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EIOPAによる2016年度保険ストレステストの結果について(4)-EIOPAの報告書の概要報告-
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1―はじめに
このEIOPAによって2016年に実施された欧州保険会社に対するストレステストの結果に基づいて、欧州保険会社の脆弱性と耐性力に関する状況について、4回のレポートで報告している。
前回と前々回のレポートでは、ストレステストの結果の概要について報告した。今回のレポートでは、今回のストレステストの結果を踏まえての結論と次のステップ及びEIOPAによる各国監督当局への勧告、さらにはこの報告書に対する関係団体等からの反応について報告する2。
1 EIOPAのプレス・リリース資料 https://eiopa.europa.eu/Publications/Press%20Releases/2016-12-15%20Insurance%20Stress%20Test%20ResultsFinalFinal.pdf
2 今回のレポートにおける図表等については、特に断りが無い限り、EIOPAの「2016 EIOPA保険ストレステスト報告書」からの引用によるものであり、必要に応じて、説明のための数値の強調や翻訳等を行っている。
2―ストレステストの結果を受けての「結論と次のステップ」
1|全体的な意見
このテストでは、低金利環境とリスク・プレミアムの顕著な再評価に対する保険部門の脆弱性が確認された。NSAs(National Supervisory Authorities:国家監督当局)は、監督のレビュープロセスにおいて、テストによって特定された脆弱性が、監督されている会社の存続可能性や、集積されて、全体としてのシステムにとっての脅威となるかどうかを評価すべきである。
2|長期低利回りシナリオで示された影響への対応
長期低利回りシナリオで示された影響は、平均負債資産比率に対する減少の点でダブルヒットシナリオと同様の大きさとなっている。これは、現在の経済情勢がそのようなシナリオの確率を高めているので、興味深い発見となっている。長期的な低金利環境は、長期的なマクロ経済の停滞の設定において、非常に長い満期であってもより低い金利につながる可能性がある。このようなシナリオは、特定のビジネスモデル、特に長期保証を提供するビジネスモデルの実行可能性にさらなるプレッシャーを与えることになる。LTG及び移行措置は、反循環的に働くことで、意図したクッションを提供するが、シナリオが意味する長期的なタイプの懸念によるリスクの誤謬を避けるために、監督上の警戒が必要となる。現在のマクロ経済環境下での長期低利回りシナリオの高い関連性を考えると、監督当局は、このようなシナリオに対して特定の脆弱性を示した会社に対して、さらにどの措置を講じる必要があるのかを検討するように促されている。
3|技術的準備金の計算仮定の評価
生命保険事業は、保険契約者及びオプションに多様なキャッシュ・フローを持つ多数の異なる商品を含んでいる。このテストでは、技術的準備金の最良推計の計算の根底にある仮定を慎重に評価する必要性が明らかにされた。
4|定性的なアンケートの結果
定性的なアンケートは、保険会社が大規模な資産売却の必要性を予見していないことを示している。反対に、参加者のほぼ半数は、潜在的に反循環的な方法で行動し、不利なシナリオに最も打撃を受けた資産の保有を増加させるつもりである、ことを示した。
5|まとめ
上記に基づいて、2016年のストレステストでは、監督上の対応が必要な脆弱性が明らかになった。
このような対応は、EIOPAの監督行動の促進と協調の責任に沿って、欧州レベルで調整されていく必要がある。EIOPA理事会は、ストレステストの結果を検討し、EIOPA規則第21条に基づいて、本報告書に記載されているフォローアップ活動の必要性を示す一連の一般的な勧告を発行することを決めた。これらの勧告は、この報告書と同時に、適切な法的形式で別途公表される。
なお、「結論と次のステップ」に関する報告書の具体的な記載は、以下の通りとなっている。
4.1. 主な結論
117.ソルベンシーII制度の適用初年度において、このストレステストは、欧州保険市場の安定に対する最大の脅威とみなされた金融リスクと、これらのリスクに対して最も脆弱な市場セグメント の大きな保証(あらゆる種類の金利保証付きの生命保険商品を提供している単独企業)に焦点を当てている。
118. EIOPAストレステストは、合格または不合格のテストではなく、脆弱性分析として設計されている。それは業界の資本要件を評価しようとせず、SCR又はMCRのストレス後の再計算が必要ではなかった。したがって、負債資産比率における変化及び負債超過資産の変化の観点から、主に影響が考察されている。
119.全ての国において、参加保険会社は、ベースラインにおいて、負債超過資産を有している。サンプル全体のSCR比率は196%であり、MCR比率は533%である。ベースラインシナリオでSCR比率が100%を下回ったのは2社だけで、サンプルの総資産の0.02%を占めているにすぎない。これは、2014年のテストと幾分好対照である。2008年以来続いている深刻な欧州危機にもかかわらず、保険業界は少なくとも規制資本要件の点で、これらの2つのテストの間で、準備金を増やすことができたようだ。
120. 2つのストレスシナリオは、全体レベルで平均負債資産比率を約2%ポイント減少させる。
121.ダブルヒットシナリオでは、これは約6,160億ユーロの総資産減少につながる。負債が4,500億ユーロしか減少しないため、このシナリオは保険会社の貸借対照表に1,600億ユーロ近くの負の影響を与え、負債超過資産が28.9%減少する。
122.長期低利回りシナリオが発生した場合、保険部門への影響は負債超過資産が約1,000億ユーロ減少し、18%の減少となる。この悪影響は、4,800億ユーロ以上負債が増加したことに起因する。資産価値の上昇(約2,800億ユーロ)は、この減少をカバーするには十分ではない。
4.2. 脆弱性の説明
123.全体として、結果は、不利な市場シナリオの影響を受けやすい企業も、初めは高いAOL比率(資産負債比率)を有する企業であることを示しているようである。これは、市況の変化に比較的より敏感である企業が、必ずしもピア企業よりも悪い、またはリスクの高いポジションにあるとは限らないことを示している。 個々の企業のリスク回避能力は、資本総額とストレスに対する貸借対照表の感応度の組み合わせとなる。
124.これは、特により小さな企業の場合にあてはまる。これらの企業は、ストレスシナリオによって最も影響を受けているように見えたが、SCR比率だけでなくストレス前のAOLの点でも全体的により良く資本化されている。
125.この分析では、ユニットリンク型契約のシェアが大きい会社は一般的に影響が少ないことが示された。これはストレステストの設計から想定されるものだが、会社はユニットリンク型契約の大きなシェアに起因するストレスの即時ソルベンシー効果から保護されているが、契約者はそうではない。ユニットリンク型契約の大きな損失は、これらの商品に対する要望やユニットリンク型商品に重点を置いたビジネスモデルの実行可能性に長期的な影響を与える可能性がある。 純粋なユニットリンク型契約は、保険会社が他のセクターとの競争にも直面する競争の激しい市場である。アセットマネジメント会社、上場投資信託取引及び「FinTech」などのその他の進展も、この市場に影響を与え、変革する可能性がある。さらに、多くの保険契約者が同時に保険契約を解約しなければならない場合には、流動性問題が発生する可能性がある。したがって、保険会社のソルベンシー・ポジションは、ユニットリンク型契約によっていくらか遮蔽されているが、このタイプの契約は、ストレステストの対象外の他のリスクにさらされる可能性がある。
4.3.次のステップ
126.このテストは、低金利環境に対する保険部門の脆弱性を強調している。注目すべき数の企業が、特にダブルヒットシナリオの場合にSCRを満たす課題に直面することが予想される。長期低利回りのシナリオで示された影響は同様の大きさであるが、可能性が高く、タイムホライズンが異なる。このシナリオが実現する可能性は、特に長期保証を提供する特定のビジネスモデルの実行可能性にさらに圧力を加えることになる。
127.したがって、EIOPAは、EU保険部門の特定された脆弱性及び金融安定性への予想される影響に関連して、一連の一般勧告を公表している。この勧告は、NSAs(国家監督当局)に宛てられており、3つの主要分野をカバーしている。
 ・リスク管理とビジネスモデルの持続可能性
 ・解約と最良推計のモデリング
 ・グループソルベンシーとグループサポートへの影響
128.これらの勧告に基づいて、EIOPAは、欧州レベルでのリスク分析及び監督措置の協力と調整をさらに強化するために、引き続きNSAsと密接に協力していく。
(2017年02月06日「保険・年金フォーカス」)
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