生活研究部 人口動態シニアリサーチャー
天野 馨南子(あまの かなこ)
研究領域:暮らし
研究・専門分野:人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進
2017年08月14日
○1 15歳未満人口比率(1%水準でも有意):
そのエリアの子どもの割合が純粋に高いほど、出生率が高くなる、ということである。
他の要因の影響を排除しても尚、そのエリアに子どもが多いということが大切である、とデータは示しているようにみえる。筆者が長野県の山間の出生率の非常に高いエリアの方にインタビューを行った際、「なぜ3人から5人などとこのエリアのカップルは子どもをもうけると思うか」との質問に「そういう環境が当たり前だから」との回答がかえってきた。筆者のレポート「長期少子化社会に潜む負のループ「赤ちゃんを知らない」子どもたち-未婚化・少子化社会データ検証:「イマジネーション力欠如」への挑戦-」2017年01月23日「基礎研レポート」においても、「イマジネーションの限界が能力の限界である」ことを示したが、まさにその通りの結果である、と言える。イマジネーションの壁要因、といえるだろう。
ちなみにこの「15歳未満人口比率」は8項目の中でも1%水準でも有意である、との結果であり、出生率への強い支配力を示した項目となった。
○2 離婚化指標:
この項目は筆者が独自に設定した項目である。そのエリアの離婚件数を婚姻件数で割った値であり、結婚に比べてどの程度の離婚が発生するのか(あくまでも件数ベース)を指標化した。 離婚化が高いほど、出生率が高くなっている。これは一般的な印象論とは随分異なるのではないだろうか。しかしながら、前章の分析でも述べたように、枠にとらわれない自由自在なカップリングがむしろ出生率に貢献しているのではないか、と考えれば、この結果は納得感があるのではないだろうか。「あの人、バツ1だよね」といった、日本においては離婚をそもそもマルバツ感覚でみるとバツのライフイベント、として、ネガティブにとらえる社会に筆者は常々疑問を感じてきた。
アインシュタインの名言に「失敗したことのない者は、挑戦したことのない者だ」と言う言葉がある。離婚を失敗として恐れる社会感覚が、結婚と言う挑戦を阻害し、未婚化を生み出しているということではないだろうか。
○3 1平方キロあたり人口密度:
人口密度が高まる、すなわち過密化するほど、出生率が下がるとデータは示している。本分析において待機児童指標は直接的には出生率に有意な影響をもたない、との結果がステップワイズ法による項目の取捨選択で示された。これはその背景に「過密化」があると考えれば当然である。
あるエリアが過密化(満員電車状態化)すれば、不動産価格が高騰し、十分な保育園を広さ的にも財源的にも供給することは(住宅同様)そもそも無理難題となる。また、そのようなエリアで保育士を確保しようとしても、そのエリアで保育士が暮らすには物価が高いために、支払われる賃金も高額となる。ゆえに「保育の質を確保」などといおうものなら、たちまち財源不足となる。
実は、「保育園落ちた、日本死ね」の背景には、保育園・保育士不足ではなく、過密化というラストボスが立ちはだかっているようだ、とデータは示唆している。
○4 第2次産業就業者比率:
これもオープンデータを用いた筆者の独自指標である。就業者に占める第2次産業就業者の割合が高いほど、出生率が高くなる。他の影響を除いても、この条件が残る、ということは今後、前向きな検討が期待されるところである。なぜ、第2次産業就業者が多いエリアで生まれるのか。本分析のほかの項目と相互に関係しないところに理由があると考えると、第2次産業就業者独特の特性(働き方など)、といったものからアプローチすることが大切であろう。
○5 1住宅あたり延べ面積(1%水準でも有意、ただし負に影響):
意外な結果の一つであるが、過密化が出生率にマイナスの影響をもつこととあわせて慎重に考える必要がある。この項目のみの結果としては「大邸宅になるほど生まれない」ことを示している。しかし、前章の1対1分析の相関分析結果は反対の方向性を示している。実は、重回帰分析ではデータの制約上、小笠原諸島など島についてのデータが省略されている(51エリアのデータ)。つまり、諸島部をのぞいた結果、であることは指摘しておきたい 。
諸島部を除く東京都においては「満員列車の中では子どもは生まれないが、かといって東京ドームで生まれやすくなるわけではない」ということのようにも思える。
ここからは東京都に住む1児をもつ有業の母親としての筆者の全くの私見であるが「ある一定の広さ以上やみくもに大きな家を与えられても、その家事の管理が女性任せであるならば負担でしかない」というように読めなくもない。
○6 飲食店数:
最新時点の分析では、飲食店が多い方が出生率は上昇する、との結果である。共働きカップル世帯の増加との関係性考えていてもよいのではないだろうか。上の住宅面積の話(○5)さらには下に示す○8とあわせて考えると、現代では家事負担が少ないほど、子どもは生まれるのかもしれない(女性の家事負担意識と言うものが裏の支配要因である可能性)。
○7 薬剤師数(1%水準でも有意):
意外なことに薬剤師が多いエリアほど出生率が低くなる。薬剤師は医療機関や介護施設とセットで存在しているため、図表1の逆三角の人口ピラミッド構造から考えるとお年寄りが多いエリアに多く存在している可能性が高い。ただし、65歳以上人口割合と出生率が1対1の分析では関係が高くなかったことから、「薬剤師を必要とする人が多いエリアでは出生率が低くなる」という指摘にとどめておくこととしたい。ちなみにこの指標も、1%水準でも有意であるとの結果であり、出生率への強い支配力を示唆する項目となった。
○8 15歳未満人口における保育所在所児童比率(1%水準でも有意):
これも筆者の独自指標である。そのエリアの子ども人口のうち保育園児が多いほど、出生率が高くなる。文部科学省の学校基本調査によれば、幼稚園児は年々減少し、一方で厚生労働省の調査では、保育園児童は年々増加している。つまり、15歳未満の人口における保育園児の割合は、そのエリアにおける15年間の保育園利用のトレンドを示している、ともいえる。保育園利用が進んでいる、つまりは保護者が有業である割合が高いエリアほど出生率が高い、ということであろう。この指標も、1%水準でも有意であるとの結果であり、出生率への強い支配力を示唆する項目となった。
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