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<米国経済>
92年7-9月期の実質GDO(速報値)は前期比年率2.7%と前期の同1.5%から成長率は高まった。これにより、実質GDPの水準はようやくリセッション直前の90年4-6月期の水準にまで回復したことになる。しかし、今回の伸びの主因は個人消費の4-6月期(ゼロ成長)からの反動増の影響が大きく、依然として積極的な景気の牽引役がない状態が続いている。また、雇用、生産、マネーサプライ等の月次指標でみても足下の景気回復テンポはかなり弱いことを裏付けている。
10月の非農業部門雇用者数は3ヵ月ぶりに前月比増加となった。但し、現在の雇用者数の水準は依然として90年6月の水準を186万人も下回ったままである。今回のリセッションは実質GDPでみた場合は軽微なものであるが、雇用の面からみた場合、かなり深刻なものと言える。
生産関係の指標では、9月の鉱工業生産は前月比▲O.3%と2ヵ月連続で減少しており、稼働率も78.4%と91年8月以降80%を下回る水準で推移している。設備投資の先行指標の一つとされる耐久財新規受注も、9月は前月比▲0.4%とヵ月連続で減少しており、当面、投資の急速な回復も望みにくい状況であるとみられる。
家計部門の指標では、9月の実質消費支出は前月比0.7%増と今年1月以来の高い増加を示しており、名目所得は同0.7%増、実質可処分所得は同0.2%の増加となった。但し、9月の増加は8月のハリケーン「アンドリュー」の影響により大きく落ち込んだことの反動とみられるほか、所得の6割弱を占める賃金所得がむしろ同▲O.1%減少しており、今後、雇用環境が本格的に改善するまでは持続的な所得の増加は期待しにくい。また、10月の消費者信頼感指数も53.0と低い水準にとどまったままであり、9月の個人消費の高い伸びは一時的なものと判断できょう。
住宅関連の指標については、9月の着工件数、許可件数ともに前月比増加となったものの、新規一戸建販売件数は前月比▲1.0%と減少しており、回復ペースが鈍化している。
物価動向については、9月の消費者物価は総合で前月比0.2%(エネルギーと食料品を除くコア部分も同0.2%)と落ち着いた動きを示した。潜在成長率を下回る低い景気の足取りからも、当面、物価の安定基調は続くと予想される。
今後の金融政策については、これまでの金融緩和策はほぼ最終局面にあるとみられるものの、物価安定が続く中で、当面、景気の足取りが弱いことから、いま一段の金融緩和の可能性が高く、年内に公定歩合は2.5%に引き下げられると見込まれる。
<日本経済>
日本経済では、設備投資の減少傾向が持続し、消費の停滞傾向も顕著になっている。こうした状況のなか、景気を下支えしてるものは住宅投資の回復と公共投資の増加であるが、GNPの約8割を占める消費と設備投資の不振を相殺するまでには至っていない。一方、外需面は、海外景気の回復の遅れにより輸出の増勢は鈍化しているものの、国内景気の低迷から輸入が減少傾向で推移している。
足もとの経済指標をみると、7-9月期の鉱工業生産指数は前期比0.1%増加と、約一年振りにプラスの伸びとなった。また、製品在庫指数は9月123.1、製品在庫率指数も同107.2と前期末から若干ながら低下しており、「生産が緩やかに回復するなかで、在庫は減少」と望ましいかたちを示している。次に個人消費関連の指標をみると、8月の実質消費支出(全世帯)は前年同月比で▲0.4減少、耐久財を中心に商品への支出がマイナス傾向を持続し、消費支出は弱含みで推移している。その他、7-9月期の大型小売店販売(店舗調整済)は前年同期比▲0.7%減、乗用車新車登録台数も同▲9.7%減と、依然厳しい状況を示している。経済企画庁が発表した9月調査の消費者態度指数は、前期比▲6.3%と消費税導入直前の89年1-3月期(同▲6.8%)以来のマイナス幅である。同指数に採用されている項目のうちでは、特に「雇用環境」の悪化(同▲18.9%)が目立っているが、いわゆる「逆試算効果」の影響に加えて、国定費の高まり等を背景とした企業サイドの雇用調整への動きが、消費者に先行き不安をもたらせていることが伺える。また、インフレ率の改善、金利の低下によるプラス効果を、これらの所得悪化要因が相殺しており、消費性向も低調な推移となっている。次に、設備投資の動向をみると、先行指標の機械受注(船舶・電力を除く民需)は、8月、前年同月比▲11.6%と減少、7-9月期の民間建設受注(大手50社)も、前年同期比▲27.7%減と大幅マイナスが続いた。景気の減速から企業収益が悪化しており、大企業・製造業を中心にストック調整圧力が依然として根強い。また銀行貸出金利の下げ渋りなどから、中小企業・非製造業でも回復が遅れている。
一方、7-9月期の新設住宅着工戸数は年率換算で144万戸と堅調に推移するなど、住宅投資は回復基調にある。着工戸数の内訳をみると分譲住宅が低迷しているものの、持家と貸家で増加基調を維持している。その他、公共投資については、3月の「緊急経済対策」による前倒し執行の効果、8月の「総合経済対策」による追加の効果から、増加基調を持続、国内需要の落ち込みを埋める上で一定の役割を果たしている。
最後に、国際収支の動きをみると、92年度上期の経常黒字は1152億ドル(年換算)と過去最高の規模となった。輸出は、数量ベースで伸び悩んだが、円高や高付加価値化を背景としたドル建て輸出価格の上昇により、輸入総額では前年同期比10.1%増と堅調に推移した。一方、輸入は、内需の伸び低迷を背景に、同▲0.2%減少した。
<ドイツ経済>
西独では、輸出不振や消費回復の遅れ等から景況感が急速に悪化している。こうした状況を反映して、10月末にドイツ5大研究所が発表した「秋季合同経済見通し」では、西独の実質GNP成長率は92年1.0%、93年0.5%と、悲観的な内容となった。なお、旧東独の成長率は92年5.5%、93年7.0%、ドイツ全体では92年、93年ともに1.0%と予測している。物価面をみると、マルク高等の影響から、輸入物価、生産者物価ともに落ち着いた推移が持続している一方、消費者物価はサービス関連を中心に依然、高い伸び率が続いている。前年同月比では8月以降、3%台半ばの推移が続いており、2%台を目指すドイツ連銀にとっては、不満足な水準にとどまっている。国際収支については、世界景気の遅れによる輸出不振が主因となり、貿易収支改善の足取りは重い。今後も、世界景気の低迷持続、7月以降のマルク高――等から、輸出が低迷し、貿易収支が再び悪化傾向を辿る懸念がある。
<イギリス経済>
イギリスでは、90年半ばからの景気後退が依然、続いている。民間消費主導の景気回復が期待されているが、足もとの消費者コンフィデンスは一段と悪化している。この背景には、(1)ポンドのERM脱退(9月)以降、政府の経済運営に対する国民の信頼感が低下していること、(2)10月に発表された国営炭鉱の閉鎖計画により、新たに10万人の失業が見込まれること――等が挙げられる。物価面についてみると、消費者物価は、需要の低迷から落ち着いた推移を続けており、ポンド急落による物価上昇圧力は表面化していない模様である。政府の利下げに伴いモーゲージ金利が低下していることも、消費者物価押し下げ要因となっている。こうした環境下、政府は経済運営の主眼を「インフレ抑制」から「景気回復」に転換している。国際収支については、世界景気の低迷から、輪出が伸び悩む一方、輸入が底固く推移しているため、年初より赤字の改善傾向は一段落となっている。7-9月期の貿易収支は▲33億ポンド、経常収支は▲30億ポンドと、前期(各々▲32億ポンド、▲29億ポンド)からほぼ横這いとなった。
(1992年12月01日「調査月報」)
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