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2023年09月11日
欧州大手保険グループの2023年上期末SCR比率の状況について(1)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(全体的な状況) -
1―はじめに
欧州大手保険グループの2023年上半期決算の発表が8月に行われており、それに伴い、ソルベンシーII制度に基づく各種数値等も開示されている。
まずは、今回のレポートでは、欧州大手保険グループの2023年上期末のSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告する。
まずは、今回のレポートでは、欧州大手保険グループの2023年上期末のSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告する。
2―欧州大手保険グループのSCR比率の推移
欧州大手保険グループのSCR比率(=自己資本/SCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件))の制度導入時の2016年末から2023年上期末の推移については、次ページの図表の通りとなっている。
なお、Avivaは開示資料の説明で主として会社ベースの数値を使用しているので、監督ベースと会社ベースの2つの数値を掲載している。また、ZurichはソルベンシーII制度の対象ではないが、参考のためスイスの制度であるSST(スイスソルベンシーテスト)に基づく数値等を掲載している。
この図表によれば、過去からの推移の概要は以下の通りとなっていた。
・2016年末から2017年末にかけては、市場環境が良好(金利の上昇、クレジットスプレッドの縮小、株価の上昇等)であったこともあり、各社ともSCR比率を大きく上昇させていた。特に、内部モデル適用範囲の拡大等のSCR比率の算出方法の変更等もあり、Generaliは29%ポイント、Aegonは44%ポイントと大幅に水準を上げていた。
・2017年末から2018年末にかけては、市場環境の悪化(金利の低下、株価の下落等)もあり、AXAのSCR比率とZurichのZ-ECM比率が低下していた。
・2018年末から2019年末にかけても、市場環境の悪化(金利の低下等)により、AllianzとAegonのSCR比率が大きく低下したが、AXA(米国のIPOによるプラスの影響)やGenerali(規制上のモデル変更によるプラスの影響)等のSCR比率は上昇した。
・2019年末から2020年末にかけては、COVID-19による市場環境の大きな変動があったものの、Zurichを除いては、ソルベンシー比率自体に大きな変化は見られなかった。一方で、ZurichのSST比率は市場リスクのウェイトがより高くなっているで、金利の低下と市場の変動の影響を大きく受けて、2019年末から2020年末にかけて、222%から182%へと40%ポイントと大きく低下した。
・2020年末から2021年末にかけては、市場環境の好転の影響等により、各社ともソルベンシー比率が上昇している。特に、AXA、Aviva、Aegon、Zurichのソルベンシー比率は2桁台の大幅な増加となっている。
・2021年末から2022年末にかけては、各社とも主として経済変動の影響(金利の上昇、クレジットスプレッドの拡大、株価の下落等)を受けて、自己資本のうちの調整準備金(reconciliation reserve) の残高が大きく減少したことを主因として、Zurich以外のソルベンシー比率は低下した。Zurichの場合、金利の低下が大きくプラスに影響して、SST比率は大幅に上昇した。
これに対して、2022年末から2023年上期末にかけては、各社それぞれの要因に基づいて、AXA、Allianz、GeneraliのSCR比率は上昇しているものの、その他の会社のSCR比率は低下している。
なお、各社のソルベンシー比率の変動の詳しい要因については、次回のレポートで報告する。
なお、Avivaは開示資料の説明で主として会社ベースの数値を使用しているので、監督ベースと会社ベースの2つの数値を掲載している。また、ZurichはソルベンシーII制度の対象ではないが、参考のためスイスの制度であるSST(スイスソルベンシーテスト)に基づく数値等を掲載している。
この図表によれば、過去からの推移の概要は以下の通りとなっていた。
・2016年末から2017年末にかけては、市場環境が良好(金利の上昇、クレジットスプレッドの縮小、株価の上昇等)であったこともあり、各社ともSCR比率を大きく上昇させていた。特に、内部モデル適用範囲の拡大等のSCR比率の算出方法の変更等もあり、Generaliは29%ポイント、Aegonは44%ポイントと大幅に水準を上げていた。
・2017年末から2018年末にかけては、市場環境の悪化(金利の低下、株価の下落等)もあり、AXAのSCR比率とZurichのZ-ECM比率が低下していた。
・2018年末から2019年末にかけても、市場環境の悪化(金利の低下等)により、AllianzとAegonのSCR比率が大きく低下したが、AXA(米国のIPOによるプラスの影響)やGenerali(規制上のモデル変更によるプラスの影響)等のSCR比率は上昇した。
・2019年末から2020年末にかけては、COVID-19による市場環境の大きな変動があったものの、Zurichを除いては、ソルベンシー比率自体に大きな変化は見られなかった。一方で、ZurichのSST比率は市場リスクのウェイトがより高くなっているで、金利の低下と市場の変動の影響を大きく受けて、2019年末から2020年末にかけて、222%から182%へと40%ポイントと大きく低下した。
・2020年末から2021年末にかけては、市場環境の好転の影響等により、各社ともソルベンシー比率が上昇している。特に、AXA、Aviva、Aegon、Zurichのソルベンシー比率は2桁台の大幅な増加となっている。
・2021年末から2022年末にかけては、各社とも主として経済変動の影響(金利の上昇、クレジットスプレッドの拡大、株価の下落等)を受けて、自己資本のうちの調整準備金(reconciliation reserve) の残高が大きく減少したことを主因として、Zurich以外のソルベンシー比率は低下した。Zurichの場合、金利の低下が大きくプラスに影響して、SST比率は大幅に上昇した。
これに対して、2022年末から2023年上期末にかけては、各社それぞれの要因に基づいて、AXA、Allianz、GeneraliのSCR比率は上昇しているものの、その他の会社のSCR比率は低下している。
なお、各社のソルベンシー比率の変動の詳しい要因については、次回のレポートで報告する。
このように、SCR比率の推移については、各社の資本充実やリスクテイクへの方針の差異等を反映して、その動向は一律ではなく、また必ずしも市場環境に応じて類似のトレンドを示しているわけではない。
さらには、以下の理由等から、単純な各社間の絶対水準や年度間の推移の比較ができないことには注意が必要になる。
(1) 各社の生命保険と損害保険等の事業や地域別の構成比の差異等から、目標とするSCR比率等が異なっている(例えば、Aegonは生命保険事業が中心だが、AXA、Allianz、Generali、Aviva、Zurichは生命保険事業も損害保険事業も大きな位置付けを占めており、さらにはAllianz等では資産管理事業も営業利益のうちの大きなウェイトを占めている)。
(2) 事業の地域構成の差異からくる為替等の影響の程度が異なっている(例えば、Avivaは英ポンド、Zurichは米ドルと主要通貨や新興国通貨との為替レートが公表数値に大きな影響を与える)。
(3) ソルベンシーII制度導入当初から数年間は、規制当局との交渉等を踏まえた内部モデルの適用範囲の拡大等による算出方法の変更を実施している会社もあり、一時的な要因による影響が大きなものとなっているケースも多かった(なお、その後も適宜、算出方法の見直しが行われてきており、引き続き一時的な要因による影響が無視できないものとなるケースもある)。
以下の図表は、各社の事業別の損益等の内訳を示しているが、IFRS第17号(保険契約)の適用により、保険料の数値が必ずしも開示されなくなっている。
さらには、以下の理由等から、単純な各社間の絶対水準や年度間の推移の比較ができないことには注意が必要になる。
(1) 各社の生命保険と損害保険等の事業や地域別の構成比の差異等から、目標とするSCR比率等が異なっている(例えば、Aegonは生命保険事業が中心だが、AXA、Allianz、Generali、Aviva、Zurichは生命保険事業も損害保険事業も大きな位置付けを占めており、さらにはAllianz等では資産管理事業も営業利益のうちの大きなウェイトを占めている)。
(2) 事業の地域構成の差異からくる為替等の影響の程度が異なっている(例えば、Avivaは英ポンド、Zurichは米ドルと主要通貨や新興国通貨との為替レートが公表数値に大きな影響を与える)。
(3) ソルベンシーII制度導入当初から数年間は、規制当局との交渉等を踏まえた内部モデルの適用範囲の拡大等による算出方法の変更を実施している会社もあり、一時的な要因による影響が大きなものとなっているケースも多かった(なお、その後も適宜、算出方法の見直しが行われてきており、引き続き一時的な要因による影響が無視できないものとなるケースもある)。
以下の図表は、各社の事業別の損益等の内訳を示しているが、IFRS第17号(保険契約)の適用により、保険料の数値が必ずしも開示されなくなっている。
3―SCR比率算定等に関係する事項
この章では、SCR比率算出等に関係する事項について報告する。
ここで述べる項目については、基本的には、以下に挙げる、以前の保険年金フォーカスにおいて、報告した内容を繰り返しているが、一部データの最新化等を行っている。
・「欧州大手保険グループの2022年末SCR比率の状況について(1)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-全体的な状況-」(2023.4.3)
・「欧州保険会社が2022年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その1)-」(2023.6.19)
・「欧州保険会社が2022年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(3)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その2)-」(2023.6.23)
・「欧州保険会社が2022年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(4)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その3)-」(2023.6.28)
ここで述べる項目については、基本的には、以下に挙げる、以前の保険年金フォーカスにおいて、報告した内容を繰り返しているが、一部データの最新化等を行っている。
・「欧州大手保険グループの2022年末SCR比率の状況について(1)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-全体的な状況-」(2023.4.3)
・「欧州保険会社が2022年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その1)-」(2023.6.19)
・「欧州保険会社が2022年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(3)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その2)-」(2023.6.23)
・「欧州保険会社が2022年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(4)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その3)-」(2023.6.28)
Zurichは、以前は社内指標のZ-ECMの目標範囲100%~120%を設定していたが、2020年からSSTベースの下限を160%と設定している。この際に、SSTの160%は、AAの格付けの資本水準に相当しており、SSTで180%から200%の範囲で事業を運営することを目指していると述べていた。
なお、ソルベンシー比率の水準毎の会社の対応方針をさらに明確にして開示している会社もある。
なお、ソルベンシー比率の水準毎の会社の対応方針をさらに明確にして開示している会社もある。
2|SCR等の算出方法(内部モデルの適用状況)
各社とも内部モデルを適用しているが、その適用対象については、母国に加えて、欧州の主要国やアジア等、実質的に米国を除く主要事業国を含めているケースが多い。米国については、各社とも同等性評価に基づき、米国RBCによって算出したものをグループベースでは一定の換算を行うことで、全体の計算に反映している。
2022年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)に基づくと、各社のソルベンシーIIに基づく分散効果控除前のSCR算出における内部モデルの適用比率(=内部モデルによるSCR/(内部モデル適用後の)全体のSCR))は、以下の図表の通りとなっている。
内部モデル適用比率については、AXAが97.0%と5社の中では最も高くなっている。AXAの内部モデル適用比率については、XL事業体について、2019年に同等性評価から標準式に変更になったことにより大きく低下したが、2020年には標準式から内部モデルに変更になったことから再び大きく上昇している。
これに比べて、AllianzとGeneraliの内部モデル適用比率は70%台前半となっている。
なお、2021年から2022年にかけての各社の内部モデル適用比率は、AXA、Allianz及びGeneraliにおいて低下したが、AvivaとAegonにおいては上昇した。
こうした動きを含めて、各社の内部モデル適用比率の状況は、子会社の買収・売却等の事業戦略の差異の影響を受けている要素も大きい。
各社とも内部モデルを適用しているが、その適用対象については、母国に加えて、欧州の主要国やアジア等、実質的に米国を除く主要事業国を含めているケースが多い。米国については、各社とも同等性評価に基づき、米国RBCによって算出したものをグループベースでは一定の換算を行うことで、全体の計算に反映している。
2022年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)に基づくと、各社のソルベンシーIIに基づく分散効果控除前のSCR算出における内部モデルの適用比率(=内部モデルによるSCR/(内部モデル適用後の)全体のSCR))は、以下の図表の通りとなっている。
内部モデル適用比率については、AXAが97.0%と5社の中では最も高くなっている。AXAの内部モデル適用比率については、XL事業体について、2019年に同等性評価から標準式に変更になったことにより大きく低下したが、2020年には標準式から内部モデルに変更になったことから再び大きく上昇している。
これに比べて、AllianzとGeneraliの内部モデル適用比率は70%台前半となっている。
なお、2021年から2022年にかけての各社の内部モデル適用比率は、AXA、Allianz及びGeneraliにおいて低下したが、AvivaとAegonにおいては上昇した。
こうした動きを含めて、各社の内部モデル適用比率の状況は、子会社の買収・売却等の事業戦略の差異の影響を受けている要素も大きい。
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