含めている会社と、(2)これらを一部区分して開示している会社、がある点には注意が必要となる。

生命保険と損害保険のウェイトが共に高い会社を中心に、保険引受けリスクの構成比も高いものとなっている。オペレーショナル・リスクについては、ほぼ各社とも数%から1割程度の構成比となっている。

また、地域別内訳は、各社の地域別事業展開を反映したものとなっている。

以下は各社の数値が揃う2022年末の数値を比較したものである。
SCRのリスク別・地域別内訳(2022年末)
なお、2023年上半期末の数値を開示している会社の当該数値は、以下の通りとなっている。
SCRのリスク別・地域別内訳(2023年上期末)

4―まとめ

4―まとめ

以上、各社のプレス・リリース資料等に基づいて、欧州大手保険グループの2023年上期末のSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告してきた。なお、2023年上半期は、IFRS第17号(保険契約)が適用される最初の報告数値になっているが、この影響等については別途報告することにする。

次回のレポートでは、各社のSCR比率の推移分析や感応度の推移の状況について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2023年09月11日「保険・年金フォーカス」)

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