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マスク着用のメンタルヘルスへの影響(1)-コロナ禍の研究を経て分かっていること/いないこと

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子
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1――コロナ禍のマスク着用とメンタルヘルスの正の相関関係
これまでコロナ禍でのマスク着用行動とメンタルヘルスの相関を検証したいくつかの研究では、両者の間に正の相関が見られることが報告されている。例えば、中国で2020年1月から2月及び2月から3月の2回にわたって行われた調査では、マスクを常に着用している人は、マスクをつけていない人に比べて、不安感や抑うつ傾向が小さい傾向が見られたことが報告されている2。他にも、マスク着用行動とメンタルヘルスの正の相関関係を示した研究として、中国で2020年2月に、中高生を対象に行われた調査では、適切にマスクを使っている子に比べて、そうでない子は、不安症状を示す傾向が約2倍だったことが報告されている3。加えて、韓国で19歳以上の人を対象に、2020年8月から10月に行われた調査では、抑うつ傾向があるとマスクを着用しない傾向が見られたことが報告されている4,5。
他にも、18歳以上の英国住民を対象に、2020年4月から6月及び、同年7月から8月の2回にわたって行われた調査では、マスクをいつも/ほとんどつけている人は、そうでない人に比べて、メンタルヘルスが良好な傾向が見られたことが報告されている6。加えて、米国で2020年5月から6月、2020年8月、2020年10月の3回にわたって行われた調査(対象の6州を代表するようにサンプリングされた調査)では、絶望感がマスクの非着用と相関していたことが報告されている7。さらに、米国で、障害のある人々を対象に行われた調査では、マスク着用義務化の解除が、障害のある人々のメンタルヘルスを悪化させた可能性が示されている8。
2 Wang, C. et al. (2020). A longitudinal study on the mental health of general population during the COVID-19 epidemic in China. Brain, Behavior, and Immunity, 87, P 40-48. (https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0889159120305110, 2025/5/13 accessed)
3 Xu, Q. et al. (2022). Association between mask wearing and anxiety symptoms during the outbreak of COVID 19: A large survey among 386,432 junior and senior high school students in China. Journal of Psychosomatic Research, 153, 110709. (https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022399921003548, 2025/5/13 accessed)
4 Shin H. et al. (2023). Association of depression with precautionary behavior compliance, COVID-19 fear, and health behaviors in South Korea: National cross-sectional study. JMIR Public Health Surveill 2023;9:e42677. (https://publichealth.jmir.org/2023/1/e42677, 2025/5/13 accessed)
5 Byun, J.A. et al. (2022). Association of compliance with COVID-19 public health measures with depression. Sci Rep 12, 13464. https://doi.org/10.1038/s41598-022-17110-5. (https://www.nature.com/articles/s41598-022-17110-5, 2025/5/13 accessed)
6 Altschul, D. et al. (2021). Face covering adherence is positively associated with better mental health and wellbeing: a longitudinal analysis of the CovidLife surveys [version 1; peer review: 1 approved, 1 approved with reservations]. Wellcome Open Res 2021, 6:62 (https://wellcomeopenresearch.org/articles/6-62/v1, 2025/5/13 accessed)
7 Welton-Mitchell, C. et al. (2023). Influence of mental health on information seeking, risk perception and mask wearing self-efficacy during the early months of the COVID-19 pandemic: a longitudinal panel study across 6 U.S. States. BMC Psychol 11: 203.
(https://link.springer.com/article/10.1186/s40359-023-01241-z, 2025/5/13 accessed)
8 Hallyburton, A. et al. (2024). More than a mask: Possible relationships between lifting of COVID-19 mask requirements and depression symptoms experienced by US adults with disabilities. Disability and Health Journal, 17: 3, 101611. (https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1936657424000426, 2025/5/13 accessed)
コロナ禍で、マスク着用とメンタルヘルスの間に正の相関が見られた理由としては、マスク着用が、新型コロナウイルスに感染したり、周りの人を感染させたりする不安を和らげた可能性が考えられる。一方で、新型コロナウイルス感染拡大に絶望感を感じているなど、メンタルヘルスの状況がよくないとマスク着用行動をしにくくなる影響も考えられる。つまり、マスク着用からメンタルヘルスへの影響とメンタルヘルスからマスク着用への影響の双方が、マスク着用とメンタルヘルスの正の相関をもたらす理由として考えられるのだ。
さらに米国などで実施されたマスク着用義務化の政策は、自由を奪う脅威と捉えられることで、人々のマスク非着用につながる可能性があることが、心理学の立場から指摘されている910。こうした場合は、マスク着用の義務化自体にストレスを感じる人々が、マスク着用を拒んでいる可能性も考えられる。つまり、マスク着用自体ではなく、第三の要因(例えばここではマスク着用義務化という政策)が、マスク着用行動とメンタルヘルスの両方に影響を与えることで、マスク着用とメンタルヘルスの間に正の相関が見えている可能性が考えられる。
9 Scheid, J.et al. (2020). Commentary: Physiological and psychological impact of face mask usage during the COVID-19 pandemic. International Journal of Environmental Research and Public Health, 17:18, 6655. (https://doi.org/10.3390/ijerph17186655, 2025/5/13 accessed)
10 Taylor, S. (2022). The psychology of pandemics. Annual Review of Clinical Psychology, 18:581–609. (https://www.annualreviews.org/content/journals/10.1146/annurev-clinpsy-072720-020131, 2025/5/13 accessed)
2――コロナ禍のマスク着用とメンタルヘルスの負の相関関係
マスク着用とメンタルヘルスの間には、上記のように正の相関が見られるという報告がある一方で、負の相関が見られるという研究結果や、相関が見られなかったという研究結果も報告されている。例えば、インドネシアで、18歳以上を対象に、2020年12月から2021年1月に行われた調査では、マスクの着用とメンタルヘルスの間に相関は確認されなかった11。また、イタリアで2022年6月から9月にかけて行われた調査では、新型コロナウイルス感染への不安が大きい人がマスクを着用する傾向が見られた12。また、中国と米国の比較研究では、中国で2020年2月から3月、米国で2020年4月に行われた調査から、マスク着用と新型コロナによるストレス症状の関係について、中国では負の相関が見られたのに対し、米国では正の相関が見られたことを報告している13。
11 Wulandari, D. et al. (2023). Predictors of face mask use during the COVID-19 pandemic in Indonesia: Application of the health belief model, psychological distress and health motivation. F1000Res, 18:11, 1080. (https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38037555/, 2025/5/13 accessed)
12 Riso, D.D. et al. (2025). Wearing face masks when no longer mandatory: An exploratory study about attitudinal and psychological health factors in a large Italian sample. PLOS One. (https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0314607, 2025/5/13 accessed)
13 Wang, C. et al. (2021). The impact of the COVID‑19 pandemic on physical and mental health in the two largest economies in the world: a comparison between the United States and China. J Behav Med 44, 741–759. (https://link.springer.com/content/pdf/10.1007/s10865-021-00237-7.pdf, 2025/5/13 accessed)
コロナ禍で新型コロナウイルスに感染する不安が大きい人ほどマスクを着用していたとすれば、マスク着用とメンタルヘルスの間に負の関係が見られることは自然に感じられる。しかし、負の関係が見られる理由には、文化的な背景がある可能性も指摘されている。例えば、上記で紹介した研究で、中国ではマスク着用とメンタルヘルスの間に正の相関が見られたのに、米国では負の相関が見られたのはなぜなのか。この研究を発表した研究者たちは、米国では、マスク着用が病気の象徴やアイデンティティを隠すものとして認識されているために、マスク着用に対して両義的な見方がされているのではないかと指摘している14。
マスク着用のメンタルヘルスへの影響がマスク着用文化に影響を受ける可能性があることは、ノルウェーで行われた研究でも示唆されている。この研究で、実験参加者の半分は14日間公共の場所でマスクを着用するように指示され、残りの半分は14日間公共の場所でマスクを着用しないように指示をされた。そして、両者の感染状況の比較が行われた。この実験でマスク着用の副作用として実験参加者から最も多く寄せられたのは、公共の場でマスクをしているときに周りの人々から不快な言葉を投げかけられることや、周りにマスクをしている人がいないのに一人だけマスクをしていてばかみたいに感じるといったことだった14。他にも、一部の欧米諸国では、マスクを着用しているアジア系住民が差別を受けたとする報告も存在する15,16,17。こうした差別は、マスク着用者に大きなストレスを与える可能性がある。実際に2020年3月から4月に米国で行われた調査では、マスクを着用している人は、そうでない人にくらべて差別を感じている傾向があり、差別を感じている人は、精神的苦痛を感じている可能性があることが報告されている18。
14 Solberg, R.B. et al. (2024). Personal protective effect of wearing surgical face masks in public spaces on self-reported respiratory symptoms in adults: pragmatic randomised superiority trial. BMJ 2024;386:e078918. (https://www.bmj.com/content/386/bmj-2023-078918, 2025/5/9 accessed)
15 He, J. et al. (2020). Discrimination and social exclusion in the outbreak of COVID-19. Int. J. Environ. Res. Public Health, 17:8, 2933. (https://www.mdpi.com/1660-4601/17/8/2933, 2025/5/13 accessed)
16 Choi, H.A. & Lee, O.E. (2021). To mask or to unmask, that is the question: Facemasks and anti-Asian violence during COVID-19. J Hum Rights Soc Work. 6:3, 237-245. (https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8206186/, 2025/5/13 accessed)
17 Zhang. Y.S.D. et al. (2022). “Responsible” or “strange?” Differences in face mask attitudes and use between Chinese and Non-East Asian Canadians during COVID-19’s first wave. Front. Psychol. 13:853830. (https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2022.853830/full, 2025/5/13 accessed)
18 Liu, Y. et al. (2020). Perceived discrimination and mental distress amid the COVID-19 pandemic: Evidence from the understanding America study. American Journal of Preventive Medicine,59: 4, 481-492. (https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0749379720302737, 2025/5/13 accessed)
3――コロナ禍でのマスク着用とメンタルヘルスの関係のまとめ
(2025年06月16日「基礎研レター」)

03-3512-1882
- 【職歴】
2010年 株式会社 三井住友銀行
2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
2021年7月より現職
【加入団体等】
日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
博士(国際貢献、東京大学)
2022年 東北学院大学非常勤講師
2020年 茨城大学非常勤講師
岩﨑 敬子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2025/06/16 | マスク着用のメンタルヘルスへの影響(1)-コロナ禍の研究を経て分かっていること/いないこと | 岩﨑 敬子 | 基礎研レター |
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