コラム
2009年12月02日

職業格付け (Job rating)

遅澤 秀一

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日本でも学生の就職先人気ランキングなどが雑誌を賑わせることもあるし、給料やボーナスなどをランキングする企画もある。

米国でも職業をランキングする企画はあるようで、これは単に収入だけでなく、労働環境、肉体的きつさ、ストレス、年収、労働時間を総合的に判断して200の職業をランキングするものだ。

ちなみにトップ3は、第一位が数学者、第二位がアクチュアリー、第三位が統計学者である。職業をランキングすること自体が他愛もない話かも知れないが、ランキングには彼我の差がうかがわれて興味深い。

第一に米国でのランキングで眼を引くのは、学問分野の間でも年収に差があることだ。日本の大学教授の年収で、学問分野による差は小さいだろう。しかし、米国では平均年収が大きく異なるのだ。

例えば、物理学者が100,140ドル、数学者94,160ドルなのに対して、社会学者は63,195ドル、歴史学者は61,209ドル、哲学者は58,200ドルである。全般的に見て、自然科学の方が社会科学や人文科学よりも高い傾向があるようだ。これが学問分野に対する社会の見方を映し出しているのだとすれば興味深い。

第二に、補助的な仕事の方がランキングが上位にくることも多いことだ。たとえば、弁護士よりもパラリーガル(法律家補助員)の方が順位が上だ。

たしかに弁護士の方が年収は高いが、ストレス、労働環境、労働時間等を勘案すると、評価が逆転する。そこそこ働いて、そこそこの収入を得て、それなりに楽しく、それなりに働き甲斐がある職業が選択肢の一つとして高い評価を得ている。

だが、日本の場合、なかなかこういう選択が一番手になりにくいのではないだろうか。走るかリタイアするかの選択を強いて、歩いたり休みながら走ったりといった選択を積極的に評価する風土がないからだ。

第三に、職業が細分化・専門化されていることも特色の一つだろう。つまり、職業として挙げられているリストの中には、日本であれば「サラリーマン」として一括りにされてしまうものも少なくない。

これは日本では、入社時に新卒は必ずしも職種が定まっておらず、入社後に配属を決め、その後も職種の転換が稀ではないことの現れであろう。この方法のメリットは柔軟な配転によって雇用が確保される点にあるが、企業が雇用を維持できなくなった場合、社会として就労対策を施すのが難しくなるという欠点がある。

職種が専門職として細分化されていないと、外部から不足している職種のニーズが把握しにくくなるからである。たとえば、IT関連は日本でも慢性的に人手不足と言われているが、米国ではコンピュータ関連でも職種が細分化されており、求められるスキルがより具体的になっている。

だからこそ、外部でも的確な職業教育が可能となるのである。だが、これは卵が先か鶏が先かという問題に似ているのかもしれない。企業がOJTで教育・訓練を行わなければならないのは、学校教育が職業訓練の場としてまったく機能していないからでもあるからだ。
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