2020年08月25日

新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(1)-米国大手保険G及び大手再保険Gの2020年第2四半期業績発表による-

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1―はじめに

米国や欧州においては、7月下旬から8月にかけて、2020年の第2四半期の業績発表が行われてきている。4月下旬から5月にかけて行われた2020年の第1四半期の業績発表における新型コロナウイルス(COVID-19)の影響に関する各社からの情報提供については、保険年金フォーカス「新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(1)-米国大手保険G及び大手再保険Gの2020年第2四半期業績発表による-」(2020.5.22)及び「新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(2)-欧州大手保険Gの2020年第1四半期公表による-」(2020.5.27)で報告した。

今回の第2四半期の業績発表は、COVID-19の感染拡大が本格化した時期に対応するものであるだけに、各社の実際のCOVID-19の影響の程度や今後の動向をどのように見ているのかについて、引き続き不確実性が高い要素が多いものの、第1四半期業績発表時に比べればより具体的なデータに基づいた判断等が行える状況になっていることから、注目されるものとなっていた。

今回は、こうした米国や欧州の保険会社の第2四半期の業績発表の中から、大手保険グループのCOVID-19の影響等に関する公表内容について、2回に分けて報告する。まずは、今回のレポートでは、米国大手保険グループ及び大手再保険グループの状況を報告する。
 

2―米国大手保険グループの公表内容

2―米国大手保険グループの公表内容

ここでは、米国大手保険グループの中から、Prudential Financial、MetLife及びAIGの状況について報告する。

1|Prudential Financial
Prudential Financialの2020年第2四半期の業績発表1において、COVID-19に関して、Charles Lowrey会長兼CEOが「第2四半期には、パンデミックと経済・市場ショックの影響の中で回復力を示した一方で、補完的なビジネスミックス、堅固なバランスシート、慎重に構築したリスクプロファイルから利益を得て、緊急性を持って2020年の優先事項に取り組み続けた。目標とする年間1億40百万ドルのコスト削減を達成する軌道に乗り続けており、国際的な収益基盤の高成長市場への移行を進めている。」と述べた。

Prudential Financialの第2四半期(3カ月、以下同様)は、グループ全体で、前年同期の7億8百万ドルの純利益に対して、24億9百万ドルの純損失だった。また、調整後営業利益(Adjusted Operating Income:AOI)(税引後)は7億42百万ドル(前年同期は、12億62百万ドル、以下同様)だった。

COVID-19が第2四半期の結果に与えた影響2について、事業部門別に以下の記述が見られる。

(1)米国事業
(1-1)退職
当四半期の業績は、主に投資スプレッドの縮小を反映しており、COVID-19の準備金による利益で相殺されている。

純流出額は6億ドル、フル・サービスからの流出額は16億ドルで、これは主にCOVID-19のために加入者の引き出しが増加したことによるもので、機関投資家向け商品からの純流入額10億ドルによって一部相殺されている。

(1-2)団体保険
当四半期の業績は、主にCOVID-19による芳しくない引受実績及び投資スプレッドの縮小を反映している。

(1-3)個人生命保険
当四半期の業績は、費用の減少により一部相殺されたが、主に投資スプレッドの縮小及びCOVID-19による引受実績の悪化を反映している。

(2)国際事業
(2-1)ライフプランナー
当四半期の売上高は1億78百万ドルで、前年同期に比べ30%減少したが、これは主に、COVID-19による販売活動の制限により、日本での売上高が減少したことによる。

(2-2) ジブラルタル・ライフ&その他
当四半期の売上高は1億98百万ドルで、前年同期に比べ34%減少したが、これは、COVID-19による販売活動の制限により、ライフ・コンサルタント及び銀行の両チャネルの売上高が減少したことを反映している。

COVID-19がグループ全体のAOIに与える影響(想定) について、ビジネス区分別内訳は、以下の図表の通りとなっている。
COVID-19による影響額
さらに、第2四半期までの死亡リスク及び長寿リスクへの影響について、以下の図表の通りとしている(プレゼンテーション資料3P13「COVID-19 Potential Net Mortality and Cost Impacts」より)。
第2四半期までの死亡リスク及び長寿リスクへの影響
また、COVID-19によるコストとベネフィットについて、以下の図表の通りとしている。ここで、コストは主として国際部門での販売支援に関するもので、ベネフィットは主として米国における交通・接待費の減少による(プレゼンテーション資料 P13「COVID-19 Potential Net Mortality and Cost Impacts」より)。
COVID-19によるコストとベネフィット
なお、将来の見通しに関しては、「当社の優先事項、コスト削減目標、その他の事業戦略に関する記述は、市場や競争の状況、又はCOVID-19のパンデミックの影響を含むその他の要因により、戦略を実行できなくなるリスクにさらされている。」と述べている。
2|MetLife
MetLifeは、その2020年第2四半期の業績発表4において、COVID-19に関して、Michel Khalaf社長兼CEOが「MetLifeは第2四半期に堅調な業績を上げた。プライベート・エクイティ・ポートフォリオの減少は、予想の範囲内だった。引受業務では、十分に分散化された一連の事業が、COVID-19からの請求の増加に対して有意義な相殺を提供した。また、同四半期は一貫した実行への継続的な取り組みを示した。」と述べた。

また、MetLifeへの予測されるCOVID-19の影響に関する詳細は、「2020年第2四半期の補足スライド5にある『第2四半期の補足スライド』という見出しの『第2四半期の展望』で入手できる。」として、この資料の「保険引受マージン」の項目において、以下のように述べている。

・COVID-19によるグローバルな請求の影響を大幅に相殺
・米国の生命保険の請求頻度の減少、ラテンアメリカの請求頻度の大幅な増加
・グループのベネフィットは、72~77%の年間目標範囲の下限に近い非医療健康保険比率である。
・長寿が退職及び収入ソリューションにおける影響を相殺

なお、MetLifeの第2四半期は、グループ全体で、前年同期の17億ドルの純利益に対して、96%減少の68百万ドルの純利益だった。また、調整後利益(Adjusted Earnings)は7億58百万ドル(前年同期は、13億ドル、以下同様)、一株あたりで0.83ドル(1.46ドル)だった。

COVID-19の影響について、日本の四半期報告書にあたるForm 10-Kの四半期開示に関する様式版である「10-Q」6における「連結会社の見通し」においては、以下のように述べている。

「COVID-19パンデミックに関連する動向を注意深く監視し、当社のビジネスへの影響を評価し続ける。COVID-19パンデミックは世界経済と金融市場に影響を与え続けており、世界の株式、クレジット、不動産市場にボラティリティを引き起こしている。政府や企業は、旅行の禁止と制限、検疫、社会的距離、適所への避難、又は完全な封鎖命令、ビジネスの制限と閉鎖など、ウイルスを封じ込めようとする多くの対策を講じてきた。一部の政府や企業は、いくつかの制限を緩和し始めている。他では以前解除した制限を復活させた。それにもかかわらず、これらの措置は混乱し、事業活動を中断させ続け、金融市場の景気減速とボラティリティをもたらし、これに世界中の中央銀行は前例のない財政及び金融政策で対応してきている。「—業界の動向—金融及び経済環境」を参照のこと」

「さらに、長期の低、ゼロ又はマイナスの金利環境が継続する可能性がある。現在の低金利環境は2020年に継続し、潜在的にはさらに長くなると予想される。当社の投資ポートフォリオは非常に分散化しており、景気の低迷に耐えられるように適切に配分されていると考えている。ただし、COVID-19パンデミックの市場関連の影響、及び持続的な低金利環境が、引き続き投資ポートフォリオ全体に影響を与えると予想している。2019年の年次報告書に含まれている「持続的な低金利環境の影響」は、市場の金利が当社の結果の主要な推進力であるため、当社が感応度を低下させるために講じた緩和策について議論している。「—業界の動向—金融及び経済環境」を参照のこと。」

「COVID-19パンデミックに関連するイベントは、引き続き当社の事業運営、投資ポートフォリオ、デリバティブ、財務結果又は財務状況に悪影響を及ぼす可能性がある。「リスク要因—新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミックの経過とそれに対する反応は不確実で予測が難しいが、悪影響を受けており、当社の事業、経営成績、及び財政状態に悪影響を及ぼし続ける可能性がある」を参照のこと。リスク管理と事業継続計画を実施し、予防措置やその他の事前対応策を講じた。これにより、これまでに、重要なビジネスプロセス、顧客サービスレベル、主要ベンダーとの関係、財務報告システム、財務報告に対する内部統制及び開示の統制と手順を維持できるようになった。」

また、「投資リスク」の「現在の環境」においては、以下のように述べている。

「グローバルな保険会社として、私たちは変化するグローバルな金融及び経済環境、世界中の中央銀行の財政及び金融政策、ならびに政府の措置の影響を受け続けている。
COVID-19パンデミックは世界経済と金融市場に影響を与え続けており、世界の株式、クレジット、不動産市場に変動を引き起こしている。「—業界の動向—金融及び経済環境」を参照のこと。

世界中の政府と中央銀行は、COVID-19パンデミックに前例のない財政政策と金融政策で対応しており、これは金融市場と世界経済に重大かつ継続的な影響を与えると予想されている。これらの政策対応には、財政支援、流動性プログラム、新しい融資制度、殆どゼロやゼロ及び一部の市場ではマイナスの金利水準への引き下げを含むがこれらに限定されない財政及び金融刺激策が含まれる。時間の経過とともに、これらの政策の有効性と、それらが世界経済及び金融市場の見通しにとって何を意味するかについて、さらに知るようになるが、現在のところ、当社の事業運営、投資ポートフォリオ及びデリバティブへの影響を適切に判断するために、COVID-19パンデミックの影響の期間と深刻度を確実に推定するには、要素が多すぎる。

COVID-19パンデミックが世界経済と市場に影響を与えた結果、2020年6月30日に終了した6か月間に、金融市場で経済の減速とボラティリティが発生・拡大した。その結果、2020年6月30日に終了した6か月間に、当社のポートフォリオ内の特定の投資の価値が減少した。ただし、これらの影響の一部は、このような市場リスクをヘッジする特定の独立したデリバティブの価値の増加によって緩和された。これらの条件はしばらく続く可能性があり、リスクを伴う投資の価格設定レベル、ならびに当社の事業運営、投資ポートフォリオ及びデリバティブに影響を与え続ける可能性がある。」

また、「その他の情報-リスクファクター」の項目のなかで、「パンデミックの経過とそれに対する反応は不確実で予測困難であるが、悪影響を受け、当社の事業、業績、財務状況に悪影響を及ぼし続ける可能性がある。」として、引き続いて具体的な説明を行っている。

将来見通しに関しては、「結果は、将来の見通しに関する記述において明示又は暗示されているものとはかなり異なる可能性がある。このような差異を生じ得るリスク、不確実性、及びその他の要因には、MetLife, Inc.が米国証券取引委員会に提出した書類に記載されているリスク、不確実性、及びその他の要因が含まれる。これらの要因には次のものが含まれる。」として、「 (1) COVID-19パンデミックの経過とそれに対する対応。これはまた、残りのリスクを誘発又は悪化させる可能性がある。」と述べている。
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中村 亮一

研究・専門分野

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