2|2028年度までに介護保険改革に取り組む方針を規定
次に、2028年度までに実施を検討する施策としては、保健・医療・介護の情報を共有できる「全国医療情報プラットフォーム」を含めた医療DX(デジタルトランスフォーメーション)による効率化・質の向上とか、生成AI(人工知能)などを用いた医療データの利活用の促進、医療機関、介護施設の経営情報の「見える化」の一層の促進、地域医療構想
5を含めた医療提供体制改革、かかりつけ医機能強化に向けた制度整備
6、薬剤師の対人業務の充実と薬剤師の役割強化に向けた検討
7、2020年度診療報酬改定で導入されたリフィル処方箋(一定程度の条件の下、繰り返し使える処方箋)の活用、多剤重複投薬や重複検査の適正化に向けた仕組みの検討、医師偏在対策
8やオンライン診療の活用
9、他の職種への権限移譲を意味する「タスク・シフト/シェア」の推進
10などが列挙された。
これらの医療提供体制改革を進めるため、地域医療構想や医師偏在是正に関する都道府県知事の権限強化を検討する方針も規定。費用面における都道府県の権限を強化する観点
11に立ち、国民健康保険の国庫負担で地域間の所得差などを調整する「普通調整交付金」や、都道府県単位の広域連合で運営されている後期高齢者医療制度に関して、それぞれの制度の見直しに向けて、議論または検討を深める方向性が盛り込まれた。都道府県レベルにおける負担と給付の関係を明確にするため、国民健康保険の保険料水準を都道府県内で統一化することを一層推進する方向性も盛り込まれた。
一方、介護に関しては、介護サービスを必要とする利用者の長期入院の是正に加えて、ここでも介護の生産性・質の向上が言及された。自立支援・重度化防止を図る観点に立ち、介護報酬におけるアウトカム(成果)評価の在り方について、「検討を行う」という文言も入った
12。
さらに、給付抑制に繋がる見直しとして、▽利用者負担を徴収していないケアマネジメントの有料化、▽要介護1~2を介護予防・日常生活支援総合事業(以下「総合事業」)に移行――を次の次の制度改正に当たる2027年度までの間に検討すると規定した
13。
ここで言う総合事業とは、要支援1~2の人の訪問介護と通所介護(デイサービス)を市町村の事業に移した事業を指す。この事業では予算の上限が設定されるなど給付抑制の仕組みが内在されているが、制度発足から5年以上が経過しているのに、市町村の間に浸透していない。
そこで、厚生労働省は専門家の派遣などを通じた「地域づくり加速化事業」を展開しているほか、2023年12月には有識者などで構成する検討委員会がテコ入れ策を打ち出した。さらに、財務省は総合事業の対象を要介護1~2に拡大するように求めており、その是非が論点となっている
14。
このほか、サービス付き高齢者向け住宅などで、入居者に対する過剰な介護サービスの提供が起きているとして、実態把握と実効的な点検、適正化に向けた方策の検討と実施が示された。福祉用具貸与についても、2024年度から開始される貸与と販売の選択制が導入されることになっており、効果や課題を検証した上で、必要な対応を行うとされた。
さらに、薬価制度に関して、イノベーションの推進、安定供給の確保と薬剤保険給付の在り方を見直す方向性が規定されたほか、生活保護の医療扶助の適正化とか、障害福祉サービスの地域差の是正に向けた事業所指定の在り方に関する検討などが言及された。
給付抑制に繋がる制度改正としては、患者・利用者負担の見直しも言及されている。ここでは、結論の先送りが相次いでいる介護保険の2割負担対象者拡大について、次の次の見直しになる2027年度までに結論を得るとされた。
その上で、改革工程では、(1)負担増に対応できると考えられる所得を有する利用者に限り、2割負担の対象を増やす、(2)当分の間、一定程度の負担上限額を設けた上で、(1)よりも2割負担の対象を広げ、介護サービスの利用に及ぼす影響などを分析の上、負担上限額の在り方について、2028年度までに必要な見直しを検討する――という2つの方向性が示された。その際には、保有する金融資産の保有状況の反映なども加味するかどうか、「早急に検討を開始」という方針も付記された。
このほか、2024年度介護報酬改定では、介護老人保健施設や介護医療院の相部屋(多床室)に関して、月当たり8,000円の追加負担を原則徴収する方針が決まっており、この着実な実施と一層の見直し方針も示された。負担増に繋がる案件として、▽医療・介護の3割負担対象者を拡大する制度改正、▽国民健康保険制度や後期高齢者医療制度、介護保険制度における負担への金融資産の反映、▽障害福祉サービスにおける質に応じた報酬設定――なども検討課題として挙げた。
高齢者の活躍促進や健康寿命の延伸に向けた方策としても、高齢者雇用や定年延長に関する人事・給与制度の工夫に取り組む企業の事例収集・展開、先に触れた総合事業の活性化、2024年度から新しい計画が始まる「医療費適正化計画」も含めた疾病予防
15、フレイル(虚弱化)防止に向けた保健事業の実施などが言及された。
物価上昇など経済情勢に対応した患者負担の見直しとして、高額療養費の自己負担限度額や入院時の食費基準を見直す方針も盛り込まれた。
5――改革工程の内容(3)