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Z世代にとってサステナビリティは本当に「意識高い系」なのか-若年層の「利他性」をめぐるジレンマと、その突破口の分析

生活研究部 准主任研究員 小口 裕
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1――Z世代にとってサステナビリティは本当に「意識高い系」なのか
本来は「意識が高い」という評価はポジティブなはずだが、実際には「意識高い系」という揶揄としてネガティブに転じてしまう。特にZ世代1に代表される若年層を語る際によく使われる表現だが、果たしてZ世代自身がサステナビリティやSDGsをそのように捉えているのだろうか。結論から言えば、Z世代は、むしろ他世代以上に学び、その重要性を理解しており、Z世代の「意識高い系=サステナビリティと距離を置く姿勢」という短絡的な解釈は本質を見誤る恐れがある。その一方で、Z世代ならではの持続可能性に対する意識や行動に向けた制約も明らかになっており、その行動促進に向けた政策・施策には慎重なアプローチが求められる。
本稿では、この背景を文化的・社会的な観点から探りつつ、サステナビリティ政策・施策を浸透・機能させるためには、性差や世代差を踏まえたアプローチが欠かせないことを示す。そのうえで、特にZ世代をサステナブルな行動へと動かすための実践的アプローチについて考えてみたい。
1 Z世代とは、一般的に1990年代後半から2010年前後に生まれた世代を指す。本稿では20~29歳を中心に扱う。インターネットやSNSが当たり前の環境で育った「デジタルネイティブ」であり、情報収集や発信に積極的である一方、他者からの評価や共感を強く意識する傾向がある。消費行動においては、ブランドや商品の社会的イメージ、オンラインでの共感性などが意思決定に大きな影響を及ぼす世代である。
2――Z世代とサステナビリティの関わりの実態
ニッセイ基礎研究所の2024年の調査2によれば、学校などでサステナビリティやSDGsについて学んだ経験があると答えた割合は、Z世代(20代)で30.9%と全体平均14.9%の2倍以上にのぼり、最も高い数値となった。また、日常的に情報を収集している割合も25.9%と、他世代を上回る(数表1)。このデータを見る限り、サステナビリティの「学び」と「知識量」では、Z世代が先頭を走っていると言える。
2017年に改訂された現在の学習指導要領3では、初めてSDGs(持続可能な開発目標)の理念が正式に盛り込まれた。この改訂により、総合的な学習(探究)の時間などを通じて、小学校から高校まで一貫して持続可能性を学ぶ機会が制度として整ったことになる。
その結果、Z世代のうち、2000年代前半以降に生まれた後期層は、小・中・高のいずれかの段階でSDGs教育を受けてきている。さらに、Z世代の後進となるα世代(アルファ世代/2010年代初頭~2020年代半ば生まれ)は、小学校入学時点からSDGs教育を受ける「完全SDGs教育世代」である。
データ(数表1)を見ても、Z世代は他世代に比べてサステナビリティに関する学習経験や情報収集の頻度が高いことが際立っており、教育を通じて「知識としての持続可能性」を理解する基盤は、確かに築かれていると言えるだろう。Z世代のサステナ行動を考える上で、この教育背景は大前提となる。
消費者行動の観点では、知識を持つことと、それが日常の購買や行動に結びつくことは別問題であり、教育で得た知識がどのように価値観や行動へと影響しているのかを見極める必要があるだろう。
なお、このギャップの背景には、経済的な要因もあると考えられる。20代は就業初期の社会人が多く、給与水準も高くはないため、支出を伴うサステナ行動にはどうしても慎重にならざるを得ないという側面はありそうだ。また、それだけでこのギャップを完全に説明できる訳ではなく、さらに、文化的・社会的要因や意識といった側面も合わせて考慮していく必要があるだろう4。
2 ニッセイ基礎研究所「 サステナビリティに関する消費者調査」/調査期間:2024年8月20日~23日/調査対象:全国20~74歳男女/調査手法:インターネット調査(令和2年国勢調査の性・年代構成比に合わせて抽出)/有効回答数:2,500)
3 平成29・30・31年改訂学習指導要領(文部科学省)
2017年告示は小学校・中学校、2018年告示は高等学校分となる。SDGsや持続可能性の理念が「総合的な学習の時間(探究の時間)」などに盛り込まれたことが確認できる。
4 2024年 国民生活基礎調査「平均所得金額(第35表~第44表)」世帯単位で見ると、Z世代(29歳以下)の平均可処分所得は251.8万円と全体平均(415.6万円)より約4割低く、明らかに水準が低い。一方で、1人あたりに換算すると185.3万円で、30代や40代とほぼ同水準である。したがって、Z世代(20代)の消費行動を考える時、世帯単位の所得水準による経済的制約があるものの、それだけでサステナ商品の購買に慎重な理由を説明できるわけではなく、文化的・社会的要因など他の側面もあわせて考慮する必要があると言える。
Z世代のサステナ行動を考察する上で欠かせないのが、「自分ごと意識」についてだ。「自分ごと意識」とは、社会課題との関わりを自分の問題として捉え、その関与や責任を感じる意識を指す。
総合調査機関の日本リサーチセンターが2025年に実施した社会調査5によれば、「サステナは自分に関わりがある」と答えた割合は、20代が43.9%と全世代で最低水準となった(数表3)。
他世代では50%を超える層もあるなかで、この数字はやや際立っている。別の調査項目を合わせてみると、40代以降は「家庭」や「子ども」といった生活課題と直結してサステナビリティを捉えているのに対し、20・30代は社会的意義を理解しつつも、自分の暮らしにどう結びつけるかをイメージしきれていない様子がうかがえる。
5 日本リサーチセンター「NOS(日本リサーチセンター・オムニバス・サーベイ)」/全国の15~79歳の男女個人1200名を対象に実施された訪問留置調査。調査実施時期:2025年1月~2月。
(2025年08月27日「基礎研レポート」)

03-3512-1813
- 【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事
2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所
2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員
【加入団体等】
・日本行動計量学会 会員
・日本マーケティング学会 会員
・生活経済学会 准会員
【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)
*共同研究者・共同研究機関との共著
小口 裕のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/08/27 | Z世代にとってサステナビリティは本当に「意識高い系」なのか-若年層の「利他性」をめぐるジレンマと、その突破口の分析 | 小口 裕 | 基礎研レポート |
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