2020年05月22日

新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(1)-米国大手保険G及び大手再保険Gの2020年第1四半期業績発表による-

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3|AIG
AIGは、その2020年第1四半期の業績発表6において、第1四半期におけるCOVID-19 の影響について、以下のように述べている。

・損害保険は、第1四半期に、再保険後で4億1,900万ドルの税引前のカタストロフィ損失(CAT)を記録した。これには、旅行、コンティンジェンシー、商業用不動産、貿易信用、労働者補償及びValidus Reに関連する推定2億7,200万ドルのCOVID-19損失が含まれる。残りのCATは主に気候に関連したものだった。

・生命保険と退職は、主に進行中のCOVID-19危機によって引き起こされた株式市場の下落と信用市場のスプレッドの拡大の影響を受けて、調整後利益(税引前)5億7,400万ドルを報告した。

また、Brian Duperreault CEOは、以下のように述べている。

「前例のない世界的な大惨事であるCOVID-19に直面して、私たちの同僚は優れた回復力を示し、私たちが最善を尽くすことに集中し、特に困難な時期にクライアントのリスク管理を支援している。」

「AIGはこの危機が始まる前に強い財務状況にあり、今日も強い財務状況にある。私たちは、COVID-19は業界でこれまでに見られた中で最大のCAT損失になると信じているが、2017年後半以来私たちのチームが行った重要な一連の作業は、この進化する状況を乗り切るのに役立った。AIGは、優れた財務上の柔軟性を備えたグローバルな保険会社としての地位を確立している。」

「COVID-19危機は重大な不確実性を生み出しており、その広範な影響を理解するには時間がかかる。これに照らして、AIGは、普通株式の調整後リターンに関するものも含む、以前に発行されたガイダンスを撤回している。ただし、損害保険では、特に調整後のコンバインドレシオの継続的な改善が見込まれており、生命保険&退職では、COVID-19の影響によって長期的な収益プロファイルが大幅に減少するとは考えていない。」

なお、2億7,200万ドルのCOVID-19損失のうち、北米が1億2,300万ドル、北米以外が1億4,900万ドルだった。また、生命保険に関して、COVID-19 に起因する死亡通知の遅延の可能性に関連した既発生未報告 ( IBNR ) 備金の積増しが行われた。

さらに、今後のCOVID-19の影響については、以下の通り述べている。

「COVID-19は、当社の事業、財務状況及び経営成績に悪影響を与えており、さらに引き続き悪影響を与えると予想され、その最終的な影響は、危機の範囲と期間やそれに対応しての政府と規制当局が取る行動を含む、不確実で予測できない将来の進展に依存している。危機が沈静化した後でも、米国及びその他の主要経済が長期にわたる不況を経験する可能性があり、その場合、当社の事業、経営成績及び財務状況が重大かつ悪影響を受ける可能性がある。COVID-19が当社の事業、財務状況及び経営成績に与える影響に関する記述は、将来の見通しに関する記述を構成する可能性があり、実際の影響が、COVID-19の範囲と期間、その影響を緩和するために政府や規制当局が取った措置など、不確実で予測不可能な、多くの場合は制御不能な要因と将来の動向により、これらの将来の見通しに関する記述に反映されているものと、場合によっては大幅に異なる可能性がある。」

なお、「COVID-19への対応」として、以下の項目を挙げている。

・危機が進展するにつれ、AIGは既存の事業継続計画を首尾よく実施し、グローバルな労働力の安全を確保し、重大な運用上の混乱を招くことなく社会的距離を支援している。

・請負人やコンサルタントを含む労働力の90%以上が、在宅勤務に迅速に移行し、AIGは長期的なシェルターの可能性を促進する設備を提供している。

・AIGは、予期しないコストを支援するために、全従業員に全世界で500ドルの助成金を支給した。これは、総額で3000万ドルに相当する。

・AIGは、病院に数千枚のマスクを寄付したり、非営利団体に食品を配布したりするなど、グローバルコミュニティをサポートする方法を引き続き模索している。さらに、いくつかの従業員リソースグループが従業員を支援し、地域の救援活動に寄付をしている。  

3―大手再保険グループの公表内容

3―大手再保険グループの公表内容

ここでは、大手再保険グループから、Munich Re(ミュンヘン再保険)とSwiss Re(スイス再保険)の状況について報告する。
1|Munich Re
Munich Reは、その2020年第1四半期の業績発表7において、「COVID-19 関連の損失の影響で四半期利益が低下」と述べた。

Munich Reの第1四半期の利益は、グループ全体で、前年同期の6億3,300万ユーロから、2億2,100万ユーロに大幅に減少した。また営業利益も、前年同期の7億7,100万ユーロから3億9,700万ユーロに減少した。

COVID-19 関連の損失は、特にイベント中止保険を中心に、合計で約800百万ユーロに達したとしたが、また「COVID-19による多額の損失は、Munich Reにとって財政的に管理可能である。」と述べた。

さらに、「2020年3月31日に発表されたとおり、2020/2021年に予定されていた自社株買いプログラムの実施は、追って通知があり、COVID-19から生じる実際の負担と潜在的なオーガニック又はノンオーガニックなビジネスチャンスのための資本要件の両方がより明確になるまで中止された。」と述べた。

損害保険再保険事業においては、大規模損失が正味収入保険料の21.1%に相当して、長期平均期待値の12%を大きく上回った。人為的な大規模損失は、9億7,300万ユーロで、これは主に、コロナウイルスのパンデミックによる主要イベントの中止又は延期に起因する損失によるものだとしている。

また、生命保険・医療再保険事業においては、COVID-19による顕著な影響はないとしている。

子会社の元受保険グループであるERGOについては、COVID-19は、第1四半期の引受け業務に大きな影響を与えなかったとしている。

今後の見通しに関しては、以下のように述べている。

「2020年3月31日、Munich Reは、主要イベントの中止又は延期によるCOVID-19関連の損失、及びCOVID-19のマクロ経済的及び財政的影響に関する大きな不確実性により、それ以外の場合は想定に沿った人為的及び自然災害による大きな損失を仮定したとして、2020年全体で28億ユーロの利益見通しを達成できない、と発表した。

進行中の不確実性を考慮して、Munich Reは現時点で2020年の新しい利益目標(以前は約28億ユーロ)を指定しない。同様に、再保険事業分野の利益ガイダンス(以前:約23億ユーロ)と、損害保険再保険のコンバインドレシオ(以前:約97%)を撤回した。

Annual Report 2019で発表された他のサブターゲットは変更されていない。しかし、コロナウイルスのパンデミックのさらなる進展とその経済的影響に関するかなりの不確実性を考えると、Munich Reは、その全ての目標値は達成されないという非常に高いリスクに直面している。」

なお、Munich Reは、4月6日に「コロナウイルス:Munich Reへの影響8について公表している。この中で、例えば、以下のように述べている。

「Munich Reは、2月28日の年次バランスシートメディア会議で発表されたように、年次総会で、1株あたり9.80ユーロの配当を株主に提案する。ただし、大規模イベントの中止と延期、及びCOVID-19のマクロ経済的及び財政的影響に関する大きな不確実性が主な原因で、既に発生した保険金支出を考えると、Munich Reは、今日の観点から、それ以外の場合は想定に沿った人為的及び自然災害による大きな損失を仮定したとして、2020年全体で28億ユーロの利益見通しを達成しないだろう。損害保険セグメントの多くの事業分野(事業の中断など)では、保険カバーからパンデミックの発生リスクを除外することが一般的な市場慣行となっている。しかし、COVID-19が発生し、主要なイベントの中止又は延期に関する保険金請求が発生する。さらに、景気後退の結果として、他の事業部門でも損失が発生する可能性がある。

生命保険と健康保険における損失の予想は、特に北米では、死亡率の推移に大きく依存している。 200年に1回のイベントに相当する多くの死亡者がいる世界的なパンデミックは今日の見通しから除外することはできないが、そのようなシナリオでの保険金請求は、損害保険の再保険における中規模の自然災害のコストを超えないだろう。

資本市場では、金利のさらなる下落、株式市場の急激な下落、債券の信用リスク・スプレッドの拡大が観察されている。これは当社のソルベンシー比率に影響を与えるが、ヘッジ及び当社の投資の幅広い分散化は、その影響を部分的に緩和させる。現状では、Munich Re(グループ)のソルベンシー比率は、当社の内部制限及びトリガーシステムの最適範囲(175%~220%)内に問題なく留まっている。Munich Reは、全ての要件に沿って非常に堅実な資本を有したままであり、その強力なバランスシートにより、クライアントの信頼できるパートナーとなっている。

全体的な経済的な観点から見ると、結果はウイルスが如何に早く封じ込められるのかに大きく依存しているが、現時点ではウイルスの影響が拡大すると予測している。もし、今後数週間でパンデミックが抑制され、正常な経済に戻る可能性がある場合、私たちは非常に鋭いが一時的にすぎない不況を予想している。」

また、第1四半期業績発表時のプレゼンテーション資料9では、「引き続きの高い不確実性を有した動的な状況下で、保険業界の資産と負債に影響を与えている」として、以下の点を述べている。

・生命保険事業への財務的影響を評価するのは時期尚早
・コンティンジェンシー請求は既に観察されており、その他のラインにおける請求は年の残りでより関連してくる。
・ボラティリティが投資ポートフォリオに影響を与えるが、ソルベンシーII比率は212%以上で十分に最適範囲内に収まっている。
2|Swiss Re
Swiss Reは、その2020年第1四半期の業績発表10において、「業界有数の資本水準と堅調な投資実績でCOVID-19(新型コロナウイルス)の感染拡大に対応」していると述べた。

グループ全体では、COVID-19危機が保険引受(税引前費用4億7,600万ドル)及び投資(正味3億ドル)の結果に及ぼす影響を反映して、2億2500万ドルの純損失だった。なお、純利益への影響は▲1億5,800万ドルで、ROE(年率、以下同様)は前年同期の5.9%から▲3.1%に低下したが、COVID-19の影響を除くと2.2%だった。

事業部門別には、以下の通りとなっている。

(1)損害再保険事業(P&C Re)
・損害再保険事業(P&C Re)は、COVID-19関連の損失を受けながらも6,100万ドルの純利益を計上した。

・COVID-19の危機は、主にイベントの中止や延期により予想される保険金請求のために準備金が積み立てられたため、純利益に2億5,300万米ドルの影響を与えた。

・ROEは、前年同期の0.6%に対して3.0%で、COVID-19の影響を除くと13.2%だった。コンバインドレシオは110.8%で、COVID-19に関連する請求を除くと105.5%となり、2020年通年の97%の平準化調整後11の予想コンバインドレシオの達成に向けて順調に進んでいる。

(2)生命・医療再保険事業
・生命・医療再保険事業(L&H Re)は2億9,900万米ドルの純利益で、ROEは15.8%だった。

・当四半期に、COVID-19による保険金請求(死亡率又は重大疾病のいずれについても)に重大な影響は発生していない。

(3)コーポレート・ソリューションズ
・コーポレート・ソリューションズは、COVID-19関連の損失の影響を受け、1億6,700万ドルの純損失を計上した。

・COVID-19に関連する請求のための準備金が2億2,300万ドルに達したが、これらの損失の殆どは、イベント中止に関連して予想される請求のために計上された準備金である。なお、コーポレート・ソリューションズは、昨年発表された再建計画において、イベント中止保険事業から撤退することを決定している。

・コンバインドレシオは125.8%で、COVID-19の影響を除くと103.2%となり、前年同期の116.3%に比べて13%ポイント低下した。2020年通年の105%の平準化調整後の予想コンバインドレシオの達成に向けて順調に進んでいる。

今後の見通しについて、Christian Mumenthaler CEOは、以下のように述べている。

「COVID-19(新型コロナウイルス)のパンデミックは終息の見通しが立たたないため、経済と社会全体への影響は広範囲にわたると思われます。私たちの業界は、この危機による痛みの一部を吸収するという重要な役割を担っています。スイス・リーは、引き続きお客様のために途切れることなく事業を継続し、強力な資本力に基づく柔軟性を活用してまいります。当社は、積極的な貢献ができるものと確信しています。長期的には、この難局から教訓を学び、今後社会がこうした大規模な破壊的事象にうまく対応できるようにするために、官民連携による解決策を模索することが必要になるでしょう。」
 
10 https://www.swissre.com/dam/jcr:81fab050-a30c-43d5-8365-3770991b128e/nr-20200430-q1-2020-news-release-doc-jp.pdf(日本語版)
11 新型コロナウイルスによる影響及び前年度の準備金の推移を考慮せず、平均的な大規模自然災害に伴う損失負担を想定したもの
 

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、米国大手保険グループ及び大手再保険グループの第1四半期の業績発表の中から、COVID-19の影響等に関する公表内容について報告してきた。

各社の公表内容は、各社各様で、その説明資料等も様々である。

ただし、各社とも損害保険(再保険)事業や投資関係を中心に、第1四半期においてCOVID-19の影響を受けて、損益の実質的な下方修正を迫られており、さらには第2四半期以降の動向についても高い不確実性を有しているとして、年初の収益予想の撤回等を行っている。一方で、同時に、これらのCOVID-19の影響にも関わらず、会社の財務状況の堅固さは揺るぎないものである等との声明も公表している。

次回のレポートでは、欧州大手保険グループの第1四半期におけるCOVID-19の影響等の公表内容について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2020年05月22日「保険・年金フォーカス」)

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