以上のデータに関しては、少なくとも最新時点データ間で見るならば、東京都の出生率と何らかの関係性があるということを主張することが統計的には難しいデータ、と考えることが出来る。ただし、長期の時系列で見るならば関係性がより強く認められるものはあるかもしれないことは指摘しておきたい。
図表3のうち、
一般的な印象論と食い違いやすいと思われるものについて解説をしておきたい。
出生率と関係がほぼないという分析結果が出たデータの中に「年齢階級別出生率35~39歳女性の出生率」が現れた。
ここで、女性の年齢と出生率の間の因果関係は年齢が出生率に影響する、という方向の因果関係であることは生物学的に間違いがない。晩産化の進行とともに「母子手帳」において高齢出産とされる35歳以上の女性の出生率に期待が寄せられる場面はメディア等でも少なくはない。しかしながら、データ分析結果からは少なくとも東京都においては
30代後半女性の出生率は、現状では東京都の全体の出生率の増減に関係をもっていないことがわかった。
また、
関係はあるものの関係性が弱いデータの中に、40~44歳女性の出生率と45~49歳女性の出生率が現れたが、どちらも「出生率と負の関係性がある」データとなっている。
つまり
40代女性の出生率が高いエリアほど低出生率となる状況である、ということである。
不妊治療への投資が社会的に叫ばれてきた一方で、このデータが示しているのは、不妊治療への社会投資は、現時点において出産奨励策としては意義はあるものの、出生率の上昇を期待する少子化対策の観点から見るならば目的外投資となるだろう、ということとなる。
また、
失業率と出生率との間には関係性が見られない・離婚が発生している割合が15歳以上人口比で高いエリアの方がやや出生率が高くなる、といった結果も一般的な印象論とは異なるといえるだろう。ちなみに出生率が2006年以降2.0で推移しているフランスの失業率は9%から10%で推移しており、日本の常に2倍から現在では3倍近くの失業率である(IMF統計)。このことを考えると、失業率で出生率を語りにくいだろうことは直感的にも納得感があるだろう。
仕事・学業等のための移動状況(自治体間を超えた人口移動度合い)を示唆する
非ベッドタウン指標も出生率には特に影響を及ぼさないことがわかった。東京都においてはそのエリアがベッドタウンかどうかは出生率に影響しないようである。
4 総務省統計局が全国の各「市区町村のすがた」(2017年6月公開)として公開している統計データベースの項目はすべて網羅し、さらにその項目の出生率への影響を知るための指標作成に不足するデータを国勢調査、東京都による統計から抽出した。