前章の分析結果から、
最終的には女性(ならびにそのパートナーが)20代後半でカップリング・妊娠・出産に心おきなく取り組める社会作り、が出生率上昇のための最重要タスクであることが判明した。
しかし、このような生物学的要因に影響する社会要因があるからこそ、東京都の出生率は最低値を独走してきたともいえる。東京都の平均初婚年齢は全国で最も高年齢で、男女とも30歳を超えているのである。
このような状況で、単にその原因を「女性とそのパートナーの個々の気合の問題・ライフプランの問題」としてしまうのはあまりにも乱暴であろう。そうなる環境要因が必ずやあるはずである。
そこで、図表4で示した東京都において「出生率に正または負の関係がある」とされた社会環境項目について、その中で何が「支配要因」といえるのか、を再度分析してみたい。
分析の手法の点から、この支配要因が過去の社会状況を語るものでも、未来を予言するものでもないことは今一度、留意したい。
1対1の相関関係分析だけでは、「見せ掛けだけの関係性」をもっている項目をみつけることは難しい。
ここで、「見せ掛けだけの関係性」とは何だろうか。
例えば産後うつ病の発症率は20代前半のお母さんで高い、という研究結果があるが、それは年齢要因よりも実はその年齢の女性に多い社会環境が大きく影響している、という論文がある。
この場合、1対1の分析でみると「年齢」と(例えば)「夫の仕事」といった彼女をとりまく家庭環境が影響していることまでがわかるが、それでは、どちらが産後うつ病の発症率の高さを生み出す「真犯人か(もしくはどちらも真犯人なのか)」という議論が次に出てくるのである。
「重回帰分析」は、このようにある事象に関係する複数の要因がある程度わかっている時に、その要因だけからくる本当の影響の重さ(有意性)を分析する際に用いることが可能である。出生率と関係のある他の項目からの重複した影響を排除して、各項目の被説明変数(今回の場合は出生率)への現時点におけるピュアな影響力を探ることが可能となる
7。
ここでは図表4の出生率と関係性がある項目を用いて、重回帰分析を行ってみることとした。
ただ、図表4の項目だけでも51項目もあるため、
分析項目の取捨選択が必要となる。
本稿では分析の詳細過程は省略するが、最終的な回帰分析に用いた出生率を説明する変数としての8項目はステップワイズ法によって51項目から取捨選択を決定した。その結果が下表である(図表8)。