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2025年08月27日

探索的空間解析でみる日本人旅行客の「ホットスポット」とその特色~旅行需要の集積が認められた自治体の数は、全国で「105」~

金融研究部 上席研究員 吉田 資

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1.はじめに

観光庁「旅行・観光消費動向調査」によれば、2024年の「日本人国内延べ旅行者数」は、前年比+8.0%増加の約5.4億人となり、コロナ禍前の水準(2019年・約5.9億人)に迫った。また、2024年の「日本人国内旅行消費額」は、前年比+14.8%増加の約25.2兆円となり、コロナ禍前の水準(2019年・約21.9兆円)を大幅に上回った(図表-1)。コロナ禍で大幅に落ち込んだ国内旅行需要は、順調に回復している。

また、観光庁「宿泊旅行統計調査」によれば、地方部1の延べ宿泊者数に占める日本人の割合は約9割に達しており、地方部の宿泊需要は依然として日本人旅行客が中心となっている(図表-2)。

今後も、国内旅行需要の高まりが期待されるなか、ホテルや商業施設の開発などに携わる不動産事業者や不動産投資家にとって、地域ごとの旅行需要の特徴を把握することは一層重要となる。また、地域経済の見通しや、観光戦略の策定においても、国内旅行者の動向を把握することは有益だと考えられる。

そこで、本稿では、探索的空間解析の手法を用いて、日本人国内旅行者の動向を分析し、日本人の旅行需要が旺盛な自治体(「ホットスポット」)を検出するとともに、その特徴について確認したい。
図表-1 日本人国内延べ旅行者数・旅行消費額/図表-2 延べ宿泊者数(2024年)
 
1 地方部は、三大都市圏以外の道県。三大都市圏は、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、愛知県、大阪府、京都府及び兵庫県。

2.探索的空間解析に基づく旅行需要の「ホットスポット」検出

2.探索的空間解析に基づく旅行需要の「ホットスポット」検出

2-1.分析方法
2-1-1.分析手法
本章では、地域間の「隣接効果」に着目し、日本人国内旅行者の動向を分析し、旅行需要が旺盛な自治体を検出する。観光における「隣接効果」とは、「旅行者が多く集まる都市の周辺部は一定程度旅行者が集まる一方、旅行者が少ない都市の周辺部は旅行者の流入が少ない状態」を指す。先行研究2では、観光市場では「隣接効果」が確認されており、ある都市の観光施策が隣接都市にも波及することから、マーケティング戦略やインフラ設備等で都市間の連携が求められると指摘している。

本稿では、この「隣接効果」に着目し、探索的空間解析の1つであるホットスポット分析を用いる。ホットスポット分析は、位置情報データの空間的自己相関3の特徴に着目し、サンプル(例:旅行者数)の多い地区が、都市内のどのエリアに集積4しているのかを特定する手法である。

具体的には、各地区を(1)「ホットスポット(High- High)」(自地区・近隣地区ともに旅行者数が多い)、(2)「コールドスポット(Low-Low)」(自地区・近隣地区ともに旅行者数が少ない)、(3)「一人勝ち(High- Low)」(自地区は旅行者数が多いが近隣地区は少ない)(4)「一人負け(Low - High)」(自地区は旅行者数が少ないが近隣地区は多い)の4つに分類し、統計的検定5を行う(図表-3)。

統計的に有意で、「ホットスポット」に分類された地区は、人気の観光名所や飲食店等、観光客を惹き付ける観光スポットが集中し、自地区だけなく隣接地区の旅行客も増やす「スピルオーバー効果」が生じている地域と推察される。「ホットスポット」地区は旅行需要が旺盛であり、観光地としての発展が期待できる地域であると解釈でき、ホテルや商業施設等の開発や、不動産投資の対象地域としても有望と考えられる。
図表-3 ホットスポット分析の概念
 
2 大井達夫(2016):Moran の I 統計量を使用した地域観光入込客の空間パターン分析.法政大学日本統計研究所所報,47,245-263
3 事物間の距離が近いほど強く関係し合うという普遍的な地理学的法則(地理学の第一法則)に基づき、隣接性に基づいた事象の空間的相互従属を表す。
4 地区の旅行者数が平均よりも高い地区が連続している状態。
5 本稿では、空間的自己相関の代表的な尺度であるMoran's I統計量を採用したホットスポット分析を行った。
2-1-2.分析対象データ
「日本人国内旅行者」のデータは、公益社団法人日本観光振興協会「デジタル観光統計オープンデータ」の市区町村別「観光来訪者数6」を採用した。また、2021年と2024年を比較し、経年での変化を確かめた。

図表-4は、市区町村別にみた年間観光来訪者数(2021年と2024年)の上位10自治体を示している。2021年、2024年ともに、「東京都千代田区」が最多であり、東京都中心部(千代田区・新宿区・港区等)が上位を占めている。観光庁7によれば、観光地点(スポット)は大きく6つ[(1)自然、(2)歴史・文化、(3)温泉・健康、(4)スポーツ・レクリエーション、(5)都市型観光(買い物・食など)、(6)その他(道の駅等)]に分類される。現状では、「(5)都市型観光」のスポットを多く抱える自治体に、国内観光客が多数来訪している模様だ。

また、コロナウィルス感染拡大により移動制限のあった2021年は、首都圏からの交通アクセスが良い「静岡県御殿場市」が、2024年は観光地として人気の高い8「沖縄県那覇市」が上位にランクインしている。
図表-4 市区町村別 年間観光来訪者数(上位10自治体)
 
6 日本国内に居住する者で観光目的(ただし、通勤を除く)のため、日常生活圏以外(自宅からの直線距離が20km以上)の観光地点を訪れた者。スマートフォン位置情報データを活用して調査。
7 観光庁「観光入込客統計に関する共通基準」令和5年(2023年)改定版<
8 リクルート「じゃらん観光国内宿泊旅行調査 2025」によれば、「今後行きたい旅行先」として沖縄県は北海道に次ぐ第2位となっている。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年08月27日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   上席研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所
     2025年7月より現職

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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