2|
医療・介護連携
3年後の改定は診療報酬と同時ではないが、政策の方向性が「地域包括ケアのための在宅ケアの充実」に向かっている以上、医療・介護連携を促進する改定は一層、進むと思われる。さらに、リハビリテーションを医療保険から介護保険にシフトさせた狙いが財源問題にあるとすると、その動きも今後、何らかの形で続く可能性がある。
実際、今回の介護報酬改定について、日本医師会は医療・介護連携を念頭に入れつつ、「介護が医療に近づいた。これまで医療で培ってきた手法を取り入れ、介護を理論面で強化していく必要がある」と述べている
11。
その際、一つの論点となるのが「科学的介護」と思われる。先に触れた通り、科学的介護ではエビデンスとデータを重視しており、介護の質を評価する上で重要な取り組みと言える。
しかし、医療と介護の違いを念頭に置く必要もある。一般的に医療・介護の質を図る際には、プロセス(過程)、ストラクチャー(構造)、アウトカム(成果)の3つを用いることが多く、プロセスでは診療やケアの内容、ストラクチャーでは診療やケアを提供するための体制、アウトカムでは死亡率や要介護度などを評価する。
このうち、論点となるのはアウトカム評価である。医療については身体機能や死亡率など数字で評価しやすい指標が幾つかあるのに対し、複雑な生活をカバーする介護の質は数字に表れにくい難しさがある。人間の生活は複雑であり、指標として考えられる要介護度についても、ケアの手間暇を換算しているに過ぎず、QOL(生活の質)を一律に評価するのは難しいためだ。
こうして考えると、科学的介護を医療・介護連携に当てはめる際には「データでは説明し切れない複雑な生活の質をどう評価するのか」という難問に直面せざるを得ない
12。言い換えると、介護を数字で評価しようとすると、介護が医療に近付き過ぎるリスクが高まる。
そして、これは医療社会学が言う「医療化」「専門家支配」に繋がりかねない。元々、患者―医師の社会的関係を分析する医療社会学では患者―医師の情報格差が患者の自己決定権を奪い、医療化や医師による専門家支配が進む結果、患者を無力化する危険性を論じてきた
13。このリスクを踏まえると、医療・介護連携と、それを支える科学的介護や介護の理論化は重要かもしれないが、介護を医療に近付けることによる弊害も念頭に置く必要がある。
11 2018年2月1日「Joint」における日本医師会常任理事の鈴木邦彦氏による発言。
12 QOLを1つの指標だけで評価しにくい点は医療も同じだが、生活に密着した介護の方が難しさを増す。
13 例えば、Eliot Freidson(1970)"Professional Dominance"[進藤雄三・宝月誠訳(1992)『医療と専門家支配』恒星社厚生閣]p133では、「患者は医師の能力を信頼し、疑うことなく言われた通りにするか、自分が本当に信頼する別の医師を選択するか、そのいずれかであることが期待されているのである。(略)信頼を強要するということは、自立した成人としての役割を患者に放棄させ、こうした患者を無害化することによって、専門職の制度化された権威の秘儀的基盤を保護することを患者に強要することを意味する」と指摘している。