コラム
2014年09月29日

画一的なマンションの住戸プランに変化の兆し

松村 徹

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マンションの住戸プランが画一的なのはなぜ
   通常、マンションは横長の建物に細長い住戸が並び、ファミリー向けの間取りは2LDKや3LDKがほとんどですが、これが本当に暮らしやすい住戸プランなのでしょうか。また、少子高齢化や単身世帯の増加で標準的な家族構成が変わっているのに、広さや間取りはこのままでいいのでしょうか。
   特に、間口が狭く細長い住戸と住戸内を縦に廊下が伸びる「田の字型」と呼ばれる間取りがほとんどなのはなぜでしょうか。この点に関して、マンション設計の専門家がずいぶん以前から以下のように指摘しています。
   曰く、同じ間取りを横に並べるので建物の形状が細長い箱型やL字型になり、敷地の限度いっぱいに建物を作りやすく、販売する住戸を最大化しやすい、という売り手(不動産会社や建設会社)側のメリットが大きい。しかし、共用廊下に面した部屋はプライバシーに難点があり、廊下の占める面積が大きい分、部屋が狭くなる。また、開口部が長方形の短辺に2面しか設けられないために風通しが悪いなど、住まいとしては問題が多く決して暮らしやすい間取りではない・・・

より暮らしやすい住戸プランを知らない買い手
   まさにその通りだと思いますが、いまだに同じような住戸プランが量産され続けているのが現実です。これは、少しでも建築コストを下げて多くの人に売りたい売り手と、少しでも安く買いたい買い手のニーズが一致している面が否定できません。特に、最近では、建築コストが大幅に上昇しているため、郊外の一般ファミリー向けの分譲マンションでは多様な住戸プランが減ってきているように思えます。最近見学したマンションは、防災面や生活利便性の充実、狭さを感じさせない収納や住設機器の新しい工夫が目立つ反面、建物はまさに細長い箱型やL字型で、住戸は間口が狭い田の字型がほとんどでした。
   しかし、間口が狭い田の字型以外にも、センターイン型(玄関が住戸の奥行き方向の真ん中辺りにある)やワイドスパン型(住戸の間口が奥行きより広い)など、より暮らしやすい住戸プランがあることをどれほどの買い手が知っているのか疑問です。例えば、近隣住戸の騒音はマンション住民の悩みの種ですが、隣家との距離を広げ、接する壁の面積を小さくするワイドスパン型や、各住戸を斜めにずらして配置する雁行型なら、隣の生活音が伝わりにくくなります。特に、角部屋が多く取れる雁行型の住戸配置なら、3面からの通風や採光ができるので快適性も一段と上がります。
   売り手は安易に間口が狭い田の字型を量産せず、ワイドスパン型や雁行型など多様な住戸プランをもっと提供して欲しいものです。通風や採光、近隣騒音の抑制など住まいの快適性向上のために必要なコストアップと説明すれば、少々高くなってもかまわないという顧客も多いように思います。

増えてきた新しい住戸プラン
   そもそも、一般的な間取りの2LDKは主寝室と子供部屋1室の夫婦+子供一人世帯、3LDKは子供二人世帯が居住する、子供のある核家族世帯を想定したものです。ところが、少子高齢化と同時に晩婚化や未婚化が進み、単身世帯や子供を持たない共働き夫婦(DINKS)世帯など家族構成が多様化し、このような「個室+LDK」 の間取りだけでは必ずしも住み手のニーズに合わなくなっています。
   最近は、子育てに配慮した間取りとして、玄関から個室に行くためには必ずリビングルームを通るリビングアクセス型の間取りが注目されるなど、家族のコミュニケーションという視点から住戸プランを考える動きも出てきました。サービス付き高齢者向け住宅の車椅子での移動や介護のしやすさを考慮した間取りや、コミュニケーションの場として共用部を充実させつつ各部屋は必要最小限にするシェアハウスの間取りも、住まいのあり方の変化を教えてくれます。
   さらに、脱「個室+LDK」の企画も増えています。例えば、都心生活を楽しむ活動的なシニア夫婦向けに、友人夫婦や子世帯などとのコミュニケーションを重視してLDKをひとつの大空間として多目的に使えるようにし、ウォークスルークローゼット(通り抜けができる収納空間)を間に入れた夫婦別寝室にもなる2つの部屋を用意した住戸プランです。
   個室をリビングと一体化したり、仕切ったりできる可動壁(ウォールドア)を設置したマンションも、新築でよく見られるようになりましたが、床・壁・天井をフラットな構造にしたうえで水周りを一箇所に集約し、可動式の収納ユニットで空間を仕切る、暮らしの変化に合わせて間仕切りを自由自在に変更できるプランも登場しました。一部の高級分譲マンションでしか採用されていなかったセミオーダー方式の間取りも、徐々に広がりつつあります。親子二世帯向けに、隣り合ったマンション住戸をドアで連結して、将来の賃貸化や売却も可能にしたプランも注目です。
   このように、売り手本位の画一的な住戸プランから卒業し、住まい手本位で考えられた多様な住戸プランや間取りのマンションが増えてきたのは喜ばしいことです。


 
  1 碓井民朗著『買っていい一流マンション、ダメな三流マンション』ダイヤモンド社、2006年 、ダイヤモンド社編『新版 マンションはこうして選びなさい』ダイヤモンド社、2013年

(2014年09月29日「研究員の眼」)

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